IF FFT ~もしも獅子戦争がなかったら~

-番外編5 神殿騎士団-

 

※今回に関係ある今までのできごと

シリーズ前提
ダイスダーグはバルバネスを殺すのをやめ、畏国を平和に導くことでベオルブ家の名をあげようと頑張っている。一方で聖石は存在するが今のところ暗躍していない。

第二章前編
ベオルブ家(アルマ)とティンジェル家(イズルード)で政略的な縁談話が持ち上がっており、親も本人もかなりその気。
メリアドールはラムザと会ったことがあり、恋愛的な意味ではないが気に入っている。

第二章後編
イズルードとアルマは互いを知るため文通することになり、両家の縁談話は順調。しかしヴォルマルフの元に「ベオルブ家に取り入りダイスダーグを暗殺せよ」という教皇からの勅書が届き、クレティアンはそれを偶然知ってしまった。

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――聖都 ミュロンド――

「……まさか」
「本当の事だ。あれは確かに教皇猊下からの勅書だった」

 ヴォルマルフの執務室で「ベオルブ家のダイスダーグを暗殺せよ」と書かれた勅書を偶然見てしまったクレティアンは、数日悩んだ末に神殿騎士団の副団長を務めるローファルにそれを打ち明けた。
 悩み抜いた結果だった。ヴォルマルフの狼狽から察するに、恐らくヴォルマルフですらベオルブ家の縁談話は、政略結婚であっても息子であるイズルードを幸せにできるものだと考えていたはずだ。ならば何故教会は今になってこんな話をヴォルマルフに持ちかけたのか――それはおそらく、今の畏国にとってベオルブ家のダイスダーグは最も影響力を高めるであろう人間であり、そして教皇はそれを邪魔だと考えたからだろう。クレティアンはそう推測した。

「ローファル。教皇猊下は何をお考えになっているのだ。畏国を救うためにダイスダーグ卿を殺す必要があるのか? いや、それよりも……何故そのためにヴォルマルフ様とイズルードが犠牲にならねばならないんだ」
「どうするつもりだ」
「驕る者を信ずるなかれ、偽る者を暴け。これは聖アジョラの言葉だ。だがこれは教会……いや、教皇猊下の私利私欲による不正かもしれない」
「それで」
「神に仕える騎士として我々はそれを許すべきではない。……嘘ではないんだ、信じてくれ」
「……お前がそんな嘘や妄言を言うなど、最初から思っていない。だが少し落ち着くんだ」

 ローファルはクレティアンに視線を合わせたまま拳を握った。いつも通りの冷静を装っているが、ローファルにとってヴォルマルフは絶対的な忠誠を誓う団長だ。「落ち着け」と言う言葉も、半分は自身に対するものなのかもしれない――クレティアンがそう考えていると、ローファルは重く言葉を続けた。

「……我々が猊下を糾弾したところで、もみ消されるどころか、かえってヴォルマルフ様の立場を危うくするぞ」

 クレティアンは言葉を詰まらせ、俯いた。ローファルが言う通り、神殿騎士の団員に過ぎない自分達がヴォルマルフのために直接動いたとしても、何も変えられないどころか、ヴォルマルフは情報漏洩の責任を問われるだけでなく、ダイスダーグを暗殺する計画自体もかえって早まらせる可能性すらあるとクレティアンは思った。

「だがローファル。これは私の推測に過ぎないが……政略結婚中にヴォルマルフ様がダイスダーグ卿を暗殺する方法で最も確実かつ、教会が罪に問われない方法。それは実行犯たるヴォルマルフ様も共に死ぬことだ」
「……何だと?」
「ベオルブ邸に賊を装った人間を手引きするか、もしくは事故に見せかけて部屋を爆破でもするか。ヴォルマルフ様も共に死ねば、残されたイズルードとアルマ嬢は悲劇のつがいとして畏国中の同情を買うだろう……それを繋げる教皇猊下の株も上がるということだ」
「ヴォルマルフ様が死ぬなど……何かいい手がないものか」

 ローファルが窓の外を見たのでクレティアンも続けて外に視線を移すと、ちょうどそこにはイズルードの姿があり、メリアドールから封書を渡されて何やら喜んでいる様子だった。
 イズルードは婚約相手であるアルマと文通をすることで互いを知ろうとしていると話していた。きっとそれが彼の元に届いたのだろう。
 そんな時、ふとローファルは何かを閃いたのか、小さく眉をあげた。

「クレティアン。イズルードは今も何一つ知らないようだな」
「だろうな。あいつが勅書の存在を知れば、何も考えずに猊下の元へ殴り込みに行くに違いない」
「ならばイズルードに頑張ってもらうしかあるまい」
「……何か策でもあるのか?」

 今度はクレティアンの方がローファルに尋ねた。
 
「悲劇の政略結婚ではなく最高の恋愛結婚をしてもらうのだ。ベオルブ家と教会に確実な関係が望めるなら、猊下も考えを改めて下さるかもしれん」
「ダイスダーグ卿が教会を潰すことも、教会がそれを潰す必要もないように……か」
「だがあれではいかん。お前も知っているかもしれないが、イズルードの文章力は壊滅的だ……行くぞクレティアン」

 ローファルは口調こそいつもと変わらないが、その視線は明らかな意志が宿っており、自信ありげにクレティアンの肩に手を置いた。
 その様子に、クレティアンはローファルに相談したのは間違いではなかった、と思い硬かった表情を緩ませた。



『親愛なるイズルード。文通のことを受けてくれてありがとう。会ったあの日から、あなたの情熱的な言葉を思い出さない日はありません。こうしている間も……あなたと会いたい気持ちばかりが溢れます。騎士のお仕事は大変だと思いますが、どうぞお身体には気を付けて……アルマ・ベオルブより』

 文通することが決まり早速届いたアルマからの手紙を眺めていたイズルードは、手紙に視線を移しては顔をほころばせていた。

「まったくもう。なにこの締まらない顔。父さんに見られたら怒られるわよ……って聞いてるのイズルード」

 メリアドールがイズルードの背後から声をかけるも、イズルードは気づかないのか振り向きもしない。
 息を吐いたメリアドールは、イズルードの手から手紙を取り上げた。

「あっ!」
「なになに。親愛なるイズルード、文通のことを……」
「何読み上げてるんだよ!」

 イズルードは顔を赤くして抗議しながら取り返そうとするが、メリアドールはその手を避けて手紙を見ながら口元をほころばせた。

「可愛い字。それに何なの、情熱的な言葉って。イズルードったら彼女に何を話したの?」
「い、いいだろ何でも」
「あら? 追伸があるわ。私の兄ラムザはあなたのお姉さんのメリアドールさんとお会いしたそうです。メリアドールさんにもぜひお会いしたいとよろしくお伝えください……ですって」
「リオファネス城の件で会ったと言ってたな、姉上」
「まあね。それで? 返事は出したの? 届いてもう3日くらい経つでしょう?」
「え、ああ……まだ少ししか。とりあえず話題を振られたから姉上のことでもと思ったんだけど」

 イズルードの言葉に、メリアドールは大きくため息をついた。

「な、なんだよ!」
「イズルード……あなたは乙女心が何もわかっていないわ」
「というと?」
「私のことなんてどうでもいいのよ。彼女が欲しいのはあなたの話よ」
「うう……」
「ちなみになんて書いたの?」
「え? あ、いや……それは……」

 急に慌てだしたイズルードを見て、メリアドールは「怪しいわね」とイズルードを真っすぐ睨みつけた。

「見せてみなさい」
「メリアドール。返信の内容は乙女心以前のもの……まだそんな高度な話をしても伝わりませんよ」
「どういうことよローファル……って、ローファル?」

 横から入ったローファルの声に、メリアドールとイズルードは同時に部屋に入ってきたローファルに視線を移した。後ろにクレティアンの姿もあり、そしてローファルの手には一枚の手紙が握られていた。

「あ! ローファル勝手にオレの机を漁ったのか!」
「悪く思わないでください。これもヴォルマルフ様の為……」
「父上の為?」
「……それよりイズルード、この内容ではアルマ嬢に笑われますよ」
「ちょっとイズルード。何書いたのよ」
「読んでもいいですね」
「え、ダメに決まって……」
「拝啓アルマ様」

 イズルードの制止を聞かずにローファルは手紙に視線を落とし、読み上げ始めた。

「本来ならばディナーにでも招待したいところですが、あいにく多忙なものでお許しください」
「なにその前文。どこの悪の黒幕のセリフよ」
「い、いいだろ!」
「……続けて」
「アルマのお兄さんが姉に会った話は姉からも聞いています。何かと話題にするので神殿騎士内では姉はラムザの事が好きなのではないかと噂になっておりますが、自分はそう思いません。姉の恋人はディフェンダーかセイブザクイーンだと思っております」
「やっぱり一発殴る」

 拳を鳴らしながらイズルードに迫るメリアドールだったが、ローファルが二人の間に手を伸ばしてそれを制止した。

「メリアドール。姉弟喧嘩は後にしなさい」
「……分かったわ。それで続きは?」
「そこで終わっている」
「ここからどう書こうか迷ってたんだ……でもう一度手紙を読み返していたら姉上が」
「ふーん……」
「とにかく。まず前文からしてズレているのは明白。よく見れば誤字もあるし字も汚い。これではヴォルマルフ様が……もとい、貴方はアルマ嬢を失望させてしまうでしょう」

 無表情で手紙をけなすローファルと、自分のお転婆ぶりを書かれて不機嫌なメリアドールに、イズルードはもはや涙目だ。

「じゃあなんて書けばいいんだ。字が汚いのは認める。文章だってどうせ下手だよ。っていうかたかが手紙でアルマとオレの心が離れるものか」
「たかが手紙だと!」

 ずっと入口で事の端末を見ていたクレティアンが、ずかずかと中に入ってイズルードの前に立ち、胸倉をつかんだ。

「……え、何!?」
「いいかよく聞けイズルード」
「は、はい」
「手紙とは相手に言葉では言い表せない秘めた想いを伝える情熱的な手段だ! 言葉の選び方ひとつで相手を喜ばせることも悲しませることもできる詩のようなものだ」
「え? ああ……」
「それをどうせ下手だからと、たかが手紙と貶すのか! ……いいか? 手紙は詩であり詩は魔法の限りを知り尽くした者だけがたどり着く究極の言葉……これを理解できないとは! だから貴様はいつまで経っても脳筋なんだ!」
「ひどい」
「そして手紙は聖アジョラの時代――かつて古代文明が栄えていた以前より使われてきた伝統的な手法。脳筋の貴様でもアルマ嬢からの手紙を何度も読み返しては幸せな気分に浸れる心はあるようだな。こうやって何度でも想いに触れることができる……これ程素晴らしい手法はあるだろうか。いや、ないはずだ。それを貴様はたかが手紙と言った……これは歴史と神と相手に対する冒涜だ!」
「落ち着けクレティアン」

 イズルードが勢いに押されて放心していることにも気づかず熱く語り続けるクレティアンを見かねたローファルがクレティアンの肩に手を置いて制止した。

「クレティアン。我々の本来の目的を忘れるな……イズルードを傷つけてどうする」
「……! す、すまない私としたことが……つい血が騒いでしまった」

 我に返ったクレティアンがイズルードから手を離すが、イズルードは目を点にして石化したように固まっている。隣にいるメリアドールも呆れ顔だ。

「ねえさっきから気になっていたんだけれど、貴方達の目的ってなんなの? イズルードをいじめるつもりなら許さないわよ」
「ま、待て……我々はただヴォルマルフ様を」
「クレティアン」
「あ、ああ……そうだったな。ただイズルードを幸福にしてやりたかったのだ。それがお前達子息を愛するヴォルマルフ様にとっての幸福でもあるだろう?」
「へえ。ローファルはとにかく、貴方にも父への忠誠心はあったのね」
「当たり前だろう。私を何だと思っているんだ」
「だそうよ、イズルード」
「え? あ、ああ」

 ずっと放心していたイズルードが、メリアドールに話を振られてようやく我に返った。

「手紙が大事だと言うことはよくわかった。でもオレはクレティアンの言う通り勉強の苦手な脳筋だ……それに女の子相手に何を書けばいいのか、全然分からないよ」
「イズルード」

 いじけているイズルードをローファルの強い視線が刺した。今までのことは前置きだと言わんばかりの意志のこもった目に、イズルードは唾をのみこんだ。

「な、何だ?」
「アドバイスの代わりに一つ尋ねましょう。貴方が書きたいのは本当にそんな事ですか?」
「!」
「貴方はアルマ嬢と会って姉や相手の兄の話をしたいのか? その二人が付き合うことが貴方の望みなのか? 違うでしょう?」
「待ってよ、私は別にラムザのことをそういう目では」
「メリアドールは黙っていてください」
「え、ええ……」

 鋭い視線で制止され、さすがのメリアドールも口を閉ざした。

「それで、どうなのですかイズルード」
「じゃあどうしろって言うんだ」
「貴方の父ヴォルマルフ様は、聖職の身でありながら大恋愛の末に当時の教皇猊下に認められ、婚約を勝ち得たと聞きます。我々聖職者が結婚するには、互いの愛が永遠なものであると、聖なる主の前で誓い合わねばならない……貴方はもちろん、アルマ嬢もです。例え政略結婚とは言え、貴方にそれだけの誠実さはありますか。永遠に彼女を愛し、彼女に愛されるために何を求めますか。それが答えではないのですか」
「……ローファル」
「貴方の彼女への気持ちを偽りなく伝えなさい。きっと伝わりますよ」

 厳しい表情から一転して微かに笑ったローファルに、イズルードも顔をほころばせた。そして容赦なくローファルにツッコミを入れた。

「良い事言ってるけど……人の手紙を勝手に読むのはやっぱり不誠実だと思う」
「それは……あのような分かりやすい場所に置いた貴方が悪い」
「まあいいか。おかげでアルマにちゃんとした手紙が書けそうだ。ああ、もちろん今度は誰にも読ませないぞ」
「遠慮しないで。私が女心を代表して精査してあげるわよ」
「姉上とアルマは別人だ。そんなに恋文が書きたいなら、姉上もいい人を見つけてくればいいだろ」
「……い、言ってくれるわね」
「ああもうお前らうるせえ!」

 部屋に突如大声が割り込んできたため全員が入口の方を向くと、バルクがいかにも不機嫌そうに眉間に皺を寄せて飛び込んできた。

「こっちはヴォルマルフとマジメな話をしているんだ! ごちゃごちゃ平和な話題で争ってるんじゃねえよ!」
「何、ヴォルマルフ様だと……?」

 ローファルが顔色を変えて尋ねる。他の面子も、その名を聞いて口を閉ざした。

「会話の内容も聞こえていたのか?」
「全部ではないだろうがな。お前らが扉を開けたまま騒いでいたらこっちが扉を閉めていても嫌でも聞こえるってもんだ」

 バルクの言葉に、最後に入口を通ったクレティアンがバツの悪そうな顔で「すまない」と謝った。
 ローファルは小さく息をついた。

「……よし、帰るぞクレティアン」
「いいのか?」
「イズルードも分かってくれたようだ。あとは当人の問題……我々は我々にできることをするだけだ」
「……分かった。イズルード、少し言い過ぎた部分については謝る。だがお前は今教会の未来の一端を背負っているかもしれない。……偽りの信仰に心を囚われるな」
「え? あ、ああ」

 ローファルとクレティアンが何を言いたいのかあまり理解できないながらも、彼らなりに気をかけてくれたのは確かであり、イズルードは「ありがとう」と付け加えた。
 ローファルとクレティアンが去ったのを目で見送ったバルクは、イズルードとメリアドールに視線を戻した。

「お前らもケンカはほどほどにしとけよ。ヴォルマルフはお前らが考えている以上に、この婚約をマジメに考えていることを忘れるな」
「え、ええ……」
「分かったよ……」
「じゃあオレも戻るぜ。ったくやってらんねえな」

 悪態をつきながら隣の部屋に向かうバルクの背中を見て、イズルードは小声でメリアドールに言った。

「……バルクも少し変わったな。来た時はもっと危ないヤツだと思っていたけど」
「そうね。世の中に余裕が生まれれば考えも変わる。それだけ畏国も平和になろうとしているのかもしれない……私達も成長しなければ」
「姉上」
「何?」
「女心とかよくわからないけど……オレはアルマが好きなんだ。彼女が教会に嫁ぐことを重く感じるなら、神に剣を向け、彼女の手を取って逃げ出してもいいくらいに」

 イズルードの言葉にメリアドールは思った。この弟ならきっとどんな手紙を書こうとも相手に想いが伝わるだろうと。
 そして同時に、亡き母の事を思い出した。ローファルは言っていた「ヴォルマルフは大恋愛の末に婚約を勝ち得たのだ」と。父や母から直接話を聞いたことはなかったが、何となくではあるが知っていた。そして二人が永遠の愛を誓いあっていたことは、この人生の中で感じ続けていた。

(……母さん、イズルードは私が守ってみせるわ。もちろん父さんのこともね)

 

――――――――――
親愛なるアルマへ

 返事が遅くなりました。ずっとアルマに何を伝えるべきか考えていました。
 その間、姉や仲間達から、多くの駄目出しを食らいました。
 実はこうやって文字で気持ちを伝えることは苦手です。そんなオレのために、みんなは我が事のように心配し、叱責してくれます。
 口うるさいと思う事も多いですが、大切な家族と仲間です。
 アルマとオレが繋がることで、互いの家族や仲間達、そして畏国が少しでも分かり合えますように。
 今度会う時が楽しみです。

 追伸。
 姉もよくアルマの兄、ラムザ殿のことを話しています。きっといいお兄さんなのでしょうね。
 次にベオルブ邸へ行く際はぜひお会いしたいと、兄君によろしくお伝えください。

イズルード・ティンジェル
――――――――――



「……そうか、やはり貴様でも乗ってはくれないか」
「当たり前だ」

 部屋に戻り話の続きをしていたバルクが、ヴォルマルフにはっきり答えた。

「オレに信仰心がないことは承知の上だろ? 何故神様のために、お前の命が搾取されることに加担しなければならない?」

 イズルード達が隣で騒ぎ始める少し前のことだった。ヴォルマルフはバルクに勅書のことを相談していた。
 敬虔な信徒ではないバルクだからこそ話せることだった。
 ヴォルマルフはバルクに頼んだのだ。自分がダイスダーグの暗殺を実行に移す時に、狙撃でこの命を奪ってほしい――と。

「隣で騒いでいたのは聞こえていただろう? お前の大事な息子と娘、それと団長想いのバカ二人がお前の葬式会場で悲しむ姿を、お前を殺したオレはどんな顔して見ればいいんだ?」
「……ならばどうすればいい。ダイスダーグ卿を一方的に暗殺しただけでは私が実行犯として捕らえられて縁談も当然破談する。かと言って実行に移さねば私はおろか、イズルードらも異端者になりかねんぞ」
「バカだな。もっとイズルードを信じてやれよ。父親だろうが」
「何だと?」
「あいつがうまくやれば、教皇も幸せな縁談を認めるしかないってことだ。まあ、ダイスダーグ側に悪意があったら話は別だろうが、あいつを信じて少し待ってみたらどうだ? 親が思う以上にガキっていうのは成長しているものだ」

 バルクの言葉に、ヴォルマルフは俯き目を閉じた。思い浮かぶのは、かつての自分と、永遠の愛を誓った女性の事だった。
 彼女がこの世を去った日、彼女は二人の子を自分以上に愛し、幸せにして欲しいと願っていた。
 
――大丈夫よ。貴方はこの聖石の祝福を受けている。二人の子と幸せになって――

 そんな声がした気がしたヴォルマルフは、静かに自らが持つ聖石レオに二人の子が真に幸福になれるよう、ただ願った。

 

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あとがき

イズアルの甘酸っぱい話……が書けなかった結果、綺麗な(?)ロークレがイズルードを応援してるようでいじめてる図……からのヴォルマルフ様がなんか愛されてる話に。
ここにいないウィーさんはライオネルで活躍した帰り道のどこかでブレモンダを大真面目に護送中です(二章後編)。バルクは世の中が良くなって自分をとりまく環境も良くなれば勝手にそこそこ漂白される自己中な民衆だと思います。

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