IF FFT ~もしも獅子戦争がなかったら~

-第3章 中編-

 

(1)

 ガリオンヌでは、ダイスダーグに関する黒い噂が聞こえるようになった。
 "教会を支配するためティンジェル家との縁談を進め、隙をうかがい神殿騎士団長ヴォルマルフを拉致しようとした"、"次兄ザルバッグが南天騎士団将軍の一人であるグリムス家の娘と結婚したのも、いつかはゴルターナ公を同じく暗殺するためだ"、"数年前に天騎士バルバネスを暗殺し家督を得ようとしていた"といったものだった。


「馬鹿げた話を! 誇り高きベオルブ家の家長たる兄上が、そのようなことをするはずがない!」


 そんなある日、ラムザは噂話を聞きつけたザルバッグが、話をしていた貴族の男達を一蹴していたのを目撃した。ザルバッグの怒声に、噂をしていた貴族達は逃げるように去って行った。


「ああ、ラムザか。まったく……一体どこからこのような根も葉もない噂が流れるのだ!」
「ザルバッグ兄さん……」


 この兄は何も知らない。いや、ダイスダーグが教会やゼルテニアと積極的に繋がりを持つために政略結婚を進めていることは理解しているのだろう。それはすべてベオルブ家のためだとザルバッグは考え、実際にザルバッグはグリムス男爵の娘と正式に婚約し、彼女は今ベオルブ邸に住んでいる。アルマも同じだ。家の道具として結婚することには抵抗がない。それが貴族の常識だからだ。
 だが、ラムザはおおよその事情を知ってしまった。あのディープダンジョンで起きたことは未だに現実のものとして受け止めきれないところもあったが、同じ体験をしたアルマが傍にいることで、それが決して夢ではなかったと受け入れざるを得なかった。また、あそこで見せられた幻――北と南の騎士団が戦争を起こし、内乱の中で聖石に宿る者達が陰謀を巡らせる世界――もまた、幻とはいえ、起こりえた現実に近い世界だと言うことも。
 そしてその中で見た、今、畏国が平和になろうとしているきっかけとなる出来事――兄ダイスダーグが父バルバネスを毒殺しようとした出来事は、今流れている噂と一致している。"途中で殺害をやめた"とあの時サーペンタリウスは語っていたが、ラムザはきっとそれは事実なのだろうと感じていた。


「兄上が私やアルマの縁談を進めてきたのは全て畏国の平和を願ってこそのもの。実際に兄上のおかげでガリオンヌのみならず、全てが平和になろうとしている……私自身も家のための縁談とは言え、彼女とは共に歩むことができると思って縁談を受けたのだ。それなのに!」
「ザルバッグ。私の為に怒ってくれているのは嬉しいが、あまり公共の場で騒ぎを立てるな」
「……兄上!」


 ザルバッグの声が聞こえたのか、廊下の奥から噂の張本人であるダイスダーグが困ったように苦笑しながら近づいてきた。


「ダイスダーグ兄さん……」
「ラムザ、お前に聞きたいことがある。ここでは話せないことだ。今から私の執務室に……構わないな?」
「はい……」
「あ、あの兄上。私は」
「すまないザルバッグ。お前には別に話したいことがある……夜に私の部屋に来てくれ」
「……分かりました」


 少し腑に落ちない様子のザルバッグの視線に見送られ、ラムザはダイスダーグに連れられて執務室へと向かった。




「ラムザ、用件は分かっているな。先日メリアドール殿と共にアルマ達を捜索した件だ。おおよその話は聞いたが、腑に落ちないことばかり。ヴォルマルフ殿と一体何があった?」


 執務室の椅子に座っているダイスダーグの言葉に、机越しに立っているラムザは言葉を詰まらせた。必ず聞かれることは分かっており、とりあえず"アルマ達は教会とは関係ない事件に巻き込まれていた"、"ヴォルマルフとは良好な関係である"ということだけを話していたが、いつかは追及されるだろうと思いながらも、真実を話しても信じてもらえるような内容ではない。どう説明すればいいのかずっと悩んでいた。


「ヴォルマルフさんには敵対の意思はありません。それはアルマも同意してくれると思います」
「……ヴォルマルフ殿"には"か。ラムザ、やはりお前は隠し事ができない性質だな」
「え?」
「近頃流れている様々な噂だが、教会の手によるものだと私は考えている。それについてどう思う?」


 ダイスダーグの問いかけに、ラムザは"教会がダイスダーグを暗殺しようとしており、その責任から逃れるためにダイスダーグを追及しようとする"とヴォルマルフに言われたことを思い出した。噂が流れるタイミングも踏まえて、ダイスダーグの推測はおそらく正しいとラムザは直感したが、本当のことを言えばダイスダーグは本気でイズルードとの婚約を喜んでいるアルマの縁談を破棄してしまうのではないかと思うと、答えに悩まざるを得なかった。


「……すまん、ラムザ。答えなくていい。その沈黙だけで十分だ」
「兄さん……」
「実はなラムザ。教会から直々に招待状が届いたのだ。ヴォルマルフ殿を異端審問にかけるため、証人として出席されたし――少なからず事情を知っているお前ではなく私に、だ」
「そんな……!」
「お前の態度を見て確信したよ。これはやはりヴォルマルフ殿ではなく私を異端審問にかけるための罠のようだな」
「ど、どうするつもりなんですか」
「行くに決まっているだろう。断れば勝手に異端者宣告してここまで押しかけてくるような連中だ。もちろん無策で行くつもりはないがな」


 そう言って、ダイスダーグはラムザの目をじっと見つめた。


「ラムザ。お前にも事情があるのだろう。すべてを詮索するつもりはない。だが、今回はこの兄を助けてはくれないか?」
「僕に……?」
「この前メリアドール殿が押し掛けたように、お前は教会の人間から随分と信頼されているようだからな。もちろんお前に全てを頼るわけではない。私も出来る限りの人脈を尽くして望むつもりだ」
「兄さん……」
「だがその回答を聞く前にひとつだけ打ち明けたいことがある。噂の一つである、父上とのことだ」
「……!」
「奴ら教会がどこから嗅ぎつけたのかは知らないが、私が父上を殺害し家督を得ようとしたという話は事実だ」


 淡々と打ち明けながら最後にどこか寂しそうに笑った兄に、ラムザは自分の複雑な感情を抑えるべく拳を握った。
 その話はディープダンジョンでも幻として見せられた。別の歴史で父を殺害した兄の野心はとどまることを知らず、畏国すべてを巻き込む戦争へと発展させた。その中でラーグ公でさえも殺害し、畏国を支配しようとしていることも知っていた。だからこそ、それが真実であると直接語られ、どうすればいいか分からなかった。
 だが、その打ち明けによって、ラムザは"兄は利用ではなく本心から自分を頼ろうとしている"ことを感じた。だからこそラムザは意を決し、ディープダンジョンを出た時から聞きたかったことを尋ねた。


「何故兄上は、殺すことをやめたんですか?」
「ラムザ……? そうだな、父上本人にバレてしまったから……と言うのはきっかけだ。約束したのだ、父上と」
「約束?」
「畏国を平和にし、弟や妹を幸福にすると。そして私は、平和な畏国を自ら作り、ベオルブの名を上げるために今まで手を尽くしてきた。ラーグ公をなだめ、畏国きっての農耕地であるランベリーに利をあげさせ、教会やゼルテニアにも接触をはかるためにアルマ達を利用し、そしてラムザ、お前の活躍もずっと利用してきた。実際お前はとても役に立ってくれたよ」
「兄さん……」
「その上でまた利用しようとしている私を許して欲しい。いや……私のことは許さなくてもいい。ザルバッグやアルマのため、ベオルブの名を異端者の血で穢さないために、お前の力を貸してくれ」


 椅子から立ち上がったダイスダーグは、そう言ってラムザに頭を下げた。だが、ラムザは自分がどうするか、ダイスダーグに頼まれる前から内心決意していた。


「僕でよければ、喜んで。ヴォルマルフさん達とも約束をしました。ベオルブ家と教会の間で何かがあれば、力を貸すと」
「いいのか?」
「僕は僕の正義を貫く。それが大切な人達のためになるのなら、なおさらです」
「……有難うラムザ」


 そう答えた兄の表情は、いつもの険しいものとは打って変わって、とても穏やかな様子だった。




――翌日――


「……ラムザ、お前も本当に行くのか?」
「はい。アルマには……」
「分かっている。尋ねられたら外交に行く兄上の護衛に出たとだけ答えておく」


 ベオルブ邸の入口でラムザとダイスダーグを見送ったのは、次兄であるザルバッグだった。その表情はどこか憔悴しており、先に家の門をくぐって外へ出たダイスダーグには、目で見送るだけで何も言う様子はなかった。


「ザルバッグ兄さん……」
「いつの間にかお前はオレよりもずっと強くなっていたんだな。……必ず戻って来るんだぞ」
「もちろん。いってきます、兄さん」
「ああ」


 わずかに微笑んだザルバッグを見て、ラムザは門をくぐって先に出たダイスダーグを追った。
 残されたザルバッグは、大きく息を吐いて家の中へと戻る。すると、廊下でティータが様子を伺っていたことに気付いた。


「ザルバッグ様。ダイスダーグ様とラムザ様はこんなに早くにお出かけに?」
「ああ。大事な会議があるらしい。ラムザはその護衛だ」
「ザルバッグ様……ちょっとお疲れのようですけど」
「オレにだって悩みくらいあるさ。ところでティータ。頼んでいた書類は」
「はい! もう整理できていますので、いつでもお渡しできますよ」


 そう答えたティータの笑顔はどこか幸せそうで、それを見てザルバッグは自分が少し安心したことを感じた。
 兄は昨晩、多くの事を打ち明けた。自分が教会の異端審問を受けること、それにラムザを同行させること、父とのこと――当然父のことは信じられるはずもなく「何故そんなことを!」と激昂したが、兄はそれ以上を話してくれなかった。ラムザはもっと深く知っているのだろうか、とも思ったが、ラムザも特に何かを言う様子もなく出て行ってしまった。
 昨晩兄が最後に言ったのは、「何かあった時はお前がベオルブを継いでくれ」と言う事だった。当然返事などできるはずもなく、何故教会から異端審問にかけられるのかも聞かず、兄に対する怒りや失望に任せて無言のまま部屋を後にしてしまったが、昨晩の兄に嘘偽りはなく、自分は兄のその言葉に従わざるを得ないことは痛いほどに理解していた。


「ティータ。お前はどこまでディリータのことを信じることができる?」
「……え?」
「もしもの話だ。もしも兄が知らないところで重大な罪を犯していることに気付いたら……」
「罪は償うべきだと思います。でも……私は最後まで兄さんのことを信じます。だって、血のつながった兄ですもの。きっと見放せないわ」
 
 ティータはそう言って、苦笑した。それにつられるように、ザルバッグも息をつき眉を下げた。


「……すまない。やはりオレは疲れているようだ。少しいい茶をいれてくれないか?」
「はい、喜んで」


 いつも通りの笑顔で答えたティータと共に、ザルバッグは屋敷の中へと戻って行った。


 

(2)

 ガリオンヌでは、ダイスダーグに関する黒い噂が聞こえるようになった。
 "教会を支配するためティンジェル家との縁談を進め、隙をうかがい神殿騎士団長ヴォルマルフを拉致しようとした"、"次兄ザルバッグが南天騎士団将軍の一人であるグリムス家の娘と結婚したのも、いつかはゴルターナ公を同じく暗殺するためだ"、"数年前に天騎士バルバネスを暗殺し家督を得ようとしていた"といったものだった。


「馬鹿げた話を! 誇り高きベオルブ家の家長たる兄上が、そのようなことをするはずがない!」


 そんなある日、ラムザは噂話を聞きつけたザルバッグが、話をしていた貴族の男達を一蹴していたのを目撃した。ザルバッグの怒声に、噂をしていた貴族達は逃げるように去って行った。


「ああ、ラムザか。まったく……一体どこからこのような根も葉もない噂が流れるのだ!」
「ザルバッグ兄さん……」


 この兄は何も知らない。いや、ダイスダーグが教会やゼルテニアと積極的に繋がりを持つために政略結婚を進めていることは理解しているのだろう。それはすべてベオルブ家のためだとザルバッグは考え、実際にザルバッグはグリムス男爵の娘と正式に婚約し、彼女は今ベオルブ邸に住んでいる。アルマも同じだ。家の道具として結婚することには抵抗がない。それが貴族の常識だからだ。
 だが、ラムザはおおよその事情を知ってしまった。あのディープダンジョンで起きたことは未だに現実のものとして受け止めきれないところもあったが、同じ体験をしたアルマが傍にいることで、それが決して夢ではなかったと受け入れざるを得なかった。また、あそこで見せられた幻――北と南の騎士団が戦争を起こし、内乱の中で聖石に宿る者達が陰謀を巡らせる世界――もまた、幻とはいえ、起こりえた現実に近い世界だと言うことも。
 そしてその中で見た、今、畏国が平和になろうとしているきっかけとなる出来事――兄ダイスダーグが父バルバネスを毒殺しようとした出来事は、今流れている噂と一致している。"途中で殺害をやめた"とあの時サーペンタリウスは語っていたが、ラムザはきっとそれは事実なのだろうと感じていた。


「兄上が私やアルマの縁談を進めてきたのは全て畏国の平和を願ってこそのもの。実際に兄上のおかげでガリオンヌのみならず、全てが平和になろうとしている……私自身も家のための縁談とは言え、彼女とは共に歩むことができると思って縁談を受けたのだ。それなのに!」
「ザルバッグ。私の為に怒ってくれているのは嬉しいが、あまり公共の場で騒ぎを立てるな」
「……兄上!」


 ザルバッグの声が聞こえたのか、廊下の奥から噂の張本人であるダイスダーグが困ったように苦笑しながら近づいてきた。


「ダイスダーグ兄さん……」
「ラムザ、お前に聞きたいことがある。ここでは話せないことだ。今から私の執務室に……構わないな?」
「はい……」
「あ、あの兄上。私は」
「すまないザルバッグ。お前には別に話したいことがある……夜に私の部屋に来てくれ」
「……分かりました」


 少し腑に落ちない様子のザルバッグの視線に見送られ、ラムザはダイスダーグに連れられて執務室へと向かった。




「ラムザ、用件は分かっているな。先日メリアドール殿と共にアルマ達を捜索した件だ。おおよその話は聞いたが、腑に落ちないことばかり。ヴォルマルフ殿と一体何があった?」


 執務室の椅子に座っているダイスダーグの言葉に、机越しに立っているラムザは言葉を詰まらせた。必ず聞かれることは分かっており、とりあえず"アルマ達は教会とは関係ない事件に巻き込まれていた"、"ヴォルマルフとは良好な関係である"ということだけを話していたが、いつかは追及されるだろうと思いながらも、真実を話しても信じてもらえるような内容ではない。どう説明すればいいのかずっと悩んでいた。


「ヴォルマルフさんには敵対の意思はありません。それはアルマも同意してくれると思います」
「……ヴォルマルフ殿"には"か。ラムザ、やはりお前は隠し事ができない性質だな」
「え?」
「近頃流れている様々な噂だが、教会の手によるものだと私は考えている。それについてどう思う?」


 ダイスダーグの問いかけに、ラムザは"教会がダイスダーグを暗殺しようとしており、その責任から逃れるためにダイスダーグを追及しようとする"とヴォルマルフに言われたことを思い出した。噂が流れるタイミングも踏まえて、ダイスダーグの推測はおそらく正しいとラムザは直感したが、本当のことを言えばダイスダーグは本気でイズルードとの婚約を喜んでいるアルマの縁談を破棄してしまうのではないかと思うと、答えに悩まざるを得なかった。


「……すまん、ラムザ。答えなくていい。その沈黙だけで十分だ」
「兄さん……」
「実はなラムザ。教会から直々に招待状が届いたのだ。ヴォルマルフ殿を異端審問にかけるため、証人として出席されたし――少なからず事情を知っているお前ではなく私に、だ」
「そんな……!」
「お前の態度を見て確信したよ。これはやはりヴォルマルフ殿ではなく私を異端審問にかけるための罠のようだな」
「ど、どうするつもりなんですか」
「行くに決まっているだろう。断れば勝手に異端者宣告してここまで押しかけてくるような連中だ。もちろん無策で行くつもりはないがな」


 そう言って、ダイスダーグはラムザの目をじっと見つめた。


「ラムザ。お前にも事情があるのだろう。すべてを詮索するつもりはない。だが、今回はこの兄を助けてはくれないか?」
「僕に……?」
「この前メリアドール殿が押し掛けたように、お前は教会の人間から随分と信頼されているようだからな。もちろんお前に全てを頼るわけではない。私も出来る限りの人脈を尽くして望むつもりだ」
「兄さん……」
「だがその回答を聞く前にひとつだけ打ち明けたいことがある。噂の一つである、父上とのことだ」
「……!」
「奴ら教会がどこから嗅ぎつけたのかは知らないが、私が父上を殺害し家督を得ようとしたという話は事実だ」


 淡々と打ち明けながら最後にどこか寂しそうに笑った兄に、ラムザは自分の複雑な感情を抑えるべく拳を握った。
 その話はディープダンジョンでも幻として見せられた。別の歴史で父を殺害した兄の野心はとどまることを知らず、畏国すべてを巻き込む戦争へと発展させた。その中でラーグ公でさえも殺害し、畏国を支配しようとしていることも知っていた。だからこそ、それが真実であると直接語られ、どうすればいいか分からなかった。
 だが、その打ち明けによって、ラムザは"兄は利用ではなく本心から自分を頼ろうとしている"ことを感じた。だからこそラムザは意を決し、ディープダンジョンを出た時から聞きたかったことを尋ねた。


「何故兄上は、殺すことをやめたんですか?」
「ラムザ……? そうだな、父上本人にバレてしまったから……と言うのはきっかけだ。約束したのだ、父上と」
「約束?」
「畏国を平和にし、弟や妹を幸福にすると。そして私は、平和な畏国を自ら作り、ベオルブの名を上げるために今まで手を尽くしてきた。ラーグ公をなだめ、畏国きっての農耕地であるランベリーに利をあげさせ、教会やゼルテニアにも接触をはかるためにアルマ達を利用し、そしてラムザ、お前の活躍もずっと利用してきた。実際お前はとても役に立ってくれたよ」
「兄さん……」
「その上でまた利用しようとしている私を許して欲しい。いや……私のことは許さなくてもいい。ザルバッグやアルマのため、ベオルブの名を異端者の血で穢さないために、お前の力を貸してくれ」


 椅子から立ち上がったダイスダーグは、そう言ってラムザに頭を下げた。だが、ラムザは自分がどうするか、ダイスダーグに頼まれる前から内心決意していた。


「僕でよければ、喜んで。ヴォルマルフさん達とも約束をしました。ベオルブ家と教会の間で何かがあれば、力を貸すと」
「いいのか?」
「僕は僕の正義を貫く。それが大切な人達のためになるのなら、なおさらです」
「……有難うラムザ」


 そう答えた兄の表情は、いつもの険しいものとは打って変わって、とても穏やかな様子だった。




――翌日――


「……ラムザ、お前も本当に行くのか?」
「はい。アルマには……」
「分かっている。尋ねられたら外交に行く兄上の護衛に出たとだけ答えておく」


 ベオルブ邸の入口でラムザとダイスダーグを見送ったのは、次兄であるザルバッグだった。その表情はどこか憔悴しており、先に家の門をくぐって外へ出たダイスダーグには、目で見送るだけで何も言う様子はなかった。


「ザルバッグ兄さん……」
「いつの間にかお前はオレよりもずっと強くなっていたんだな。……必ず戻って来るんだぞ」
「もちろん。いってきます、兄さん」
「ああ」


 わずかに微笑んだザルバッグを見て、ラムザは門をくぐって先に出たダイスダーグを追った。
 残されたザルバッグは、大きく息を吐いて家の中へと戻る。すると、廊下でティータが様子を伺っていたことに気付いた。


「ザルバッグ様。ダイスダーグ様とラムザ様はこんなに早くにお出かけに?」
「ああ。大事な会議があるらしい。ラムザはその護衛だ」
「ザルバッグ様……ちょっとお疲れのようですけど」
「オレにだって悩みくらいあるさ。ところでティータ。頼んでいた書類は」
「はい! もう整理できていますので、いつでもお渡しできますよ」


 そう答えたティータの笑顔はどこか幸せそうで、それを見てザルバッグは自分が少し安心したことを感じた。
 兄は昨晩、多くの事を打ち明けた。自分が教会の異端審問を受けること、それにラムザを同行させること、父とのこと――当然父のことは信じられるはずもなく「何故そんなことを!」と激昂したが、兄はそれ以上を話してくれなかった。ラムザはもっと深く知っているのだろうか、とも思ったが、ラムザも特に何かを言う様子もなく出て行ってしまった。
 昨晩兄が最後に言ったのは、「何かあった時はお前がベオルブを継いでくれ」と言う事だった。当然返事などできるはずもなく、何故教会から異端審問にかけられるのかも聞かず、兄に対する怒りや失望に任せて無言のまま部屋を後にしてしまったが、昨晩の兄に嘘偽りはなく、自分は兄のその言葉に従わざるを得ないことは痛いほどに理解していた。


「ティータ。お前はどこまでディリータのことを信じることができる?」
「……え?」
「もしもの話だ。もしも兄が知らないところで重大な罪を犯していることに気付いたら……」
「罪は償うべきだと思います。でも……私は最後まで兄さんのことを信じます。だって、血のつながった兄ですもの。きっと見放せないわ」
 
 ティータはそう言って、苦笑した。それにつられるように、ザルバッグも息をつき眉を下げた。


「……すまない。やはりオレは疲れているようだ。少しいい茶をいれてくれないか?」
「はい、喜んで」


 いつも通りの笑顔で答えたティータと共に、ザルバッグは屋敷の中へと戻って行った。




――聖ミュロンド寺院――


「よう、異端者団長。暇そうなところ悪いが、迎えにきたぜ」


 ディープダンジョンからローファル達と戻ると即座に教会から拘束されて以降、自らの部屋に軟禁される身となったヴォルマルフの元に訪れたのは、バルクだった。その手には拘束の為の鎖が握られている。
 あれ以降ほとんど情報を遮断されたヴォルマルフに、今日のことをローファルから告げられたのは昨晩だった。
 あれから自分が"病にかかった"ということになっており、本当の事を知っているのはわずかだということ。その間の団長代行をローファルが務めていること。ローファル自身も今日まで面会の許可を取れなかったこと。イズルードの怪我は完治したということ。教会は"ダイスダーグ卿が教会を陥れるためにティンジェル家を利用した"というシナリオのもとダイスダーグ本人に召喚状を送ったということ。その証人として出席しろということ――おおよそ予想していた通りの展開だった。


「……異端者の疑惑をかけられても私を団長と呼ぶのか」
「オレは神様なんて信じないんでね。アンタが団長じゃなくなった日がオレの退職日だ」
「そうか……イズルードとメリアドールはどうしている」
「二人も出席予定だが、ローファルが余計なことはするなとなんとかなだめている。安心しな、二人とも馬鹿みたいに元気だよ」
「それを聞いて安心した。行こうか」


 ヴォルマルフは立ち上がり、バルクの前に両手首を差し出した。バルクによって鎖が巻きつけられる。


「悪いな。寺院に連行するまでアンタが逃げないようにしろと言われているんでね……本当に異端者になったら、一緒にテロリストでもやろうぜ」
「そこまで堕ちてたまるか。貴様のようなクズと一緒にするな」


 冗談とも本気ともつかないバルクの言葉に、ヴォルマルフは息を吐きながら答えた。




「ラムザはミュロンドに来るのは初めてだったな」
「そうですね……」
「しばらくは様子見でいい。……頼りにしているぞ、ラムザよ」
「はい……」


 答えながら、ラムザは目の前の大きな建物を見上げた。
 ダイスダーグに言われたように、行く先々で神殿騎士団の人間とはよく相見えたが、こうして本拠地に来るのは初めてだった。
 少しして、正門から現れたのはローファルだった。


「私は神殿騎士団副団長のローファルと申します。本日は遠方よりお越しいただき、感謝いたします」
「こちらこそお招きにあずかり、光栄ですな。こちらは弟のラムザ。我が護衛のため同行を許可していただきたい」


 ダイスダーグと上辺だけの挨拶を交わしていたローファルが、ラムザと視線を合わせた。無言ではあったが、ローファルが訴えたいことは十分に承知している。ラムザもまた、無言で視線を合わせたまま静かにうなずいた。


「……許可します。どうぞ中へ」


 ローファルに連れられ、寺院の中を歩く。そして連れられた先は、大きな会議室のような場所だった。中には異端審問官らしき高僧達が見下ろすように壇上に並んでおり、その下には神殿騎士団――ヴォルマルフやメリアドール、そしてウィーグラフの姿があった。メリアドールの横にはラムザから見て同じ年頃の青年がおり、どこかヴォルマルフと雰囲気が似ている。あれがイズルードだろうか――そう思っていると、ローファルから指示が出された。


「ダイスダーグ卿は前に。ラムザ殿は私とこちらにお控えください」


 指示通り、ダイスダーグが異端審問官の前まで歩むのを見るラムザに、ローファルが小声で声をかけた。
 
「来てくれたのだな、ラムザ……分かっているかもしれないがこの会議は……」
「それはダイスダーグ兄さんも気付いています……」
「そうか……ところでアルマ嬢は」
「来ていません。やっぱりアルマを巻き込むことはできない……」


――教皇猊下の御なりである、一同控えよ――


 声が響き、張りつめた会場内の空気が一層に固くなる。ラムザも姿勢を正し壇上を見上げると、奥から年配の男性――グレパドス教の教皇、マリッジ・フューネラルⅤ世が現れた。
 短い挨拶と祈りの言葉を終え、教皇は異端審問官が並ぶ中の中心にある大きな椅子に着席した。そして一人の異端審問官が資料を片手に切り出しはじめた。


「諸君。本日は聖アジョラの名の元、お集まりいただき感謝いたします。しかし残念なことに、ここには神の名を冒涜し、己が野心のために利用しようとする不届き者がいる――それがこの男、ダイスダーグ・ベオルブである」


 ダイスダーグは異端審問官をじっと見るだけで黙り込んでいる。だが、異端審問官はそれを肯定とみなしたかのように続けた。


「罪状を述べる。この男は神殿騎士団長ヴォルマルフを利用し、そして隙をついてヴォルマルフを拉致、居合わせたイズルードに傷害を負わせた」


 場内で「なんということだ」という他の異端審問官たちのざわめきが走る。彼らはここで初めてダイスダーグの罪状を知ったなどあり得ないのだが、これが彼らの手口なのだろう。場の空気が、さもダイスダーグを悪人であると決めつけるように揺れる。
 そんな中で、罪状を読み上げた異端審問官がヴォルマルフの名を呼んだ。


「証言を許可する。この罪状はすべて真実であるな?」
「……異議があります。あの件に関してはアルマ殿も被害者であり、犯人は殺害し、解決しているはずです。私はそう何度も申し上げている」


 肯定しろと言わんばかりの空気の中、ヴォルマルフは"否定"をする発言をした。しかしそんなヴォルマルフに対して、異端審問官は嘲笑するかのような笑みを浮かべた。


「ヴォルマルフ殿。そなたは未だ騙されておるのだ。ダイスダーグはアルマ殿をも騙し、一連の事件を裏で演出した黒幕、いわば悪魔である」
「その通り。貴方は息子を想う気持ちにつけこまれ、未だに目を覚ましていらっしゃらない様子。神聖たる騎士団長として、これ以上悪魔に魂を渡してはなりません。発言を撤回なさい」


 異端審問官達の発言に、ヴォルマルフは沈黙し唇を噛んだ。ヴォルマルフは一応"証言者"としてここに呼ばれてはいるが、その発言力はないに等しいのだろう。まるでヴォルマルフが異端審問官の発言を肯定したかのように、話が進む。
 その様子を、ダイスダーグはただじっと眺めていた。


「ヴォルマルフ殿だけではない。この男、ダイスダーグは畏国を我が物とするため、多くの策謀を練り、各地の貴族諸侯を騙そうとした」
「ガリオンヌのラーグ公に取り入るだけであれば普通の貴族の行いと言えようが、ゼルテニアのグリムス男爵、ランベリーのエルムドア侯爵。彼らを巧みな話術で騙し、必要であれば家族をも売り、味方につけることで東の領土も手中に収めようとしたことは明白である」
「……そんなものか」


 おおよそ言い終えたように満足げな異端審問官の様子に、ダイスダーグは鼻で笑いながら静かに言った。


(兄さん……!)


 ローファルの横に立ったままラムザは息を飲んだ。確かに教会の言っていることは滅茶苦茶だが、この兄はいきなり喧嘩を売ろうとしている――ヴォルマルフ達神殿騎士団や異端審問官、教皇らもダイスダーグのその一言に注目した。


「そんなもの、だと?」
「異端審問とはどういうものかと期待してみたが、この程度の容疑で私を異端者に仕立て上げようとするとは片腹痛い。神殿騎士団長一人すら言い含めることも、他の騙されたとされる被害者をこの場に召集することも出来ないとは、教会の権限とはその程度か。侯爵殿に至ってはそちらの仲間だろうに」
「……貴様、教皇猊下の御前なるぞ!」
「悪いが私は我が弟ほど敬虔ではないのでね。ところで教皇猊下。ここで私を異端者にして、その後貴方は一体何を為そうと言うのです?」


 ダイスダーグは、ずっと椅子に座り静かに構えたままの教皇に対して問いかけた。


「猊下を愚弄する気か!」
「質問しただけでしょう。それに私は猊下に尋ねているのです。教会の象徴たる教皇猊下をお目にかかれるなど、滅多にないことですからな」


 しかし教皇は特に反応しない。ヴォルマルフの言葉が真実だとすると、ダイスダーグを殺害しようとした黒幕はこの教皇本人のはずだ。そのことをラムザはダイスダーグには話していないが、おおよそ察しているのかもしれない。


「まあ、沈黙もいいでしょう。ですがこれは異端審問会。裁判ならば当然、私にも弁明の機会はございますな?」
「……発言を許可しましょう」


 ようやく教皇が重い口を開いたダイスダーグは小さく息を吐いて続けた。


「私の無実を証明するため、ある方から書状を預かっております。どなたか読み上げていただけませぬか?」
「いいでしょう。ローファル殿」
「……は」


 ローファルがダイスダーグに近づき、書状を受け取る。丁寧に開封し、ローファルは無表情のまま読み上げた。


「この度は異端審問会に直参することができず残念に思います。我がランベリー領は、ダイスダーグ殿の進言により徐々に平和と豊穣を取り戻し、戦中に敵国から奪還してくれたことも含めて感謝の言葉も尽きません。彼の容疑に対しては知らない部分も多くありますが、少しでも神の温情による祝福がありますようお願い申し上げます……ランベリー領侯爵、メスドラーマ・エルムドア」


 兄の言う"人脈"の一つだろう、この場にいないエルムドア侯爵による書状に、場の空気が揺れるのをラムザは感じた。
 だがローファルは、あくまで事務的な表情を崩さず異端審問官達に告げた。


「血判の押された書状と共に、エルムドア家の家紋が刻まれた宝玉も添えられております。偽物である可能性も否定はできませんが、後日ご本人に確認すれば良いかと」


 ローファルの言葉に、審問官達が動揺の表情を見せる。対するダイスダーグは無言で口の端をわずかに上げたのがラムザには分かった。そんなダイスダーグが、彼らの動揺の声にさらに割って入るかのように言葉を切り出した。


「ところで侯爵殿は教会が認める異端審問官の一人でいらっしゃいましたな? 貴公らは侯爵殿のことを騙された被害者のようにおっしゃっているが、"証人"として本人を召集できないどころか、こちらに嘆願する書状を送っているとはどういうことでしょう」
「……何が言いたい」
「先程も申し上げたでしょう。当人らが誰も私に騙されたと発言できないどころか逆の証言をするこの現状で、私を悪人として裁こうなど教会の権威も地に落ちたものですな」
「貴様……神の御前ぞ!」


 異端審問官の一人が激高するのを見て、ダイスダーグが笑う。ラムザは割って入りたい衝動に駆られるのをこらえながら、拳を強く握った。


(兄さん一体何を考えて……このままじゃ本当に異端者に……でも、そういえば)


 ふと、今までの話の中に"ダイスダーグが父バルバネスを殺害しようとした"ということが語られていないことにラムザは気づいた。ダイスダーグがこの召集に応じたのは、この決定的な噂があったからであり、ダイスダーグを悪人にしたい教会にとってはこれ以上にない話題のはずだ。教会はこの噂話を流していないどころか知らないのだろうか――そんなことを考えていると、いつの間にかラムザの横に戻っていたローファルが、ラムザの肩に手を置いた。


「審問官様方、少し私に発言の許可を頂いても」
「いち神殿騎士団の発言は許可していない」
「いえ、構いません」


 却下しようとした審問官に対して、教皇が自ら腰かけたままローファルの発言を許可した。教皇に頭を下げたローファルが話を切り出す。


「ダイスダーグ卿の悪行については私からは何もありません。ですが、我々神殿騎士団は、この青年――ラムザ・ベオルブに大恩があります。ヴォルマルフ団長が戻ってこられたのも、彼が危険を顧みず同行してくれたからだと聞いています」
「それは本当のことよ!」


 ローファルの発言に重ねる形で声を張り上げたのはメリアドールだった。今までずっと沈黙を続けてきた彼女だったが、彼女もまたラムザと同じく"すべての真相"を知っているのだ。ずっと堪えてきたのがあふれ出すように、メリアドールはまくし立てた。


「ラムザは無条件で私の頼みを聞いてくれました。そして私や父を救うために、その身を捧げてくれたんです。それだけじゃない……私がバリンテン大公との交渉に成功したのも、彼がいてくれたからです。彼はベオルブの名を名乗らず、会ったばかりの女の子を助けるために協力してくれました」


 しかし、そんなメリアドールに対して、教皇は手を掲げて制するだけだった。その反応を見た異端審問官がメリアドールに言った。


「メリアドール殿、控えなさい。そなたの発言は許可していない」
「……す、すみません」


 ローファルは呆れたように息を吐いたが、すぐに再度異端審問官にメリアドールの訴えを補足する形で話を続けた。


「しかし彼女の話は真実です。彼はダイスダーグ卿の弟君でありますが、彼の行動によって我々は救われています。ライオネルのブレモンダ司祭による不祥事の件も、彼がウィーグラフと共に解決したと報告されています……」
「それこそダイスダーグによる陰謀だ。若い弟君をけしかけ、我々に恩を売ったのではないか?」
「馬鹿を言わないで! 彼が私達のためにどれだけ危険な目にあったと思っているのよ!」
「……メリアドール」


 ローファルに反論した異端審問官に感情的になったメリアドールだったが、今度は近くにいるヴォルマルフによって制される。口元を強く結び拳を握るのを見て、見かねたウィーグラフが一歩前に出た。


「私にも発言の許可を。ローファル様の発言について、当事者である私からも補足させていただきたいのですが」
「……いいだろう」
「ブレモンダ司祭の一件にラムザが関わったことは事実です。私が彼に直接協力を申し入れました。彼は被害者であるベイオウーフ殿を救うため、異端者になる危険を顧みず私の提案に乗ってくれました。メリアドール殿の言うように、打算があったとすれば伴うリスクが多すぎることです。これはライオネルのドラクロワ枢機卿もご存知ですから、私の発言に疑いがあるなら確認をとっていただいて構いません」


 ウィーグラフの視線は、射抜くように鋭く教皇や異端審問官達に向いている。沈黙するこの場で、ウィーグラフは続けた。


「そしてその件は未だ教会内から外に出ていないのは周知の事実でしょう。貴方がたの言うようにこれがダイスダーグ卿による陰謀であったとすれば、教会を陥れるためにその不祥事を明るみに出すはず。それをしなかったと言う事は、ラムザが家族にすら話さなかったか、もしくはダイスダーグ卿にその気がなかったか……違いますか」
「ラムザ殿。発言を許可します。ウィーグラフの話は事実ですか」


 異端審問官ではなく、教皇本人がラムザに対して急に話を振った。少し驚いたように顔を上げたラムザだったが、まっすぐ教皇に視線をあわせて口を開いた。


「……はい。僕はブレモンダ司祭との件も、メリアドールが言っていることも、僕は兄と関係なく個人的に協力しました。一部の話は兄も未だに知らないことだと思います」


 ブレモンダ司祭と争った件や先日のエリディプスによって起きた出来事の大半を、ラムザは兄に話したことがなかった。具体的に教会と争ったと知れば、アルマの縁談がなくなってしまうかもしれないと思ったからだ。
 しかしそれでも言わなければならないことがある――ラムザは、意を決して今思っていることを教皇だけでなく、この場の全員に対して告げた。
 
「教皇様……それにみなさん。あの……僕なんかが偉そうなことを言うのはおかしいって分かっているんですけど……兄を疑う気持ちも分かるんですけど。でももう誰の陰謀だとか、恩を売ったとか、利用したとか……そういうことは、もうやめませんか?」


 こんな大勢の前で話すのは初めてで、ラムザは自分の声や身体が緊張で震えているのを感じてはいたが、それでも自分に注目する場全体に対して、訴えを続けた。


「僕達は剣を捨てて話し合うこともできるはずです。裏で何があっても、手を取り合って協力することだってできます。兄がどう考えていたとしても、兄の行いによって畏国が平和になると僕は信じています。そしてヴォルマルフさん達なら、妹アルマを幸せにしてくれるとも」
「私からもお願いします、猊下!」


 ラムザに助け舟を出す形で声をあげたのは、ウィーグラフだった。


「身分や立場の違いを超えて、私とラムザは共に戦うことができました。我々にはできるはずです。例えどんな陰謀があろうと、我々は共に抗う力を持っているはずだ!」


 二人の主張に同意するかのように、メリアドールらラムザを知る神殿騎士団の面々が教皇達に無言だったが強い視線を投げかける。それによって場の空気が変わり、異端審問官たちは互いの顔を見合わせはじめた。
 教皇は特に何か言うでもなく、まっすぐラムザと目を合わせたままだ。何かを見抜こうとする視線をラムザは感じていたが、それでもラムザは視線を外さなかった。


 そして――


「失礼する!」


 この状況を一気に変えるかのような強い声が響いた。
 同時に重い扉が開き、何事かと一同が入口に注目する。そこにいた人間を見て、ラムザは思わず声を上げた。


「でぃ、ディリータ!? それにアルマ!」


 扉をあけたのは、ベオルブ邸で別れてから久しく会っていないディリータだった。しかも隣には、ベオルブ邸に残っているはずの妹アルマがいた。
 会ってはいなかったが、ディリータは確か教会に行ったはずだ。そして兄ザルバッグから、どうやらゼルテニアにいるらしいということも聞いていた。
 ディリータが教会の人間ならばミュロンドにいること自体は納得できるが、まさかここに乗り込んできて、しかもその威風堂々とした雰囲気やアルマを連れていることなど、疑問だらけだ。
 そしてそれは教会にとっても同じ事だったようで、異端審問官のひとりが声を上げた。


「貴様はハイラル! 誰かが召集の命令を下したのか?」
「神聖なる審問会への突然の乱入、大罪にあたることは重々に承知しております。ですが私は、重大なものをオヴェリア王女殿下よりお預かりしております……教皇猊下への謁見を許可いただきたい!」
「オヴェリア王女……だと?」


 ディリータが出した名前に、会場が今まで以上の動揺に包まれた。ラムザも驚きのあまりに、この状況でも堂々とした表情で教皇を見上げるディリータにかける言葉も見つからなかった。そしてこの空気をおさめるかのように、教皇が静かに立ち上がった。


「一同ご静粛に。ディリータ・ハイラルよ。貴方はかつてベオルブ家にて育てられたと聞いております。もしもこれがベオルブ家のための出まかせであったならば、王女の名を汚し、神聖なる場所を混乱させた罪を被っていただかなければならない……それは分かっておりますね」
「猊下。私はすでにベオルブから出奔し、グレパドス教会に身を捧げております。王女とは一度、護衛の任につき会ったことがあるのです。王女は猊下に、教会と畏国の未来のためにどうしても伝えたいことがあると、私にこの書を預けました。もしもこれに偽りがあると断定されるのであれば、私は潔くこの場で裁きを受ける覚悟でございます」
「……いいでしょう。こちらに」
「はっ……」


 ディリータは前に出た教皇の前に跪き、手に持った書状を掲げるようにして差し出した。共に小さな箱を差し出し、それは教皇の横にいる異端審問官が受け取る。丁寧なしぐさで受け取った教皇は、その場で巻かれた紐を解き、書状を広げる。


「ベルベニア製の紙にルザリアの紋と血判。たしかにこれは正式な勅書の書式ですね……添えられているのはヴァルゴか」


 異端審問官が開けた箱の中に視線を移した教皇の言葉を聞き、ラムザはなぜアルマがここに来たのかを察した。ヴァルゴはそもそもオヴェリアの王女の証にとオーボンヌ修道院に贈られたものだと言うが、先日の件でヴァルゴは、聖天使に一時的に乗っ取られたアルマが持ち出したままだった。
 ディリータが何らかの方法でアルマがヴァルゴを持っていると知ったのか、それともアルマがディリータの行動を知って接触したのかは分からないが、ディリータが教会へ行こうとしていることを知ったアルマが「自分も連れて行って欲しい」と言うのは想像がつく。


(とは言え……分からないことばかりだ。どうすれば)


 考えてみるが、ディリータの立場や思考が全く分からない以上、この事態を見守るしかない――ラムザはそう思った。少しだけ視線を向けると、兄ダイスダーグもこの事態をただ静観する構えのようで、じっと視線をディリータと教皇に向けるだけで特に何か言う気配はない。


(アルマはディリータを信じてここに来ているはずだ。僕もディリータのことは信じたいけど……)


 ラムザがそう考えている間に、教皇は書状を読み終えたのか、ゆっくりと息を吐いた。そして口元を少しだけ緩め、書状を両手で広げたまま、ダイスダーグに視線を向けた。


「ダイスダーグ殿。どうやら我々の"負け"のようですね。我々はもう、貴方を裁くことができない」
「唐突ですな。何が書かれていたのです?」
「この件は異端審問会におさまるべき案件にあらず。罪があるとするならば、王女の名において国が裁くと……そう書いていますが、要はこの審問会の保留を訴える書状だ」
「……オヴェリア王女が私を?」


 さすがのダイスダーグにも心当たりがなく、眉間に皺を寄せ、そして教皇やディリータなどに視線を移した後、ラムザと目を合わせ小さく息をついた。


「教皇猊下。お願いします……教会が兄を疑う気持ちはわかります。ですがどうか、僕達に時間をください。僕たちが目指す世界は、きっと同じだと思います」
「私からもお願いします!」


 ラムザが再度懇願したのに乗じて、アルマが入口からラムザの横まで歩み、手を組んだ。


「私はイズルードを愛しているのです。例え兄や教会が仕組んだ婚約でそれが破談になったからって、私はイズルードともう離れたくありません!」
「アルマ……」
「猊下。私もアルマの言葉に同意させてください」


 メリアドールの横で静観していたイズルードが、飛び込むようにアルマの横に駆け出した。
 横にいるアルマの手を強く握ったイズルードは、教皇に対してアルマの訴えを重ねた。


「私も教会、畏国を超えて、アルマ・ベオルブを愛しています。この先例えベオルブが仇なそうと、私はアルマを愛し抜きます。賜ったパイシーズに誓います……ですからどうか!」
「イズルード……」


 イズルードとアルマの視線が合う。長い緊張で重い空気に支配された空間でも二人の顔は穏やかで、ラムザはこの二人が確かに愛し合っているのだと感じた。
 それはヴォルマルフも同じだったようで、静かに二人の前に歩み寄ったヴォルマルフは、教皇と異端審問官に対して跪いた。


「猊下。罰なら全て私が……息子たちに罪はありません」
「父上……」
「私の事はいかようにしていただいて構いません。ですがどうか、イズルード達のことをこれ以上踏みにじらないで下さい」
「ヴォルマルフ……顔を上げなさい」


 切実なヴォルマルフの訴えに、教皇は穏やかな口調で答えた。ヴォルマルフが顔を上げると、教皇は目を細めた。


「覚えていますか。貴方が聖職者の身でありながら、結婚し家庭を築きたいとこのミュロンドで神に願った日を。貴方は賜ったレオに誓って、全てが敵になろうと、異端の烙印を押されようと、彼女を愛し抜くと告げた……あの時は私も枢機卿の一人にすぎませんでしたが、血は争えませんね」
「猊下……?」
「今までの諸々のこと、お詫びしましょう。今をもって貴方の謹慎処分を解きます。許して欲しいと言える立場ではないかもしれませんが」
「……私の事は構いません。イズルードの幸福を共に願っていただけるのであれば」
「さて、ダイスダーグ殿」


 教皇が再びダイスダーグに向き直り、続けた。


「先ほども申したように、我々はもう貴方を裁くことができない。貴方の全ての疑惑について、我々は王家に預け、貴方に謝罪いたします」
「……猊下!」


 事実上の敗北宣言にあたる"謝罪"という言葉に、異端審問官の一人が慌てた声を出した。そしてそれにまるで同意するかの如く、ダイスダーグが苦笑しながら尋ねた。


「本当にそれでよろしいので?」
「ええ。私個人としては変わらず貴方を疑い、畏国の為にならぬと疎ましく思う気持ちもありますが……貴方の弟君と妹君の言葉に、私は聖アジョラが目指した真の平和への可能性を見ました」
「そうですか……まあ、私を疑う気持ちは十分に理解しております。確かに私は、畏国を平和にすることで名を上げようとしたと言えましょう。ですが猊下……人間とはそのようなものだと思いませんか?」
「ベオルブの人間がそのようなことをおっしゃるのですか」


 教皇の問いに、ダイスダーグは「そうでしょう?」と笑みをこぼした。


「ほとんどの人間は、自分と自分の大切な身内と組織が可愛いもの。そのためなら周りの犠牲は見ぬ振りが出来る。何の打算もなく、ただ目の前の困っている人を救いたいなど……そのような正義の行いなど、私にはできませんな」


 そう言ったダイスダーグの視線が、ラムザに向いた。


「私も丸くなってしまったようだ。最初は貴方がたの言うように、全てを利用し騙してでもこの畏国の中核に立とうと思っていたのに……今では私が死ぬ事で平和になるのなら、このまま異端者として処刑されてもいいとすら思っている自分がいる。真の正義とは恐ろしいものですな」
「……これにて異端審問会を閉会いたします」


 ダイスダーグの言葉には特に返さないまま、教皇は静かに閉会を告げた。
 それに応じる形で、ローファルがダイスダーグに近づき、退場を促す。ダイスダーグが踵を返し、ローファルと共に外へと歩き出したのを見て、ラムザはダイスダーグの後ろについて共に退場した。

 


 

(3)



「帰りの船は手配しております……長い会議、ご苦労様です」


 外に出て少し歩いたところで、ローファルが口を開いた。


「あ、あの……アルマがまだ中に……」
「アルマ嬢のことは、我々が責任をもってお返しいたします……せっかく劇的に結婚が認められたのだ。彼女にも少し時間を差し上げては?」
「そ、そんなつもりじゃ……!」
「……冗談だ。期待以上の度胸と素直さ。おかげで切り札を使うこともなくヴォルマルフ様を救うことが出来た。感謝する」


 薄く笑ったローファルを見て、ラムザは息を吐いた。どうもこのローファルという男は、ゴルランドで対峙した時から今一つ掴みきれない。


「切り札?」
「心当たりがないのか? ダイスダーグ卿にとって、もっとも明るみに出したくない噂がガリオンヌで流れていただろう?」
「……何だと? どういう事だ」


 ローファルの発言に、今度はダイスダーグが返答した。それにこたえる形で、ローファルが懐から小さな袋を出した。中には何やら粉末のようなものが入っている。


「これはモスフングスの粉末。ご存じで?」
「……」
「この毒は大量に飲まない限り、命を失うことはありません。しかし、微量といえども長期間に渡って服用を続けると中毒死することがある……」
「ほう?」
「中毒死といっても風邪に似たような症状を起こすだけのため、本人の自覚症状は極めて薄く、気付いたときには手遅れになっている場合がほとんどです。確か貴方のお父上は、数年前に風邪をこじらせて床に臥せっておりましたね。一命を取り留めて何よりですが」
「……何が言いたい?」


 眉間に皺を寄せたダイスダーグに対して、ローファルは口元を上げた。


「ダイスダーグ卿は『毒』についても詳しい知識をお持ちと聞きます……これはベオルブ邸の近くに自生していたものをこちらで粉末にしたのですが、恐らくモンスターか何かに試したのではないですか。モスフングスの毒に侵された死体の傍には、モスフングスそのものが生えてくるそうですね……ご存じでしたかな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 ローファルの意図をようやく理解したラムザが慌てて間に入った。


「もしかして貴方は……!」
「安心しろ。この話が広まろうとすれば、ダイスダーグ卿は教会の召集に応じるだろうと思っていた。ラムザが来ることも計算通り。まあ、いざとなったらこれを使ってヴォルマルフ様だけでも疑いを晴らすつもりでいたが」
「そ、そうじゃなくて。なんで貴方がそんなことを知って……」
「私もいささか毒物には知識があるので……サンプルのほうは、以前メリアドールがベオルブ邸に押し掛けた混乱に乗じて、我が親友が」
「クレティアンか! いつの間に!」


 クレティアンとはベオルブ邸の外でメリアドールを介して会った記憶があるが、メリアドールが一人で乗り込んでいる間にまさかそんなことを――ラムザは抗議しようとしたが、隣のダイスダーグは「ふん」と鼻で笑い、口の端を上げてローファルに感嘆の言葉を継げた。


「それは手ごわいな。お人好しの脳筋ばかりかと思いきや、神殿騎士も侮れん……早々に味方につけようと考えたのは間違いではなかったようだ」
「我々としても、イズルードが可愛いものですから。貴方が今後も"その気"を起こさなければ、これはこのまま明るみに出さないと約束いたしましょう」
「ふっ……アルマを泣かせるようなことをするつもりならば、先に貴様らを地獄の底に叩き落とすまでのことだ」
「くくく……」
「ふふふふふ……」
「いい加減にしてくださいッ!」


 互いの顔を見合わせて笑うローファルとダイスダーグに挟まれる形になり、ラムザは声を張り上げた。


「安心するがいいラムザ。この男はとにかく、我々神殿騎士団はお前を信頼している。感謝する気持ちにも偽りはない」
「……本当かなぁ」
「言っただろう、イズルードが可愛いと。ここから先我々とベオルブが争うなど、イズルードとアルマ嬢が可哀想だ……ですよねえ、ダイスダーグ卿」
「同意だ。この男のことはいけ好かないが、我々のつまらぬ政治の争いごとに若い両人を巻き込むつもりなどナンセンスだ。……これでいいか、ラムザよ」


 仲良くする気配はないが同じようなことを言っている二人の言葉を聞いて、ラムザは一気に今までの疲れが押し寄せてきたのを感じ、大きく息を吐いた。


「でもこんな汚い手はこれっきりにして欲しい。心臓に悪いよ……」


 ラムザの正直な感想に、ローファルとダイスダーグは互いの顔を見合わせて笑っていた。






「おーい! ラムザ!!!!!」


 帰りの船でローファルに見送られながら船に乗ろうとしていると、遠くから声が聞こえてラムザは顔を上げ、足を止めた。
 振り向くと、その先にはチョコボを飛ばして手をあげているディリータの姿があった。


「ディリータ!」
「悪いな、思っていたよりも抜け出すのに時間がかかった! 驚いた……よな」


 そう言ってチョコボから飛び降り苦笑したディリータに、ラムザは「当たり前だ!」と答えて、審問会の時に聞きたかったことを尋ねようとした。


「ディリータ、君は一体何をして……」
「ゼルテニアで待っている。一人で来てくれたらそこで全部話す」
「……どういうことだ?」
「ほとんどの人間は、ひとつの大きな流れの中にいることに気付いていない……そう、気付いていないんだ」
「大きな流れ?」
「お前にも自覚はないか。お前はオレと同じ人間だと思っていたが……いや、自覚がないだけでお前は間違いなくこっち側の人間のはずだ」


 ラムザは目を丸くさせるだけでディリータに何を聞くべきか迷っていたが、ディリータは自分の中で何かを解決させたかのように「まあいいか」と呟き、ラムザの肩に手を置いた。


「頼む、ラムザ。オレのところに来てくれ。お前となら、あいつを笑顔にすることができるかもしれない……救いたいんだ」
「あいつ? もしかしてオヴェ」
「しっ……お前以外にはあまり知られたくない」


 ラムザの後ろには、少し離れたところでダイスダーグとローファルが待っている。ラムザは腑に落ちないことを多く抱えてはいたが、ディリータに対して微笑んだ。


「分かったよ。必ず行く……」
「ありがとう、ラムザ」
「あとディリータ」


 ラムザは右手を差し出した。ディリータがそれに応じる形で自分の右手で差し出された手を取る。


「また会えて、嬉しいよ」
「……ベオルブ邸に寄った時、ティータにも会ったよ」
「ティータと?」
「あいつもオレがいない間に強くなっちまって。アルマも利用したとはいえ、あの状況であんな派手に愛の告白なんて……兄としては少し寂しいよな」
「……そうだね」


 王女の書状を持ってきた時は、ディリータは一体何になってしまったのかと思っていたが、握っている手の温かさや、微笑んだ顔は、別れたあの日と変わっていない――ラムザはそう思った。


「じゃあ、僕は行くよ。また会おう」


 手を離したラムザがダイスダーグ達の元に向かうのを見送り、ディリータはチョコボに乗りなおしてその場から静かに去った。





――ベオルブ邸――


「良かった。無事に戻ってきたようだな」
「父上!」


 戻るとラムザとダイスダーグを出迎えてくれたのは、ザルバッグに支えられる形で玄関まで歩いてきた父バルバネスだった。


「寝ていなくて大丈夫なんですか?」
「毎日寝ていては身体もなまってしまうだろう? たまには無理をしてでも出歩くくらいはしなければな」


 無理、という言葉を聞いて、ラムザはダイスダーグに視線を移した。今父がこうやって無理をしないと歩けないほど弱っているのは、ミュロンドに行く前に告発されたようにダイスダーグによるものなのだろうか――だが、ダイスダーグはというと、穏やかな顔で出迎えた父に微笑んだ。


「父上。私の"悪事"はもうすでに一部の者には知られてしまいました。こんな体たらくで、私は果たして畏国を平和にすることができるのでしょうか」
「私は今でもそれを信じている……お前自身はどう思っているのだ?」
「何故やめたのか――ある人間に、そう尋ねられました。その人間は、私の罪を知った上で私を信じてくれたのです。それを聞き、罪を消すことはできないが、私は償い続けることができるのだと……そう思いました」


 ダイスダーグの返答に、バルバネスは「そうか」と穏やかに笑い、そして再びラムザに視線を向けた。


「ラムザよ。疲れただろう? アルマが戻って来たら起こしてやるから、それまではゆっくり休むといい」
「父上……分かりました」


 優しい言葉で労う父バルバネスに、ラムザは素直に応じた。


(兄のしようとしたことは許せないけど……それでも僕達は手を取り合って未来に進むことができるはずだ)


 何よりもバルバネス本人がそれを許しているのだから――ラムザは中に入り、自室への階段を上がっていった。

 

 

~To be next story~

 

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あとがき

中編です。だいたいのことが解決する話です。政治的な話難しくて文字数の割にやっぱり時間がかかりました。一応ダイスダーグはちょっとずつ綺麗になってるというか、ラムザに影響受けてる感じにしているつもり……です。
あとは後編を書いて、エピローグあげれば完結です!

2018年8月14日 pixiv投稿

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