IF FFT ~もしも獅子戦争がなかったら~ The After

 

その2 -マラークとラファのそのあと-

 

前提。
 ダイスダーグがバルバネスを殺すことをやめた結果、畏国が平和になったシリーズ。聖石は存在するが暴れない平和な世界。

あらすじ
 一度故郷に帰った後、畏国に戻ってきたマラーク&ラファは、イズルード&アルマとグローグの丘で偶然出くわす。そこに、レザレス一行が絡む(最初のオーボンヌに出てくる名前固定の敵ですが、超勝手なキャラ付けしてます)。大体ギャグです。
 マララファの話は、2章前編にて。


 
――グローグの丘――


 リオファネス城のバリンテン大公のもとから自由の身となったマラークとラファは、再び畏国へと戻っていた。
 あの後故郷に戻り亡くなった両親たちを弔い、そしてまだ知らない畏国を旅行するためだった。ガリオンヌには二人にとっての恩人であるラムザがおり、まずは彼に一目でも会えればと思ってガリオンヌを目指していた。

「ここから先はフォボハムの外……知らない場所になるのね」
「だな。ここまで来たらガリオンヌまでもうすぐだ」
「ラムザには会えるかな」
「さあな……まああいつのことだ、目の前の困っている人を助けるためにあっちこっちと首を突っ込んでいるかもしれない」

 マラークの言葉に、ラファは自然と笑みをこぼした。見ず知らずの自分達に手を差し伸べ、危険を顧みず戦ってくれたラムザのことを、ラファはひとときも忘れたことがなかった。ガリオンヌで会えなくても、この畏国のどこかで会うことができればと思うと、心が躍る気持ちになる。
 そんな時、正面から一匹のチョコボが見えた。金色の鎧に緑色のローブを羽織った男の騎士と、その後ろに、赤いドレスの少女が乗っている。それぞれ二人とは年が近そうに見え、和気あいあいとした様子から悪人には見えない。やがて二人の前にチョコボが着き、「こんにちわ」と声をかけた。すると後ろにいた少女が、笑顔で二人に答えた。

「こんにちわ。旅の方ですか?」
「これから旅行でガリオンヌへ行くの」
「そう。私はアルマ。ガリオンヌの出身なの。こちらはイズルード」

 人懐こい笑顔で自己紹介するアルマに、マラークとラファも自分の名前を伝えた。アルマはイズルードのモンスター狩りに同行しているらしく、その様子から、二人は親密な関係にあるようだとラファは感じた。

「この周囲は治安も良くなって来ているがモンスターや賊もまだ多い。気を付けてくれ」

 イズルードの言葉にマラークは「ありがとうございます」と答え、そのまますれ違った。

「デートかな」
「え? ああ、まあ……そんな感じだったな。お前ほんと、こういう話好きだよな」
「マラーク兄さんが興味なさすぎるのよ」
「そうなのかなぁ……ん?」

 先ほどイズルード達が来た方向から、今度は数人の人影が見えた。剣士ひとりとあとは弓使いとアイテム士の、男ばかりの一行だった。

「おお、あれは!」
「可愛い!」
「え?」

 その一行はマラークとラファを見るや、いきなり走り出してマラークを押しのけ、ラファを囲むような形で次々に声をかけた。

「褐色の美少女、いいね!」
「きみきみ、オレたちと一緒に旅をしないか?」
「え? え?」
「ちょっと待てよ!」

 マラークが抗議すると、リーダーらしき剣士が「男には興味ないんだよな」と答えた。

「そういう問題じゃない! いきなりなんなんだお前達は!」
「オレはイヴァリースいちの旅芸人を目指すレザレス団のリーダー、レザレス様だ!」
「同じくヴィッグス!」
「ウェザレフ!」
「フュークス!」
「ディッシュ!」
「そちらの美少女、名前は?」
「ら、ラファですけど……」
「ラファちゃん! 可愛い名前だ! 実はオレ達女の子のメンバーが欲しいと思っていたんだ。そっちの男よりも優しくするからさ、オレ達と付き合ってよ!」
「オレはラファの兄だ! 勝手に妹を勧誘するなッ!」

 盗賊といったガラの悪い連中ではなさそうだが、強引にラファの手を引こうとするレザレスの手を振りほどいたマラークが声を荒げた。

「じゃあお兄さん、こうしよう。見たところお兄さんも少しは戦いの心得があるようだ。オレ達とラファちゃんをかけて勝負しようじゃないか」
「……いいだろう」

 五対一とは言え、リオファネス城で秘術を含めた暗殺術を学んだマラークは、腕に自信があった。こんなナンパなやつら、一人でやっつけてやる――と裏真言術を構えようとした。

「マラークだったな、加勢する!」
「……イズルード!」

 マラークの背後から声をかけて駆けつけてきたのは、先ほどすれ違ったイズルードだった。
 遠くにチョコボと一緒にアルマの姿があり、どうやらこの騒ぎが気になり戻ってきてくれたようだ。

「なんだよお前! 男の勝負に割り込んでくるな!」
「複数で一人相手なんて、フェアじゃないだろ?」

 そう言って自信ありげに剣を抜いたイズルードは、遠くのアルマに目配せしながら微笑んだ。それを見たラファが、マラークに耳打ちする。

「兄さん、イズルードさんはアルマさんにいいところを見せたいのよ」
「……ふーん。まあいい、さっさとこんなやつら倒してガリオンヌへ行くぞ」

 そしてようやく両者は戦いの体勢に入り、二人組の弓使い、ヴィッグスとウェザレフが距離をとったところで勝負がはじまった。マラークはリーダーを名乗るレザレスに対して術を詠唱し、その間にイズルードが矢を捌いてレザレスと剣を合わせる。

「まあまあやるじゃないか!」
「ホンモノの騎士が来るなんて聞いてないッ! でもこうなったらやってやるぞ!」
「リーダー! オレ達も加勢するぜ!」

 何故か後衛までもがレザレスに加勢するためにイズルードとレザレスに駆け寄る。
 それを見て、マラークは「チャンスだ!」と術を発動させた。

「黒竜王、その哮りを嵐となせ 天下無双の破邪の印! 裏天鼓雷音!」
「……!」

 マラークの放った術は空間に印を描き、雷の音と共に弾ける。ギャンブル性の高い術でイズルードを巻き込む可能性もあるが、ターゲットにしたレザレスを中心に、うまく当たるだろう――そう思っていたのだが。

「え? わっ……いたっ! いった!!!」

 発動した印はすべてイズルードの上で弾け、次々と爆発した。

「何するんだよッ!」
「わ、悪い……今度こそは!」

 もう一度術を発動させたが、またしても計五発、イズルードだけに当たった。
 それを見たレザレス達は、イズルードにとどめを――ではなく、腹を抱えて笑い出した。

「くくっ……アンタ面白い魔法使えるんだな!」
「全部味方に当たってるけど!」
「しかもかわいいダメージだし!」

 あはははは、という笑い声が丘に響き、マラークは言葉を詰まらせた。

「何故全部あいつに……で、でもあいつFaith高いんだな。良かった」
「良くない! 貴様、オレの恩を仇で返すのか!」
「ご、ごめん。違うんだ! ほんとだって!」
「そうなんですイズルードさん。私達の技はちょっと変わっていて……」

 イズルードがマラークの胸倉をつかんで本気で抗議する。ラファも一緒に弁明するが、イズルードの怒りは当然だ。

「ははっ、アンタ達ももしかして旅芸人か? いい線いってるぜ!」
「オレは誇り高き神殿騎士だ! こんなやつと一緒にするな!」
「神殿騎士だったのか、どうりで信仰深いわけ……って、こんなやつってなんだよ!」
「石ころみたいな攻撃を何回も当てておいて!」
「石ころだと!? 信仰心が低い相手なら大ダメージなんだぞ! 馬鹿にするなッ!」
「みんなもうやめてッ!」

 もう勝負どころじゃない状態を見かねたのか、遠くから様子をうかがっていたアルマがを声を張り上げた。

「イズルード! この人たちもマラークさんも悪い人じゃなさそうだし、もういいでしょ!」
「あ、アルマ……でも……」
「か、かわいい……」
「は?」

 イズルードを制止するアルマの姿に、イズルードも怒りをおさめようとしたのだが、それをさえぎるかのようにレザレスが呟き、そして一目散にアルマの元へと駆け出した。

「オレ達はラッキーだ。まさかこんなところで、二人も可愛い女の子に出会えるなんて!」
「まるで天使だ!」
「天使だなんて。やだ……照れるわ」
「お嬢さん。あの騎士の連れかい? あんなヘタレじゃなくて、オレ達と一緒に刺激的な生活を送らないか?」
「旅芸人一座のセンターとして、優しくするよ!」
「えっと……さすがにそれは……」
「アルマッ! あいつら……ッ!」

 今度はアルマを囲んでナンパを始めるレザレス達を見て、イズルードの中で何かがキレる音をラファは聞いた気がした。

「おいマラーク! さっきの術! オレに使えッ!」
「だ、だが……なぜか全部お前に……」
「いいからッ!」

 イズルードの剣幕に押される形でマラークは再び詠唱する。そしてイズルードは助走をつけて、高く飛び上がった。

「裏天鼓雷音!」

マラークの術がまたしてもイズルードの近くで発動する。空間が弾けるのを見て、イズルードはそこに向かって剣を突き上げた。

「アルマをナンパなんて、百年早いんだよッ! 星よ……降れぇ!」

 マラークの術を何度か巻き込んだ剣を、イズルードが力任せに振り下ろす。そしてそれらは、アルマを囲むレザレス達の脳天に次々と直撃した。



「大丈夫か、アルマ!」
「え、ええ……私は。とっさにマバリアもかけたし……でも……」

 事を終えたイズルードは、真っ先にアルマに寄って無事を確認する。近くではレザレス達が、先ほどまでの調子の良さと打って変わって、頭を押さえながら泣き崩れていた。

「……ううっ」
「すみませんでした……」
「頼むから異端者にだけは……
「これ以上底辺にはなりたくない……」
「やりすぎだわ、イズルード」
「……わ、悪かったよ。そんなに泣くなって」

 何故かアルマに怒られる形になり、イズルードはバツの悪そうな顔でレザレス達に謝罪した。

「アンタはいいよなぁ、才能があって。オレ達みたいなダメ人間は、なにやってもうまくいかないんだ……!」

 特に誰も聞いていないのだが、レザレスは自分達の身の上話を始めた。彼らはかつて貴族の使用人として、平民ながらもそれなりの教育を受け、本人達が努力した甲斐もあってそれなりの生活を送れていたらしい。しかし、争で主人を失い、仕事のできなくなった彼らは過酷な傭兵生活を余儀なくされたそうだ。

「当然やりたくないような汚い仕事だって手を出したさ……でも戦争が終わって、傭兵の仕事も全然上手くいかなくて」
「だからって人の妹や彼女に手を出しちゃダメだろ」

 正論を述べるイズルードに、レザレス達は縋りついて抗議する。

「うるさい! 旅芸人を目指すオレ達にとって、女の子の存在は華なんだ!」
「そうだそうだ!」
「才能も地位もあるヤツがこんなかわいい女の子までゲットできるなんて!」
「理不尽だッ!」
「リア充爆発しろ!!!」
「……そう言われても」
「あの、レザレスさん……でしたっけ」

 状況を見守っていたマラークとラファだったが、ラファがゆっくり近づいて声をかけ、続けた。

「私達も主人から離れて故郷に帰ってきたばかりなの。明日が分からない生活って、不安よね……分かるよ」
「ラファちゃん……」
「でもね、不安って悪い事じゃないと思う。行く先に何があるのか、誰に会えるのか。分からないけど、それって素敵な事だと思うわ」
「ラファの言う通りだ。アンタら悪いやつじゃなさそうだしムカついたけどちょっと面白いし……普通に旅芸人を目指せばいいじゃないか」
「そうよ。こんなところで泣いていてはだめよ、レザレス!」

 ラファとマラークに続いて、アルマがレザレスの前に屈んでにこっと微笑み、手を差し出した。

「旅芸人って、人を笑顔にするんでしょ? だったらまずはあなたたちが笑顔にならないと。ね?」

 アルマの手を取ったレザレスは、涙を拭いて笑顔でアルマとともに立ち上がった。

「ありがとうアルマちゃん……本当に君は天使だ」
「やめてよ、天使だなんて恥ずかしいわ」
「いつまでアルマの手を握ってるんだ、はなせよ!」
「まあまあ」

 唯一面白くないイズルードの肩にマラークが手を置いた。



「ありがとうアルマちゃん! ラファちゃんもまた会おうぜ!」
「がんばってねレザレス!」
「元気でねー!」

 アルマとラファが手を振ってレザレス一味を見送る後ろで、マラークはイズルードに頭を下げた。

「その……本当にすまなかった」
「いいよ。なんか解決したし……わざとじゃないんだろ」
「オレ達の故郷に伝わる秘術なんだ」
「……異国人なのか?」
「まあな」
「じゃあ、大変だな……」
「そんなことないさ。さっきラファが言っていた通り、今のオレ達は自由の身だ。なんだってできる」

 マラークは顔を上げてラファの背中を見る。リオファネス城にいた頃はそれが不自由のない暮らしだと思っていたが、あのときはただ飼われていただけで自由に生きていなかったと、今本当の自由を得て感じていた。

「あ、そうだ。神殿騎士と言えば、オレ達メリアドールさんって人にすごく世話になったんだ。元気にしてるって、伝えてくれないか?」
「え? メリアドール?」
「マラーク兄さん、私達もそろそろ行こう!」

 ラファが駆け寄り、笑顔でマラークの腕をつかんだ。それを見て、マラークも笑顔で「そうだな」と答えた。

「ごめん、イズルード。そろそろ行かないと」
「アルマさんもありがとう!」
「ああ、いい旅を」
「ラファちゃん、今度会ったらゆっくりお茶しましょうね! 」

 イズルードとアルマに見送られ、マラークとラファは、行ったことのないフォボハムの外へと走り出した。

 

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あとがき

 FFT本編でマラークがイズルードを捕えるには、裏天鼓雷音がフィーバーするしかないな! と思いつつ、ずっと絡ませてみたかったのでこういう話にしました。このあとマラークとラファが、畏国のあちこちを楽しく旅できればいいなと思います。

2018年10月22日 サイト投稿

 

 

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