「あ……」
『どうしました? いきなり固まっちゃって』
「ないんだ……」
『? 何がです?』
「首から下げていたのに……」
『まさかっ! 坊ちゃん、マリアンから貰ったお守り代わりのペンダントがないんですかっ!? ……って、坊ちゃん!?』
 シャルティエが事を察知した頃には、すでにジューダスは放心してその場に立ち尽くしていた。

 

 

探し物

 

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『と、とにかく探しましょ!? ね? 見つかりますって!』
「……ああ」
 必死なシャルティエの言葉に、少しだけ微笑んだジューダスだったが、あまりにものショックに半分目が虚ろなままで、微笑にも説得力がない。

『と、とりあえずですね! いつまであったか覚えています?』
「朝起きたときはあった」
『その後は?』
「そうだな……。アルジャーノン号で一人で考え事をしていた時は……あった」
 中々の記憶力である。そう考えたら、最近の記憶をたどれば、見つかる可能性は十分にあるだろう。
 シャルティエは、今日一日の自分とジューダスの行動を思い出していた。

(昨日坊ちゃんはカイル君と一緒に旅をすることになって……。一泊して、それから船に乗って……)
 ジューダスいわく、その時はまだペンダントがあったということなので、アイグレッテで落とした可能性はなし。
(船で坊ちゃんは甲板で僕と話してて……その時ロニが来たんだっけ)
 まあ、それまではあったようなので、アルジャーノン号で使っていた部屋……という可能性も消える。
(その後フォルネウスとかいうのが出てきて、倒して、リアラちゃんが力を使って助かって……今リーネ村にいる、と)
 これが今日一日の大雑把な行動である。

『と、言うことは……』
「まさかあの化け物と戦った時かっ? だとしたら今ごろ海に……?」
『ああっ! そんなマイナス思考で考えちゃダメですよぉ~……』
 恐らく、ジューダスの思考の中で起こっているだろうシチュエーションは、
  ・フォルネウスと戦っているときに落とした。
  ・戦闘後、浸水してきた混乱の中、落とした。
 の二つだけだろう。しかも、どちらにせよ最終的には海に落としているのを想像しているらしい。

『アルジャーノン号のどっかに落ちているかもしれないですし! それにもしかしたら、船を降りたときはあったかもしれないですし!』
「シャル……」
『とりあえず・・・海岸から村まで辿ってみません? ね?』
「そう……だな。探してみるか」
 シャルティエの必死な説得によって、とりあえず探させることに成功したのである。



 しかし、無情にも海岸から村までの道のりで、落とした形跡はなかった。
『坊ちゃん、落ち込んでないで村の中も探しましょ?』
「……マリアン、僕は……」
『坊ちゃん! 諦めちゃダメですって!』
 マイナス思考の渦にはまったジューダスを助けるのは中々至難の業だった……S.シャルティエは、神の眼に突き刺された後、そうディムロス達に語ったという。



『大丈夫ですよ、きっとアルジャーノン号で誰かが拾ってくれてますって』
「そうだな……」
 結局村のどこを探しても見つからず、ジューダスはがっくりとうなだれて歩いていた。
『あ、あんなところにロニとカイルがいますよ? 坊ちゃん、こんな情けない姿を見せちゃっていいんですか?』
「……! わ、分かっている!! 暫く黙っているんだ、シャル」
 カイル達の姿を見た途端に背筋を伸ばして、いつもの凛々しい表情に戻るジューダスを見て、
(この辺は何年経っても変わらないんだから……)
 と、シャルティエはジューダスの腰に下げられた状態で、しみじみ感じていた。

「ねえ、ロニ。こんなのを拾ったんだけど」
「何だこりゃ? ……ペンダント?」
 ジューダスはカイル達に近づこうとしたが、その二人の会話を聞いて、くるりをきびすを返し、建物の裏に隠れた。

「……シャル」
『良かったじゃないですか、事情を説明して早く返してもらいましょ?』
 というのも、カイルとロニが持っているペンダントこそが、まさにジューダスの探し物だったのである。
「いや……それはできない」
『どうしてです?』
「……あれを見ろ」

「きっと落とした人、困ってるね。この村ってみんなが顔見知りだし、すぐに見つかるかな?」
「いや、自分達で探そう」
「どうして?」
「このペンダントは確実に女物だ。しかもかなり美人のお姉さんが……。ふはははは~! ってことで、分かったか? カイル!」
「……分かんないよ」
「つまりだ、『これはお嬢さんの落とされたものではありませんか?』『まあ、よく見つけてくださいましたわ、大切なものでしたの』『いえいえ、貴女の困っているところ、いつでも参上いたします』『素敵☆』 ……ってカイル! どこ行くんだおい!?」
「俺……もうちょっと父さんのこと聞いてくるよ」

「……あの状況で僕のものだなんて、言えるはずがないだろう!?」
『そりゃそうですけど……大切なものだったら』
「僕のプライドが許さない……」
『坊ちゃ~ん』
 呆れた声を出すシャルティエだったが、何となくジューダスの気持ちも分からないでもなかった。
 確かにあの状況で、「僕のものだから返せ」と、妄想状態のロニに言うのは至難の業だろう。
 片やマリアンから貰ったペンダント、片や今まで培ってきたプライド。
 究極の選択である。

「くっ……どうすればいいんだ」
 ジューダスはペンダントを持っているロニを見てみたが、相変わらず勝手な妄想に入っていて、何やらワケの分からないことを言っている。
(まあ、いつものことだが……いや、そんなことを言っている場合ではない!)
 思わず性分で突っ込みたくなったが、頭を横に振って何とか突っ込みに行く寸前で踏みとどまった。

 そして、暫く様子をうかがうことにしたジューダスは、再度ロニに視線を戻したが……
「い、いない!? どこへ行ったんだ?」
『待っててくれお姉さん……って、マッハでどっか行っちゃいましたけど』
 とシャルティエに答えられて、ジューダスはがっくりうなだれた。



「あれ? どうしたのジューダス、こんなところで」
「カ、カイル?」
 ロニに呆れて一人出歩いていたカイルだったが、ジューダスが物陰でぐずぐずしているうちに見つかってしまったらしい。
「な、何でもな……」
「何かあったんでしょ? 何でも話してよ。俺、力になるからさ!」
 ジューダスが全て言い終える前に、カイルは言葉をさえぎって明るく笑う。
「いや、そう言う訳ではないのだが……」
「ずっとロニの方を見ていたよね?」
「……」

 どうやらカイルはジューダスの今までの不審な行動を、ずっと見ていたようだ。
 にっこりと無邪気に笑う姿が、今回ばかりはジューダスにとっては悪魔に見えたかもしれない。
 だが、そんなことは露知らずのカイルは、ジューダスの手を取って、さらに核心を突いてきた。
「ロニの持ってるペンダント、心当たりでもあるの?」
「……!」
「ふーん……。あ、もしかして!  あのペンダントって……」
(ばれたか?)
 確かに今までの怪しい言動を見られていたのなら、バレても仕方がないかもしれない・・・と、軽くため息をつくジューダスに、カイルは続けた。
「リアラの!? だったらロニを止めなきゃ……ロニー!!!」
「お、おいカイル……人の話を……」
 激しく勘違いをしているカイルを制止するジューダスの言葉も聞かずに、カイルはロニのところへ走っていった。


(ああ、あんなところにいたのか……)
 カイルの後を追って走ると、ロニがリーネ村にいる女性を口説いている真っ只中だった。
 しかし、カイルはお構いナシに、ロニの元に駆け寄って言った。
「ねえねえロニー! このペンダント、リアラのものなんだ! だから返してよね!」
「……へ? そ、そうなの?」
 思い切り勘違いしていただけあって(致命的なことにカイルも勘違いをしているが)、ロニは目を点にしてしまった。

 そうこうしているうちに、ロニの話し掛けていた女性はどこかへ行ってしまう。
「ああちくしょう! カイル、てめえのせいでまた逃げられ……」
「いつものことでしょ!? だから早く、ペンダント返してよ」
 リアラのことになると行動力は倍以上になるらしい、ロニの言い訳の暇も与えずに、カイルは手を出しだした。
「はあ~あ……それじゃあ仕方ねえよなあー。その代わりだ、カイル」
「???」
「ちゃんとリアラを落とせよ」

 そのロニの言葉に、カイルの後を追ってまたしても物陰に隠れていたジューダスが、がっくりとコケそうになったとか。
 しかし、カイルは意味を分かっていないようで、
「落とせって……崖から!? ロニってそんな酷いこと……」
「ちっがーう! リアラを恋人にしろってことだバカ!」
「えええええ~~~~!!!????」
 やっと理解したのか、カイルは顔を真っ赤にして困り果てている。
「そ、そんなつもりはないよ! ロニじゃあるまいしっ!」
 しかし、すぐに我に帰ってロニからペンダントを分捕り、
「とりあえずリアラのところに戻るよ。」
 と言って、リリスの家に戻っていった。

『ますます「僕のだ」って言えなくなってきちゃいましたねえ、坊ちゃん』
「ああ……」
 何が悲しくて目の前にある宝物を見守ることしか出来ないのか。
 シャルティエからしてみれば、単にジューダスのプライドが無駄に高すぎる所為なのだが、彼にそんなことを言う勇気は、とてもではないがなかった。



 そして日は暮れて、翌日になって出発するようになってもペンダントは取り返せず。
 しかも、
「え? これ、リアラのじゃないの?」
「違うわよ」
「じゃ、じゃあ……リリスさんの? それとも村の人の?」
 と、リアラのものではないと分かって、リリスにペンダントを渡したが、リリスも首をかしげて答えた。
「うーん・・・見覚えないわね。あなた達のものでもないんだったら、船の人のじゃないかしら?」
「船の人の? それがどうして?」
「ほら、間違って袋か何かに引っかかったのかもしれないし。……あら?」
 ペンダントをカイルに返そうとした時点で、リリスは何かに気付いた様子で、ペンダントを見つめた。
「文字が彫ってあるじゃない。えっと・・・『愛するエミリオへ』?」
「……」

 それは当然、マリアンが慈愛の意をこめて彫ってくれた文字なのだが、カイルたちはそんなジューダスの心の中には全く気付くはずもなく、
「エミリオ? うーん・・・船の中にそんな人いたかなあ? どうするべきだと思う? ジューダス」
 と、突然ジューダスに話を振ってきた。
「あ、ああそうだな……持っていけばいいだろう。もしかしたら、船の乗客の中にいるかもしれないからな」
 もちろんこれはジューダスのものなので船の乗客のものであるはずはないが、カイルが持っている限り、取り返すチャンスを伺えばそれでいいのである。
 そう考えたジューダスは、ペンダントの持ち主がバレない程度にポーカーフェイスを作って、カイルに提案したら、カイルは納得したように笑った。

「そっか、そうだよね。それじゃあリリスさん、これ、持っていくことにします」
「ええ、きっと見つかるわよカイル」
 カイルは、とりあえずということで、なくさないようにアイテム袋にペンダントを入れた。

 こうして、リリスに別れを告げて、カイル一行はリーネ村から旅立った。



『結局どうするんですか……坊ちゃん』
「………………あとで考える」
『……』

 結局ペンダントが戻ってきたのは、ジューダスの正体がバレた後だったとか。

 

 

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あとがき

個人的に、リオンよりもジューダスのほうが好き。いろいろ解放されて楽しそう。

2003年(日付不明) 旧サイト投稿
2015年3月31日 pixiv再掲

 

 

 

 

 

 

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