カーレルのクイズ本

 

 

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「あ、クイズ本見っけ!」
「ってカイル、これって俺達が昔よく読んでたクイズ本じゃねえか?」
 カイルとロニは、クレスタ孤児院の子供部屋で、クイズ本を見つけた。
 小さい頃からずっとこの場所にあった、思い出のクイズ本。
 しかし、このクイズ本には恐るべき秘密が隠されていたのである。


「あ、そういえばそうだったよね~懐かしいな~♪ あ、でもこのジャンル持ってなかったっけ?」
「『いろいろ』か・・・ん? これって・・・カーレルさんの部屋に同じのがあったよな?」
 確かに、天地戦争時代に行ったときに、カーレルの部屋で同じジャンルのクイズ本を見つけて、後で持ち主であるカーレルに「あげるよ」と言われたので、ありがたくアイテム袋に入れたのである。
 しかし単純なカイルは、嬉しそうにクイズ本を見つめて言った。

「ってことは、もしかしてカーレルさんの!?」
「バーカ……千年前のクイズ本が、今ここまで綺麗に残ってるかっつーの!」
 クイズ本は、少々朽ち果ててはいるものも、せいぜい二十年程度の朽ち果て方で、ロニの言うとおり千年前の本の朽ち果て方ではなかった。
 カイルは、ロニの言葉を聞いて納得したのか、つまらなさそうな顔をしている。
「あ~あ……もしもカーレルさんのだったら嬉しかったのになあ~」
「でもよ、カイル。丁度良かったじゃねえか。この前なくしただろ、この本」

 実は、ハイデルベルクに戻った後、クイズ本で遊ぼうとしたときに、『いろいろ』のクイズ本をなくしていたのに気付いたのである。
 あの時は、「兄貴の本をなくしたわね! 罰としてサンプルになりなさ~い!!」と、アイテム袋を持っていたカイルがハロルドに追い掛け回されたものだ。カイルもさすがに覚えていたようで、
「あの時のハロルドは怖かったなあ……本当に改造されそうだったし」
 と、青ざめた顔で言った。


 そこへ、噂をすれば本当に影がさすのか、ハロルドが子供部屋に入ってきた。
「ん? どしたの、二人とも・・・顔が青いわよ? あっ! この本はっ!!!」
 ロニとカイルの顔を見合わせたあと、カイルの持っていたクイズ本を見て、それに突然食いつくように飛び掛ってきた。
「わっ!! な、何だよハロルド!」
「この本兄貴のクイズ本じゃない。ふーん……なくしたとか言ってたけど、見つかったの?」
「これはこの孤児院に昔っからあったモンだよ」
「ハロルドもカーレルさんのものだと思った?」
 クイズ本を何となく嬉しそうに見つめているハロルドに、ロニとカイルは笑いながら答えたが、ハロルドは首を横に振った。
「ううん、これは間違いなく兄貴の本よ。それを証拠に……!」

 と、突然薬品を取り出して、それを本にかけると……
 何と、クイズ本から文字が浮かび上がって来た。
「うん、まちがいなく兄貴の本ね! このあたしが、細工した跡があるわぁ~」
 何故か自信満々な顔でそう言うハロルドをよそに、とりあえずカイルは浮かび上がって来た文字を読んでみる。

「『ロザリー=ベルセリオス』?」
「そう名乗っていたときがあったのよ、あたし」
「ってことは……」
「これってホントにカーレルさんの?」
「だ~か~ら~! そう言ってるっしょ?」
「で、でもよ。おかしいじゃねえか。何でカーレルさんの本が、ここに綺麗なままで置いてあるんだよ?」
 確かにハロルドの細工の跡は、ハロルドにしか作れないだろう。とはいえ、ロニの言うことも最もである。
 しかし、ハロルドは、
「あんたアホね。ま、解決したければルーティさんにでも聞いてみたら? この本の出所」
 それだけ言って、「待っててあたしのイクシフォスラーちゃん♪」という声と共に、部屋から出て行ってしまった。



「え? この本はどこで手に入れたかって?」
 早速クイズ本の出所を聞くために、カイルとロニの二人はルーティの所へ行った。
 ちょうど夕食の準備時だったようで、キッチンにはリアラとナナリーが手伝いとして一緒に働いている。
 ロニの持っている本を見たナナリーは、見覚えのあるその本を指して言った。
「これ、この前なくした本じゃないか。見つかったのかい?」
「いや、ずっと前からここにあった本なんだけどな……同じ本だってハロルドが言うんだよ」
「で、どこで拾ったの母さん!?」
 とにかく気になって仕方がないらしく、ルーティにカイルが強くたずねた。
 ルーティは、その様子に少し驚いたようだが、笑顔で答える。
「ああ、これ? ダイクロフトの最終決戦の時に拾ったの」
『ええ――――っ!?』
 ルーティの答えに、カイル達は一斉に大きな声をあげた。


 ルーティの話によると、こうである。
 ちょうど十八年前の、ダイクロフトでの最終決戦の時、入り口から入ったスタン達は、
「ねえスタン。ちょっと落し物しちゃったんだけど、戻っていい?」
「え? どこに?」
「うーん、多分入り口かな? あの野獣みたいなワカメ男に弾き飛ばされた時に落としちゃったのかも」
 あの筋肉ワカメダルマ! とか、凄くバルバトスに失礼なことを吐くルーティ(さらにフィリアが密かに「そうですわね」と相槌を打っていたとか)に、スタン達は苦笑するしかなかったが、とりあえず逆らうのも怖いので、ダイクロフトの入り口に戻った。

「あったー!」
 ようやく落し物を見つけたらしく、サーチガルドまで使ってその場で小躍りしているルーティに、ウッドロウがたずねた。
「で、何を探していたんだルーティ君」
「プレミアムレンズよ」
『……』
 全員その場で凍っていたような気がした(ルーティ談)が、ルーティは階段付近に落ちてあるモノまで見逃さなかった。
「あ、あんなところに本が落ちてるわ! もしかしたらこれもプレミアものかも!」
 とか言いながら、本を手にとって、早速中身を見てみたら・・・



「なるほど、つまり俺達は十八年前のダイクロフトで本を落としたワケか」
「ははっ! でもまさか母さんが拾ってくれたなんてね♪」
「いろんな意味で凄い偶然だね」
 ルーティの話を聞いたあと、その話のあまりにもの偶然性に全員が口をそろえた。

「それにしても、よく分かったわね。ハロルド」
「さっすが双子の妹だね」
「ってゆーかー、女のカンってヤツ?」
「ハロルド!?」
 リアラとナナリーの声に続いて、どこから沸いてきたのかハロルドが声をかけてきたので、その声の方向を向く。

「今日はここまで~♪ ぐふふ、もうすぐイクシフォスラーちゃんは、予定通りカンペキなロケットに!」
「えっ!? ロケット?」
「未遂だから安心しろ」
 ハロルドの問題発言を間に受けかかっていたカイルは、ハロルドの後ろにいたジューダスの言葉に、ほっと胸をなでおろしてから、ジューダスの前に例のクイズ本を出した。
「ほう……見つかったのか?」
「クレスタ孤児院にあったんだよ! 母さんがダイクロフトで偶然拾ったって! 俺達が落としたクイズ本を!」
 ジューダスが珍しく反応を示してくれたからか、カイルは凄く嬉しそうにさっきルーティに聞いた話をジューダスに語り始めた。


「ね? 凄いでしょ!」
「ああ……そうだな……」
 ジューダスは、軽く相槌を打ってから、その場で頭を(正確には仮面を)抱えた。
(あの女……最終決戦の目の前でプレミアだと?)
 ついでにあんなのが姉なのかと思うと無性に悲しくなるし、でもカイルがスタンに似ているのは良かった……と、心の中に語りかける。こんな時、シャルティエがいれば後で相手になってくれていたかもしれないが。
「ま、まあ母さんは、えーっと……ほら、ケチというか稼ぎ好きというか!」
「カイル……それはフォローになっていないと思うのだが」
 と、フォローを入れたつもりのカイルは、逆に突っ込まれてしまう。


「でも良かったよね。カイル、クイズ本大好きだもんね」
「リアラも好きでしょ?」
「うん、大好き」
 よく二人でクイズで遊んでいるカイルとリアラが、仲睦まじくクイズ本を手に取って、すでに中身を見ている。

「あ、今度はあたしに見せてねリアラ。まだ、このジャンルはやってないんだよ」
「お前も好きだねえ~」
「あたしはクイズ本のファンみたいなものだからね。でも、ロニもよく読んでるじゃないか」
「ま、まあな。面白いよな、これ」
 と、ロニやナナリーもクイズ本が戻ってきたのは相当嬉しかったようだ。

「ディムロス達はみんなシラケてたけど、結構人気あるじゃん? あのクイズ本」
「……ふん、くだらんな」
「あんたも好きっしょ? この前夜に一人でこっそり読んでたの見たしぃ~」
「……何っ!?」
 一人冷めていたジューダスだったが、ハロルドに確信を突かれて動揺を隠せない。しかし、幸いにもカイル達は全くこのやり取りに気がついていないようだ。
 そして、ハロルドが嬉しそうにジューダスの横で、耳打ちするように言った。

「ぐふふ、黙っててあげるから。その代わり、一回……」
「血はやらんぞ」
 ハロルドが言い終わる前に、ジューダスが先に答える。無表情で即答されたハロルドは、「ちっ」と舌を鳴らして、これ以上話を進ませたりはしなかったが、
(ま、寝込みを襲えば何とかなるっしょ♪)
 と、更にタチの悪いことを考えていたという。





 そしてカイル一行は、歴史改変を修正することに成功した。
 それぞれの時代に戻り、カイルとロニは旅に出ることになった。
 そして、荷造りをしていたカイルは、子供部屋の本棚から、一冊の本を取り出した。
「ん? この本・・・何か懐かしい感じがする……」
「どうしたカイル。お、クイズ本じゃねえか。昔っからあったぜ、それ」
「でも、それ以上に何か懐かしいような……そうだ、父さんと母さんに聞いて来る!」

 そしてカイルは、クイズ本を手にとって、下にいる両親にクイズ本のなれそめ話を聞きに行った。
「あら、よく分かったわね。この本が普通の本じゃないって」
「うん。ちょっとそんな感じがしたんだ」
「これはラディスロウで拾ったんだ。それをルーティがずっと持っていて……」



 そう、カイルの手に取ったクイズ本は、例のカーレルの愛用していたクイズ本なのである。
 スタンたちの話によると、こういう真実があった。

 ちょうど、フィリアがクレメンテと出会ってから、他の部屋を回っていた時だった。
「……ん?」
 リオンは、ある一室にあるカプセルに目をとめて、剣を使ってそれをこじ開けてみた。
 そこに、ルーティが部屋に入ってくる。

「どしたの、リオン。……うわっ! また古臭いカプセルね~」
「だが、中身は新しい。どうやら保存カプセルのようだな」
「どれどれ?」
「暑苦しい、近寄るな。……これは!」
 カプセルの中に入っていたのは、謎のぬいぐるみ達、そして一冊の本だった。
 リオンは、その一冊の本を手にとって、しばらく眺めていた。
「どーしたのリオン」
「……いや、どうもしない、ただの本だ。中身はクイズ本のようだな」
 ルーティを邪険に扱いながらも、その本の中身を判断したリオンは、ルーティに本を押し付けた。

「な、何よ?」
「やる」
「……へ?」
 いきなり本を押し付けられて、「やる」と言われたからか、それともリオンに言われたからか、とにかくルーティは目を点にして間抜けな声を上げた。
 しかし、リオンはそのルーティの態度には突っ込みを入れずに、
「僕は興味ない。それに……」
「それに?」
 遠い目で話を続けようとしたところで、言葉を詰まらせるリオンに、ルーティは思わず聞き返したが、リオンは首を横に振った。
「いや、何でもない」
「き、気になるじゃない!?」
「何でもないと言っているだろう! 何をしている、海の底に置いて行くぞ!」
 リオンが部屋を出てから、ルーティはもう一度本のページをめくってみた。
「クイズ本ねえ……こんなの、何でカプセルに入れるかしら? 入れるならガルドにしてもらいたいものね」
 と、堅実な事を言っていた。



「でもこの本、結構面白くてね。だから捨てなかったの」
「へえ……これ、リオンがくれたんだ」
「しかも天地戦争時代の遺物か。ハロ……ん? あーどっかの暇人がカプセルに入れたんだろーな」
「この本、貰っていっていい?」
 と、カイルがクイズ本を手にとって、スタンとルーティに聞く。
「別にいいけど?」
「こんな古い本を持っていって、どうするつもりなんだ?」
「うーん。別にどうもしないんだけど……持っていたいんだ。」

 そして、結局カイルとロニは、クイズ本持参で旅に出たのである。
 何となくの、懐かしい気持ちと共に。

「ねえ、スタン。」
「ん?」
「あの二人に、リオンのことって、ちゃんと話してなかったわよね?」
「ああ……特にロニの方は、リオンのことは裏切り者って思っているんだよな……って、あれ? そういえば……」
「でしょ? 二人とも、フツーに納得してなかった?」
「しかも、何か言いかけていたような気がしたんだけど……」


 ちなみに、ルーティとスタンの話に続きがある。彼らの知らない続きである。
『どうしたんです、坊ちゃん。ルーティちゃんに本をあげるなんて。』
「何故か……誰かが喜ぶ顔を感じたんだ。誰だろうな?」
 と、リオンがシャルティエに答えていたのである。


 そしてその千年くらい前では……
「ハロルド、何をしている。もうすぐラディスロウを沈めるぞ」
「あ、ちょっと待ってよディムロス。あとはこれだけだから~♪」
「カーレルのクイズ本? こんなものを保存カプセルに入れるなよ」
「全く何を考えているのです……こんなタメにもならないような本を後世に残すつもりですか」
「いいじゃん! 何となく入れたら喜びそうな人がいるような気がしたんだから~」
「誰だそれは」
「分かんないわよ! でも、女のカンがそう言ってんのよっ!」
 と、ハロルドがラディスロウを沈める直前に、保存カプセルに、いくつかのぬいぐるみと共に、兄カーレルの愛読書であった、クイズ本を入れていた。



 カイル一行の絆は、意外なところで結ばれていたのである……。

 

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あとがき

天地戦争時代、カーレルの部屋で「いろいろ」のクイズ本を取り忘れた人は、クレスタ孤児院で同じジャンルのクイズ本を手に入れることが出来ることからのネタ。

2004年(日付不明) 旧サイト投稿

 

 

 

 

 

 

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