IF FFT ~もしも獅子戦争がなかったら~

-番外編7 ハイラル兄妹-

 

※過去作品読まなくてもいいように最初に補足です。

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第一章番外編1:ベオルブ家に残ったティータは、ザルバッグと共に廃村となった自分の生まれ故郷へと訪れる。両親を弔ったティータは前向きに生きる決意をし、また、それを見たザルバッグはティータを妹であると心から認めるようになる。そしてティータはザルバッグの補佐官として働くようになった。


第二章中編:ダイスダーグは南天騎士団にパイプを持つため、オルランドゥ伯を仲人に、ゼルテニアの貴族の娘と弟ザルバッグの縁談を進めていた。一方ディリータはラムザとは別の形でベオルブ家を出ており(一章後編)、教会に行った後諜報員として南天騎士団に派遣される一方で、オヴェリアのためにその身を捧げる決意をしていた。


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「ティータ。もうすぐゼルテニアに着くぞ」


 チョコボ車に揺られながら、ザルバッグは目の前で本にかじりつくティータに声をかけた。
 何故ゼルテニアに向かっているかと言うと、ザルバッグの兄にしてベオルブ家の家長であるダイスダーグが、南天騎士団長オルランドゥ伯を仲人に、ザルバッグと南天騎士団の重鎮の娘による縁談話を持ちかけてのことだった。
 父バルバネスも行きたがってはいたが病床にあり、オルランドゥへと宛てた手紙を書いてザルバッグに託していた。
 相手はあったことのない女性だが、ザルバッグにとっては特に抵抗のある話ではなかった。貴族として政治のための婚約をすることは当たり前だった。兄は五十年戦争で疲弊した畏国を変えようとしている。そのためにはまず、北天騎士団と南天騎士団が手を取り合う必要があり、今回の縁談はそのためのひとつの布石なのだ。
 しかしティータを見てみると、彼女は声をかけられても本を読むことをやめようとしない。出発前にある筋からベオルブ家に贈呈された本で、ティータが興味を示したので渡したのだが、チョコボ車に乗っているここ数日はずっと本の虫だ。


「……ティータ、そんなにその本は面白いのか?」
「ええ。特にここの……三女ルーシアの物語が。庭師の男性と恋に落ちて父の反対を押し切り駆け落ちをする話で……」
「ほう。ティータは身分違いの恋に憧れるのか?」
「え!? いえ、そういうのでは……で、でもアルマのように素敵な男性と出会いたいとは思ってます! もうザルバッグ様ったらそんな質問を正面からするなんて! これから縁談に行くのに女性の心を何一つ分かっていませんわ!」
「す、すまん……」
「あっ……すみません。私としたことが……失礼な事を……」
「構わないさ。確かに騎士団長の補佐官としては失言だが、"妹"なら"兄"にそれくらいの事を言って当然だ」


 ティータは今回、表向きはザルバッグの補佐として同行を許可した――と言うより本人と父や兄が連れて行けと言うので同行させることにした。ベオルブ家の養子とは言え身分が低いティータだったが、勤勉で几帳面な彼女は確かにザルバッグにとっても有能な人間だった。女性を同行させることで、相手に安心感を与える意味もあるのだろう。
 しかしティータが身分違いの恋をするというのは、相手は貴族なのだろうか。それとも彼女の言う本の人物と同じく平民の男なのだろうか――そんな疑問も一瞬沸いたが、どちらにしても彼女の本当の兄であるディリータは簡単にティータの結婚を認めないのだろう、とザルバッグは感じた。


「そう言えばディリータもゼルテニアにいるのだったか。だから行きたかったのか?」
「それもあります。兄に会えるかは分かりませんが、兄がどんなところにいるのか知りたいですもの。でもそれ以上に、ガリオンヌしか知らないから……別の土地を見てみたくて」
「そうか。なら帰りは本ではなくもっと景色を見ておくといい」
「そうですね。それにしても……」


 ティータは本を閉じて身体の横に置き、目の前のザルバッグに対して身を乗り出し小声で尋ねた。


「どうしてダイスダーグ様はご結婚されないのですか? アルマやザルバッグ様の縁談にはあんなに熱心なのに」
「兄上は畏国を平和にすることに誓いを立てたから婚約の誓いは交わせないそうだ」
「……余程結婚したくないのですね」


 ティータの発言に、ザルバッグは「兄上が聞いたら悲しむぞ」と苦笑した。




――ゼルテニア城下町 グリムス男爵家 邸宅――



「お嬢様。まもなく先方がご到着されます……伯爵殿も向かわれているとのことです」


 ディリータは着飾られた自分より少し年上の雇い主の娘である女性の前で跪いた。
 女性が「分かりました」と短く答えるのを聞き、ディリータは立ち上がり応接室へと向かっていた。


(グリムスめ……まさかこんな仕事までさせるとは……)


 教会から出向という形でゼルテニアに行ったディリータは、南天騎士団の直属の傘下にある黒羊騎士団の諜報員として、黒羊騎士団の団長であるグリムス男爵のもとで世話になっていた。
 出向の諜報員でしかないディリータだったが、グリムス男爵はディリータのことをいたく気に入り、ディリータがゼルテニアに滞在している間はまるで自分の息子のように可愛がっていた。実際に「身寄りがないのなら養子にならないか」と提案してきたが、「私は神に仕える身ですので」と教会の者らしい言い訳でかわしたくらいだ。
 とは言えまさか客人の相手という執事のような仕事を任されるとは――さすがのディリータにとっても計算外だった。


(男爵は北天騎士団の幹部が相手だと言っていたが……知り合いだと面倒だな)


 ベオルブ家を出た時は「教会へ行く」としか言っておらず、その後ティータには「ゼルテニアにいる」と一度手紙は送っているので、ここで自分の存在に気づかれても別に後ろめたいことはないのだが、ディリータには誰にも言っていない大きな隠し事があった。
 
(まさかラムザじゃないよな……いや、さすがにそれはないか)


 グリムス男爵にも話していない大きな隠し事――それは自分がルザリアでオヴェリアと密会し、オヴェリアが王侯貴族をまとめるための手伝いをしていることだ。
 あの時以降、ディリータは教会の人間、諜報員という立場を利用して、オヴェリアが王宮で立場が危うくならないように南天騎士団の中を探っていた。


(ああ、こんなことなら男爵の令嬢が誰に嫁ぐのかも調べておけば良かった)


 グリムス男爵は人格者ではあるが、南天騎士団では辺境を任される将軍であり、国を動かすほどの地位ではない。まさかそんな男爵が北天騎士団との橋渡しに利用されるとは考えが及んでいなかったのだ。


(まあいい……知り合いだったとしても、そいつにとってオレは身分の低い見習いだ。それにダイスダーグから与えられた使命で頭がいっぱいのはず。オレのことをああだこうだと嗅ぎ回るはずもないか)




「おお、ディリータ。娘も準備はできておったか?」
「はい。いつでもお伺いするとのことです」
「そうか。伯爵殿も夕方には到着されるだろう。さきに客人に挨拶をせねば。身だしなみは……問題ないかね?」
「ええ、大丈夫ですよ」


 いつになくせわしない様子のグリムスの様子からして、おそらく相手は"格上"なのだろうとディリータは察した。


「ところで……補佐官として同席させていただくにあたって、先方のことを知っておきたいのですが」
「ああ。驚くぞディリータよ。実はその相手なのだが……ベオルブ家の次男であり北天騎士団の団長、ザルバッグ・ベオルブなのだよ! すごいだろう!?」
「!?」


 興奮した様子で答えたグリムスに、ディリータは驚いた。


(ザルバッグだと!? こ、このオレがベオルブ家の動向を探り損ねていたとは……やるなダイスダーグめ)
「はっはっは、そんなに驚いてくれるとは光栄だよ。私は娘を連れて来る。ディリータよ、それまでは貴公に任せる。ちなみにあちらの補佐官は若いお嬢さんだ。補佐官と言っても妹君と聞いておる。粗相のないようにな」
「……は」


 まさかディリータがザルバッグらと知り合いとは知らないグリムス男爵は応接室の扉の前でディリータと別れた。


(アルマも連れて来たのか。アルマは教会の騎士と縁談が進んでいると聞くが……まあ彼女なら場も和んで助かるな)


 アルマやザルバッグならグリムス男爵への気遣いなど場の空気も呼んでくれるだろう。二人がしてくるかもしれない質問の回答を考えながら、ディリータは意を決して扉を開けた。




 そして扉を開け、扉に反応して席を立った客人を見てディリータは驚きの声をあげそうになったのを何とか堪えることとなった。
 「ディリータ!?」と驚いた様子で声をかけたザルバッグに……ではない。その隣にいる、茶髪の女性の姿を見ての事だった。


「えっ……」
「……」


 相手の女性――ティータも驚きのあまりに声を失いただ目を丸くさせている。当然だろう……義理の兄の補佐官として行った先に、血のつながった兄がいるのだから。
 もちろんそれはディリータも同じだった。何故ティータがザルバッグの"妹"として補佐官を兼ねて同行しているのか。


「でぃ、ディリータ……何故ここに。お前は教会に行ったのではなかったのか」


 ザルバッグのその質問はディリータもつい先ほどとは言え予想していた通りで、その反応にディリータはむしろ安心感さえ覚えた。
 もちろんどう答えるかも決めてある……が、どうしても隣にいるティータの存在が気になり、ディリータは自分でも驚くくらいに声を出せずにいた。


「……本日はグリムス男爵閣下にご招待いただき、そしてベオルブ家とのご縁談を快諾していただき、誠に感謝いたします。とても素敵なお屋敷で思わず見惚れておりました」


 気まずい雰囲気を壊したのは、ティータだった。ドレスの両端をつまみ、深々とディリータに対して辞儀をする姿は、完全に貴族の令嬢そのものだ。
 そしてザルバッグもティータの様子を見て合わせるように、拳を胸の前に置き、頭を下げた。


「ベオルブ家の次男、ザルバッグでございます」
「遠路であるにも関わらず有難うございます。私は黒羊騎士団所属、ディリータ・ハイラル。教会からグリムス家に派遣された者でございます……天下の北天騎士団の団長殿とこうしてお会いでき、光栄です」


 ディリータも内心の焦りを隠しつつ、扉を開ける前に考えた言葉と共に、ザルバックに対し頭を下げた。




 それからすぐにグリムス男爵とその娘が部屋に入り、貴族の縁談話らしい会話が行われていた。そつなく誠実な応対をしているザルバッグに対して、グリムス男爵はやはり少々浮かれ気味だ。男爵の令嬢もまさかの縁談相手に最初は緊張している様子だったが、ザルバッグと男爵の会話を聞いて現実味が出てきた上にザルバッグにほれ込んだ様子で、目を輝かせて二人の話を聞いている。
 その間ディリータは冷静を装ってじっと前を見据えていたが、一瞬視線をティータにうつすと、ティータもまた余裕さえ感じさせる微笑みを浮かべて双方の話を聞いている様子だ。


「いやそれにしても……ティータ殿でしたかな? さすがは天下のベオルブ家。実に聡明そうな美しいお嬢様だ。義妹と聞きましたが」


 ふとグリムス男爵の興味がザルバッグの横にいるティータに向き、視線を合わされたティータは優しい表情で答えた。


「はい。私は幼い頃、兄と共にバルバネス様に拾われた身でございます。身分の低い私達を実の子のように育ててくださり、教育もしていただき、こうして遠いゼルテニアまで来ることが出来ました。バルバネス様やザルバッグ様達には心より感謝しております」
「ティータ殿は随分とご苦労されたのですな。……ディリータよ」
「え? あ、はい……」
「聞いたであろう。ティータ殿はゼルテニアに来るのも初めてのようだ。なのにこのような狭い応接室で終わっては不憫だ……せめて屋敷内でも案内して差し上げなさい」
「……」


 男爵の提案に、ディリータはそっとティータに視線を移した。さすがのティータもこの提案に少し戸惑っている様子だったが、ディリータは一息ついて承諾の返事をした。


「ええとザルバッグ様……」
「行ってくるといい、ティータ」
「有難うございます……では、ディリータ様。どうぞよろしくお願いいたしますわ」
「……ええ」


 ディリータがティータをエスコートする形で、部屋を出る。
 それを目で追ったザルバッグ達の間で少しの沈黙が流れたが、グリムス男爵はゆっくりと腰を上げてザルバッグに告げた。


「ザルバッグ殿。じきにオルランドゥ伯爵もおいでになる。私も出迎えの準備がありますのでな……それにいくら我が家にとって良い縁談とは言え、当人同士が納得できぬのならば仕方のない事。短い期間ではありますが、娘と直接話をして慎重に決めていただきたい。もちろん我が娘を気に入っていただけるなら父としても至上の喜びです」
「……お気遣い感謝いたします。あとグリムス閣下。ディリータ殿は教会からの出向と聞きましたが、どういう経緯でこちらに?」
「出向された時はただの年若い傭兵と変わらなかったのですが……彼は非常に頭もよく、輝いた目をしている。要は気に入ってしまいましてな。まだ教会の仕事でここを出ることも多いのですが、いずれは養子として正式に迎えたいと思っているのです」
「そうですか……確かに良い目をしておりましたね」
「では、ごゆっくりおくつろぎください。何かあれば外に使用人もおりますゆえ」


 そう言ってグリムス男爵も応接室から出て行った。


「ああ、びっくりした。ティータは大丈夫だろうか……」


 扉が閉められたのを見送り、ザルバッグは一息ついて言葉を漏らした。ディリータがまさかここにいるなどと思ってもいなかったザルバッグもまた、内心緊張していたのだ。しかしすぐに目の前に自分の婚約者となる女性がいることを思い出し、我に返る。


「も、申し訳ございません……」
「妹さんが心配なのですね」
「ええまあ……」
「ディリータならば大丈夫です。父も申していたように、彼はとても賢い子ですから」
「それは知って……いえ、感じておりますが。すみません……私もどうも、年の近い女性とどう接して良いのか疎いものでして」


 そう言ってザルバッグは苦笑した。それに対し、何も知らないグリムス男爵の娘は楽し気に微笑みを返していた。




――いっぽうその頃。


「兄さん……こうして会えるなんて。元気そうでうれしいです」


 ディリータについて行って屋敷内を歩いていたティータだったが、周りに人がいないところまで歩いたところで静かな声でディリータに語り掛けた。


「……こんな形で会うつもりはなかったんだ」


 まっすぐディリータを見て微笑むティータの視線から顔を逸らしながらディリータはゆっくりと答えた。


「お前も元気そうで嬉しいよ。……ザルバッグとは上手くやってるんだな」
「ええ。ザルバッグ様もダイスダーグ様も、とても優しくしてくださるわ。もちろんラムザ様も。あのね兄さん。今度ガリランドのアカデミーで少しだけだけど講義を受けるの」
「そうか……よかった」


 貴族の令嬢が板についたティータの振る舞いや、心から幸せそうな表情で近況を語る様子に、ディリータはようやく笑うことが出来た。
 確かにオヴェリアを守るため、彼女の為にこの国を良くするため、この身を尽くすことを誓ったが、それでもティータのことは気がかりだった。
 戦う力も、グリムスの娘やアルマのようにどこかの良家に嫁ぐこともできないティータをベオルブ家に残して大丈夫なのだろうか、と。だがそれは一方的な心配だったようだ。


「……聞かないのか、オレのこと」
「聞いてもいいの?」
「お前……本当に賢くなったんだな」
「兄さん……」
「確かにオレは教会からの出向で今はこの家で世話になっている。実際男爵は、身分もないオレに対してとても良くしてくれているよ……だが、それじゃダメなんだ」
「兄さんにはやりたいことがあるのね」
「ああ……だからオレはベオルブ家には戻れない。そしてグリムス家にも」
「……」


 ディリータの言葉を聞いて、ティータは俯き目を伏せた。


「……ダメよディリータ兄さん、そんなの悲しいわ」
「ティータ?」
「兄さんが何をしようとしているのかは分からない。でも、兄さんはそのために私達もグリムス様達も、捨てようとしている……そんなのダメよ」
「……」
「愛情は利用していいのよ、兄さん。誰に反対されても、みんなが敵になっても、私は兄さんの妹として兄さんを愛している。だから兄さんも私達をもっと頼ってよ……帰る場所くらい残させて」
「ティータ」


 人の目を気にしているのか声こそ荒げなかったが、切実な表情で目を潤ませるティータの手をディリータは静かに取った。本当なら兄として抱きしめたかったが、さすがにそれは誰かに見られていれば誤解を招いてしまうので出来なかった。


「ありがとう……その言葉、嬉しいよ」
「私の事は心配しないで。そしていつか……いつでもいいの。一緒にお父さんお母さんのお墓参りに行きたいわ」
「分かったよ……」


 そしてティータはそっとディリータから手を下げて、数歩下がった。


「これ以上は誰かに見られて誤解されてしまうかもしれないわね……」
「オレと同じ事考えるなよ……」
「そうなの? ふふっ……」


 ディリータの言葉に吹き出したティータに、ディリータも静かに笑いながら思った。


(本当にティータは成長したんだな……オレもティータに負けていられないな)






 それから夜になってオルランドゥ伯も来訪し、グリムス邸は和やかな食事会が行われた。
 ディリータとティータは互いに初対面のままを装っており、ティータはグリムス男爵の娘と女性同士の話に花を咲かせている様子だったが、二人は無事に再会を喜び合えたのだと、二人を知るザルバッグは感じていた。
 そしてこの縁談が、北天騎士団と南天騎士団を繋ぐ良い未来になるだろう、と言うことも。


「ところでザルバッグ殿。そちらさえ良ければだが、ディリータを我が養子に迎えた際にはティータ殿をディリータの嫁として我が家に迎えてはくれないかね?」
「いえ……それはちょっと……ああ、すみません。少し失礼」


 グリムス男爵はディリータだけでなくティータの事も相当気に入ったようだ。酒も手伝ってそのような事を言っていたが、ザルバッグは苦笑交じりに柔らかく断りを入れ、その場を離れた。


「ザルバッグ……様」
「ああ……驚いたぞ」
「すみません……」


 そしてグリムス男爵がオルランドゥ伯と話し始めたのを見て、その目を盗むようにディリータもこっそりとザルバッグに話しかけていた。


「いいんだ。元気そうで良かったよ。ラムザも喜ぶ」
「……あの」
「ティータの事は任せろ。血のつながりはないが、彼女の事は妹だと思っている」
「……ありがとうございます」
「ディリータ、ひとつだけいいか?」


 ザルバッグはディリータではなくグラスのワインに視線を落とし、続けた。


「兄として……いや、これは独り言だ。俺はずっと父や兄の作った人生を歩んできた。今回もそうだ。……だがな、俺自身はそれでいいと思っている。ラムザやお前のように自分で人生を作っていくのも憧れるが……俺は俺なりに、畏国のために尽くすつもりでいる」
「素晴らしい考え方です。……ティータのこと、どうぞよろしくお願いします」


 ふと視線を向けたディリータの目はラムザと同様に輝いている。
 もしかしたらラムザと同じように、自分では想像もつかないような大きなことをしようとしているのかもしれない――ザルバッグはそう思ったが、あえてディリータが何をしようとしているのか聞かず、囁くようにティータのことを託すディリータに、笑顔を返した。



――翌日。



「いいのか、ティータ」


 グリムス邸を出たザルバッグとティータだったが、チョコボ車の扉が閉められたところでザルバッグはティータに尋ねた。
 それに対し、ティータは微笑んだ。


「はい。兄さんとは……あの時十分に話もできましたから」
「まあ、親族となるのだから一生の別れではないか」
「ということはザルバッグ兄様はこのまま結婚されるおつもりなのですね」
「ああ。彼女は父上である男爵に似てとても素直で優しい女性だ……そんな目で見るな」
「え?」
「行きに恋愛小説を読んでいた時と同じ顔をしているんだが……」
「あっ……ごめんなさい。姉様もとてもザルバッグ兄様を気に入っていらしてたようで……つい」


 顔を赤らめたティータに対し、ザルバッグは「まったく」と息をついた。先程の「姉様」という呼び方と言い、どうやら彼女とは昨晩意気投合したようだ。
 だが、同時にふと昨夜グリムス男爵から言われた「ティータをディリータの嫁に」という発言を思い出して、ザルバッグは笑った。


「ど、どうしたんですかザルバッグ様」
「いや。お前もいつかはいい縁に恵まれるのだろうなと思ってな」
「……え?」
「安心しろ。その時はディリータに代わって俺がお前の身分を保証する。ディリータとも約束したからな」


 もしかしたらディリータはベオルブ家に戻らないのかもしれない。昨晩話してそんな予感もあったが、例えそうだったとしても、ティータとディリータは自分の血のつながらない"弟と妹"だ――ザルバッグは戸惑うティータを見ながら、行きに命じたように「勉強だ。帰りは本ではなく景色を見ておけ」とティータに言った。

 

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あとがき

このシリーズはティータちゃんが生きてて幸せであってほしいので、彼女なりの幸せと成長を書きたくて書きました。ザルバッグ兄さんならきっと良縁を持ってきてくれると思いますが、ディリータはティータが結婚でもしようものなら、見えないところでティータの相手にめっちゃ粘着しそう(脱線)

ディリータ、今のところちょっと影薄めですが、3章でちゃんと活躍させてあげたいと思います。

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