IF FFT ~もしも獅子戦争がなかったら~

-第2章 中編-

 

(1)

 

――炭鉱都市ゴルランド――



「ありがとう、助かったよ」


 ラムザはガフガリオンと共にゴルランドへ来ていた。
 炭鉱の奥深くで不思議な現象が相次いでいる――その調査の依頼書を、ドーターの酒場で見かけたからだ。
 そしてゴルランドに到着するやガフガリオンは一杯飲んでからだと酒場に直行し、ラムザは先に装備を整えておこうと店に向かったのだが、そこでラムザは偶然、ガラの悪い男たちに襲われている男性を見かけ、それを助けていた。
 男性は学者風の出で立ちをしており、身なりからもそれなりの身分にある者だと分かった。
 占星術という変わった術の使い手でもあるらしく、彼は開いていた大きな辞書を閉じながら、屈託ない笑顔でラムザに礼を述べた。


「一体何があったんですか?」
「僕もただの通りすがりさ。近道をしようとしたら、まさかそこに盗賊の住処があるなんて。ついてなかった」
「まだ治安が悪いところは多いから……気を付けないと」
「ああまったく。ところで君は見た感じ傭兵のようだな……悪いが持ち合わせがないんだ」


 申し訳なさそうに苦笑した男に、ラムザは首を横に振った。


「僕が勝手に首を突っ込んだだけですから」
「だがそれでは僕の気が済まないな。ああそうだ、代わりと言ってはなんだが、ゼルテニアに行くことがあれば僕の名前を出してくれていい。僕の名前はオーラン。きっと役に立つはずだ。で、君の名前は?」
「ラムザです」
「ラムザか。覚えておくよ」


 そう言ってオーランはにこやかにラムザの手を取り、再度礼を述べた。


「さて、はやくルザリアへ行かないと……悪いなラムザ。また会おう」
「気を付けて、オーラン」


 オーランが去っていくのを見守りながら、そういえばルザリアで大きな会議が行われる――そんな話を兄ザルバッグがしていたことを思い出した。
 なんでも畏国中の王家に仕える領主がルザリアに集結し、今後の畏国のあり方について話し合いをするらしい。ベオルブ家でも当主であるダイスダーグはラーグ公の側近として参加し、ザルバッグもまた、騎士団団長という立場にあるため護衛として今頃ルザリアにいるはずだ。
 ならばオーランも、当事者ではないにせよザルバッグのようにどこかの有力者の関係者なのかもしれない。ゼルテニアと言えばゴルターナ公の膝元、南天騎士団を擁する場所であり、そこで自分の名前を出せばいいというのなら、きっと彼は南天騎士団の要職にあるのだろう。


(そうだ、ゼルテニアと言えば……)


 教会へ行くと言っていた親友であるディリータは、ティータの話によると今ゼルテニアにいるらしい。
 詳しいことはティータも知らないようだったが、きっとディリータのことだ。自分の目的をもって、何かを成し遂げようとしているのだろう。ラムザはそう思った。


(元気かなディリータ。久しぶりに会いたいよ)


 視界からオーランの姿が見えなくなり、ラムザは雪の降る空を見上げながら、親友に心の中で呼びかけた。

 


 

(2)


――王都ルザリア 宮殿内――



「オムドリア王が亡くなっていたとは……」
「すぐに国葬の準備を整えねば」
「しかし何故王妃は我々にそれを隠したのだ? やはり王妃はこれを機に独裁政治を強めようとしているのではないか」
「それはないでしょう」


 豪華な宮殿の一室にあたる広い会議室では、かれこれ半日にわたって話し合いが続いていた。
 話題が王妃ルーヴェリアの批判へと変わった時、ガリオンヌの領主――白獅子と呼ばれる男、ラーグ公が立ち上がった。


「王妃殿下は病床の国王に代わり、民衆に不安を与えぬよう政治を執り行っていただけのこと。妃とは言え遠戚にすぎぬ王妃殿下にそのような意思などあるはずがない」
「確かに王妃ご自身はそうかもしれんな?」


 ラーグ公の発言に席を立ったのは、ゼルテニアの領主――黒獅子と呼ばれるゴルターナ公だった。


「私とて王妃殿下の執政に異を唱えるつもりはない。だが、王家の一員でもないのに、まるで摂政のように王妃に直接口添えする輩がいるそうな……そういえばラーグ閣下は王妃殿の兄君でいらっしゃいましたな?」
「何を言いたいのですかなゴルターナ閣下。ところで、王都より遠く離れていることをいいことに、畏国の宿敵とも言える鴎国と裏で貿易をしているのを黙認する不届きな領主がいるそうだな。それは王家への重大な反逆ではないのか」
「双方、一時発言をお控えなさい。我々がここにそろっているのは、次期国王の座を決めるため。つまらぬ小競り合いをしている場合ではございませんよ」


 火花を散らす両獅子に、この会議の議長を務めるドラクロワ枢機卿が割って入った。
 今回の会議の議長は元々フォボハムの領主であり王家の分家であるバリンテン大公が行う予定だったが、直前になって大公は、ルザリアへの上洛を断っていた。これは同時に大公が王位継承権を破棄したとも言え、会議が始まる前より各領主達には動揺が広がっていた。
 結局王位継承に関して中立の立場を持ちながら信頼あるグレパドス教会の者として、ライオネル領を統轄するドラクロワ枢機卿がこの場に出席し、会議を円滑に行う議長に就任することになったのだ。


「大公殿下とその一族が継承を破棄した以上、継承権を持つ者はオリナス王子とオヴェリア王女のみ。本来であれば男子たる王子殿下が継ぐことが正しいと言えますが、2歳になったばかりの王子殿下がそれにふさわしいのか……対してオヴェリア王女は年齢的に時世を理解しているでしょうが、妾の子で修道院暮らしの長い王女殿下が本来ある継承順を無視して良いものか……それが争点で間違いないですね?」


 ドラクロワ枢機卿の言葉に、領主達は沈黙した。この両者のどちらかが次期国王の座につくことは、元国王オムドリアⅢ世が亡くなったと知った時から、いや国王が病床の時からすでに分かりきったことだった。王子も王女も政治を執り行うにはあまりにも世の中を知らず、バリンテン大公がそこに関わらない以上、なおさらどちらかを王につけ、後見人をつけるしか方法はなかった。


「争点も何も。正当な王妃のもと生まれたのはオリナス王子ただ一人。確かに王子はまだ幼子でいらっしゃいますが、王妃がご健在で今も政治を執り行っているのですから、何の問題もありますまい」
「しかしこのままでは王妃殿下とそこに群がる者どもの独裁状態となるでしょうな。現時点の情勢からして、畏国は新しい風を求めているのは明白。それにオヴェリア王女もルザリアへ戻られてから一年以上が過ぎ、この世のことも十分に理解されるだけの聡明さもお持ちだ。畏国のためを思うなら、物心もつかぬ王子に王位を押し付けるのではなく、自らお動きになれる王女を王位につけるべきではないか?」


 両獅子が再び火花を散らした。
 ラーグ公にとっては自分の妹であるルーヴェリア王妃の息子であるオリナス王子を王にしたいのは当然のことであり、ラーグ公に権力を握らせたくないゴルターナ公としては、オリナス王子でない者、つまりオヴェリア王女を擁立したいのもまた当然だった。
 
「ところでゴルターナ閣下。閣下が言うには、オヴェリア王女は閣下の遠戚にあたる女性の子であるとのことですが……それは本当のことですかな?」
「どういうことかね?」
「噂によると、閣下とその身内の者以外はオヴェリア王女殿下の母君の顔すら知らぬそうではないですか。いくら妾の子とは言え、それはいささかおかしくありませんかな?」
「まるで王女が王家の血を引いていないとでも言いたげだな……それは王女殿下、ひいては王家に対する侮辱であるとお心得か?」
「まさか。ですが閣下、その噂が本当のことならば……王家と何の由縁もない者を王の座につけた反逆の罪をこうむるのはどなたでしょう。それに、そのような噂が民衆に広まれば王家への忠誠が失われてしまう。そこは慎重に越したことはないはず」


 ラーグ公の言葉に、ゴルターナ公は机を両手で強く叩いた。


「ラーグ閣下はよほどオリナス王子を王位につけ、王妃殿下と共に畏国を独裁したいようですな!」
「ゴルターナ閣下こそお見苦しい! 王家に近づき地位を向上させたい野心がだだ見えですぞ!」
「……お待ちください両閣下殿!」


 まるで戦場のごとく一触即発な状況に他の領主達も冷や汗をながず中、一人の声が通り会議室は静まり返った。
 自分が再び止めねばと察した枢機卿は、その声の主――ベオルブ家当主にしてラーグ公の側近であるダイスダーグに視線を移した。
 満場一致でラーグ公に有利な発言をすると思われるこの男が次に何を言うのか――会議室にいる全員の視線が集まる。
 しかしその状況にもかかわらず、ダイスダーグは穏やかな顔をしており口元に笑みを浮かべた。


「両閣下殿の主張は双方間違いないと思いますが、今日はこのあたりで閉会といたしませんか?」
「な、何を言うダイスダーグ」


 まさかの閉会の提案に室内がざわめき、すぐ隣のラーグ公も狼狽を隠せず尋ねた。


「閉鎖的な空間で同じ議論が朝からずっとめぐっている……これでは各領主殿も冷静な判断ができますまい。ここは一度閉会し一晩各々意見を整理したほうが、後の建設的な話に繋がると思いますが」
「しかし……明日はルーヴェリア王妃とオヴェリア王女、オリナス王子もいらっしゃる。だからこそ本日中に我々の総意をまとめるべきと……」
「総意をまとめようにも、王女と王子――双方とも知らぬ領主殿もいらっしゃる。ここで判断せよというのは酷な話でしょう」
「私もダイスダーグ卿の意見に賛同ですぞ」
「オルランドゥ!」


 ラーグ公の横に立つダイスダーグの言葉に賛同したのは、ゴルターナ公の横で立ち上がったオルランドゥ伯だった。


「これ以上会議が長引いては、我々の混乱を王家に見せるようなもの。それに我々がいかに議論しようと、王位を決める権利があるのは王族の者――ご本人を交えずこれ以上意見をまとめるのも失礼でしょう」
「……オルランドゥ、貴様」
「ダイスダーグよお前は何を……」


 かの天騎士バルバネスの家系にあたり、今でも北天騎士団の団長と軍師という要職につく畏国の英雄ベオルブ家の者。
 そして鴎国との戦で常に最前線を守り抜き、南天騎士団の団長として未だ現役の英雄であるオルランドゥ。
 両獅子にとって最も信頼を置く男たちが意見をともにしてはさすがの両獅子も引き下がるしかできず、二人はほぼ同時に着席した。


「議長殿。私個人としても、これ以上の会議は老骨にしみるというもの。ダイスダーグ卿はどう思われますかな?」
「若輩側としても、これ以上の難しい議論は勘弁してもらいたいものですな……頭が混乱してなりませぬ」
「良いでしょう。異議がなければ本日はこれにて閉会といたします」


 両獅子を沈黙させ互いを見て笑うオルランドゥとダイスダーグに異議を唱える者などいるはずもなく、その日の会議は閉会となった。





「助かりました。さすがは多くの人の信頼を集める剣聖でいらっしゃる」
「それはこちらの言葉だ。貴公が発言しなければ、今頃は戦場のようになっていただろうな」


 ラーグ公とゴルターナ公がまず退席し、その後それぞれに用意された部屋に向かって散り散りになる中で、ダイスダーグはオルランドゥに声をかけた。


「バルバネスが存命であるにもかかわらず、家督を譲っただけのことはある。そうだ、バルバネスは元気にしているのか?」
「ええもちろん。さすがに寄る年波に勝てず遠出はできなくなりましたが、邸宅にて元気に過ごしておりますよ。遠方ゆえ気軽に言えることではありませんが、伯爵殿がいらっしゃれば父もお喜びになるでしょう」


 父バルバネスいわく、オルランドゥという男は最も信頼たる、唯一信頼と呼べる者だったそうだ。病床の頃も、よく伯爵には手紙を送っていた――だがオルランドゥの口ぶりから察するに、父は自分の殺意によって病床の身になったことを親友にすら話していないようだ。


「ところで伯爵殿。一つこの会議とは別に、お願いしたいことがあるのですが」
「ん、何かな?」
「実はですな……弟のザルバッグがゼルテニアにいるご令嬢と婚約することに決まりまして。ぜひ伯爵に、仲人の役を買っていただきたいのです。父が伯爵殿に手紙を書くと言っていましたが……当主である私からも、この場を借りてお願いしたい」
「なんと、それはめでたい話だ!」


 ダイスダーグの言葉に、オルランドゥは目を輝かせた。


「本来であればザルバッグ本人か父がゼルテニアまで行くべきなのでしょうが、先ほども話したように父は遠出ができず、ザルバッグも立場上のこともあり縁のないゼルテニアへ行くのは難しい身。伯爵殿であれば父の信頼もあつく、ラーグ閣下も納得されることでしょう。」
「しかし……わしは妻子のない身。それで仲人が務まろうか?」
「大丈夫でございましょう。伯爵殿には現在養子もおり、その仲は円満であるとお伺いしております。それにゼルテニアでも信頼を集める伯爵殿であれば、先方も安心されるでしょうから」
「うむ分かった。その話、引き受けようではないか!」


 そこまで言われては引き下がれまい、とオルランドゥは豪快に笑った。


「だがダイスダーグ殿。まずはこの会議をおさめねばならんな。これ以上両閣下が争いになれば、その話もなくなってしまうだろう」
「そうですな」
「あとこれは失礼を承知で聞きたいのだが……確かダイスダーグ殿も独身だったはず。ご自身は結婚に興味はないのか?」
「ああそれは……」


 そう言ってダイスダーグは言葉を濁らせた。この質問は、父バルバネスにも、ザルバッグやアルマにも家で何回も繰り返されたものだ。家族には適当にはぐらかしておいたが、弟の仲人を頼んだ手前、何と答えればいいものか――


「いや、すまん。答えたくないのであれば構わんのだ。貴公も当主として色々事情があるだろう」
「……申し訳ございません」
「いやいや謝るのはわしの方。では、明日改めて」
「ええ」


 そのまま踵を返して廊下を歩くオルランドゥが視界から消えるのを見送り、ダイスダーグは自分にしか聞こえないくらいの小さな声で、しかし冷たい目で言った。


「平和になる畏国に、私のような悪人の血などいらんのだよ」
 




 一方その頃、王宮内にある礼拝堂で、エルムドアはひとりアジョラ像の前で祈りをささげていた。
 しかしふとそこに人の気配を感じ、エルムドアは顔をあげて体勢はそのまま、背後に顔だけを向けた。


「よろしいですよ。そのままになさいませ」


 礼拝堂に来た人物――ドラクロワはそう優しい口調で告げ、エルムドアは再びアジョラ像を見上げながら尋ねた。


「ドラクロワ猊下……猊下はこの会議、どうお考えでございますか」
「申し訳ございませんが、私は中立の立場ゆえ貴方の質問にお答えできません」


 ドラクロワの答えに、エルムドアは目を伏せ少しの間沈黙したが、ドラクロワがそう答えるであろうことは分かっていたのか、目を伏せたまま自分の想いを打ち明けた。


「……貴族と平民。北と南。分かり合える日が来ると実感したらこれだ。何故このような虚しく醜い争いが尽きないのか私には分かりません」
「侯爵様。貴方は両獅子の争いが醜いと……そうお考えですか」
「そうでしょう? 神の前に我々は平等のはず。そして王の器がどちらにあれ、王家に仕える我々は忠義を尽くすのみ。実際に私は、平和な世を少しではあるが感じていた……あれは幻だと言うのか」


 エルムドアは顔を上げ、ドラクロワではなく、目の前のアジョラ像に対し問いかけた。


「幻か現実か……それを決めるのは貴方次第。貴方は現実にするために行動されたはず。例えそれが他人に唆されたものだったとしても、ね」
「唆された?」


 ドラクロワの言葉に思うところがあったのだろう。エルムドアは横に立つドラクロワを見上げて言葉を返した。


「聞いた話では、侯爵様はベオルブ家のダイスダーグ卿との会談で、自ら領民の元へ行く約束をされ、仕事のなくなった兵を警備や手伝いに派遣されているそうですね」
「ええ。最初は何故そのような提案をするのか分からなかったが、おかげで収穫、交易ともに順調。最初は兵に報酬を与えるこちらの実利が少なかったものの、税収が上がればそれも補填されることでしょう。戦中、領地を奪還してくれたことも含め、ベオルブ家には感謝の言葉も尽きません」
「疑わないのですか、彼を?」


 ドラクロワの言葉に、エルムドアは「何故?」と質問を返した。


「侯爵様もご存じでしょう。ダイスダーグ卿と言えば勝利のためなら何を利用することも厭わない策士。何故彼が遠いランベリーの領主である貴方に対して、内政のアドバイスを行うのか。疑問には感じないのですか?」
「ガリオンヌとの交易路も積極的に整備している。彼らとしてはそれで十分な見返りがあるはずです。それに……例えダイスダーグ殿に他意がありそのために私が利用されたのだとしても、我々が救われたのは事実。猊下は、教会は彼を疑っているのですか?」
「そうではありませんよ。ただ、不思議だと思っただけです」


 気を悪くされたのなら謝りましょう、と続けたドラクロワに、エルムドアは首を横に振った。


「誰が味方で誰が敵なのか、言動の裏に何があるのか――そんな事など分かるはずがない。我々が人の身である限り……そうでしょう猊下」


 そう言って、エルムドアは再び目を閉じ、アジョラ像の前に祈った。


「神よ。例えこの世が穢れたものであったとしても、どうか我々を赦し、平等の愛をお与えください。いつか我々が互いを赦し、共に歩める日が訪れますよう」


 ファーラム、と静かでありながらも熱心にそう祈るエルムドアを見下ろしながら、ドラクロワも目を閉じ、心の中で自分が最も信じる神の名を呼んだ。


(我が主よ。この世はやはり穢れている……彼の願いが真にかなう日など来ないと、そう確信できるほどに)


 自分の懐にある聖石――スコーピオは告げている。彼が自分と同じ、聖石にふさわしい素養を持っていることを。
 かつて自分がそうであったように、彼の願いが深い絶望に変わりそれでも願い続けた時、聖石は真の力を生み出し、彼は本当の意味で神に仕える存在と変わるだろう。


(ですが主よ。今はこの貴公子の願いが誰かに少しでも届くことを共に祈らせてください。私は信じたいのです。我々が動かなくとも、この世にまだ、自浄する力が働いていることを……)


 聖石スコーピオがドラクロワの願いを聞き届けるように輝いたことに、エルムドアが気づくことはなかった。

 


 

(3)



――王都ルザリア 宮殿内個室――



「……大丈夫、ここなら誰にも気づかれないわ」


 オヴェリアは、部屋の扉に鍵をかけ、そして開いた窓の前に立つ突然の来訪者にそう告げた。


「まさか本当に来るなんて思わなかったわ」
「言っただろう? 何かある時はオレが迎えに来るって」


 目を丸くしながらもどこか嬉しそうな声で、オヴェリアはその来訪者に柔らかく微笑んだ。
 来訪者――ディリータは、窓のカーテンを引きながら白い歯を見せた。


「そうだったわ……助けに来てくれたのね。でもどうやってここに? どうして窓から?」


 今は畏国の有力者たちだけが王宮に集う日。もちろん城内には警備兵達もいるが、無用な争いを起こさぬよう、各領主が抱える騎士団や護衛兵はすべて城外におり、有力者に用意された個室には専用の兵が見張りをしていた。もちろん領主たちの身の安全のための見張りではあるが、同時に中で陰謀や策略が巡らないための、彼らに対する見張りでもある。
 そして王族には誰も近づけないよう、さらに厳重な警備が施されている――ディリータが今どのような立場にいるのかオヴェリアも知らなかったが、どんな立場であっても自分の部屋に侵入するなどあり得ない話だった。


「絶対に安全で厳重……っていう言葉ほど、油断するものはないってことさ」


 ディリータいわく、まず王宮の敷地までは、チョコボ車を使って入って来た領主のチョコボを引く御者として入ったそうだ。うまく忍び込んだ後は、王宮の警備兵に扮し、そして王女の部屋の下の部屋で時魔法「テレポ」を使い、見事王女の部屋の窓の前に立ったとのことだ。


「まるで忍者ね……」
「忍者はテレポなんて使わない。しかし、本当に忍び込めるとはな……大勢いる警備兵達も不甲斐ないもんだ。これじゃあ王女を暗殺してくれと言ってもおかしくない」
「……」


 ディリータの物騒な発言に、オヴェリアは表情を曇らせた。それを見たディリータは「すまない」と謝りつつも、続けた。


「ルーヴェリア王妃とオリナス王子がいる部屋はもっと警備が厳重だった。お前も苦労しているんだな」
「いいのよ。ここは今ルーヴェリアお義母様のお城も同然。一番守られて当然だわ」


 そう言ってオヴェリアは俯いた。さすがの彼女も分かるのだろう。自分が難しい立場にあることに。
 しかしオヴェリアは、顔を上げてディリータに対しかすかに微笑んだ。


「でも今日は少しそれがうれしいわ。おかげで貴方が会いに来てくれた……そうでしょうディリータ」
「ああ。俺も会いたかったよ……オヴェリア」


 ディリータとオヴェリアは、久々の再会を喜び、そして抱き合った。



「そう言えばアグリアスさん達は?」
「アグリアス達は近衛騎士ではあるけれどあまり身分が高くないの……会議中の今は暇を与えられているわ」


 オヴェリアが言うに、アグリアスの仕事は基本的にオヴェリアが外出する際の護衛兵であり、普段の側近は別の者が行っているらしい。


「アグリアスのことは信じているから、本当は傍にいて欲しいのだけど……」
「王女側の人間は王宮内でも閑職につけるということか。王妃もしたたかだな」
「そんな言い方をしないで。貴方たちのおかげでここへ来て、色々なことを肌で感じるようになったわ……王子もね、ようやくしゃべれるようになったの。周りは色々言うけれど、王子とは仲良くいたいわ。もちろんお義母様とも」
「それがお前の本音か、オヴェリア」


 ディリータをしっかり見つめたオヴェリアは、力強くうなずいた。


「オヴェリア、オレにいい考えがある……ただし、それはお前にとって少し酷なことになるかもしれない」
「……なに?」
「オヴェリア。お前がその気なら、オレはお前にすべてを話す。だがそれによってお前は多くの人間を敵にまわすことになるかもしれない……」
「……聞けば後に引けない。けれどそれで畏国は平和になるのね」
「多分な」
「分かったわ……話を聞きましょう。ただし条件があるわ」


 「条件?」と聞き返すディリータに、オヴェリアは息を飲んで頷いた。

 


 

(4)




――炭鉱都市ゴルランド 酒場――



 ガフガリオンと合流したラムザは、早速先に情報を手に入れていたガフガリオンから話を聞いていた。


 なんでも今ゴルランドの炭鉱夫の間では、見たことのない悪魔が出たとか、伝説のホーリードラゴンを見かけたとか、星座の印が描かれたクリスタルが光っていたとか、様々な噂が飛び交っているらしい。
 ガフガリオンは「まあオカルトな話には色ンな噂が付きまとうもンだ」と噂そのものを信じなかったが、ラムザは"星座の印が描かれたクリスタル"に興味を持った。
 かつてゴーグで見た、聖石と呼ばれるクリスタル。ゴーグで出会ったムスタディオは、聖石を近づけると古代の遺物がどよめくと話していた。炭鉱にそれがあるというなら、一緒に眠っていた何かが反応しているのかもしれない――ラムザはそう思い、仕事を引き受けようとガフガリオンに提案した。


「金の方は解決具合によるそうだ。ま、炭鉱全体の依頼となれば、それなりの報酬は要求できるだろうな」
「そこの君達。炭鉱に行くならオレを雇わないか?」


 騎士風の格好をした男が、笑顔でラムザ達に声をかけた。
 ガフガリオンがいぶかしげな視線を向けると、男は「すまない」と言って自己紹介をした。


「オレの名前はベイオウーフ。伝説のホーリードラゴンを求めるハンターだ」
「悪いがオレ達も雇われの傭兵なンだ。あらかじめ雇える金なンざ持ってねえ」
「金ならいい。オレが求めるのはホーリードラゴンだけだ。きっと役に立つと思うんだがな?」
「……どうするラムザ」


 ガフガリオンはラムザに視線を向けた。どうやらお前が決めろということらしい、とラムザは感じ取った。
 ハンターといえばモンスターを倒した後その身体の一部を持ち帰って売り、それが裏で色々なものとなって流通する――ということはガフガリオンから聞いたことがあった。しかしベイオウーフからは、密猟者独特のガラの悪さは感じず、どこかの騎士団の人間なのではないかとも思えるような、隙のない洗練された雰囲気を感じた。


「いいですよ。人手は多いにこしたことはないですから。僕はラムザです、よろしくベイオウーフさん」
「ありがとうラムザ。さ、行こうぜ」






「ラムザ! ラムザではないか!」


 炭鉱へ向かう途中、良く通る女性の声がしたのでラムザは声の方を向いた。


「アグリアスさん!?」
「久しぶりだな、ラムザ!」


 驚くラムザに、アグリアスは手を挙げてラムザ達の方に駆け寄った。


「誰だこの女は? お前の愛人か? スミに置けねえな」
「そ、そんなわけ……昔世話になっただけだよ」


 「冗談だ」と笑ったガフガリオンに顔を赤くしたラムザだったが、アグリアスが目の前まで走ってきたので慌てて首を振り、そして笑顔でアグリアスに向き直った。


「アグリアスさん、元気そうで何よりです」
「まさかこのようなところで会えるとは。お前も元気そうだな……ここにいるということは、北天騎士団の護衛か何かか?」


 ラムザはアグリアスに、自分が今、見聞を広めるために家を離れて傭兵の仕事をしていること、そしてその仕事によって炭鉱へ向かう途中であることを説明した。


「そうか……自ら苦労の道を進むとは、感心だな」
「アグリアスさんこそどうしてここに? 今ルザリアは大変なんでしょう?」
「ああ。今ルザリアでは畏国中の有力者が王位の件も含めて今後の話をしている……がそれゆえ私は暇を与えられている身だ」
「どういうことですか?」
「王妃にとってオヴェリア様の存在は厄介なのだろう。親しい我々を閑職につけ、自分の息がかかった者ばかりを王宮に入れている……近衛騎士団として私達に回ってくるのはオヴェリア様がルザリアの外に外出する際の護衛のみで、それ以外はただの警備兵と変わらないんだ」
「アグリアスさんも苦労されているんですね……」
「私の苦労などささいなことだ。オヴェリア様に比べれば……」


 アグリアスの話を聞く限り、畏国の情勢は依然として王妃の権力のもとにあるようだ。
 きっと王女も修道院の時と同じように、窮屈な身であるのだろうとラムザは思った。


「だがラムザよ。もしもオヴェリア様の身に何かあるとすれば、私は反逆者となってでもオヴェリア様をお守りするつもりだ」
「アグリアスさんらしいな。その時は僕もできるだけ力をお貸しします」
「力を貸すか……そうだ。お前は炭鉱へ行くと今言っていたな……私も同行しよう」
「え?」


 突然の申し出にラムザは目を丸くした。


「炭鉱での奇妙な噂はルザリアにも届いている。だがたかが炭鉱のために、と王宮の兵はなかなか動かないのだ。我々のような閑職の身があるにもかかわらずな」
「まあ、王宮っていうのは国だからな。いかにアンタが暇だろうが、オカルト話なンぞに首突っ込むわけにもいかねえだろうよ」
「ああ。だからこれは個人的な話だ。私は近衛兵ではなく、アグリアス・オークスとしてラムザ、お前に力を貸したい。あの時言ったはずだ。お前のためなら私は個人的にでも力を貸すと」
「アグリアスさんがいれば百人力だし、もちろんうれしい話だけど……」


 さすがに一人で決めては、とラムザはガフガリオンと後ろで黙っているベイオウーフに視線を移した。


「この女が自分の身は自分で守れるっていうなら、オレは別にいいぜ」
「ああ。オレも強引に同行を申し出た身だ。異存はないぜ」
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「ありがとう」


 これであの時の恩を返せるというものだ、とアグリアスは嬉しそうに言った。


「そこの傭兵の男。私は閑職とは言え王女の護衛を務める身。女だからと配慮する必要などないから安心するがいい」
「随分と強気な女騎士サマだな。まあ、分け前が変わらねえなら人数は多いに越したことはない。行こうぜ、ラムザ」
「うん」


 随分とにぎやかになったなぁと感じつつ、ラムザは全員の顔を見て「よろしくお願いします」と言い炭鉱へと再び足を進めた。

 




 炭鉱は静かなもので、時折雪の降る外に出ながらも、下へ下へとラムザ達は順調に進んでいた。
 そして最深部に近い場所までたどり着いたとき、聞いたことのない雄叫びがさらに下から聞こえてきた。


「な、なんだ!?」
「まさか……レーゼか!」


 驚くラムザ達を尻目に、ベイオウーフが血相を変えた様子で声の方へ走り出した。


「ベイオウーフさん!」


 ラムザはベイオウーフの名を呼んだが、ベイオウーフは振り返ることも立ち止まることもなく、そのまま奥へと走って行ってしまった。


「奥に何かあるようだ。我々も行こうラムザ」


 アグリアスの言葉にラムザはうなずき、そしてベイオウーフを追って走った。




「レーゼ!!!!」


 ラムザ達がベイオウーフに追いつくと、目の前では紫色のドラゴンが、希少種とされるブレイグやオチューに囲まれており、そしてその中心には見たことのない人型のモンスターが立っていた。


 ベイオウーフの声にドラゴンが反応したが、それを遮るように人型のモンスターが言葉を発した。


「オマエガ、ソノ聖石ヲ持ッテイテモ意味ガナイ……生命ガ惜シイナラオトナシク、聖石ヲヨコスノダ……」
「な、なんだ……人の言葉をしゃべるモンスターなんて……」
「マジでオカルトな案件とは驚きだな」
「そのような事を言っている場合か。様子がおかしいぞ」


 アグリアスの言うように、人型のモンスターはどうやらドラゴンに対して言葉をかけているようで、ドラゴンはおびえた様子でゆっくりと後ずさった。その手には青く輝くクリスタルが握られている。
 そしてベイオウーフが剣を抜いた。


「レーゼッ! 大丈夫だすぐ助けるッ!! ……ラムザ、すまないが助太刀してくれないか」
「貴方は一体……?」
「事情なら話す! ただこのドラゴンは悪いモンスターじゃないんだ、頼むッ!」
「……わかりました」


 必死な形相のベイオウーフに、余程の事情があるのだろうと思いつつ、ラムザはゆっくりと剣を抜いた。


「おいおいどういう事だ! 意味が分からンぞ!?」
「ラムザが信じるというなら、私も貴公を信じようベイオウーフ」
「……しょうがないな! ったく、また変なことに首を突っ込みやがって!」


 ラムザの後ろでガフガリオンとアグリアスも剣を抜き、構えた。


「貴様、レーゼを離してもらうぞ!」
「逆ラウカ……我ノ名ハ、シノーグ。血塗ラレタ聖天使ノ使イトシテ……オマエタチの血ヲ捧ゲヨウ」


 シノーグと名乗ったモンスターは地に響くような低い声で叫び、それに反応するようにブレイグ達が明らかな敵意をラムザ達に向けた。


「ベイオウーフさん、ブレイグとオチューは僕達に任せて、貴方はドラゴンを!」
「恩に着る!」


 ベイオウーフがドラゴンに向かって急ぎ、そしてラムザ達はモンスターに向かった。


「闇の剣よ!」


 まずはガフガリオンの暗黒剣が刺さり、そして怯んだオチューが反撃に粘液を飛ばそうと構える。


「させるものか! 命脈は無明にして惜しむべからず……葬る! 不動無明剣!!」


 すかさずアグリアスの聖剣技がオチューに炸裂し、粘液はガフガリオンから逸れた。


「助かったぜアグリアスさんよ!」
「ラムザ!!!」


 ラムザはというと、二人がモンスターの相手をしている間に、炭鉱の窓へ走っていた。
 そして「こっちだ!」と叫んだラムザは、窓を一気に開ける。すると外の冷気が吹雪のように中へ入ってきた。
 オチューもブレイグも冷気に弱く、吹き込んだ雪に怯んだ。


「人間ノ分際デ! ……ギガフレア!!」


 シノーグがチャージなしで唱えた魔法が、ラムザ達に直撃した。


「なんだこの魔法……見たことがない!」
「怯むな! ブレイグどもさえ片づければ、コイツがどンなヤツだろうが単騎だ!」
「乱命割殺打!」


 ガフガリオンとアグリアスの剣技に、ラムザは窓を開けたままブレイグに斬りかかった。


「ナラバ次ハコレヲ食ラウガイイ……」
「おっと! オレのことを忘れてるんじゃないか!? 音に遊ぶ精霊の呪いあれ……」


 詠唱を始めたシノーグの身体に闇の光が集まろうとしたと同時に、ベイオウーフがその背後から剣を振り下ろした。


「言葉を封じ給え! サイレス!!!!」


 ベイオウーフの剣から魔法のようなものが飛び、シノーグを包み込む。
 すると纏っていた闇の光が消滅し、シノーグは詠唱を止めた。


「!?」
「とどめだ! 食らえッ、ブレイク!!」


 ベイオウーフの剣の動きと同時に、今度はシノーグの身体が徐々に石化を始めた。


「馬鹿ナ……人間ゴトキガ……ダガ、我ヲ倒シテモ……血塗ラレタ聖天使ノ復活ハ……」


 そこまで言って、シノーグは完全な石となった。
 それを見たブレイグとオチューはラムザ達に勝てないのを悟ったのか、外に冷気があるにもかかわらずそのまま外へと逃げて行った。



「……片付いたようだな」
「ラムザ、怪我はないか」
「大丈夫です。それにしても……なんだったんだあのモンスターは」


 シノーグという聖石を奪おうとしたモンスターは血塗られた聖天使の使い魔であると名乗っていた。
 見たことのない魔法、そして人の言葉を話す存在。ラムザの知る限りではモンスターが人の言葉を理解することはあれど話すというのは聞いたことがない。
 そして、ブレイグやオチューといった冷気に弱い希少種が、この極寒地であるゴルランドにいるのも違和感がある。


「そうだ、それよりドラゴンが……」


 シノーグ達に襲われていたドラゴンもまた、人の言葉を理解しているようだった。
 ベイオウーフはドラゴンのことをレーゼと呼んでいた。ドラゴンもまた、訳ありのようだ。


「レーゼ……ああよかった。大きな怪我はないな。怖かっただろう。だがもう大丈夫だ」


 まるで恋人や家族を慈しむような言動のベイオウーフに、レーゼと呼ばれたドラゴンも懐くように頭をすり寄らせた。


「ありがとうラムザ。君のおかげでレーゼと会うことができたよ」
「貴方はこのドラゴンを探していたんですね」
「ああ。命よりも大切な友達さ。本当に感謝するよ」
「……アンタ、ハンターじゃねえな。何者だ?」


 レーゼを抱きよせながら礼を重ねるベイオウーフに、ガフガリオンが言った。
 ドラゴンを求めるハンターだと名乗っていたが、それは狩るためでなく、本人いわく友達として助けようとしていたようだ。
 ドラゴンといえば先ほどのブレイグらに並ぶ希少種で、密猟者にも人気の高い種族だ。
 そしてシノーグを石化させた、アグリアスやガフガリオンとも異なる剣技――ラムザも感じたその疑問に、ベイオウーフは一息ついて答えた。


「君達に迷惑をかけるわけにはいかないから正確には話すことができないが、ちょっと訳ありでね。彼女はレーゼ、ドラゴンの姿をしているがもとは人間なんだ」
「人間がドラゴンに姿を変えたと……?」
「嘘みたいな話だが、本当のことさ」


 ベイオウーフによると、ドラゴンに姿を変えたレーゼは、錯乱したままベイオウーフの前から姿を消してしまったそうだ。その後ベイオウーフはレーゼを探しながら、元に戻す方法を探して旅をした。そしてベイオウーフは、レーゼを元の姿にするには聖石と呼ばれるクリスタルが必要だと知ったらしい。


「レーゼがここにいたのもきっと、本能的に聖石を求めていたからかもな」
「オカルトすぎる。意味が分からないぜ」
「あ、ああ……」


 ベイオウーフの説明に頭を抱えたガフガリオンに、アグリアスも同意した。
 ラムザはというと、もちろん目の当たりにしたわけでもないし聞いたこともない話だったが、ここで起きた出来事と、ムスタディオの話や教会が聖石を探している事実――聖石に力があるとすれば、あながち嘘ではなさそうだと感じた。実際に、ドラゴンと会えて心から嬉しそうにしているベイオウーフが、嘘を言っているようには見えなかった。


「ベイオウーフさん。それで……この聖石でレーゼさんは元に戻るんですか?」
「いや……どうやらこれではダメなようだ。オレが探しているのは、蟹座――キャンサーの描かれた聖石だ」
「キャンサーか……僕も心当たりがないな」
「きみは聖石を知っているのか?」
「見たことがある程度ですけど」
「そうか……だったらこの聖石は君に託してもいいかい?」


 そう言ってベイオウーフは聖石――アクエリアスをラムザに渡した。


「君は信用できそうだ。正しいところに届けてほしい」
「分かりました」
「そしてもしもキャンサーを見つけて縁があれば……」


 そこまで言ったところで、外からモンスターの断末魔があがった。


「今のは……先ほどのブレイグではないか?」
「外に誰かがいるようだな。さっきのシノーグってヤツの仲間かもしれねえ」


 ガフガリオンの言葉にラムザが石化したままのシノーグに視線を移したら、その姿はいつの間にか消えていた。


「……嫌な予感がするな」
「とは言えここにいても仕方があるまい」


 アグリアスの言うように、炭鉱の最深部であるこの場所にいても逃げ場を失うだけ――ラムザはゆっくりうなずき、剣を抜いたまま全員で外へと向かった。





 坑道の外へ出ると、そこには先ほどまで戦っていたブレイグやオチューの死骸が転がっており、その奥の高台に立っていた騎士風の格好をした男二人がラムザ達に気付いた。


「聖石を持っているのは貴様らか」


 そのうちの青いフードを被った男が尋ねながら、なにやら玉のようなものを投げた。レーゼの上で玉は魔力を発し、そして結界のようなものがレーゼを取り囲んだ。


「グルルルル……」
「レーゼッ!」
「ホーリードラゴンが炭鉱に住み着いていると聞いていたが、モンスターも倒し、これで解決だな。……ああ、動かない方がいい。この結界はわが友が開発した魔力結界――触れればどうなるか保証できん」


 男の言葉に、レーゼはおびえたように結界の中で縮こまった。
 突然の行為に、ラムザは男を睨み叫んだ。


「お前たちは何者だ!」
「盗人に答える義理などない。それよりも命が惜しくば、聖石をこちらへ渡すことをすすめる」
「盗人だぁ!? オレ達はここの炭鉱を救ったヒーローだぜ!?」
「ラムザ気をつけろ。奴らのあの服装……おそらく神殿騎士だ」
「神殿騎士だって?」


 神殿騎士と言えば、メリアドールやウィーグラフの仲間のはずだ。そういえばウィーグラフは、聖石は教会が信仰を集めるために探していると語っていたことを思い出す。


「待ってくれ! 確かに聖石アクエリアスは僕が持っている! だが盗んだわけじゃないしここのドラゴンも敵じゃない!」
「そうか。だが聖石は渡してくれるな?」
「待てローファル。そこの男は異端者だ。元ライオネルの……」
「何だと?」


 黒い服をまとった神殿騎士が、ベイオウーフを指して言った。ローファルと呼ばれた神殿騎士は「そういえば見たことがあるな」と同意した。


「てめえ異端者かよ!」
「うっ……すまない。巻き込みたくなかったんだ……」
「異端者ベイオウーフとその一味よ、聞くがいい。これ以上罪を重ねたくなければ、聖石をおとなしく差し出してもらおうか!」


 話は再びこじれているが、相手の主張はラムザが持っている聖石を渡せの一点張りだ。
 どうやら教会は本気で聖石を求めているようだ。


「おい! こンな石さっさと渡してずらがるぞ! 異端者と間違われたらエライことになる!」
「でもそんなことをしたらベイオウーフとレーゼは……」


 ラムザはベイオウーフとレーゼに視線を移した。異端者であることはガフガリオンの言うように今まで隠されていたことだが、ラムザはどうも、ベイオウーフが悪人ではない気がしていた。


「待ってくれ! 私の名はアグリアス、ルザリアの近衛騎士団に所属している! 彼が異端者であることは知らなかったが、貴公らに敵意を見せるつもりはない!」


 一方で、アグリアスがローファルに対して懇願した。
 だが、ローファルの横に立つ黒い服の男はその言葉に対して鼻で笑った。


「近衛騎士だと? 王族に仕える騎士が、この時期に炭鉱を徘徊するなどあり得ない話だ。なあ、ローファル」
「……そんなことはどうでもいい。我々の目的はただ一つ。小僧、聖石を渡す気がないのなら力づくでやらせてもらうが構わないな?」
「くっ……」
「異端者ベイオウーフよ。その大切なドラゴンを殺されたくなければ動かない方が賢明だ。我が友の結界魔法に容赦などないと思え」
「ッ……」


 唇を噛みしめたベイオウーフだったが、背後にいるレーゼが怯えている姿を見て、構えていた剣を下ろした。


「すまない……」
「謝らないでくださいベイオウーフさん。相手が話を聞く気がないなら……これで分からせるしかない!」
「小僧、その度胸は誉めてやろう。……バルク。そこの傭兵風情の男と、自称近衛騎士の女を足止めを任せる。加勢はもちろん、逃走もさせるな」
「オッケー。任せな」


 バルクと呼ばれた黒い服の男は、そう言って懐から銃を出した。
 そして同時にローファルが、剣を後ろに引きラムザを見据えた。


「まさかこの構え……!」
「身の盾なるは心の盾とならざるなり。油断大敵! 強甲破点突き!」
「!!」


 ラムザの正面から衝撃波が迫り、ラムザはとっさに剣を衝撃波に向かって投げた。
 剣がぶつかったところで衝撃波が止まり、おさまったのを見計らってラムザは剣を取ろうとした。
 しかしラムザが剣を取るのと同時にローファルは高台からラムザの目の前まで飛び降り、振り下ろされた剣がラムザの剣とぶつかった。
 重い一撃に、ラムザは両足を踏ん張って耐える。


「くッ……メリアドールと同じ剣技の使い手か!」
「メリアドールを知っているのか? だが生憎、彼女に剣を教えたのはこの私……貴様に勝てる道理などない。さあ、死にたくなければ大人しく聖石を渡すがいい」
「! 今加勢するッ!」


 アグリアスが構えたが、同時に高台に残ったままのバルクがアグリアスの足元に銃弾を浴びせた。


「おっと動くなよ女。可愛い顔を傷つけられたくないならな……そっちのオッサンもだ!」
「チッ……これじゃあマトモに動けン! コイツ本気でオレ達二人を同時に足止めする気か!」
「アグリアスさん! ガフガリオン!」
「他人の心配をしている場合か?」


 アグリアス達に気を取られている隙に距離を取ったローファルが、再び技を出した。
 完全に不意を突かれたラムザだったが、反射的にしゃがんだ場所にオチューの死骸があり、間一髪を逃れる。
 
「また外した!? くくッ……なかなかやる!」
「!」


 今まで表情ひとつ変えることなく聖石を渡せと繰り返していたローファルが、ラムザを見てにやりと笑った。


「子供と思ってあなどっていたが、久々に楽しめそうだな!」


 目の色を変え笑みを浮かべながら再びラムザに斬りかかるローファルに、ラムザは自分の背筋がゾクリとするのを感じた。
 間違いなくこの男は今の殺し合いに近い状況を楽しんでいる。聖石など二の次と言わんばかりに。


「こんな意味のない戦い……ッ! 正義であってたまるか!」
「正義を語るか小僧! 死にゆくには惜しい少年だな……名前くらいは聞いておこうか!」
「僕の名はラムザ! 僕は貴様のような戦いに己を支配されるような男を許さない!」
「なに……ラムザ……!? まさか貴様……」


 ラムザの名を聞いた途端に目を見開かせ、ローファルはラムザの剣を力任せに払ってそのまま後退した。


「しまった!」
「バルク、この戦いは無効だ!」


 ローファルに払われた剣に気を取られたラムザだったが、ローファルの剣撃も来ることはなかった。ローファルに制止されたバルクは、銃をアグリアス達に向けたままローファルに視線を向けた。


「なんでだよ!?」
「事情が変わった……この男、恐らくベオルブ家だ」
「……ベオルブ家!? そりゃあマズいな」


 先程までの態度が一変し再び冷静な口調でローファルはバルクを見上げた。ベオルブ家の名を聞いて、バルクも顔を青くする。


「……ラムザよもう一度聞く。貴様はベオルブ家の者か?」
「え、そ、そうだけど……。ようやく話を聞く気になってくれたのか?」
「道理で私の技を二度も避けるわけだ。メリアドールから学んだか……」


 ローファルは静かに手を掲げ、それによってレーゼを閉じ込めていた結界が消滅した。
 それを見たバルクも銃をおろし、深くため息をついた。


「なンだ、いきなり随分と大人しいじゃないか」
「当然だ。我々神殿騎士団がこのタイミングでベオルブ家と争う理由などあるはずがない……今までの非礼を詫びよう。私としたことが、メリアドールの恩人を殺すところだった」


 ローファルの言葉に、ラムザはアルマの縁談相手が神殿騎士団長の息子であったことを思い出した。
 そして彼の口ぶりからするに、メリアドールは自分の事を話していたようだ。
 
「分かってくれればいいけど……」
「それにしても……戦いに己を支配される、か。気を付けてはいるのだが、強敵と思えばどうも気持ちが昂ぶってしまう。許してほしい。バルク、帰るぞ」
「……聖石はいいのか?」
「ああ。聖石のためだとしても、ヴォルマルフ様の顔をつぶすわけにはいかん。それにベオルブ家にあるというなら上も納得するはずだ」
「ったく、団長がキレたらてめえが全責任取れよな!」


 先にバルクが立ち去り、ローファルはラムザに再び近づいた。


「ラムザよ、いい戦いだった。メリアドールが認めるだけのことはある……次は死合ではなく、普通に勝負をしたいものだ」


 さらばだ、と言い捨て、ローファルもバルクの後を追った。


「何だったンだあいつら……」
「だが危ないところだった。ラムザがベオルブ家の者でなければ、本当に殺し合いになりかねなかったぞ」
「……本当にすまない」


 立ち尽くしていたガフガリオンとアグリアスに、ベイオウーフは頭を下げた。


「ベイオウーフさん。異端者って……貴方は一体?」
「この際だから全て話すよ。オレは元々、ライオネルの騎士団長だったんだ……そしてレーゼはオレの恋人。結婚の約束もしていた」


 ベイオウーフは明かした。自分の恋人のレーゼに、ライオネルのブレモンダという司祭が惚れこんでおり、強い嫉妬をしていたということ。そしてブレモンダは古文書を読解し、人を竜に変える呪いの魔法をベイオウーフに使おうとしたこと。そしてベイオウーフをかばって、レーゼがホーリードラゴンとなってしまったこと。それを隠蔽するため、ブレモンダはベイオウーフを追放し、異端者の烙印を押したこと――


「それが真実ならばひどい話だな……だが、ライオネルと言えばドラクロワ枢機卿の膝元にあるはず。枢機卿に談判はできなかったのか?」
「そんな暇すらなかったさ……それに今でもオレは異端者のリストに入っている。それが答えだろ?」
「さっきのローファルってヤツもそうだが、教会っていうのは一度決めつけたらなかなか曲げない。騎士団よりも目をつけられたくない厄介な奴らだ」


 生きた心地がしなかったぜ、ガフガリオンは息を吐いた。





 そして炭鉱入り口まで戻り、アグリアスとベイオウーフはここで別れることになった。


「ベイオウーフさんはこれからどうするんですか?」
「レーゼを救うためにキャンサーを探すよ。次に会う時に心当たりがあったら教えてくれると嬉しいな」
「もちろんです。レーゼさんもお元気で」


 ラムザの言葉も理解できるのだろう。レーゼは静かに頭をラムザに寄せた。


「ラムザ。色々あったが久々にお前と共闘できて嬉しかった。また会おう」
「こちらこそありがとうございました。きっとまた」


 ラムザとアグリアスはかたく握手を交わし、そしてそれぞれの方角へ去っていった。


「さ、オレ達も酒場で仕事の報告だ」
「おっとその前に少しだけいいか?」


 ガフガリオンと共に酒場へ向かおうとしたところで声をかけられる。向くとそこには、黒い衣服の男――バルクと呼ばれていた神殿騎士がいた。


「まだナンか用かよ?」
「そう警戒するなって。アンタがベオルブ家のお坊ちゃんと見込んで頼みたいことがあるんだ」
「僕に?」


 ラムザは自分を指さしながら目を丸くした。


「ああ。お前、ゴーグのブナンザって機工師に会った事があるんだろ? ウィーグラフから聞いたぜ」
「ブナンザ? 確かムスタディオのお父さんの……」
「そうだ。で、さっきの聖石、アクエリアスって言ってたよな? ブナンザに頼んでゴーグの第57坑道へ行ってみな。そこにはかつてオレが掘り起こした球体が眠っている。同じマークが描かれていたはずだ」
「……バルクっていったな。貴方は機工士なんですか?」


 アグリアスとガフガリオンを同時に足止めする腕前――騎士団には珍しい銃の使い手だと思ったが、機工士であれば納得だった。


「昔の話だ。オレは色々あって帰りにくいんだ。だから代わりに頼まれてくれないか?」
「散々他人に銃弾浴びせておいて何いってやがるンだ……」
「全部牽制だっただろ? オレの狙いは正確だからな。それにオレはラムザ坊ちゃんのほうに頼んでいるんだが」


 ガフガリオンは見るからに面倒そうな顔をしているが、ラムザはバルクの頼みに、ゴーグにいるムスタディオのことを思い出していた。発掘した色々なものに目を輝かせ、その技術を再現しようと努力する親友とも言える仲間。バルクを見て、教会の人間にしては柄の悪い態度ではあるが、きっと当時は彼もムスタディオと同じくらいの情熱でそれを掘り起こしたのだろうと感じた。


「……分かりました。ゴーグへ行ってみます」
「貴族に頭下げるのは趣味じゃないが、頼むぜ。あと……」


 そこまで言ってバルクは少し気まずそうに背中を向けてから続けた。


「ブナンザに会ったら伝えておいてくれ。帰るつもりはないがオレは元気だとな……」


 そう言い残して、バルクも再び去っていった。


「……で、お前本当にゴーグまで行く気か?」
「そのつもりだよ。この石のことが分かれば、炭鉱の奥にいたシノーグとかいうモンスターのことも分かるかもしれない……」
「それこそオレ達の管轄外じゃないか」
「そうだけど……嫌な予感がするんだ。僕達の知らないところで何かが起きようとしている、そんな予感が。そして僕はベオルブ家の人間として、見過ごすわけにはいかないんだ」


 聖石アクエリアスを見つめるラムザに、ガフガリオンはやれやれと肩をすくめた。


「まあいい。お前といれば退屈しないからな……行ってやるよライオネル」


 とりあえず酒場で金もらって一杯やるぞ、とガフガリオンはラムザの背中を叩いた。

 


 

(5)

――王都ルザリア 王宮内会議室――



「王女殿下! それは本気でおっしゃっているのですか!?」


 会議室で、ラーグ公はオヴェリア王女に対して声を荒げた。ゴルターナ公も言葉を失った様子でオヴェリアを見つめ、そして他の領主らも驚きを隠せない様子だった。


「もちろん本気です。私は王子に継承権を譲り、そして王子が15になるまで後見人をつとめます。そして領主の皆さん、お聞きになってください」


 オヴェリアは強い視線で、この部屋にいる全員を見据えた。


「この度は、私達のためにお越しいただき感謝の言葉もありません……しかし私は知っています。貴方たちの中に、私や王子のどちらかを即位させるための策を講じ、即位させた私達を傀儡として、畏国を操ろうとしていることを」
「王妃は! 王妃殿下のことはどうされるつもりですか!」
「ラーグ閣下。ご安心ください。私にとってルーヴェリア王妃殿下は血のつながりはありませんがお母様です。今後も畏国に平和がもたらされるよう、共に歩みたく存じます……そして貴方とも。文化や学問の中心であるガリオンヌを治める貴方の力は必要ですわ」
「あ、有難き幸せ……」


 オヴェリアの微笑みに、ラーグ公は跪いた。そしてオヴェリアはゴルターナ公に視線をうつした。


「そしてゴルターナ閣下。五十年戦争の間、最も前線を戦い抜いたのは閣下が擁する南天騎士団であると聞きます。今後も畏国が平和であるよう、そのお力をお貸しください」
「……仰せのままに」
 
 ラーグ公とゴルターナ公――二人の獅子がオヴェリア王女の前に跪き、忠誠を見せる。
 その様子はさすがのダイスダーグも計算に入れておらず、内心驚きを隠せなかった。


(馬鹿な……王女がこれほど聡明とは。いや違うな。誰かが王女に口添えをしているのか? ……だが)


 これは好機だ、とダイスダーグは感じた。
 オヴェリアを初めて知った領主たちは、これでオヴェリアの名の元に畏国が平定する夢を見ることができるだろう。両獅子のどちらかに加担する必要はないのだと。
 だが、それでも争いの種は消えない。王女が何を言おうとも、賢すぎる王女と、何も知らぬ王子――オリナス王子の後見人の座を事実上奪われたラーグ公だけでなく、王女が自分の思い通りにならないと悟ったゴルターナ公にとっても、王女は邪魔な存在となるだろう。
 そう、これからは王女が全ての領主の求心力となり、同時に二人の獅子から狙われるようになる。


(王女の背後に何がいるのかは知らないが……お前は王女を守り切れるのか? 私なら出来る……何故なら全ての権力をまとめ、王女を狙う両獅子を手中におさめるのはこの私なのだからな)


 王女の前にひれ伏すラーグ公とゴルターナ公を見て、ダイスダーグは誰にも気づかれないよう静かに笑った。




 そして――


(オヴェリアよくやった……これでラーグ公もゴルターナ公も下手に動けないはずだ)


 領主たちの輪の中で、ディリータは貴族に扮し、その様子を見守っていた。
 ゼルテニアでディリータは、南天騎士団の情勢を見ていた。その中でゴルターナ公がオヴェリアを利用し、女王に即位させることで後見人の座を狙おうとしていることを知ることが出来た。


(だがゴルターナ公につく最も有力な将軍はオルランドゥ伯……あの男はバルバネスの親父さんがいる限り、北天騎士団と対峙しようなどとは思わない。オヴェリアが傀儡にならないと意思表示すれば、大義も失ったゴルターナ公は何もできないはずだ……となれば問題はあの男)


 ディリータは、領主たちの中でも最前列にいる、ダイスダーグに鋭い視線を向けた。


(ダイスダーグ。ラムザの兄貴……何を考えている。アルマを教会の男と、ザルバッグをゼルテニアの有力者と結ばせ、そしてこの場で存在感をアピールする行為……あの男はラーグ公に取って変わろうとしているのか? だとすればその先に何をするつもりだ?)


 決してダイスダーグを敵だと思うわけではない。血のつながりはないが、大恩あるバルバネスの息子、いわば義理の兄だ。だが、ここにいる領主らの中で最も警戒すべき存在でもある。オヴェリアを利用する可能性のある者として。


(オレはオヴェリアを利用する者は絶対に許さない。例えそれがラムザの兄貴だったとしても……ティータごめんな。オレはしばらく帰れそうにない)


――ディリータ。一つ条件があるの……すべてが終わってからでいい。でもいつか私を自由にして――


 オヴェリアの部屋で交わした約束を思い出し、ディリータはオヴェリアにも他の領主たちにも気づかれないよう、テレポで会議室から姿を消した。

 

~To be next story~

 

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あとがき

長いけど特に誰も救われてない繋ぎ回。しいて言えば侯爵様は今後誘拐されることも聖石と関わることもなく地味にきれいな侯爵のまま生存されます。人間やめてないローファルってどんな人間なんだろうなと考えてみたけど、人間やめてなくてもヴォルマルフに忠実で、ストイックな雰囲気だったらいいなと思う。

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