史上最強の訓練

 

 

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「え・・・今日の訓練相手って・・・」
「そうよ、何か文句ある?」
今日も殺されるんじゃないかと思うような訓練のために訓練室までシャルティエは来たのだが・・・
そこで待っていたのは、かなり意外な人物だった。


いつもだったら、シャルティエの訓練の相手はディムロスである。
主に剣術の特訓で、ディムロスは良くも悪くも本気でやってくれるので、シャルティエは毎日ボロボロになって部屋に戻っている。
そして、ディムロスが忙しいときでも、大抵はカーレルかイクティノスが相手をしてくれていた。
もちろんそれはそれで、ディムロスとは違う厳しさはあった。
カーレルは武器を取った瞬間、普段の温厚さからは想像できないような威圧感で迫ってくるし、
イクティノスに至っては訓練室から外に出るまでの廊下に、ありとあらゆる罠を仕掛けては、それを突破しろと言ってくる。

と、まあ、今すぐにでも死にたくなるようなスパルタ訓練を続けていたシャルティエだったが、
「ハロルドが相手?」
「だーかーら、さっきからそうだって言ってるっしょ?」
第一シャルティエの目の前にはハロルドしかいない。ハロルドの横にある布を被せられた謎の物体は気になるところだが。
「今日はみんな忙しいんだって。で、兄貴に頼まれたってワケ。」
「へえ・・・」
「となると~やっぱり気になるのは内容でしょー!? ぐふふ♪ あんたのデータを隅から隅まで!」
相槌を打っていたシャルティエに向かって、ハロルドは嬉しそうな怪しい笑みを浮かべている。

(に、逃げたい・・・!)
最初は「珍しいな」と感じていたが、今思うとハロルドが訓練相手となると、相当ヤバいに違いない。
しかし、逃げたら後数日間はディムロス辺りにみっちり、それこそ殺される寸前まで訓練させられるので・・・
「な、内容って・・・何なの?」
仕方なく、ハロルドの話に耳を傾けた。


「ま、一言で言えば・・・コイツと戦うだけ。私じゃアンタの訓練相手にならないし、イクティノスみたいに手の込んだことやるのもめんどいし~?」
「・・・コイツって・・・これ?」
ハロルドが手を置き、シャルティエが指をさしたそれは、例のハロルドの横にある謎の物体。
まだ布が被せられていて、それが何であるかは分からなかったが・・・
「いい? コイツを見るのは私以外にはアンタが最初の一人よ。ありがたく思いなさい。」
「・・・え、・・・う、うん・・・」
当然シャルティエ的にはあまり有難いとは感じないが、否定したら後が怖いのでとりあえず肯定しておく。
そして、そんなシャルティエはお構いなしに、ハロルドは布に手をかけた。
「それじゃあお披露目~☆」

「な、何これ・・・機械?」
確かに、シャルティエの目の前にあるのは機械だった。
見覚えのないところからすると、ハロルド開発の新型メカ・・・といったところだろうか。

「えーっと・・・」
「名前はHRX。訓練用マシンよ。」
さらにハロルドはその「HRX」と呼ばれた機械の説明を簡単にした。
「レベルは1~8まで、近接型・遠距離型と選べるわ。新卒兵から、それこそディムロスレベルまでイケるように作ったつもりなんだけど・・・」
「だけど?」
「まだ調整の余地があるから、実際に使ったことはないってワケ。つまり、どう言うことか分かる?」
「・・・分かりません・・・」

何となく嫌な予感はするが、自分の予感が当たっているのが恐ろしいので、あえてシャルティエは答えなかったが、
「あんたアホね。つまり、アンタにこのマシンを試してもらおうってこ・と♪」
(やっぱり・・・)
嫌な予感が的中し、愕然とするシャルティエ。
ハロルドの作った機械だから、技術的には確かだろう。しかし、問題はハロルドの性格である。
(ハロルドって妙に凝り性なんだよね~・・・)
そうやって無駄な機能を追加させて、それが思いもよらない新発見につながるような事になりかねないのは事実だが。

「あのさ・・・本当にやるの?」
「やるに決まってるっしょ? ん~・・・アンタだったら・・・レベルは5か6・・・じゃあ、6で☆」
と、シャルティエの不安を見事に無視しつつ、HRXの設定操作を勝手に行うハロルド。
「じゃあ、いつもはディムロス達とやってるんだし、対遠距離ね。ほい、完了! あ、私はここにいたらヤバいから、端っこに逃げておくわね。」
「え? えーっ!?」
「だいじょ~ぶ、相手が死にかけたらHRXは自動で止まるようにできてるから☆」

それだけ言って、ハロルドは訓練室の隅の方まで逃げて、「じゃあ頑張ってね~」と、無責任に手を振っている。
「ううっ・・・これだったらイクティノスさんのセコい罠の方がずっとマシだ・・・」
かなり本人が聞いたら怒るだろう事を滑らせているが、シャルティエにそんな余裕はなく。
仕方なく剣を抜いて、レベル6遠距離型に設定されたHRXの前に立った。



「うわあああぁぁ!!!?」
ターゲット確認・・・とかいう電子音が聞こえたと思ったら、HRXは容赦なくミサイルを打ち込んでくる。
それを間一髪で避けたのは良かったが、避けた途端に次はバルカンが・・
「ちょっ! ちょっと!! 死ぬってっ! レベル高いって・・・近寄れないよ!」
何とか避けながら、シャルティエは早速音を上げている。確かに、シャルティエはさっきから避けてばかりで、全くHRXに近寄れていなかった。

しかし、ハロルドは、
「何言ってんのよ? アンタは強いんだから勝てるわ、ちまちま避けてないで攻撃しなさいよ~」
「僕は強くないよっ!」
「喋りながら避けられるだけの反射能力はあるみたいね~ふむふむ。」
「・・・・・・。」
とうとう言うだけ言って、何かをメモし始めている。間違いなくシャルティエの文句は聞き流しているだろう。

仕方なくシャルティエは諦めて、何とか距離を詰めようと試みたが・・・
「・・・いやああああっ! やっぱ駄目だ!」
とにかく銃口を向けられた時点で恐怖心が沸いて、それ以上近づくことができない。
(他の誰の訓練よりも怖い!)
ミサイルの落下跡などを見る限り、そのミサイルはホンモノ。つまり、一歩間違ったら本当にあの世に逝きかねない!


・・・と、シャルティエが訓練を開始して早一時間。
「はあ・・・はあ・・・」
「ほらほら、時間が経てば経つほど不利になっちゃうわよ!」
相手は機械なんだから~と、のんきに付け足すハロルド。
「そ、そんなこと言っても・・・」
「前にも言ったわよね、アンタなら勝てるって。」
「無理だよっ! わ、わあっ!!?」

ハロルド以上に容赦のないHRXが、シャルティエ目掛けて再びミサイルを発射してきたので、またまた間一髪で避けたが・・・
「・・・!」
何と、シャルティエの真後ろにハロルドがいたため、そのミサイルがまっすぐハロルドの方へ飛んでいったのである。


その後は、無意識に身体を動かしていた。
とにかく、
(ハロルドを助けないと!)
と、シャルティエは無我夢中でミサイルの方へ身体を動かしていく。
ミサイルの動きは決して遅くはなかったが、そこまで速くはなかったおかげで、あまりシャルティエの位置から離れていない。
(今なら間に合う!)
そして、シャルティエは思いきり剣を伸ばした。


「ふう・・・あ、あれ?」
はっと我に帰った後、辺りを見回してみると、目の前には電気を出して倒れているHRXの姿があった。
「か、勝ったの? あ! ハロルド大丈夫っ!!?」
自分でもどうやって勝ったかは分からなかったが、ハロルドが危なかったと言う事は覚えていたので、ハロルドの方を振り向く。

「・・・・・・。」
しかし、ハロルドはその場に立ち尽くしたまま、黙り込んでいる。
「ハロルド?」
「私の可愛いHRXが~~~~!!!!」
「・・・へ?」
シャルティエの心配さえも無視するかのように、ハロルドは一目散にHRXに駆け寄ったのである。

「あ~! 完璧に壊れちゃってるじゃない! 何でミサイルを打ち返すなんてアホなことしたのよっ!?」
「え・・・? ええっ!?」
ハロルドに言われて、やっと自分が何をしたのか把握してきたシャルティエ。
どうやら、あの後剣でミサイルを打ち返して、それがHRXにヒットしたらしい。
・・・確かに、シャルティエ本人でも想像のつかないような、荒業と言えるだろう。

ということで、HRXに勝ったのは良かったのだが・・・
(ど、どうしよう・・・僕、ハロルドの機械を壊しちゃった・・・!)
こっそりハロルドの方に視線を移すと、ハロルドは破壊されたHRXの前に座り込んでいる。

「あ、あの・・・その・・・ハロルド。ご、ごめ・・・」
「いいって、謝んなくったって。アンタは必死に頑張ったんだろうし、それに本気でやれって言ったのは私だし?」
「・・・う、うん・・・」
何だか許してくれるらしく、シャルティエは少しほっとしたが、それはつかの間で、
「でもその代わり・・・このお礼はたっぷりと・・・」
「!!!」
ニヤリと怪しく笑って振り向いたハロルドを見て、シャルティエはさっき一瞬でも安心したことを死ぬほど後悔した。
(お、怒ってる!?)
「あ、ちなみに怒ってないわよ? アンタが私の実験に付き合ってくれるならね~♪」
と、シャルティエの言葉も聞かずに、そのままシャルティエの腕を引いて、外に出ようとする。

「・・・ちょ、ちょっとっ!?」
「言っとくけど、本当だったら始末書になっていたトコよ? それを私の実験一つで済んだんだから、逆に幸せじゃん?」
(始末書とディムロス中将のお説教の方が全然マシだよ!)
とは思うのだが、ここでハロルドに口答えしても勝てそうにないし、その分だけまたいじられそうな気がして、言い返せない。


そして、ずるずるとハロルドに引っ張られるまま、シャルティエは訓練室を後にした。

「あ、そーだ。いいデータが取れたことは感謝してるわよ~♪ HRX-2を楽しみにしててね。」
「・・・・・・。」

・・・壊れたHRXと、次に来る不安を残して。



『レベル八段階、近距離から遠距離まで対応! 新兵の貴方から、豪傑と名高い貴方まで。
 私がふさわしく安全な訓練相手となりましょう! 一家に一台、私の名はHRX! 近日正式採用決定です!』
    (※自分にあったレベルを設定し、正しくお使いください)



その後、シャルティエがどうなったのか・・・

それは、当人達と、ボロボロになったシャルティエを部屋で出迎えたイクティノスのみが知る・・・。

 

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あとがき

旧サイトのキリ番リクエストで書いたハロシャル小説。

2003年日付未定 旧サイト投稿

 

 

 

 

 

 

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