IF FFT ~もしも獅子戦争がなかったら~

-番外編6 空賊バルフレア-

 

※色々話が続いているので、過去作品読まなくてもいいように最初に補足です。

第一章後編
アルガスはラムザと共にゴーグへ行き、色々綺麗になってムスタディオと仲良くなった。ついでにボウガンを改造してもらったのでそれ以降彼はボウガンを愛用している。

第一章番外編2
山岳地帯の交易路の整備によって活動しにくくなった爆裂団がゴマすりのためランベリー城で伝説の白チョコボ(トリックスター)を献上したが、トリックスターは城内で暴れ回り脱走。爆裂団は神の使いとされる希少種を密猟した罪で牢屋行に。一方アルガスは農村を荒らすトリックスターと偶然戦うことになり、色々あったが農村の平和を取り戻した。その後口止めも含めて報償があったらしい。

第二章番外編4
ゴーグで召喚されたクラウドは本編通りにどういうわけかザーギドスへ行き、たまたま来ていたエルムドアをセフィロスと勘違いしてひと揉めしたが無事に和解する。ムスタディオとも合流してゴーグに戻ることになったが、何故かクラウドはゲルミナス山岳の山頂に剣を刺してきたらしい。

初登場:ザルモゥ、バルフレア

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――ゼルテニアの教会――

「降りて来い異端者"盗賊"バルフレアよ! 今日こそこの異端審問官ザルモゥが神に代わって天罰を与えようぞ!」

 教会の屋上を見上げながらザルモゥは叫んだ。
 その視線の先にいるバルフレアと呼ばれた男は、余裕すら感じる表情で答えた。

「間違いを二つ教えてやろう。ひとつ、オレは無神論者だ。ふたつ、オレは"盗賊"じゃない……"空賊"だ」
「うるさい! 貴様が各地の教会の倉庫から金品を漁っているのは事実! それに何だ空賊と言うのは? 羽でも生やすつもりか?」
「おいおい。アンタ何回オレにしつこく付きまとっては華麗に逃げられてると思ってるんだ? 空が飛べなくとも、オレはこの状態でもアンタから逃げられる自信があるんだぜ?」
「ハッ! 戯言を!」

 バルフレアの言葉にザルモゥは強気の笑みを浮かべた。

「貴様が逃げるにはこの教会を降りて来なければならんが、この包囲網をどうやって突破するというのだ? 今日は貴様のために"白刃取り"を極めた猛者を揃えてやった! いかに貴様が銃の名手だろうと、当てられなければ話にならんということだ! はっはっは!」
「これはまた随分と用意周到なことで……モテる男はつらいねえ」
「だがここは教会。大人しく投降すればアジョラのご慈悲で命は奪わぬと約束しようではないか」
「……ところでザルモゥさんよ。"高低差無視"というアビリティは知ってるか?」
「……ふん、私を誰だと思っている? それくらいは」
「だったら今度はオレの背後側にも兵士の一人くらいはつけておくんだな」

 そう言ってバルフレアは教会の鐘の裏に回り込み、そのまま下に飛び降りた。
 ザルモゥはようやく自軍の状況に気付いたが、階段前に全ての兵士を配置してしまい、バルフレアが飛び降りたと思われる場所までは遠い。

――あばよザルモゥ! 今度会った時はオレの乱れ撃ちは白刃取りでも防げないってことを教えてやるよ!――

 そんな声が教会の裏から聞こえ、ザルモゥは悔しさのあまりに持っている杖を地面に叩き付けた。

「覚えておけバルフレアッ! 次こそは貴様を捕えてくれるッ!」



――ゲルミナス山岳――

「ったく、あのおっさん何回逃げても追ってきやがる。どこぞのバンガを思い出すぜ」

 ここまで来ればしぶといとは言えあの老体。追っては来れないだろう――バルフレアは袋を開け、教会から盗み出した宝石を取り出した。

「……また収穫なしか」

 このままどこかの教会に捨てておくか、と呟きバルフレアはため息をつき空を見上げた。

「空は遠いねぇ……」

 バルフレアは思い出す。何故こんなことになったのか。あの日ベルベニアで"グレバドスの秘宝"を見つけて触れたのが始まりだった。謎の光に包まれて気が付けば町の中心にいた。服のセンスや言葉の訛り方は全く異なるわけではないがどこか違和感があり、そして色々町の中で情報を聞き出してバルフレアは自分でも「ありえない」と思う――自分はどうやら未来のベルベニアに来てしまったようだ――という結論に至った。
 文明レベルで言えば飛空艇もなくむしろ退化しているようにも感じたが、飛空艇の話をすれば「そんなの昔のおとぎ話だ」と笑われ、自慢の銃を見せれば「ゴーグの機工士か?」と遺跡を掘り出しているらしい連中の話をされ、魔法は魔石ではなく偉人が古文書を読むことで研究されたという話も聞き、どうやら文明が何らかの理由で退化した後に再び栄えたレベルでの遠い未来のイヴァリースであると、バルフレアは思った。
 そしてどうやれば自分の時代に戻れるかということを考えた。それは簡単に答えは出た。もう一度グレバドスの秘宝に触れれば帰れるはずだ。
 そして特徴などから色々調べた結果、この時代ではグレバドスの秘宝は"ゾディアックストーン"と呼ばれているらしく、グレバドス教の神器だと言うことが分かった。
 かと言って事情を説明しても笑われるばかりで中々聖石にたどり着けない。その結果バルフレアは各地の教会に忍び込んでは倉庫を荒らし、それっぽい宝石を盗み出しては確認し、違うと分かれば次の教会で捨てるように返却する――という行動に出た。元々空賊であるバルフレアにとってそれは自然なことだった。
 気が付けば"教会荒らしの異端者"として教会に追われる有名人になってしまったが。

「……ん? なんだこの剣」

 ふと崖の上を見上げてみると、大きな剣が突き刺さっている。気になったバルフレアは崖を登り剣を抜いてみると、自分のいるこの時代ではあまり見かけない形の剣だった。いや、それどころか――

「この剣、見たことのない金属でできてやがる……」

 この時代はもちろん自分の時代でも知らない材質だと、機工士として知識の明るいバルフレアは気が付いた。そして持ち手の近くに丸い穴がふたつあることに気付く。よく観察してみた結果、どうやらここに何かをはめこむように出来ているようだ。

「もしかしたらこれはいい収穫かもな」
「よう兄ちゃん。この剣の持ち主か? ここが山賊爆裂団のアジトだと分かって剣を突き立てるとは、いい度胸してンじゃないか」
「はぁ?」

 テンプレートのようなセリフにバルフレアが振り向くと、いかにも山賊らしいガラの悪い男達が崖の下でバルフレアを包囲していた。

「やれやれ。どこへ行っても大歓迎だ……爆裂団とかセンスない名前しやがって。オレは野郎には興味ないんだよ」
「なんだてめえ偉そうに! やっちまえッ!」

 山賊は一斉に武器を取り出した。


――数分後――

「……ぐっ」
「山賊が空賊に勝てるとでも思ったのか?」

 爆裂団の頭領を名乗った忍者風の男の頭を踏みながら、バルフレアは銃を突きつけ、手下達を睨み付けた。

「この剣はオレのじゃないがお前らも知らないようだな」
「ランベリーの牢屋から戻ってきたら……刺してあったんだ」
「それでナワバリが荒らされたと思って絡んできたってわけか。相手が悪かったな。オレは勝てるケンカはきっちり買って賠償を請求する主義なんだ」
「なンて奴だ!」
「本当ならこのまま潰してやってもいいんだが……ちょうどいい。オレの探し物に付き合ってもらおうか」
「探し物……? 何者だ貴様」
「この物語の主人公さ」

 銃を突きつけたままバルフレアは不敵に笑った。
 



 一方その頃、ザーギドスで無事にクラウドと合流したムスタディオは、ウォージリス行の船があるランベリーを目指して帰路についていた。

「あ、いたいた! おーい!」

 登山口近くで知っている人影を見つけて、ムスタディオが大きく手を振ると、相手もそれに気付いて手をあげた。

「久しぶりだな! こっちに来るならもっと早く言ってくれよ!」
「悪い悪い。急な出来事で……」

 ムスタディオはそう言って目の前の相手――アルガスに向かって手を合わせた。急用とは言えせっかくランベリーに来たのだからと、ムスタディオはランベリーを出る前に騎士団の人間にアルガスあての手紙を出しておいたのだ。「クラウドという変なチョコボ頭の男を追って山を越えるので、できれば帰りに登山口まで迎えに来て欲しい」と。

「まあいい。で、この後ろにいるのが例の」
「オレはクラウド。ソルジャー……だったと思う」

 アルガスの言葉を遮って自己紹介するクラウドに、アルガスは眉間に皺を寄せた。

「だったと思う? 変な言い方をするんだな?」
「なんか異世界の人間の上に記憶喪失らしくてさ。変だけど悪いヤツじゃないよ」
「お前相変わらず付き合いのハードル低いんだな……」

 アルガスはゴーグでの出来事を思い出しながら呟いた。平民や貴族と言った身分にとらわれないムスタディオの性質は相変わらずで、アルガスはため息をついてから「まあいいか」と白い歯を見せた。

「貴族のオレ様がお前達平民のために少ない給料を使ってチョコボをレンタルしてやったんだ。感謝してくれなきゃ困るぜ」
「それは……ごめん」
「別に謝れって意味じゃない。とりあえず色々積もる話もあるし、行こうぜ」
「待ってくれ。頼みたいことがある」

 進もうとしたアルガスとムスタディオをクラウドが制止した。

「なんだ?」
「この山の頂上に用があるんだ」
「ああ……そういえば大事な剣を頂上に刺してきたって言ってたっけ……」

 理由は本人もよく分かっていないようだが、クラウドはゲルミナス山岳の山頂に愛用していた剣を置いてきてしまったらしい。そんなことをザーギドスでも言っていたのを思い出し、ムスタディオはアルガスに対して手を合わせることで頼んだ。

「山頂経由だと回り道なんだけどな。ランベリーで釈放された山賊の一部が戻ってきたって話もある」
「頼むアルガス。オレは大切なものを失くした気がして不安なんだ……あれがないとオレはソルジャーになれない」
「……ったくしょうがないな」

 クラウドの言っていることの大半は意味不明だったが、切実な視線にアルガスは息を吐いた。

「頂上ならこっちの道だ! 山賊に見つかると面倒だから早く行くぞ!」




「……ない。確かにここに刺したはずなのに」

 山頂の崖に登ったクラウドは、顔を青くして頭を抱えた。

「……ックス、オレはどうすればいいんだ。オレは誰だ? 助けてくれ……」
「あー始まった……おーいクラウド! とりあえず下りて来いよー一緒に探してやるからさ!」
「ムスタディオ……」

 下から呼びかけるムスタディオを見下ろして、クラウドは小さくうなずいた。

「なあ、アイツマジで大丈夫なのか? 見た感じオレらよりも年上だろ? 確かに悪いヤツじゃなさそうだけどさ」
「でも放っておくわけにもいかない……ラムザの受け売りみたいだけどさ」
「はぁ……確かにあのまま落ちられでもしたら夢見が悪いもんな。しょうがない」

 クラウドが崖から降りるために裏へ回り込むのを見送り、ムスタディオ達は周囲を見渡した。クラウドの上半身を覆うくらいの大剣だったが、それらしきものは見つからない。

「山賊が持っていっちまったんじゃないかなぁ……」
「ええー、オレ行きにも爆裂団とか言う変なのに絡まれたんだ。クラウドもザーギドスで刀持ってた銀髪の男と揉めてたみたいだし、オレ達厄日続きだなぁ」
「……え、そのクラウドが会ったのって」
「おいそこのガキども」

 背後から声をかけられ、ムスタディオとアルガスは勢いよく振り返った。

「だ、誰だッ!」
「オレは"空賊"バルフレア。この物語の主人公だ」
「また変なのが来ちゃったよ……ってあの剣!」

 ムスタディオが背後から声をかけてきた男――バルフレアが左手で持っている剣を指して、アルガスに「クラウドが探してた剣だ」と伝えた。

「ってことはお前が山賊か!」
「おいおいオレの話を聞いてなかったのか? オレは"空賊"だ……まあそんな話はどうでもいい。オレはこの剣の持ち主を探している。崖に登ってた変なのがそうか?」
「あいつの狙いはクラウドか! クソッあの野郎戻ってきたら一発殴ってやる!」
「え、戦うのかアルガス?」
「相手は山賊! 騎士団の人間として放っておくわけにはいかないぜ!」

 アルガスはそう言ってボウガンを構えた。以前ムスタディオに改良してもらい射程や狙いも良くなった自慢の武器だ。こちらは銃を持つムスタディオも含めて遠距離。相手はそれなりに距離があり、二人がかりなら勝算も十分だ。

「確かに通してくださいで通してくれそうな感じじゃないな。主人公とか言ってるけどどう見ても悪役だ……人相も悪いし」
「……銃とボウガンか。ガキにしちゃいいセンスだ。だが」

 バルフレアは空いている右手で腰に下げた大口の銃――ラスアルケディを取り出した。そしてアルガスやムスタディオが攻撃するよりも早くに銃を早撃ちする。

「何ッ!」
「うわっ!」

 バルフレアが早撃ちした銃弾がアルガスとムスタディオの武器を的確に弾き飛ばした。

「ま、マジかよ……」
「なんて正確な早撃ちなんだ。それにあんな銃見たことない……このロマンダ銃の倍くらいの大きさだ」
「お前なに感心してるんだよッ!」
「まあ、こんなところだ。おいガキども。騒ぐのは結構だが、ケンカを売るなら相手が格上かどうかちゃんと見極めるんだな」
「チッ……」
「待て!」

 バルフレアがムスタディオ達に近づこうとした時に、崖から降りてきたクラウドが駆け付けた。

「ムスタディオ達をいじめるな!」
「あのバカ! 丸腰で正面から叫びやがった!」
「逃げろクラウド!」
「おっと、この"最速の空賊"バルフレアから逃げられると思うなよ。お前がこの剣の持ち主か?」
「そうだ。剣を返せ!」
「それはお前の態度次第だ。聞きたいことがふたつある。まず、この剣はどこで手に入れた? もうひとつ、この剣の穴には何を入れてどうするものだ?」
「剣は大切な人から貰った。もうひとつは……オレにも分からない」
「……」

 バルフレアはクラウドをしばらく見つめるが、息をついた。

「どうやらウソは言っていないようだな。……返してやるよ。これもハズレのようだ。そこのガキどもと一緒にさっさと山を下りるんだな」

 バルフレアが銃を降ろしその場に剣を突き立て、クラウドは素直に剣を取りに行った。

「ところで……お前、この世界の人間か?」

 バルフレアが小声でクラウドに尋ねた。クラウドは首を横に振った。

「……すまない。オレにもよく分からないんだ」
「そうか。お前"も"災難だな」
「ひゃーっははは! てめえらいいもン持ってンじゃないか!」

 下品な笑い声が響きバルフレアとクラウドがそちらに目を向けると、先に山を下りようとしていたムスタディオとアルガスが山賊に道を阻まれ武器を取り上げられていた。

「何するんだよ、はなせよ!」
「お前数日前にも見かけた顔だな! 二度もオレ達に出会うとは、運のない野郎だな!」
「頭領! こっちのガキ、ランベリー騎士団の紋を持ってますぜ!」

 アルガスから取り上げた紋章の入った道具袋を見て、山賊の一人が声を上げた。

「返せッ! それは伝説の白チョコボ・トリックスターを捕えたオレの大事な報償だぞ!」
「お前あのチョコボを知ってるのか?」
「……!?」
「お前ンとこの領主のせいでオレ達は商売あがったりだ! せっかく珍しいチョコボを捕まえてやったのに、突き返すどころかその場で牢屋行きにしやがって……ちょうどいい! お前を人質にしてあの銀髪鬼に復讐してやる!」
「なっ……全部お前らのまいた種じゃねえか! 逆恨みかよ!」

 アルガスが反論するが、腕を締め上げられ声を上げる羽目となった。ムスタディオもナイフを突きつけられ、身体をすくませている。

「……随分と盛り上がってるな」
「バルフレアの旦那助かりましたぜ! 山頂に剣を突き立てたクレイジー野郎を捕えてくれるとは、さすが旦那だ!」
「……やっぱりてめえ山賊の仲間じゃねえか! っててて……!」
「てめえは黙ってろ! 旦那、その横の男もこっちに!」

 バルフレアをよそに盛り上がっている山賊達を見ながら、バルフレアは横にいるクラウドに小声で呼びかけた。

「……おいチョコボ頭。手助けはいるか?」
「オレは仲間を助けたい。悪いが頼む」

 クラウドの言葉に、バルフレアは頷き、剣をクラウドに渡しながら銃を山賊達に向けた。

「……! 旦那、どういうことですかい!?」
「いつからオレがお前らの仲間になった? オレは世界の謎を追う主人公なんだぜ?」
「裏切るのかッ!」
「バカは聞き分けが悪くて面倒だな……おらよ!」

 山賊が動く前にバルフレアは銃を乱れ撃ちし、的確に相手の動きを封じた。
 その間にクラウドが剣を持ち山賊達に向かって駆け寄る。
 クラウドの青い瞳が見開き、クリスタルのように輝いた。

「ムスタディオとアルガスを……オレの友達を……! 放せええッ!」

 クラウドが飛び上がり剣をふりかざすと、眩しい光が隕石のような球体となって空から降り注いだ。

「メテオレイン!!!」

 クラウドが叫んだのと同時に、山賊達の悲鳴と、大きな衝撃音が山頂に轟いた。



「クラウド……お前、実は強かったんだな」
「オレ達も巻き込まれるところだったけどな……」

 伸びている山賊一味から離れながら、ムスタディオ達は一息ついた。クラウドが大技を放った時にバルフレアが遠くからムスタディオとアルガスを巻き込みそうな球体だけを狙撃することで軌道修正をしなければ、倒れている山賊と同じ目にあっていただろう。
 しかしクラウドはそんなムスタディオ達をよそに、掲げた剣を頭の上で回転させた後背中におさめ、上機嫌そうだ。

「ありがとう。みんなのおかげでとても大事なことを思い出したような気がするよ」
「ああそう……それはよかったな」
「まあまあ」

 気の短いアルガスをムスタディオがなだめるのを見てクラウドは安心したように微笑んだ。そしてバルフレアに視線を移す。

「アンタも……ありがとう」
「いや、オレのほうこそ悪かったな。ガキ相手に大人げなかった」
「子供扱いするんじゃねえよ!」

 まだ不機嫌が収まらないアルガスが、今度はバルフレアに噛みついた。
 バルフレアは肩をすくめて口の端をあげた。

「オレの知ってるガキも同じこと言ってたよ……それよりガキども、お前らどっちの方向へ行くつもりだ?」
「ランベリーの方だが、それがどうしたんだ?」
「そっちなら安全だろう。実はな、オレのファンがゼルテニアからそろそろ向かってくるところだ。早く下りたほうがいい」

 バルフレアがゼルテニア方面の山の下を指さすので覗き込んでみると、その先にはチョコボの行列が見えた。バルフレアは続けた。

「異端審問官だ。今派手にそこのチョコボ頭が暴れたからこっちへ来るだろうな。山賊もあのおっさんならきっちり始末してくれるだろうが、会ったらめんどくさい相手だ」
「一緒に行かないのか?」
「オレはオレで上手く撒くつもりだ。それ以上は……あまり聞かない方が身のためだ」

  質問に答えながら再び銃に手をかけたバルフレアに、アルガスは「分かった」と短く答えた。

「確かに異端審問官に関わったらロクな目にあわないって言うからな。行こうぜムスタディオ……ムスタディオ?」

 アルガスが呼び止めるも、ムスタディオは興味津々の表情でバルフレアの銃に視線をとめたままだ。

「なんだよ、そんな顔してもオレのラス・アルゲティはやらないぞ」
「いや、欲しいとまではさすがに言えないけど……オレのよりずっと精巧だ。魔法銃とも違う感じだし……ゆっくり見てみたかったのに残念だなって」

 やはり機工士としてバルフレアの持ち物が気になるのだろう。素人のアルガスから見てもバルフレアの銃は立派なもので、しかも本人の腕前も先程の戦い通りだ。ムスタディオが興味を持つのも分かる気がした。
 バルフレアもそんなムスタディオの好奇心に気付いたのか、半ば呆れたように肩をすくめながらも答えた。

「……次に会った時に見せてやるよ。縁があればな」
「ホントか! じゃあ教えておくよ。オレはムスタディオ・ブナンザ。ゴーグで機工士してるから、近くに来たら寄ってくれ!」
「……ブナンザ、か。覚えておく」

 バルフレアの答えにムスタディオは満面の笑みで「約束だぜ!」とバルフレアの手を取り、そしてアルガスとクラウドに合流した。

「なあなあアルガス! ランベリーってチョコボ料理の名店があるんだろ? 奢ってくれよー」
「あそこ結構高いんだぜ。……まあいいか。せっかく来てくれたんだもな」
「やったー! 来たかいがあった!」
「でもチョコボ頭のクラウドが食べたら共食いになるんじゃないか?」
「オレはチョコボじゃない。オレは」
『ソルジャーだ!』

 子供の遠足のように和気あいあいとランベリー方面へ下りていく三人組を見送りながら、バルフレアは苦笑した。

「ここが未来としてあれがブナンザねえ……奇妙な縁もあるもんだ。まあ、ゴーグもそのうち行くとして……次はどこへ行けばいいやら」

 ムスタディオ達の声が遠くになるにつれてザルモゥの一派と思われる足音は確実に近づいてきている。「いっちょ遊んでやるか」とバルフレアは銃を肩にかけた。

 

 

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あとがき

クラウドさんの話は前ので終わるつもりだったけど、ムスタやアルガスとの珍道中が楽しそうだったので……爆裂団散々すぎてごめん。
シリーズ書き始めてからずっとザルモゥさんをどう出せばいいのか迷ってたけど、バルフレアの追加イベントを見て「これだ」と思った。最初にバルフレアと争っている教会はザルモゥさんがゲーム本編で下から無双稲妻突きされる例の教会です。きっとザルモゥさんの辞書に高低差無視という単語は存在しない。

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