信じる力

 

 

それは突然・・・且つ一瞬のことだった。
調査していた小洞窟が崩れ、先行して入っていったデュムロスがそれに巻き込まれてしまったのである。



ディムロスは一人、洞窟の中にいた。
幸い、直接岩に押しつぶされることはなかったが、座っているだけのスペースに閉じ込められたということは、手で探っただけでも十分に理解できた。
大して深い洞窟でもなかったのに、真っ暗で光一つ差して来ない。
「・・・絶望的だな・・・」
生きてはいるものも、外の音も、外の光も感じられない小さな空間。
唯一良かったと思うのは、小さい洞窟だったために、他のメンバーが岩に潰されるところを見ずに済んだ、ということだろうか。
「どうすればいいものか・・・」
手で探ってみると、通信機は壊れていない。
だが、ここまで暗いと、自ら操作して通信をつなげることもできそうにない。
ディムロスはただ、外にいるほかの仲間を信じるしかなかった。



「・・・どう? イクティノス。」
一方、外ではイクティノスとアトワイト、そしてその他数人の兵士が崩された洞窟の前にいた。
アトワイトが、機械を操作して中の様子を調べているイクティノスに心配そうな顔で問い掛ける。
「・・・中に直径二メートル程度の小さいスペースがあり、そこに生体反応があります。おそらく彼でしょう。」
「・・・つまりディムロスは生きているのね・・・」
アトワイトの目に、思わず涙がにじむ。とりあえずディムロスが生きていることが確認できたのだから、当然といえば当然だ。
「だったら早くこの岩を何とかしましょう!」
「いえ・・・それは・・・」
イクティノスが言葉を濁す。
「? 何か問題でも?」
「解析した結果、外から岩を取り除こうとすれば、洞窟はまたバランスを崩し、中が埋もれてしまう・・・外からの手はつけられない。」
「・・・そんな・・・! でも、万が一の可能性にかけるべき・・・」
「誰も見捨てるなんて言っていませんよ、アトワイト。我々にはどうしようもないですが、中からなら上手くやれば何とかなります。・・・ここは私に任せてください。」
いつも以上に冷静な表情のイクティノスをしばらく見ていたアトワイトだったが・・・
「分かったわ、私は近くの空中都市の残骸で、手当ての用意をしておきましょう。」
「・・・暖かいスープもお忘れなく。私一人で十分ですから、他の兵を引き連れて行ってくださいね。」
「了解。」
アトワイトは短く答えて、兵数人と共にすぐ近くにある空中都市の残骸に足を向けた。




閉じ込められてどれくらい経ったのか分からない。しかも酸素が少なくなってきているのか、やや息苦しさを実感させられる。半分あきらめもついてきた頃、ディムロスの元に、通信音が聞こえてきた。
ディムロスが通信機を適当に叩いてみると、やがて声が聞こえ始めた。
「・・・ロス・・・ディムロス・・・応答してください。」
「イクティノス?」
聞き覚えのありすぎる声に、ディムロスは反射的に声の主の名を呼ぶ。
それに対して、少し安心したようにささやく声が返って来た。
「繋がった・・・ディムロス、生きていてくれて何よりです。」
「お前が通信を入れたということは、もう答えは・・・」
「ええ、大方の解析は済ませました。貴方の状況を説明します。」


「なるほど? つまり私に中から何とかしろと。」
「はい・・・動けますか? ディムロス。」
もちろん、これは「怪我はないか」と聞いているわけだが、ディムロスは今の息苦しさだけをイクティノスに伝えた。

「・・・分かりました、急いだほうが良いですね。」
「ああ・・・そうしてくれ。」
「剣は持っていますか?」
「持っている。」
「それならば話は早い。解析の結果、貴方のいる場所から一点に上手く力を加えれば脱出が可能であることが分かりました。要はその剣でその場所に力を加え、岩を吹き飛ばす・・・分かりますか?」
事務的にすらすらと方法を説明するイクティノス。彼なりの急ぎ方だろうということは、ディムロスには十分に分かっていたが。
「・・・ディムロス?」
「ああ、分かったが・・・私の剣で何とかなる程度なのか?」
「貴方の全力ならば、可能な岩の量だ。あとは場所ですが・・・機械の計算によると、入口方向まっすぐ、高さ153cmのところになります。」
「待て・・・そう言われてもだな・・・」
「? 高さは大体予想がつくでしょう? 少々外しても問題ないですから。」
「いや・・・生憎だが方向感覚がないんだ。入口の方向も分からん。」
これだけ暗くて、手を探っても岩の感覚しかないこの場所では、方向が分かったほうが「ありえない」ことだろう。
さすがにイクティノスも少しだけ言葉を詰まらせたが、すぐに冷静な声がディムロスに戻ってきた。
「・・・分かりました。熱源反応から貴方の向いている方向を割り出します。」
「イクティノス・・・」
「何です?」
作業しながら答えているに違いない。短く聞き返してきた。
「・・・お前を信じている・・・だから頼む。」
「何を弱気なことを・・・貴方らしくない。・・・分かりましたよ、ディムロス。今の状態から右に70度方向! あとは貴方次第です、ディムロス。」
「分かった、下がっていろ。」
そしてディムロスは立ち上がり、イクティノスの言われたとおり、右に70度身体を動かす。「その方向です」というイクティノスの声を聞いて、そのまま剣を手に取った。

「・・・必ず生きて・・・」
「ん?」
通信機を懐にしまおうとしたが、イクティノスの声が聞こえたので、思いとどまる。
「・・・どうした、まだ何かあるのか?」
「いや、アトワイトを泣かしてはいけませんよ。貴方の力を信じています。」
「・・・ああ!」
と、迷わずにまっすぐ剣を構える。成功する確率はきわめて低いが、失敗する事なんて殆ど考えないくらいに。
すぐ目の前に、そしてすぐそこに信じる仲間たちがいる・・・ディムロスにとってはそれで十分だった。



「・・・ディムロス・・・」
決して自分の指示に自信がないわけではなかったし、何よりもディムロスは成功するような気がしてならなかったイクティノスは、まっすぐ洞窟に視線を止めていた。
すると、突然洞窟を閉ざしていた岩が雪の中に吹き飛び、岩の壁が再び洞窟の姿をとり戻す。
「・・・・・・。」
ただじっと洞窟の奥を見る。自分で確認に行くことはもちろんできたが、必ず自分の目の前に帰ってくる・・・そういう想いがイクティノスの中を支配していた。
そして・・・
「・・・! ディムロス!」
予想していた通りか、単にそう信じ込んでいただけなのか、とにかくディムロスが一歩一歩、洞窟から外に出てきて、イクティノスの前に歩み寄ってくる。
「イクティノス・・・」
イクティノスの前まで歩き、そこで軽く微笑んだ後、そのまま力尽きたようにイクティノスの身体に倒れこむディムロス。
それを支えながら、イクティノスは静かにささやいた。
「行きましょう・・・貴方を待っている場所へ・・・ディムロス。」

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あとがき

旧サイトのリクエストで書いた、ディムロスとイクティノスのシリアス。

2003年10月20日 旧サイト投稿

 

 

 

 

 

 

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