IF FFT ~もしも獅子戦争がなかったら~ The After

 

その1 -ウィーグラフの休日-

 

前提。
 ダイスダーグがバルバネスを殺すことをやめた結果、畏国が平和になったシリーズ。聖石は存在するが暴れない平和な世界。

あらすじ
 もしも骸旅団が蜂起しなかったら――彼らが蜂起しないよう、貴族達の計らいによってウィーグラフは"騎士"の称号を得て、骸騎士団の希望する仲間と共に神殿騎士団の傘下に入っていた。
 そんなある日、妹ミルウーダは、ウィーグラフが貴重な"休日"を満喫する姿を見ていた。

 

AM 5:00

「197! 198!」

 昇る朝日と共によく通る声が私の鼓膜を揺らし、私はゆっくりと起き上がって窓の外を見た。 まだ明るくなりきらない時間にもかかわらず、兄が剣を素振りしている。"騎士になりたい"と私を連れて村を出た日からほとんど毎日欠かさない、兄の日課だった。

「199! 200!」

 そこで剣を下ろして汗をぬぐった兄が私に気付き、剣を持っていない方の手を上げた。

「ああ、起きたのか。おはよう」
「……ええ、おはよう」
「ミルウーダも下りてこないか? 久しぶりに打ち合いをするぞ!」

 朝からテンションの高い兄だが、その顔は本当に晴れやかだ。その顔を見て、今のこの生活は間違っていないのだと思った。 もしも五十年戦争が終わった時、教会に飼われる選択をのまずに自分達で蜂起する道を選んでいたら――

「分かったわ。すぐに準備してくる」

 私の返事に兄は白い歯を見せた。それを見て私も顔がほころび、壁に立ててある剣を手に取った。


AM 9:00

「また本を借りて来たの?」
「まあな」

 朝食後の礼拝を終えてから兄は同じ神殿騎士団の幹部であるクレティアンに話しかけていた。兄が抱えているのは魔導書だった。

「兄さん、魔道士になりたいの?」
「いや。私にはそっちの才能はないからな……だが骸騎士団にも魔道士はいるだろう? 例え自分が使えなくても、魔法を理解し効果的に戦術に取り組むのは将としての務めだ。だがそう言ったら、ものすごい勢いで魔法のすばらしさについて語られたよ。おかげでこんな時間になってしまった」

 苦笑した兄いわく、クレティアンとバルクは優秀だが話を振ると長くて困る、らしい。だが、兄もそんな長話に付き合って手にした魔導書を嬉しそうに抱えている。早速机に置いて、丁寧に表紙をめくっていた。

「私は少し出るわ。ギュスタヴ達と、装備品の点検をする予定なの」
「私も行こうか?」
「いいわよ。兄さんはこのところずっと遠征続きだったでしょう。たまには本でも読んでゆっくりした方がいいわ」
「そうか。それなら甘えておくよ」

 ありがとう、と続けるやいなや魔導書に視線を戻す兄を背に、私は部屋を出た。


PM 1:00

「へーえ。そんなことが。さすがは俺達のウィーグラフだな」

 武器防具の点検を終えた私達は、近くにある川のそばで休憩をとっていた。そこで私は、今日の兄の様子を話していた。川の石を手に取りながら感嘆したのはゴラグロスだった。

「兄さんったら、戻って来ても訓練と勉強ばかりよ。休むって言葉を知らないのかしら」
「あいつはそんなやつだから今の立場まで上がってきたんだろ? バケモノの妹じゃ苦労するな」

 ギュスタヴの言葉に、私は無言でにらみ返した。それを見て、ギュスタヴが「バケモノは冗談だよ」と頭をかいた。

「だがオレは一応元貴族だから分かるんだ。あいつの努力は身分の差すら埋めかねない。オレはあんな崇高な人間にはなれない……ああいうやつの下でなんとかやっていくので精一杯さ」
「あなたにもちゃんと考えるところはあるのね。見直したわ」
「……お前なぁ」
「冗談よ。それに最近、あなたもちょっとマシになった気がするし」

 戦争時代は元貴族の知識や経験による貢献もあり本人の実力も認めてはいたが、何かと略奪や窃盗に走っていたこのギュスタヴという男を好きになれなかった。しかし、教会に来て質素ながら日々の食事に困らないようになってからは、そういった行為はすっかり鳴りを潜めていた。
 ギュスタヴいわく「略奪よりも教会に飼われて施しているほうがメリットがあるからな」とのことで、こうした自分の利益に忠実なところは相変わらずだが、全体的に丸くなったようにも感じていた。

「ところでゴラグロス。さっきから何をしているの」

 川原の石を拾っては捨ててるゴラグロスに問いかけたら、ゴラグロスは「これにするか」と一枚の平たい石を手に立ち上がった。

「よっと!」

 川に向かって投げた石が水面に一回だけ跳ね上がるが、その先にあった突き出た小岩にぶつかって石は川の中に沈んだ。どうやらゴラグロスは石を投げて水面に何度も跳ねさせる遊びをしているらしい。

「懐かしい遊びね。そういえば昔よくやったっけ」
「あーあ……いい感じだと思ったのにな」
「さっすがゴラグロス。地味でツイてないヤツ」

 そう言って笑いながらギュスタヴも足元の石を拾い上げて、川に向かって投げた。その石は水面で何度かはねた後、川の真ん中より少し先で落ちた。

「やるな、ギュスタヴ……」
「じゃあ私も」

 得意げな顔のギュスタヴを横目に、私も同じように石を投げる。その石は二度ほど跳ねたが、ギュスタヴよりもずっと手前で力尽きてしまった。負けた気がして眉間に皺を寄せた私を見て、ギュスタヴがどこか嬉しそうにニヤついた。

「女の子にしてはいい感じじゃないか?」
「バカにしないでよ! 拾った石が悪かったのよ!」

 少しはマシになったと言った先程の自分を殴りたい気分だ。私はもっと投げやすい石を探すため、二人のそばから離れた。

「ギュスタヴ、軽率だ。あいつ、腕相撲の時みたいに自分が勝つまで挑んでくるぞ」
「かもな。ま、そういう血筋なんだろう」
「お前もよく付き合えるな」
「変わってるんだよ、オレは。お前だってそうだろう。変わってなきゃ、平民の騎士ごっこ呼ばわりされながら命がけで戦うなんてできるわけない。まっとうな平民は田舎でクワ持って耕してるのがお似合いさ」
「そうだが……」

 石を集めながらも二人の会話は丸聞こえだ。だが、混ざるよりも私はギュスタヴに負けたくない気持ちのほうが勝っていた。

「何をしているんだ?」

 そんな時、兄が通りがかったのか、それとも本を読み終えて私達を手伝おうと思ったのか、遠目で私達を見つけて駆け寄ってきた。
 ようやく手頃な石をひとつ手に取った私は、兄に状況を話した。

「ってことで……リベンジ!」

 私は石を投げてみたが、先程と結果は変わらない。口元をかたく結んだ私を見て、兄は「悪くないと思うが」と言ったうえで足元の石を拾った。

「投げ方が少し力任せなんだ。こういうのは力じゃなくてコツがいるんだ」
「そうなの?」
「おお。ウィーグラフ参戦か? オレはその真ん中のちょっと先、あの辺まで行ったぜ。そっちのヘタレはあの岩に衝突だ」
「ヘタレって言うな! ちょっと上手いからって偉そうに!」
「そうか。……本気でやっていいんだな?」

 そう言った兄の目が好戦的に輝いた。何度か手の中で拾った石を弄んだ後、兄は静かにその手を引いた。獲物を捕らえるかのような目線で、広い川の向こう岸を見ている。

「天の願いを胸に刻んで……心頭滅却!!!」

 まるで聖剣技を繰り出すかのように叫んだ兄の投げた石は、まるで川を割る勢いで何度も跳ねながら高速で進み、そして向こう岸の岩にぶつかり高い音を立てた。

「よしたどり着いた! ……ん? どうした?」

 嬉しそうな兄を尻目に、今まで言い争いながら勝負していた私達は沈黙するしかなかった。

「え? イマイチだったか?」
「いやいやいやいや! これでイマイチとか何言ってるんだよッ!」
「たかが石投げに本気出すな! ちょっとは手加減しろよバケモノ!」

 堰を切ったようにツッコミを入れるゴラグロスとギュスタヴに、私も心の中で同意した。
 そう。兄は例え遊びでもやっぱり"傑物"だったのだ。


PM 5:00

「ボコ、どうだ? 気持ちいいか?」
「クエ~」

 兄がチョコボ舎で五十年戦争の頃からずっと騎乗してきたボコにブラッシングをかけていた。私はというと、同じ骸騎士団でも気の合う女性たちと同性同士、チョコボ舎の近くで談笑していたのだが、兄が鼻歌交じりにチョコボ舎に入っていくのを見て、気になって中を覗いていた。

「今日もウィーグラフ団長かっこいいなぁ……」
「そう? 結構締まらない顔しているわよ」
「そこがいいんじゃないですか~」

 そう言っているのはモンクのジョブについている若い仲間だ。彼女いわく「普段凛としているからこそ、こういうオフの顔にギャップがあるんです」とのことだ。

「でもウィーグラフ団長ってやっぱりボコが本命なんでしょうか……」
「え、そんなのやめてよ……」
「でも恋人を見るような目をしていますよ。私達の間じゃ絶対そうだってなってます」

 冷静にそんなことを言い放ったのは長年共に戦っている白魔道士の仲間だった。私はあまり興味ないのだが、彼女達は特にこういう恋愛話が好きらしい。とは言え、例え冗談でも兄の恋人がチョコボだなんて噂話は聞きたくない。

「でも兄さんが特定の女性と仲良くしているのは見たことがない……」
「ミルウーダ様はどっちなんですか~?」
「え?」
「ゴラグロスさんと、ギュスタヴ副団長」
「はあ!?」
「どう見てもゴラグロスでしょ。あの人絶対ミルウーダ様狙ってるわ。昔っからいつも地味に隣キープしているもの」
「えええ!?」
「え、嘘……知らなかったんですか……?」
「ミルウーダ様にぶーい」

 憐れむような白魔道士と、茶化すモンクの発言に、私は慌てて二人から視線を反らした。その先で、騒がしくしたせいでいることに気付いた兄と目が合う。

「ミルウーダ。何か用か?」
「!!! い、行くわよあなたたち!」

 私は慌てて兄から背を向け、モンクと白魔道士の腕を引きながらチョコボ舎から駆け出した。


PM 9:00

「何を書いているの?」

 部屋で机に向かって筆を走らせている兄に尋ねると、振り返った兄は「日記だ」と答えた。

「日記って何?」
「知らないのか? その日に起きた出来事をこうして書にしたためるんだ。まあ、私も最近始めたことだがな」

 兄いわく、ある場所で出会った冒険者の少年が同じようにいろんなことをノートに書いているのを見せてもらい、興味をもって自分もと始めたらしい。

「書いてみると中々楽しいぞ。それに少年が言っていたのだ、冒険日記をいつか故郷のみんなに見てもらいたいとな」
「兄さん、故郷に帰りたいの?」
「父と母には悪いが、今はまだその時ではない。生きているのかも分からないが……私はまだこの畏国のためにやるべきことがある。私を必要とする人がいる。共に戦ってくれる仲間がいる。だが私に何かあった時、この日記が未来の子供達の役に立つことができれば……」
「そんなのおかしいわ。死ぬときは誰でも、死にたくないと見苦しくなるものよ」
「そうだな。だからこそ、この日記があれば、私がいかに見苦しく汚い死に方をしても、私は皆の道標でい続けることが出来るだろう?」
「じゃあ、私は見苦しく、英雄ではなく普通の人として人生を終えた兄さんを覚えておくわ」
「ふっそれはいいな! それならミルウーダは私より長生きできるし、私も本望だ!」

 そんな兄の顔はとても嬉しそうで穏やかだった。
 確かに私は皆の前に立ち剣を掲げる兄を誇りに思い、ウィーグラフの妹の名に恥じないよう自分も強くなろうと思っていたが、今日みたいになんでもないただの日常を楽しむ兄が一番見ていて嬉しくなる。

「こんな日が続くように、私も頑張るから。だから兄さんもその辺で死んだら許さないわ」
「……そうだな」

 もうすぐ消灯の時間だ。 明日もこんな穏やかで前向きな一日でありますように――私は神に祈るかのように、自分自身の心に向かって願った。

 

戻る

 


あとがき

 ウィーグラフにもこんな感じでなんでもない日常があればあんなこと(ゲーム本編)には……と思いながら書きました。個人的に、ウィーさんはボコと戯れてる時間が一番リア充の顔してたらいいなと思います。

2018年8月22日 サイト投稿

inserted by FC2 system