久しぶりだから

 

 

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「ねえ、ディムロス?」
スパイラルケイブで、カイルという少年とその仲間の協力もあって、無事ディムロスとアトワイトは帰路についていた。
しかも、何故かハロルドが要らない(?)までに気を遣ってくれたので、二人っきり。
ちょうどディムロスの後ろを歩いていたアトワイトが、静かな洞窟によく通る声で呼びかけた。
「何だ?」
歩きながら、軽く後ろを振り向いたディムロスに、アトワイトは懐かしそうに微笑んだ。
「・・・久しぶりよね。」
「何がだ?」
考える間もなく、即聞き返すディムロス。しかも、歩む速度も全く変化がない。
アトワイトは少しだけムッとして、足をとめてから言った。

「あなたって、本当にデリカシーのかけらもないわね。」
「???」
アトワイトにあわせて、ディムロスも歩く足を止めたが、やはり何が「久しぶり」なのか分からず、首をかしげた。
「・・・こうして、あなたと私が・・・二人っきりになったことに決まってるでしょ?」
顔を少しだけ紅潮させてアトワイトは説明したが、ディムロスはそれにも気付かないような感じで何気なく答える。
「ん? そういえばそうだったか? で・・・それがどうした?」
「・・・あなたね、もしかしてワザと言ってない?」
「は?」
「もういいわ・・・今に始まったことじゃないものね。」

全くディムロスに悪気はないことくらい、アトワイトも十分承知である。
昔っから、ディムロスはそうなのだ。
よく言えば真っ直ぐ、悪く言えば単純・・・しかもカイル達の影響なのか、さらに「単純度」と「天然度」が上昇しているようにも思えた。

「・・・久しぶりに二人っきりになれたのに、会話の一つもしようとしないってことくらい・・・今に始まったことじゃ・・・」
アトワイトは、ワザとかなりの小声でそうつぶやいた。
すると、ディムロスの表情が即変わって、一歩アトワイトに近付き、やや引きつった声で話し掛けてきた。
「・・・。す、すまない・・・何か話そう。」
そんなディムロスの様子が面白くて、ついつい笑いが漏れてしまうアトワイト。

「・・・な、何か可笑しいことでもしたか・・・?」
「あなたって、こうやって小声で愚痴られると弱いわよね。」
くすくすと笑いながらそう言ってくるアトワイトに、ディムロスは「うっ・・・」と一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに言い訳するように答えた。
「長年それをしつこくやってくる奴のおかげで、本能が『聞き逃すな』と訴えてくるようになっただけだ。」
誰とは言わないが・・・とディムロスは付け足したが、もちろんアトワイトも誰の事を言っているのか一目瞭然だった。

だから、すぐにからかうようにディムロスに言った。
「そう? だったら私も、イクティノスに倣って取り入れようかしら?」
笑いながらそう提案してくるアトワイトの言葉を間に受けたのか、ディムロスはアトワイトの肩に手をおいて、必死な目で訴えた。
「やめてくれ! 君にまでされたら身体が持たない・・・!」
「ふふっ・・・馬鹿ね。そんなことできるわけないじゃない。」

あれは彼の特許よ、とアトワイトは何気に含みのある発言をしたが、ディムロスは何も疑問に思わず、そのまま会話が途切れる。

「でもね・・・」
途切れた会話を元に戻すように、アトワイトが再び話を切り出した。
「うん?」
「無理矢理でもいいから、あなたと会話したい・・・と思うのは事実なのよ?」
「ああ、それで何が話したいんだ?」
普通の男なら、ここでぐっと来るものがあるかもしれないが、生憎ディムロスにそんな性分があるはずもなく。
アトワイトが手を軽く後ろに組んで顔を近づけても、ディムロスはややぶっきら棒な口調で聞き返した。

「やっぱりデリカシーがないわ。」
「・・・・・・すまない。」
何が「すまない」のか分からないが、何となく怒っている様子のアトワイトを見て、反射的に謝るディムロス。
アトワイトもそれを分かったのか、微笑をディムロスに向けて、優しく問い出した。
「どうすればいいのか、正直分からないんでしょ? 顔にそう書いてあるわ。」
「まあ、な・・・」


バツが悪そうに、ディムロスは少しだけ視線を逸らして短く答える。
しかし、逆にアトワイトは嬉しそうに言った。
「ふふっ、あなたらしいわね。安心したわ。」
「安心した?」
どういうことだ、と聞き返すディムロスに、アトワイトは静かに答え始めた。
「ずっと自分の感情を抑えるように、頑張っていたみたいだったから・・・あなたらしくない、って思ったの。」
「みんな同じことを言うんだな。」
軽くため息をついて、片手を自分の頭に当てて、ディムロスは誰に言うでもないように言った。

「あら? 私だけじゃなかったのね?」
「カーレルにも全く同じことを言われたし、イクティノスには『無駄な努力だ』と言われたよ。ハロルドにも『馬鹿は頭を使わないの!』とか言われたな・・・」
全員に「うるさい」と一蹴したが・・・と苦笑して続けた。

アトワイトは、しばらく「へえ・・・」と相槌を打ったまま考え込んでいたが、少ししてにっこりと微笑んで言った。
「つまりみんな、一直線なディムロスの方が好きってことよね。」
「・・・随分いい方向に解釈したな。」
「あなたっぽくね。」
呆れ顔のディムロスに、悪戯っぽく微笑み返すアトワイト。

その状態で顔を見合わせている間に、ディムロスは「そうだったか?」と色々考えてみる。
確かに、今まで「疑問は残るがいい方向に解釈しておこう」と言う事で、余計な争いごとを起こさないようにしていたような気がした。

「・・・言われてみればそれは私の特許だったな・・・だが・・・」
それでもアトワイトの解釈に疑問が残りすぎて、その解釈を受け入れられないようで、ディムロスは落ち着かない様子でいる。
しかし、アトワイトの次の言葉で、ディムロスの落ち着かない動きがピタリと止まった。
「少なくとも、私はそういうディムロスが一番好きよ?」
「・・・アトワイト・・・?」
「嘘なんかじゃ、ないからね? 信じてくれていいのよ?」
動きが止まったディムロスに追い討ちをかけるように、アトワイトはこの上にないくらいの優しい微笑を浮かべる。
「信じるさ。」
さっきまで色々悩んでいたとは思えないくらいのディムロスの即答に、逆にアトワイトの方が驚いた。

「・・・随分早く信じてくれるのね・・・?」
「私が君を疑う訳ないだろう。当たり前じゃないか。」
「・・・・・・。」
アトワイトは顔を少し紅潮させて、ディムロスの次の言葉を待つようにディムロスの目を見た。
ディムロスも少し照れたように言葉を詰まらせながらも、期待通りに言葉を続ける。
「・・・だ、だから・・・私もそうやってはっきり言ってくれる君が好きだ。」
「ディムロス・・・」

アトワイトが、自然にディムロスに近付いて、そのままディムロスに身を寄せる。
ディムロスもそれに答えるように、アトワイトの背中に手を・・・



「・・・ま、待て・・・アトワイト・・・」
「・・・え?」
手を回そうとしたところで、ディムロスが言葉を詰まらせながら低い声でアトワイトに呼びかけた。
アトワイトが顔を上げると、何やらディムロスがアトワイトの向こう側を気にしているようなので、そっちを見てみる。
『あ・・・』
見事に声が重なる。一つはアトワイトのもの、そしてもう一つは・・・
「か、カイル君っ!?」
「・・・あ、あのっ! その! べ、別に悪気があったわけじゃなくて・・・!」
「このバカカイル・・・これじゃあどっからどう見ても『覗いてました』だろーが!」
「あ、ダメよロニ。声が大きいわ・・・!」
「『覗いてた』って肯定してどーするんだい? ・・・あ、あたし達のことは気にしないで・・・」
物陰から出てきて一生懸命言い訳するカイルに続いて、同じ物陰から次々とロニ、リアラ、ナナリーが出てきた。
当然ディムロスとアトワイトは、ナナリーの言ったように気にしない訳にもいかず、抱き合う寸前のところで固まってしまっている。

「あ、あの・・・君達・・・だな・・・」
「あ、ごめんね~ディムロス。あんた達が歩くの遅くって、気がついたら追いついちゃってさあ~」
「・・・だったら最初から、後ろで待っていれば良かったのではないのか?」
「ふーん・・・その割にはあんたもバッチリ覗いてたくせに~♪」
「黙れ!」
ひょっこりとカイル達と同じく出てきて言い訳するハロルドと、それに食ってかかりながらもちゃっかり共犯になっているジューダスに、ディムロス達は何とか身体を離したものも、もはや何も言えなくなってしまっている。

「じゃ、ここで休憩しましょっか? あ、ディムロス達はちゃっちゃと先に行っちゃっててね☆」
「ゆっくり休憩しようねハロルド。」
「・・・それも小声で言うべきことよ? カイル・・・」
とか言いつつ、着々と休憩の準備に入っているハロルド達に、ディムロスはやっとのことで口を開いた。
「おい・・・ハロルド。」
「ほらあ~さっさと行く!」
「・・・行こう、アトワイト。」
「そ、そうね・・・」
有無を言わせないハロルドに、ディムロスはアトワイトの背中を押して、その場から逃げるように去った。



ハロルド達の覗き行動のせいなのか、顔をやや赤くしながらもそのままスタスタとスパイラルケイブから出たディムロスとアトワイトだったが、外に出てからアトワイトが突然話を切り出した。
「あ、あの・・・さっきの続き、いいかしら? 他のみんなのことなんだけど・・・」
「安心しろ、別にカーレル達だって疑った事はない。」
「そうよね・・・でもさっきのは本当の事だと思うの。みんなあなたの事は好きなんだと思う。」

その言葉に一瞬立ち止まって振り向きたくなったディムロスだが、さっきのこともあるので、目線だけ後ろに移してアトワイトに答えた。
「君はその代表か?」
「・・・そんなところよ。」
「早く帰ろう。また追いつかれてしまいそうだからな。」
「ええ・・・帰りましょう。みんなのところへ。」

 

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あとがき

旧サイトのキリ番リクエストで書いたもの。これがディムアト初投稿だったそう。

2003年日付未定 旧サイト投稿

 

 

 

 

 

 

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