IF FFT ~もしも獅子戦争がなかったら~

-第1章 後編-

 

(1)

「民衆達よ! ただ貴族に守られ、その日暮らしで満足する時代は終わった! 我々一人一人が立ち上がり、皆で国をつくるべき時が来たッ! そこに武器は必要ない、想いを持って立ち上がるのだ。立ち上がり、学び、そして貴族も平民も共に手を取り合える未来を子供達に!」


 オヴェリア王女護衛の初任務を終えて少しの時が経ち、ラムザ達は畏国の南端に位置するライオネル領――機工都市ゴーグへと来ていた。


「噂でも傑物であると聞いたが、やはり実物で見ると凄みがあるな」
「あれが骸騎士団のウィーグラフ……騎士の称号をもらったあとは教会と協力していると聞いたけど」


 町の中心広場で演説している騎士は、畏国でも有名な男だった。


 ウィーグラフ・フォルズ。
 五十年戦争の末期、貧しい農家の出身でありながら、平民軍に志願し、そしていつしかそれをまとめ上げた男。貴族にも劣らないほどの教養と、卓越した剣術、そしてカリスマ性――彼の元には多くの平民が集い、平民軍はいつしか「骸騎士団」と呼ばれ、貴族達にも一目置かれていた。
 畏国は事実上の敗戦となり、王家を中心とした畏国のトップたちは骸騎士団を切り捨てようとした。平民に与えるほどの報奨も確保できなかったのが大きいのだが、それ以上に、彼らはウィーグラフの平民という立場を超えた影響力を恐れたのだ。このまま力を持たせておけば、いつか牙を向くのではないか、と。
 だが、それに反対したのは、ベオルブ家の当主となったばかりのダイスダーグだった。


――彼らを切り捨てれば、一度力を持った彼らの刃の矛先が我々に向くだけのこと。それよりも、わずかでも彼らに然るべき労いを与え、ウィーグラフを認め世の民衆をまとめてもらう方が良いでしょう。


 その意見にラーグ公やゴルターナ公などは首を傾げていたが、ダイスダーグの背後には天騎士バルバネスがいた。そしてゴルターナ公の重鎮であるオルランドゥ伯が、ダイスダーグの意見に真っ先に賛成した。畏国の英雄であるこの二人につかれてはさすがに意見を飲まざるを得ず、国王オムドリアの名のもと、ウィーグラフには「騎士」の称号が与えられ、骸騎士団は裕福にこそならなかったが一定の立場が与えられ、教会が抱える神殿騎士団の一部としての存続が認められた。


 そして何故ラムザ達がゴーグでウィーグラフの演説を聞いているのかというと、その目的は大きく二つあった。


 ひとつは、ラムザにウィーグラフと対談させるため。
 王女の時と同じく「何故自分に?」という質問をしたところ、ダイスダーグには「お前でなければウィーグラフは会ってくれんよ」と答えられた。何故ダイスダーグやザルバッグと言った立場のある兄では駄目なのか分からなかったが、ラムザもラムザで、ウィーグラフという人間には以前から興味があり、その任務を受けた。


 もうひとつは、ゴーグとガリオンヌの交易のためだった。
 この機工都市ゴーグは"機工士"と呼ばれる技術者が多くおり、失われた過去の文明を研究・再現する場所である。どうやらダイスダーグはその技術力に目をつけたようだ。
 また、近くにある貿易都市は異国の武器や技術を輸入する場所であり、将来的にはその経路にも関われるようにということだろう。
 ガリオンヌと同盟を結びアルガスをラムザにつけたエルムドア侯爵も異国の技術には興味があるらしく、是非にということらしい。


「とりあえず機工士の集会所へ行って、機工師長の家を拠点に、教会でウィーグラフと会談か。今回も荷が重いなぁ……」
「それだけ期待されてるってことだろ? いいことじゃないか」
「やけに張り切ってるな、アルガス」


 いつになくポジティブな様子のアルガスに、ディリータは素直な感想を述べた。


「侯爵様は異国武術の達人なんだ。独自の輸入経路のきっかけが築ければ、オレの株も上がるってもんだぜ。オレはどっちかと言うと銃の方が興味あるけどな」


 そう言ってアルガスはボウガンを取り出した。
 本人曰く、剣術も苦手というわけではないがこちらの方が得意らしく、亡くなった祖父も得意武器としていたそうだ。


「実物は見たことないが、からくりは似てるっていうからな。興味あって当然だろ? それに」
「それに?」
「……何でもない。っていうかお前にだけは死んでも教えねえ」
「なんだそれ!」
「誰にだって隠し事や悩み事くらいあるってことさ。お互い様だろ?」


 アルガスの言葉にディリータは押し黙った。それが先日のオヴェリア王女との一件を指しているとディリータも分かったからだろう。
 ディリータが王女と親しくなっていたことはアルガスも気づいたし散々突っ込んだが、ディリータは何も話そうとしなかった。
 だが、アルガスもその気持ちは分からなくもなかった。自分にも人に話したくない悩みはある。


(ウィーグラフやゴーグの人間と会えば……オレの悩みは解決するかもしれない)


 そういう思いがあった。
 祖父が戦場から逃げ出したことで没落した自分の家は、今でも周りからのいい笑われ者だった。自分もそのことで同年代の貴族の子息にいじめられてきた。泣いて家に帰れば母親には自分を抱きしめ、「私達は貴族だ。いかに虐げられようと、下にはもっと虐げられるべき平民がいる」と励ましてくれた。だから母の言っていることは正しいと、そう思っていた。


 だがどうだろう。世の中に出てみれば、ラムザのように自分を対等に見る大貴族の子息もいれば、ディリータのように立場を認められた平民もいる。侯爵は名前も知らない平民に接しその身を気遣っていた。国で最も身分の高い王女は自分よりも不自由で寂しそうだった。
 本当に身分なんて、誰が上で誰が下なんていう概念が、この世にあるのだろうか。


 その悩みが必要なものかもわからないが、なんとなく、解決すれば自分は一歩前に踏み出せる――そんな気がした。
 アルガスはそんな想いを胸に秘め、演説を終えてウィーグラフが去り、人もまばらになった広場で「そろそろオレ達も行こうぜ」とラムザを促した。

 


 

(2)

 機工都市ゴーグは、ラムザ達にとってとても新鮮な街並みだった。
 見たことのないからくりで動くものがあり、そこら中にオイルの独特な臭いが染みついている。
 道路の端では油で汚れた服や肌の男達が座り込んで、何かを組み立てたり磨いたりしていた。
 住民たちもそれらに対して違和感などないのだろう、何事もなかったかのように通り過ぎている。キョロキョロと辺りを見回しているのは、ラムザ達だけ


「ここのようだ」


 立ち止まった場所は屋敷と呼ぶには粗末だが、周りの家より少し大きめの建物があった。入口には"集会所"と書かれており、間違いなくここが、ダイスダーグの言っていた機工士達を取りまとめるブナンザ家の屋敷なのだろう。
 扉をあけると数人の男が何かを組み立てていたが、ラムザ達に気付いてすぐに奥へ走っていった。少しして、杖をついた金髪の男が現れ、ラムザ達に深く一礼した。



「はじめまして。私はベスロディオ・ブナンザ、ここで機工士を取りまとめている者でございます」
「ラムザです。こちらはディリータとアルガス。しばらくお世話になります」
「天下のベオルブ家をお泊めするにはあまりにも粗末な家でござますが……どうぞごゆっくりしてくださいませ。まずは家の中を案内させましょう……ムスタディオ!」


 ベスロディオは大声を出したが、返事がない。もう一度その名前を呼ぶと、壁に組み立てられた脚立の上から声がした。


「ちょっと待ってくれよ親父! 手が離せないんだ!」
「客人だ! 作業を中断しろ!」
「って言っても……っと……うわあああああ!」
「!」


 叫び声が聞こえたかと思うと、脚立の上から、ラムザ達と同年代の少年が落ちて来た。
 ラムザは思わず駆け寄って、「大丈夫!?」と声をかけた。


「あー悪い悪い。ってて……大丈夫。よくあることさ」
「そ、そう? 良かった」
「で、なんだよ親父。客人って……こいつか?」
「ムスタディオ……! も、申し訳ござません」


 ゆっくり起き上がったムスタディオに、ベスロディオは慌てて頭を下げた。


「ムスタディオ……アレだよ。ほら、ベオルブ家の子息がなんとかって……」
「へ? ……あ」


 近くにいた機工士がムスタディオに小声で説明すると、ようやく気付いたのか、ムスタディオは顔を青くした。


「え、えっと……お初にお目にかかります……だっけ?」


 慣れない様子のムスタディオに、ベスロディオはため息をつき、震えた声でラムザに謝罪を重ねた。


「あ、あの僕そんなに気にしていないので……こちらのムスタディオさんが、案内してくれるんですね?」
「あんなに練習して言い聞かせたのに……あいつときたら……」
「あの、ベスロディオさん?」
「ああ! はい! このムスタディオが皆さんの身の回りのお世話もしますので、どうぞお使いになってください!」
「世話!? 聞いてないぞ!」
「うるさい! いきなり私の努力を全てぶち壊したのだ! 責任を取らんか!」
「横暴だ!」
「客人の前だぞ!」
「親父こそ!」


 ラムザを挟んで言い争う親子に、ラムザは吹き出した。
 その様子に言い争うのをやめ、気まずそうに黙ったベスロディオとムスタディオにラムザは言った。


「僕も堅苦しいのあまり好きじゃなくて……あまり気を使わないでください。迷惑をおかけするのは僕達のほうなので」
「そうか? じゃあ遠慮なく……」
「ムスタディオ」
「はいはい……じゃあ家の中案内するよ。俺はムスタディオ。よろしくラムザさん」
「年も近いから呼び捨てでいいよ。よろしく、ムスタディオ」


 警戒心のない笑顔で手を差し出すムスタディオに、ラムザも笑顔でその手をとった。





「ムスタディオはずっとここで働いているのかい?」


 家の中を一通り案内し終わり、入口の作業場に戻りラムザはムスタディオに尋ねた。


「そうだよ。オレの家は機工士の家系なんだ。知ってるか? 機工士っていうのは……」
「昔の文明を発掘し、再現する偉大な仕事……だろ?」
「そうそう。ええとディリータだっけ。お前頭いいな」
「何回も君がそう言っていたからな。嫌でも覚えるさ」
「本当に好きなんだね。ここの仕事が」
「まあな。あ、そうだアルガス。お前のそのボウガンなんだけど」
「ん?」
「ちょっと貸してくれないか?」
「はぁ?」
「悪いようにしないって!」
「……あ、ああ」


 目を輝かせながらそう言って手を伸ばすムスタディオに、アルガスは多少戸惑いながらも素直にボウガンを渡した。
 ムスタディオが持っているポーチから何本か工具を取り出し、弓を弄り始めた。


「ここをこうして……っと。よし、お待たせ!」


 ムスタディオから返されたボウガンを、アルガスはじっと見た。


「? 何やったんだ?」
「ちょっとした改造さ。狙いが良くなったと思うよ」
「特にこれといって変わったところは……」
「使ってみれば分かるよ。ほら、そこに射撃スペースがあるからやってみろって」
「……マジかよ」


 半信半疑のアルガスだったが、ムスタディオに押されて射撃場の的の前に立ち、ボウガンを向けた。
 放った矢はまっすぐ的に飛び、的の中心を射抜いた。


「おお!」


 よほど良い手ごたえがあったのだろう、アルガスは興奮した表情をムスタディオに向けた。
 ムスタディオは「言っただろ?」と得意げだ。


「工賃はタダにしておいてやるから、その弓、これからも大切に使ってくれよな」
「いいのか? 平民って金に困ってるんじゃないのか?」
「別に裕福じゃないけど、オレとしては自動弓のファンが増えるほうが大事だな。それとも銃も使ってみる? アルガスなら練習すればすぐ上達すると思うぜ」
「……す、少し興味がある」
「じゃあ夕食食べたら教えてやるよ」
「マジ!? やったぜ! ……あ」


 ラムザとディリータが意外そうな表情で見ていることに気付いたアルガスは、気まずそうに咳払いをした。


「い、いいだろ……ボウガンが得意な騎士見習いなんて馬鹿にされるのがオチなんだぜ。ましてや銃なんて、滅多にお目にかかれないだろ……」
「そうじゃないよ。ただ、アルガスがこんなに楽しそうなの、初めて見たなと思って」
「お前らには分からないさ。身分っていう現実を見なくても過ごせてきたお前らには、な」


 アルガスはラムザとディリータを見て、そう言った。
 かたや貴族の中の貴族。かたや平民出身。にもかかわらず、今でも自然に隣同士で座っている。
 それを見て正直、ありえないと思った。だが、付き合ってみればディリータは頭の回転が良く、ラムザは本心でディリータを信頼している。
 アルガスの知っている平民は、いつも卑屈そうだった。貴族のくせに卑怯者だと、陰口をたたいていた。だから卑しい奴らだと見下していた。


「……でもさぁアルガス、オレ達身分は違うけど友達になれるよな」
「友達?」


 そしてムスタディオ。彼は言葉遣いこそ失礼だが、その視線には卑屈さも暗さもなく、正直なところ一緒にいて楽しい。


(そうか……本当に卑屈で閉じこもっていたのは……)


 気づけば何か重いものが身体からなくなったような気がした。そしてアルガスはムスタディオに言った。


「ま、平民のダチっていうのも悪くないかもな。っていうか……オレ達もう友達だろ?」


 笑ったアルガスにラムザとディリータは一瞬目を丸くしたが、すぐに互いの顔を見合わせて、一緒に笑った。

 


 

(3)

――翌日、ゴーグの教会にて――



「つまり、あなた方の要求は、我々が発掘したクリスタルを渡してほしい……そういうことですかな?」


 機工師ベスロディオの問いに、ウィーグラフが答えた。
 何故ウィーグラフがこのゴーグの町へ来たのかというと、ゴーグで聖石と呼ばれるクリスタルが発掘されたからだった。
 その情報を知ったダイスダーグは、きっと教会と接触したいと思ったのだろう。戦争に敗北し民衆の心が離れようとしている王家だけでは畏国の平和は作れない――そこでダイスダーグが目をつけたのが教会だったということだ。
 ダイスダーグはラムザに言った。民衆の心を掴むことが平和への近道であり、ベオルブ家の繁栄にも繋がると。
 そして、今や民衆の代表となったウィーグラフが心を許すとすれば、戦争と策略に汚れた自分ではなく、何も知らないラムザであると。


(とは言え……今はウィーグラフと話をする状況じゃないな。まずは相手の様子をうかがわないと……)


 ラムザ達は小さな教会の後方で、ベスロディオとウィーグラフの会話を見守っていた。


「ああ。あの石はただの美しい石ではない……ゾディアックストーンと言って、聖アジョラの伝説にちなんだ由緒正しい神器らしい」
「元々教会の持ち物と、そう言われるのか?」
「そうではない。教会の目的はただ一つ、民衆の心をひとつにすること。だから私は教会の犬と言われようと、彼らに協力をしている……そして民衆の信頼を得るために、伝説を利用したいのだ。ここにも同じく、星座が刻まれたものがある」


 ウィーグラフは懐から、ひとつの石を取り出した。
 白く輝くその石には、白羊の紋章が刻まれていた。


「ゾディアックストーン……実在していたのか」
「知っているのかディリータ」
「ああ。ムスタディオは知らないかもしれないが……グレパドス教にわずかでも触れていれば、誰もが聞く伝説に出てくる石だ」


 ――太古の昔、まだ大地が今の形を成していなかった時代。ルカヴィ(悪魔)が支配するこの大地を救わんと12人の勇者がルカヴィたちに戦いを挑んだ。
   激しい死闘の末、勇者たちはルカヴィたちを魔界へ追い返すことに成功し、大地に平和が訪れた。


「その時の勇者たちは黄道十二宮の紋章の入ったクリスタルを所持していたため、人々は彼らをゾディアックブレイブと呼ぶようになった……そういう伝説さ」
「その後も時代を超えて、人類が救済を求めた時勇者たちが現われ世界を救った……教会はその伝説になぞらえて、ゾディアックブレイブを結成しようとしているのか」
「勘がいいな。流石はベオルブ家の者達ということか」


 ディリータとラムザの言葉に、ウィーグラフは感心した様子で笑った。


「成程……あなた方の要求とその理由はよく分かりました。ですが少し待ってはいただけないか」
「もちろん。だが、差し支えなければ理由を教えてもらえないか?」
「同時期に発掘された遺物に、同じく星座の紋章が刻まれていたのだ。まだ再現もできていないが、もしかしたらその遺物を動かすために、この石が必要なのかもしれない……」
「つまりそれを検証するまで、手元に聖石を残しておきたいということだな」
「はい。それに、この石は私一人の所有物ではない故、機工士の組合で結論を出すまでは」
「そういうことならいくらでも待とう。教会としては勿論、手元にあるに越したことはないだろうが、居所がはっきりしていれば教皇殿も納得されるだろう。ところで……君はラムザと言ったな」
「……はい」
「ミュロンドの方が近いだろうに、わざわざここまで私に会いに来るとは……ダイスダーグ卿は何を企んでいる?」
「企む?」
「私の知るダイスダーグ卿は、目的のためなら手段を選ばない冷徹さを持った男だった。五十年戦争でその存在を知った時は、戦後はラーグ公をそそのかして、自らの権力を強めるものだと踏んでいたが……」
「兄はそんな人じゃ……」
「そうか。私の思い違いか、それとも何か考えを改めるきっかけがあったのか……まあいい。ダイスダーグ卿の提案のおかげで、我々が今の地位にいられるのも事実。それに君はダイスダーグ卿から特に何かをそそのかされて来たわけではないようだ。君の用件を聞こう」
「……僕を試していたんですか?」
「悪いがそういうことになるな。それだけ君の兄上は警戒すべき切れ者だということだ」
「確かに貴方が言うように、兄からはただ、貴方と会って欲しいと言われただけで……特に何かを交渉しろとは言われていません。でも貴方に聞きたいことがあります」
「何だ?」
「昼間、貴方が演説しているのを聞きました……僕自身は貴方の言うような世界になればいいと、そう思っています。でも、本当に身分なんて関係なく、みんなが立ち上がり国を作る未来が来ると貴方は考えているのですか」
「……」


 ラムザの言葉に、ウィーグラフは一瞬驚いたような様子だった。だが、すぐに「何故そのようなことを?」とラムザに聞き返した。


「確かにみんながそれを願えば、実現すると思います。でも、貴族だけでもそれぞれの思惑があって、それで争いが起きようとしている……全員がそんな風に主張すれば、争いばかりで何も解決しないんじゃ」
「確かに君の言う通り、今の世の中は誰が誰に取り入り、騙し、争うために知識も知恵も使われているのかもしれない。だがラムザよ、それは貴族が支配者であるという前提で世の中が作られているからそうなるのだ」
「え?」
「今の世は、知恵のあるものがない者を利用する世の中。知識人は他人を利用することでさらに権力を得ることができ、知識のない者、すなわち民衆は知識がないゆえに誰に支配されても世の中は変わらないと思っている。だが民衆が知識と知恵を持てばどうだろうな」
「……民衆を簡単に利用することができなくなる?」
「利用すればいいという考えではなく、真にどうやれば民衆が利用されることを受け入れるか、支配者は考えなければならなくなるだろう。そうすれば誰かを蹴落とし争わなくても、民衆のための政治が行われるようになる……もちろんすぐには平等な世の中など来ないだろうが、いつかは身分など関係なく、誰もが自由に生きられる未来が来るだろう。私はそれを望んでいる」
「……」
「これで君の疑問は解決したか?」
「……ありがとうございます。貴方のその考え方、尊敬に値します」


 その言葉を最後に、ラムザはベスロディオと共に教会を去った。



「で、親父。どうするんだよあの石」


 帰り道、ムスタディオは杖を突いて歩くベスロディオに話しかけた。


「うむ……どうしたものか。ウィーグラフと言う男が信用に足る人物であることは分かったが、これを教会に渡すことに反対する者も多くいるのは事実だ」
「反対派の人はやはりその遺物というもののために?」
「まあ、それもあるが……」


 ベスロディオはそう言いかけたところで、前方から昨日集会所にいた機工士の一人が慌てた様子で駆け寄って来た。


「た、大変だベスロディオさん!」
「どうした」
「ルードヴィッヒが……集会所に!」
「何だと!?」


 機工士の言葉に、ベスロディオとムスタディオが顔色を変えた。


「ムスタディオ、ルードヴィッヒって?」
「ここの商売を牛耳ってるバート商会のボスだ……貴族に媚びを売ってオレ達から色んなものを奪っていく悪質な奴らだ。親父、聖石は?」
「あの石なら例の場所に隠してある。ヤツらには開けられない場所だ」
「……わかった。とりあえず先に行くぜ!」
「僕達も行くよ、ムスタディオ」


 足の悪いベスロディオを置いて、ラムザ達は集会所へと急いだ。




「言っているだろう、命が惜しければ聖石をこちらに渡せ!」
「てめえ! ルードヴィッヒ!!! みんなを放せ!」


 集会所へ着くと、機工士達はすでに柄の悪そうな集団に拘束されており、その中心にいる恰幅の良い男に向かってムスタディオは叫んだ。


「ベスロディオの息子か……ちょうどいい。貴様なら知っているのだろう?」
「アレを奪ってどうするつもりだ? またあの時のように貴族か教会に高値で売りつけるつもりか!」
「ふん……技術者は黙って作ることだけに専念すればいいのだ。完成した物の扱い方も知らぬ馬鹿どもめ」
「馬鹿はてめえだ! オレ達は戦争や金儲けの道具を作ってるんじゃない!」
「御託はいい。武器を下ろして聖石を渡せ。さもないとここにいる仲間達の血を見ることになるぞ」
「……くっ」


 ムスタディオは持っている銃を投げ、そしてラムザ達も剣を足元に置いた。


「聖石は……オレの部屋のベッドの下だ。2階の突き当たりにある」


 ムスタディオの言葉を聞いて、ルードヴィッヒは配下のうちの一人をそこへ向かわせた。
 少しして、黄色いクリスタルが配下の男からルードヴィッヒの手に渡った。


「おお……これが伝説のゾディアックストーン! これで枢機卿様も喜ばれる!」
「! 枢機卿だと……貴様は教会とグルなのか!?」
「なんだこの小僧は……取引先か何かか?」


 ルードヴィッヒが不審そうな目でラムザを見た。


「そんなことはどうでもいい! 僕の問いに答えろ……!」
「これさえ手に入れれば用済みだ」


 ルードヴィッヒはそう言って配下の数人と集会所から逃げるように出ていった。


「待て……!」
「おっと……てめえらの相手はオレ達がしてやるぜ、小僧ども」


 残されたルードヴィッヒの部下達が行く手を阻み、そしてラムザ達は足元の武器を手に取った。


「まさか教会がこんな手を用意していたなんて……」
「ウィーグラフもその一味ってことかよ。失望するぜ!」


 アルガスがそう言って舌打ちした。ラムザも同じ気持ちだったが、同時に本当にウィーグラフがこんなことを容認するだろうか、という疑問もあった。


(さっき教会で言っていたことは本気だったように思えたけど……でも今はそんなことを考えている場合じゃないか)


「待て!」


 すぐにでも争いが始まろうという状況の中、一人の男の声が外――ラムザ達の背後から響いた。
 ラムザが振り返ると、そこには拘束されたルードヴィッヒの喉元に剣を向けるウィーグラフの姿があった。


「……ウィーグラフ?」
「双方とも剣をおさめろ。先程ベスロディオ殿が話していただろう。ここには君達の命ともいえる、大事な発掘物が多くあるはずだ。貴様も命が惜しくば、配下に武器を棄てさせろ」


 ウィーグラフが刃をルードヴィッヒに近づけると、ルードヴィッヒは怯えた声で部下達に武器を棄てるよう指示した。


「ウィーグラフ……何故ここに」
「ベスロディオ殿が聖石を渡さない根拠とした発掘物がどういう物か、私も一目見たいと思ったのだ。そこで道中、ベスロディオ殿から事情を聴いた」
「……ま、待ってくれ! ここで発掘された聖石を教会へ献上するようにと命じたのは、貴様らのほうだろう! 何のつもりだッ!?」
「枢機卿殿がどのように貴様らに命じたのかは知らないが……」


 ウィーグラフは拘束していたルードヴィッヒを地面に投げ捨て、そして剣を向けた。


「このような手法では野盗も同然! おおかたこれを功績として、枢機卿や貴族に取り入るつもりだったのだろうが……私は貴様のような男を決して許さない!」
「ひっ……」
「死兆の星の七つの影の経絡を断つ……! 北斗骨砕打!」


 ウィーグラフの剣技によってルードヴィッヒは吹き飛ばされ、そして地面に叩きつけられそのまま気を失った。


「安心しろ……命は助けてやる。貴様らもその男を持って早く去るのだな!」


 すっかり怯えた様子のルードヴィッヒの配下たちは、ウィーグラフの言葉に従い、倒れたルードヴィッヒを連れて一目散に逃げ去っていった。





「……ありがとうございます。助かりました」


 静けさを取り戻した集会所で、戻って来たベスロディオがウィーグラフに頭を下げた。


「いや、謝るべきはこちらのほうだ。枢機卿には私の方から責任をもって伝えておこう」
「……あ! そういえば聖石!! あのルードヴィッヒってヤツが持っていったままじゃ……」
「ああ、それなら大丈夫だよ」


 アルガスの言葉にその場の全員が「しまった」と言わんばかりに固まったが、ムスタディオがニヤリと笑った。


「ムスタディオ……どういう意味?」
「実は……あまりにもあの石が精巧な感じだったからさ……作ってたんだよ。コピーってやつ」
「に、偽物……!?」
「あったりまえだろ。そんな大事な石、オレの部屋のベッドの下にあるわけないじゃないか」
「ムスタディオ……君ってやつは」
「そんなことをしていたのかまったく……」



 悪いことを思いついた子供のように笑うムスタディオに、ラムザとベスロディオはあきれた声を出した。


「では、この件は解決ということだな。発掘物の見学は、後日改めてするとしよう」
「ウィーグラフ。聖石は教会にどう報告するつもりなんですか?」
「これを奪う事は教会にとってかえって民衆の心を離すことになる。それが答えだろう? 枢機卿の思惑にもよるが……今後強硬な手段に出ないよう、私の信頼のおける人間をここに残すことにしよう」


 また会おう。
 そう言ってウィーグラフは去っていった。


「ウィーグラフ……実際に戦っているのを見ると、ますますオーラがあるな。あの剣の腕も相当な努力をしたんだろう」
「うん。凄い人だったね。また会いたいな」
「ああいうのがたくさん出るようになったら、本当に身分社会なんてなくなるんだろうな。身分ばかり気にしてた人生が馬鹿みたいだぜ」


 アルガスの言葉を聞いて、ディリータはアルガスがゴーグに来てから心境に変化があったことを改めて感じた。
 今まで自分とラムザの関係をどこか面白くなさそうに見ていたのに、今ではムスタディオに対しても自分に対しても、警戒心のようなものを全く感じない。
 人は些細なことでも、きっと変わることが出来るのだろう。


「身分社会がなくなれば、オヴェリアも……」
「どうしたのディリータ」
「……な、なんでもない」
「さすがに王女と仲良くなろうっていうのは、図々しいにも程があるだろ」
「そ、そういうのじゃない! 誤解だ誤解!」
「慌てるなって冗談だよ。平民優等生!」
「ラムザ、ディリータ、アルガス」


 じゃれあっている三人に、ムスタディオは笑顔で近づいた。


「お前らもありがとうな」
「いや……僕達あまり役には……」
「そんなことないよ。オレ一人じゃ、パニックになってたかもしれないしな」
「そうかなぁ……」
「そういうことにしとけって。ところでさ……一つ聞いていいか?」


 今までの笑顔が一転して、ムスタディオは真剣な表情でラムザ達に尋ねた。



「なんでラムザ達はここに? お前達もここの技術を戦争に利用するつもりなのか?」
「……ムスタディオ」
「いや……お前らがいい奴だっていうのは分かるよ。友達だって本気で思ってる。だから聞いておきたいんだ」


 ムスタディオいわく、自分がまだ小さい頃、ベスロディオをはじめとする機工士達が発掘し再現した投石器が、バート商会に見つかり、奪われたことがあったらしい。そしてその投石器は、鴎国に高値で取引されたと、後に風のうわさで知ることになった。
 当時の機工士達は一丸となり投石器のからくりを解き明かして図面を作り上げたのだが、一晩にして図面も完成品も奪われ、当然意気消沈したという。
 逆らえば今後の夢も奪われると判断したベスロディオは逆らうことをやめたが、中には「絶対に許さない」と自分で作った銃を持って町を飛び出した者もいたという。


「今こうしてまた町に活気が戻って来たのは親父があの時泣き寝入りしたからだと思ってる。だから繰り返したくないんだ。オレ達の技術は貴族同士の争いのためにあるんじゃない」
「だからさっきあんなことを……教会に聖石を渡すことに反対しているのも、そういうことか」
「友達がそんなことの片棒を担いでるとか嫌だろ」
「安心してくれムスタディオ。僕は絶対に君達の技術で戦争なんて起こさせない。いや、今の僕の力だけではそんなことできないのかもしれないけど、最後まで反対してみせるよ」
「ああ、オレも絶対にお前の技術を悪用しない!」
「ダイスダーグ兄さんは……どうなんだろう」
「大丈夫だラムザ。ウィーグラフの信頼を得て、ゴーグで友人ができたと報告すれば、ダイスダーグ卿もそれ以上は望まないさ。それにあの人が戦争を望むなら、王女の件も含めて違う方法を取っただろう」


 ディリータの言葉に、ラムザ達だけでなくムスタディオも安心した様子だ。


「じゃあアルガス、お前のそのボウガン大切に使ってお前のところでもその良さを広めてくれよな。ランベリーならウォージリスから船ですぐなんだろ?」
「すぐってわけじゃないが……そうなるといいな。ま、オレみたいな見習いじゃ、きっかけになるかどうかも分からないけど……オレはオレのやり方で、絶対出世してやるぜ!」
「お前が出世したら遊びに行くから、その時は泊めてくれよな」
「いや、出世しなくても来いよ!」




 そのままラムザ達は和気あいあいとした様子でその日をゴーグで過ごし、そして翌日、ガリランド行きの定期便でガリオンヌへと戻っていった。
 ダイスダーグにおおよそのことを報告すると、ダイスダーグは「そうか」と満足気な様子だった。


「ダイスダーグ兄さん……もう一度聞いてもいいですか? 何故僕をゴーグに?」
「その結果が答えだろう? ラムザ」
「……?」
「王女の時もそうだが、お前には相手を警戒させず、心を開かせる才能があると私は思っている。私にはない才能だ」
「兄さん……」
「ディリータもアルガス殿も、少し見ないうちに良い顔になったな。アルガス殿……数日前に侯爵から戻るようにと文書が届いている。ランベリーに戻り、良い報告をするといい」
「……! ありがとうございます!」
「そしてラムザとディリータだが、お前達は正式に北天騎士団に入ってもらいたい。十分に活躍できよう」
「兄さん、そのことなんですが……正規兵ではなく、いち傭兵として雇っていただけないでしょうか」
「……何だと?」
「王女の件とゴーグの件で思いました。もっと強くならねばと。そして僕はもっと畏国のことを知りたい。その中で僕にできることを見つけたいのです……そのためには身分でいきなり上に立つのではなく、もっと積み重ねていきたいのです。駄目でしょうか」
「……まあいいだろう。屋敷の出入りはさすがに認めるが、騎士団の中ではいち傭兵としての身分で使われるぞ……それでもいいか?」
「はい」
「……ディリータもか?」
「いえ……私はラムザとも違う道を歩むつもりでおります」
「何?」
「ディリータ?」


 ディリータの神妙な顔つきに、ダイスダーグだけでなく、ラムザやアルガスも驚いた様子だった。


「ディリータ。分かっていると思うが、何の後ろ盾もないお前がここを離れるとなれば、ラムザとは違い、本当に今の身分ではいられなくなるぞ」
「覚悟しています……ですが私は私のため、そしてラムザのためにも、己の力で強くなりたいのです」
「分かった。ティータはどうするつもりだ?」
「できればティータは……ここに残してはいただけないでしょうか。我儘な話であることは承知していますが……」
「いや構わん。お前は十分ラムザに尽くしてくれた。それくらいの願いは受け取ろう。それにティータも聡明な娘だ」
「心遣い、感謝いたします」
「ディリータ……」


 寂しそうなラムザに、ディリータは「悪いな」と苦笑した。


「安心しろラムザ。少しの間別の道を歩むだけだ。俺がお前の親友であることには変わらないよ」
「どこへ行くつもりなんだい?」
「まずは教会だ。教会なら身分関係なく受け入れてくれるし、畏国中を知ることが出来る。ラムザは?」
「僕はまずは傭兵として、自分の腕を磨くつもりだよ。アグリアスさんやウィーグラフのように、ある程度は力で語れるようにならなきゃ」
「オレも負けないぜ。特にディリータ、お前にだけは絶対に負けないくらい出世してやるからな! だからお前もそこら辺でくたばるなよ!」
「ああ」
「全く、戦争のない世の中というのは思いのほか想定外のことばかりだな……まあ悪くはないが」


三人の会話を聞いていたダイスダーグが、そう言ってため息をついた。


「ダイスダーグ兄さん……?」
「いいかラムザ。私はベオルブ家の当主として、弟が家出紛いのことをする恥を受けるのだ。それに釣り合う未来を作ってもらわねば困るぞ」
「はい。その言葉重く受け止めます……ごめんなさい」
「構わん。それに、これが平和というものなのかもしれん。頑張るのだぞ、ラムザ」


 ダイスダーグの言葉に「ありがとうございます」と深く頭を下げ、ラムザ達は部屋を去った。


「本当に……私は父上ととんでもない約束を交わしてしまったのかもしれないな」


 誰もいなくなった部屋で、ダイスダーグは"あの時"のことを思い出した。
 そして思う。もしもあの時父が生きたいと願わなければ、今頃はどうなっていたのだろうか。きっと王家の分家であるラーグ公とゴルターナ公の争いは徐々に表面化し、自分はラーグ公を利用して戦争を起こさせることで、より強い地位を手に入れようと考えたに違いない。


(だが、ラムザはベオルブ家に良い物をもたらしてくれた。教会とランベリー、そして民衆……その力を利用すればラーグ公などに取り入らなくとも、畏国はベオルブ家の思い通りになるかもしれん)


 ラーグ公――あの男は危険だ。昔からの親友ではあるが、その気になれば自分を処刑することも、糾弾することもできる。何よりも"あの事"を知っている。弱味を握られていると言ってもいい。
 だから早めにあの男の支配下から逃れ、自分の思い通りに事を進めてしまいたい。


(あの男だけでなく、別のパイプも手に入れる必要があるな)


 窓から外を見ると、ディリータ、アルガスがそれぞれの道を進むべく、屋敷の前で別方向へと去り、二人を見送ったラムザも少し大人びた顔つきで屋敷へと戻っていくのが見えた。
 人も時代も変わっていく。ならば自分もまた、次の策を巡らせねばならない。


 そう、全てはベオルブ家のために。

 


 

(4)

――ライオネル城 城内にて――




「ドラクロワ枢機卿……」


 ゴーグでの任務を終えたウィーグラフは、ラムザ達と約束したように、教会のナンバー2と言える存在――ドラクロワ枢機卿を訪ねていた。


「これはウィーグラフ殿。話はミュロンドの使者からおうかがいしております。して、成果の方はいかがでしたかな?」
「報告の前に、確認したいことがある……バート商会のルードヴィッヒはご存知か?」
「……ええもちろん」
「あの男に聖石のことで何か?」
「……聖石を献上させるよう説得しなさいと命じたのは私です。ですが、その様子ですと穏やかな手段を取らなかったようですね」
「ああ。だが、私に何も言わずそのような手段を取りかねない男を使ったのは何故だ。貴方は独自に聖石を求めているのか?」


 ウィーグラフの問いに対して枢機卿は静かに立ち上がり、そして懐から赤い聖石――スコーピオを取り出した。


「ウィーグラフ殿……来たばかりの貴方はご存じではないでしょうが、この石はただの神器ではない。人の心をうつし、そして世の中を変えるだけの力があるのです」
「……まさか。さすがにそれは伝説に過ぎないだろう」
「まあにわかに信じることは出来ないかもしれませんね。ですが貴方の話を聞く限りでは、ルードヴィッヒの手に渡らなくて良かった。汚く、弱い心は、聖石をけがしてしまう……」


 スコーピオを見つめながらそうつぶやいたドラクロワは、今度はウィーグラフに真っ直ぐ視線を向けた。
 そして静かに告げた。


「ウィーグラフ殿、貴方も十分に注意なさい。人の弱い心を、聖石は見逃さない……」
「……どういうことだ?」


 まるで何かを見透かすような視線だ――ウィーグラフは自分の背筋が凍るような感覚を味わったような気がした。相手から殺意を感じたわけでもないというのに、不思議な感覚だった。


「まあいい。とにかく、ゴーグの聖石については、こちらの管轄下に置かせてもらう。勝手な真似は貴方の聖者としての格を落とすことになると、そう覚悟願いたい」


 ずっとここにいると妙な気分になりそうだ。そう感じたウィーグラフは、それだけを告げて立ち去った。


そして残されたドラクロワ枢機卿は、再度スコーピオを見つめた。


「お気をつけなさいウィーグラフ殿。貴方のような願いの強い方ほど、闇に落ちた時に強い力を生み出すのです……そして願いましょう。この世にまだ、自浄の力が残されていることを……」


 ドラクロワのその言葉にこたえるように、スコーピオは静かに輝いていた。

 

~To be next story~

 

戻る

 


あとがき

綺麗なアルガス書いてて楽しかったです。アルガスが生存ルートに行くには、ラムザとディリータの関係を認めるというか、「そういうのやめよう」と開き直らないといけないのかなと思って、気がついたらムスタディオと友達になってた。この時点だとラムザに対するウィーグラフが強すぎるので、ウィーグラフに関しては今後の展開でもっと活躍させたい。聖石は暴れないけどガッツリ存在しているので、ドラクロワ枢機卿は今後もキーパーソンになる予定です。

inserted by FC2 system