笑顔の拘束

 

 

 全身の倦怠感と共に目覚めた俺は、半分まどろむ意識から、その異様な状態により一気に覚醒することになった。

 ベッドに横たわる俺。コートが脱がされている。
 右手に手錠。ベッドの柱と繋がっている。
 そしてそんな俺に覆いかぶさるようにまたがっているのは、一回りも年下の同室者であり恋人。

「おはようございます少将。ふふっ……驚きました? いい顔してますよ。楽しみだな……」

 かつて見たことのない好戦的な表情で、その同室者――シャルティエが俺を見下ろしたまま舌で上唇を舐めた。



 何故こんな状態になったかと言うと、それは30分くらい前にさかのぼる。

「ただいま帰りました……」
「ああ、おかえり」

 俺は部屋で資料の整理をしていたのだが、ドアが開く音とともにシャルティエの声が聞こえたので、振り返らずに事務的に返答した。
 なんとなく疲れたような声をしている。

「元気がないな。またディムロスにしごかれたのか?」
「そうじゃないです……」
「だったらなんなんだ」

 気のないシャルティエの返事に、俺は資料を机に置いてシャルティエの方を向いた。
 見るからに落ち込んだ顔で、シャルティエはゆっくり俺に近づいてきた。

「……少将」
「ああ」
「僕って……そんなに女の子っぽいですかね」
「……は?」
「医療班の人達に言われたんですよ、シャルティエ少佐可愛いって」
「ああ……そう」
「あっそうじゃないです! 女の子みたーい!って、本人いる前で堂々と言うんですよ!?」

 シャルティエはかっこいいか可愛いかの二択なら、確かに可愛い部類に入るタイプだ。
 童顔だし女顔だし、おまけに小柄だ。
 性格もこんな感じで、どことなく女っぽい。
 が……

「ああ、少将微妙な顔してる! やっぱり少将も僕のこと、女っぽいと思ってたんですね!?」
「いや別に……」
「だから僕の事抱けるんでしょう!?」

 自室とは言え思い切ったことを叫びながら、シャルティエが俺の両肩を掴んだ。
 顔が近づいて分かったが、かなり酒のにおいがする。ヤケ酒を飲んできたらしい。

「だいたい少将が悪いんですよ! 僕にいつも女の子役させるから!」
「俺に当たるな……」
「僕だって男ですよ! たまにはそっち役やらせてくれてもいいじゃないですかー」
「……」

 どれだけ酔っているんだと思いつつ、もしもそれが本音ならやはり俺にも非があるのだろうか、と若干胸が痛んだような気がした。

 俺は少し考えて、目の前で俺の両肩に手を置いたままのシャルティエの頭を抱き寄せ、キスしてやった。

「……!」
「そんなにしたいなら、俺は構わない」
「少将……」
「先にシャワーでも浴びて酔いをさまして、それでもやりたかったら、だ」
「……本当に?」
「何を疑っ……ぐっ……」

 そこまで言った俺に返って来たのは、笑顔ではなくみぞおちへの容赦ない攻撃だった。
 殴られた、と思った時には遅く、完全に無防備にシャルティエのこぶしを受けた俺の意識は遠ざかった。




 そして今に至る。

「確かに抱かれてもいいとは言ったが……どういうことだシャルティエ」
「どういうことって、こうしてみたかったので」
「手錠を外せ」
「終わったら外してあげますね」
「……怒るぞ」

 抱かれることは許可したが、何故腹を殴られ気絶させた上で手錠で拘束されなければならないのか。
 別に恋人同士なのだから、抵抗するつもりもなかったのに。

「だって、少将に本気で暴れられたら勝てないですし。それにさっきも言いましたけど、こういう強姦っぽいの興味あったんですよね」

 そう言って、シャルティエが片方の手で俺の頭を撫でて、そのまま強引に掴み、首筋に顔を寄せた。

「……っ……」
「手錠があると片手でも思ったように動けないでしょう? 部屋に忍ばせておいて良かった」

 耳を舌で犯された後に囁いたその言葉を聞く限り、ただの酔っぱらいの行為ではないらしい。
 きっちり手錠に術封じまでかけてある。

「少将、可愛い……顔真っ赤にして。僕より反応いいんじゃないですか?」
「くっ……んんっ……」
「いいですよ、声我慢してください。そのほうが少将らしいし、それにもっと鳴かせてみたいって思いますし」
「ふっ……ま、て、どうして普通にやらないんだ……!」

 首筋を吸われて、襟元から片手をシャツの中に入れられながら、空いている手でシャルティエの肩を押し返しながら尋ねた。
 明らかにいつものシャルティエではない。
 酔っているというレベルではないし、手錠まで用意していたということは、最初からいつか拘束してこういう事をしようと思っていたのだろう。

「俺に何か恨みでもあるのか……」
「ないと言えば嘘になります」
「うっ……な、何を恨んで、こんな事」

 シャツをたくし上げられて腹から胸にかけて、シャルティエの手が這った。
 明らかに性的な手つきに、やめてほしいという俺の言葉と裏腹に、身体が熱くなるのが分かった。

「少将の気持ちはそこにないのに、僕を抱くこと……ですかね」
「……え?」
「いやだなぁ、とぼけるなんて少将らしくないですよ」

 シャルティエが笑ったのと同時に、乳首を思い切りつねられた。

「い……っ……」
「最近気付いちゃったことなんですけど、少将って本当は僕じゃない別の人に、こういう事されたいって思ってるんでしょう?」
「何……言って」
「好きなんでしょう、ディムロス中将……」
「!!」

 シャルティエの口から出されたディムロスの名前に、俺の身体は自分でも分かるくらいに震えあがった。
 シャルティエもそれに気づいたようで、「やっぱりね」と俺の上半身をまさぐりながら続けた。

「でもアトワイト大佐がいるからあきらめる。でも諦めきれなくて、僕を抱くことで忘れようとしているんでしょう?」
「ぁ……ちが……」
「だからちょっと飲みすぎちゃった……」
「はっ、うぁ……ふ……」

先程つねられた所が、今度は指で強めに押されて動かされ刺激される。痛さではない感覚に、少しずつ声が抑えきれなくなっていた。
そしてシャルティエのもう片方の手が、俺の腰から下腹部に這っていくのが分かった。

「あ……よ、よせそこは……!」
「少将、ディムロス中将の名前出した途端に感じやすくなってますね。……こんなこともされたいんですか?」
「これ以上は……」
「ふふっ……していいって最初に言ったのは少将ですよ?」

 布ごしに撫でられただけで服の上からでも分かるほどに反応した俺の身体に、満足げに笑ったあと、「じゃあ脱がしますね」と今更律儀にそう言って、ベルトを外した。
 そのまま下着ごと引き下ろされ、シャルティエの手がすでに勃起した俺のものを掴んだ。

「は……っ」
「少将、僕は本当に少将のことが好きなんですよ」

 シャルティエがそう言って、俺のものを軽く上下にしごき始めた。
 少しずつ、しかし確実に、自分の理性が限界を迎えているのが分かった。

「……しゃ、シャル……ティ……」
「本当に可愛い……ねえ、中将のことなんて忘れましょうよ」
「……あっ……も、もう……っ」
「僕なら抱くことだって、抱かれることだってしてあげられる。そうでしょう、イクティノスさん……?」

 耳元でささやかれ、そのまま耳たぶを舐められ、同時に俺の下半身を弄る手に力がこもった。
 耐えきれなくなった俺の口から出したこともないような嬌声が上がった。



「……」
「ごめんなさい……僕、何てことを」
「全く……」
「……少将、泣かないでくださいよ」

 シャルティエにされるがままに精を吐き出してしまい肩で息をしながら拘束されていないほうの腕で顔を隠す俺に、シャルティエが声をかけた。
 腕の間からシャルティエを見ると、相変わらず俺にまたがって見下ろしていたが、その表情は先ほどまでの好戦的な様子とは違い、申し訳なさを感じる、いつものシャルティエだった。
 どうやら酔いがさめたようだと感じ、息を整えて腕を外した。

「……別に泣いてるわけじゃない」
「ねえ、少将。僕の事……男として、好きですか?」
「確かにお前の言う通り、好きな人はいた……でもお前とこうしているのは、遊びとかじゃ、ない……」
「ちゃんと言って、欲しいです」
「……愛している。シャルティエという、人間として。男として」
「……っ……」

 シャルティエの顔がさっと赤く染まった。
 そして「あっ」と何かを思い出したように声を出し、俺の右手を拘束していた手錠に手をかけた。
 手錠が外れ、ようやく右手が自由になる。

「ごめんなさい、少将」
「……こういう時は階級で呼ばないでくれ。さっきみたいに……名前で呼んでくれないか」
「イクティノス、さん……?」

 解放されたばかりの手をシャルティエに伸ばし、身体を引き寄せる。
 そのままシャルティエが俺に覆いかぶさるような体勢になって、そして唇を重ねた。
 恋人同士だから何回もしてきた行為だが、俺が下にいるという体位以上に、特別なもののように感じた。


「……んっ」
「はぁ……イクティノスさん。本当に、ごめんなさい」
「もう謝るな」
「はい、本当にごめんなさい……なんですけど」
「?」
「続き……」
「ん……?」
「いいですよね?」
「は?」

 今度は右手どころか両手をベッドに押し付けて、シャルティエが顔を赤らめながら言った。

「いくらヤられてるところが可愛かったとは言え、さすがに申し訳ないからやめなきゃって思ってたんですけど」

 顔を赤らめながら可愛らしい笑顔が俺を見下ろしてきた。
 可愛いが、その瞳のギラつき具合は完全に欲にとりつかれた男のものだと分かった。

「……!」
「あんな可愛い顔で告白されたらやめろってほうが無理です。僕まだイってないですし」
「ま、待って……」
「このまま僕を男にしてください、イクティノスさん? ……いい顔してる、楽しみだなー」

 シャルティエが意識しているのかは分からないが、最初と全く同じ台詞を笑顔で吐いた。
 その可愛らしいまでの笑顔は、手錠で強引に拘束しながらの好戦的な笑顔よりも、俺にとってはずっと拘束力が高いものだった。

 

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あとがき

リメDイメージ。究極に魔が差して書いたシャルイク。書いたことはなかったけど、昔はイクシャルも結構好きでした……

2015年2月4日 pixiv投稿

 

 

 

 

 

 

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