寝ぼすけ再び

 

 

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 18年後、英雄になるための旅を続けていたカイル一行も、スタン達と同じく、朝の問題に直面していた。


「おいっカイルっ! 起きろ! 朝だ! ……ダメだ起きねえ」
「一向に起きる気配がないね」
 近くでは料理当番のリアラが朝ご飯を作っている。
 そして、今日の「カイル起こし当番」に当たったロニとナナリーがため息をついた。
 そう。この当番は、カイル当人の知らないところで(一番先に寝るので)ローテーション式で回ってくる当番なのだ。


「まだ起きないのか?」
 先ほどまで涼しい顔で剣を磨いていたジューダスだったが、その様子に見かねて声をかけた。
「ああ、カイルとは長い付き合いだけどよ……今日は特別手ごわい」
……まだ起きないの? もうすぐ朝ご飯ができるのに……」
 ちょっと困っている感じのリアラの横には、美味しそうな味噌汁が火にかけられ始めている。
「頼む。明日また当番引き継ぐから、今日はみんな手伝ってくれ。俺はもうギブだ」
「……あたしも朝から疲れたよ」
 実は、カイルを起こし始めたのはリアラが朝ご飯の用意を始めるより前で、既に30分近くたっていた。
 それでも全く起きるの「お」の字もカイルに現れていない。
 結果先に音を上げたのは、ロニとナナリーの方で、二人とも朝起きたばかりなのにぐったりしていた。


「……じゃあ、私も頑張ってみるね。誰かお味噌汁の方を見ていて」
 まずリアラがカイルの前に立った。朝ご飯は半分バテているナナリーが見ている。
「カイルー朝ご飯出来ちゃうわよ! 起きてーカイルー」
「んー、うん……起きてるよ~……ムニャムニャ……」
 カイルの前で必死に呼びかけるリアラ。しかし、カイルはまだまだ夢の中だ。

「言っておくけど、フツーに起こしても起きないぜ、リアラ」
「それもそうね。だったらこの際仕方ないわ……」
 ロニの言葉に肯いて、目を閉じていきなり呪文の詠唱に入った。
「お、おい。リアラ?」
「アクアスパイク!」
 何と、事もあろうにリアラは晶術をカイルに向かって使用したのである。
 まあ、インプレイスエンドなどの上級晶術を使わない分だけ良心的かもしれないが。
 しかしそれは思い切りカイルにヒットして、カイルはびしょびしょに濡れた状態になった。
「マジ?」
「や、やるね……リアラも」
「……」
 これには、さすがにロニもナナリーもジューダスも驚きを隠せない。
 しかし……

「んー……やったなモンスターめ……ムニャ」
 リアラもリアラだが、カイルもカイルである。殆ど目覚めとしては効いていない。
「ウソ……」
「はーあ、呆れたねえ全く。どうしてコイツはここまで良く眠れるんだよ?」
 リアラが晶術を思い切りぶつけても起きないカイルに、ロニはむしろ感心したように言った。


「仕方がない、僕に任せろ」
 こういうことには殆ど関与しない(当番になってしまった時だけしかやらない)ジューダスがカイルの前まで来て言った。
「朝ご飯をダメにしない程度なら、派手にやってもいいよ。この際」
「……いや、それよりもこの調理器具を借りるぞ」
 と、ジューダスが手にとったのはどこからどう見ても銅のフライパン。
 ちなみに片手には味噌汁に使っていた銀のおたまを持っている。中々違和感のある格好だが……

「って、お前。まさか……アレをやるつもりか?」
「母親にもやられていたのだろう?習慣的に起きるはずだ」
「……アレって何さ?」
 少し後ずさりして耳に手をあてるロニに、実は何も知らなかったりするナナリーが尋ねる。
「あ、アレはすげえやばい起こし方だ!お前も耳を塞げっ!」
「え? あ、ああ……」
 ナナリーは耳を塞ぎながら横目でリアラの方を見たが、すでに彼女は耳を塞いで待機していた。

「行くぞ、死者の目覚め……起きろ! この馬鹿がっ!」
  ガンガンガンガン!!!
 すごい音がフィールド一面に広がった。
「……うわっ!」
 カイルが跳ね起きた。本当に習慣的になっていたらしい。
「……ふう」
「すげえ、ルーティさん並の威力……」
 息をつくジューダスに、ロニはそれ以上かもしれない、と手を下ろした。
「お前もやる時はやるんだな」
「見よう見まねだがな」
「にしてもお前……耳大丈夫か?」
 そういえばロニは今までこの『死者の目覚め』をやっている本人が耳をいためているところを見たことがない。
(リリスさんがやってた時は耳塞いで苦しそうにしていたけどなあ)
 とかそんなことを思いながら相変わらずすまし顔のジューダスを見ていた。しかし。

「……ZZZ」
「また寝ているわよ……」
「寝てるね」
「二度寝している場合か。さっさと起きろカイル!」
ジューダスはもう一度『死者の目覚め』をやったが、カイルは完全に二度寝に入ってしまった。


「……くっ」
「フツー二度寝の場合はすぐに起きるはずなんだけど、な」
「カイルはフツーじゃないってことだね。ロニとは違う意味で」
「このままここに放置していけば、いつか……」
 リアラが何か黒いことを言っているような気がしたが、その場の全員は聞かなかったことにした。

「ねえ、さっきのすごい音、何よ? それより朝ご飯できた?」
 その一同に声をかけたのは、朝早くに「虫の観察よっ」とか言って出かけていたハロルドだった。
「うん、朝ご飯は出来たんだけど……」
 カイルが何をどうしても起きないことを全て話すリアラ。
「ふーん、なるほどね。つまり何とかしなきゃ、何もできないってワケね」
「そういうことになるな」
「でも魔法でも音でも起きない、と。ぜひカイルの身体の仕組みを調べたいもんだわ……」
「……えっ?」
 リアラが全員ひっかかったハロルドのさっきのセリフを聞き返したが、ハロルドは全く聞いていない。
 自信たっぷりに手を空に上げて言った。

「じゃあ、このあたしに任せなさい! あの必要ない時は全く起きないディムロスだって起こしたこの秘策!」
 何気にディムロスについてのことで、またひっかかる何かがあったような気がしたが、黙ってハロルドを見た。


「♪~~~」
 鼻歌交じりにハロルドが荷物から取り出した謎の機械。
「何だそれは」
「あ、これ?電流を流す機械よ。大丈夫、これであいつが死んだことはないから」
 一日死んだような顔をしたことはあったけどね♪と、付け加える。
 そもそもこれでディムロスが死んでいたら、ロニ達が彼に会うことはなかっただろう。
 もちろん、それ以前に問題のある点があった。ということで今度は止めに入ろうと構えた。

「ディムロスが死ななかったギリギリくらいの電気なら、起きるかしら?」
 怪しげなダイアルを回しているハロルド。どうやら電流を調節しているようだが。
「待て待て! 俺の可愛いカイルに何をしようと!?」
「というか、前線で戦うカイルが死にかけたらどうするんだい?」
 必死にハロルドにつかまって手の動きをロニとナナリーで止めている。

「早く起きろカイル! このままではお前が死ぬぞ」
 大体大柄で鍛えられたディムロスとまだ成長期なカイルでは致死量の電流の量が違うだろう。
 間違いなく死ぬぞ、とジューダスはカイルを揺さぶった。
 そこに、リアラが慌てた表情で詠唱をし始めた。

「お願い起きて! フィアフルストーム!」


「や、やりすぎたかしら?」
 リアラの前には、竜巻で荒れ果てた地面があり、そしてそこに横たわるカイルとジューダスがいた。
 慌てすぎてカイルをたたき起こしていたジューダスまで巻き込んでしまったのである。
「お、起きたか? カイル。っていうか大丈夫か?」
「う、うん。何とか生きてる……」
「……」
「うわあ! ジューダスが死んでるー!」
「何!? ライフボトルだ、ライフボトル!」

 倒れたまま動かないジューダスと、あわてて道具袋をさぐるカイルとロニを見て、ナナリーはぽかんと口を開けて見ていた。
「……明らかにやりすぎだよリアラ」
「そ、そうね……ごめんなさい」
「お? 朝ご飯は吹き飛んでないみたいよ♪ よかった~」
 多分一番の原因であろうハロルドは、呑気に味噌汁の蓋を開けて言っていた。


 仲間思いなカイルはその後、「ジューダスを殺すわけにはいかない!」と言って、十日間は自発的に起きたという……。

 

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あとがき

このころの小説読んでると、カイル一行好きだったなぁと懐かしくなる。今も好き。

2003年(日付不明) 旧サイト投稿

 

 

 

 

 

 

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