美しく狂おしい月の下で

 

 親友であり長年仕えてきたゴルターナ公によってベスラ要塞で幽閉されていたオルランドゥだったが、北天騎士団と南天騎士団の競り合いに介入したラムザ一行が起こした混乱の最中、ラムザが義理の息子のオーランと手を組んだことで無事に救出された。
 その際ラムザとは別に動いていたディリータがオルランドゥの影武者を用意し、ゴルターナ公に刃を向けた上でその影武者を殺害――ラムザやオルランドゥ本人がシドルファス・オルランドゥ卿が戦死したという報を聞いたのは、その報が畏国に駆け巡ってからのことだった。

「これでわしはもはや雷神シドでも剣聖でもない。ただの老いぼれとして、お主の成す正義の盾としてくれぬか」
「そんな……もちろん伯爵が協力してくれるのでしたら心強いです。でも、僕にとって貴方は今でもオルランドゥ伯ですよ」
「ははは。伯爵という地位など死人には不要なもの。今後わしのことは"シド"と気軽に呼んでくれても構わんのだぞ」

 そうオルランドゥ本人は言っていたが、実際にシドと呼ぶのはムスタディオやマラーク、ラファなど、もともと身分を気にしない人間ばかりだった。特にラムザは亡きバルバネスによく似た容姿と心を持ち、ぜひそう呼んで欲しいとオルランドゥは思っていたが、ラムザは頑なに首を横に振るのだった。

「なんでシド様は伯爵と呼ばれたくないのですか?」

 そんなある日、オルランドゥにそう尋ねてきたのはラファだった。孫にも見えるような年頃の娘が目を丸くして首を傾げるのを見て、オルランドゥは豪快に笑いながら答えた。

「ラムザがベオルブの家にこだわらず自らの正義を成そうというのに、わしだけが"伯爵"ではまるで特別扱い。社会的に死んだのであればわしはもう貴族でも剣聖でもない、ただのジジイではないか」
「シド様はただのおじいちゃんになりたいの?」
「そうかもしれぬな。ただのジジイであれば、ゴルターナ公ともあのようなことにはならなかったかもしれん……それに」
「それに?」
「少し思い出すのだ。今のラムザとは逆に、互いに立場もあるからわしのことを敬称で呼ぶよう言っても、シドと呼び続け慕ってくれた男をな……今思えば」

 そこまで言って、オルランドゥは首を横に振って話を戻した。

「……それにしてもラムザの妙な頑固さ。あれも若き頃のバルバネスにそっくりだよ。はっはっは!」

 豪快に笑うオルランドゥに、ラファも自然と笑いがこぼれる。
 そして一行は、ラムザの妹であるアルマを救うため、ランベリー城を目指した。



 ゼルテニアから山岳地帯を越え、ランベリーの領地に入る。ベスラ要塞の決戦が行われなかったことによって直接の戦火を逃れた城下町は、今はゼルテニアから来た文官によって治められている。
 ゴルターナ公が亡くなったことでまた情勢も変わるかもしれないが、きっとオーランやディリータが上手く手を回してくれるのだろう――そう思いながら、ラムザと共に宿に入った。どこの町でもそうだが、戦乱によって情報が錯綜しているのもあり、教会や賞金稼ぎの目さえかいくぐれば異端者として追われるラムザ達でも宿を取るのは難しくなかった。現にゴルターナ公と同盟関係を結んでいたこのランベリーの城下町で南天騎士団の元団長が歩いていても、誰も声をかけてくることはなかった。

「なあ、ラムザ。どう見てもここ普通に平和そうだけど、本当にランベリー城にいるのかな?」
「分からない……でも、あの時侯爵は言っていた。ランベリー城で待っていると」

 宿でムスタディオとラムザが語り合いながら、窓から町の奥にある白い城を見た。
 湖のほとりにある白亜の城はこの町のシンボルであり、かつてここを治めていた領主、エルムドア侯爵の居城でもあった。だが、獅子戦争の最中で侯爵は戦死し、子供はおろか親族もいなかった侯爵の意志を継ぐものはなく、城も無人の廃墟となっていた。
 だが、宿に来る前に酒場で得た情報によると、ランベリー城に足を踏み入れた盗掘者は誰も戻らないという噂話があり、それをうけて酒場のマスターや領民たちは「侯爵様の霊が今も逆賊を成敗し、我々を守ってくださっている」と話していた。だから侯爵を慕う領民は誰も城には近づかず、今も城の近くに造られた墓を弔問していると言う。

「ミュロンドでヴォルマルフに会える確証もないし、正面から行けば、アルマが危険に晒されるかもしれない……遠回りかもしれないけど、先に可能性を潰しておくことは大事だよ」
「まあ、キュクレンやベリアスみたいなバケモンを何体も同時に相手するっていうのも現実的じゃないもんな……シドさんもそう思うよね?」
「うむ……それに侯爵殿は誇り高い方だった。彼がランベリーで待つと言うのなら、きっとそうなのだろう」
「伯爵はエルムドア候のことをご存じなのですね……」
「五十年戦争の頃、ゼルテニアとランベリーは共に戦火の中にあった。彼の事は幼い頃より知っておる」
「そうなんですね。でも……ウィーグラフと同じく、あの人ももう」
「そうだったな。侯爵殿はもう故人……生きているはずがない。それにしても今宵は美しい月夜だな」

 オルランドゥの言葉にラムザとムスタディオは再び窓を見る。ちょうど月がランベリー城の上にあり、その月明かりが白き城を一層に惹きたてていた。
 それを見て、オルランドゥはふと思い立つことがあり、ラムザに外へ行くと告げた。

「どちらへ行かれるのですか?」
「なに。月を見ていたら散歩をしたくなっただけだ。老人とはそういうものだよ」

 そう言ってオルランドゥは念のためと一振りの剣だけを持って宿から外に出た。



 宿から出たオルランドゥが向かったのは、城の近くにある小高い丘だった。そしてひとつの城にも負けぬほどの立派な白い墓石が月明かりに照らされているのを見て立ち止まり、その前で膝をついた。

「……そう言えば、ここに来るのは初めてだったな」

 手を伸ばし、刻まれた名を指でなぞりながら目を伏せた。メスドラーマ・エルムドアここに眠る――そう刻まれた墓石の下には、今も彼を慕う領民たちが手向けた花が添えられている。

「美しい墓だろう? まるで私の死を祝福するように」
「……!」

 背後から気配のない声をかけられ、オルランドゥは顔を上げた。

「貴公もそう思わないか? シド」
「エルムドア侯爵……」

 静かだがよく通る低い声に、オルランドゥは立ち上がり振り返った。目の前にいるのは、仕立ての良い黒衣に銀の髪と真紅のマントが映える、よく知った男――エルムドア侯爵その人だった。
 帯刀しているがそこに手をかける様子はなく、エルムドアは口元に笑みを浮かべた。

「悪いがこの場の時空を少し歪めさせてもらった。仮に弔問客やラムザがここに来たとしても、我々の姿や声を捉えることはできない」
「……」
「そう警戒しなくていい。私は闇討ちなど卑劣な手段は取らぬ」

 その言葉に、オルランドゥは自分の剣に手をかけようとするのを止め、代わりに口を開いた。

「では私に何かご用か?」
「いや。ただ、今日は月が美しいのでね。死体ばかりに囲まれた生活にも飽きたし、たまには城の外に出てみようと思ったのだ」
「そうしたら私がいたと」
「ゲルミナス山岳で私の配下がラムザの姿を捉えたから、来るのは知っていた。もっとも、貴公がラムザと共に行動し私を討ちに来るとは想定外だが」
「聖石の件はおおよそではあるがラムザから聞いている。だがこうして目の当たりにすると、やはりにわかには信じられぬな……何故生きておられるのだ」
「死んでいて欲しかったか?」
「そうは言っていない……だが」
「ラムザから聞いたかもしれないが、聖石には大いなる存在の魂が宿っている。私は確かに戦場で突然の死を迎えることとなったが、こうしてランベリーで埋葬される際に聖石が捧げられ、私はその存在の声を聞き、彼の寵愛を受けることを選んだのだ」
「死の淵からよみがえったと?」
「そう言うことだ……だが今の私は貴公の知るエルムドアではない。大いなる存在が信仰する神の忠実なる僕にして、生き血を啜ることを喜びとする人とは異なる存在。生前のエルムドアの記憶と魂が貴公と語ることを望むから、刀を抜かずにこうして話しているのだ」

 そう答えたエルムドアの瞳が怪しく光る。生前の頃から類まれな容姿はどこか人間離れしていたが、今の姿は本人がそう話すように、人外そのものに見えた。まるでおとぎ話の吸血鬼のような容貌に、背筋が凍るような感覚がした。
 ラムザはかつて目の前で聖石に縋る者を唆す聖石の声を聞いたと言う――聖石に宿る存在は契約者の絶望と悲憤によって目覚め、契約者の肉体と魂を乗っ取ってしまうと。だが、目の前にいるエルムドアは肉体こそ一層に人間離れしているように感じたが、丁寧でどこか信心深い話し方といい、敵となった男を前に下げた刀に注意も向けない甘さといい、自分の知っているエルムドア侯爵と変わらないように感じた。
 だからオルランドゥは、エルムドアを乗っ取る何者かではなく、あくまでエルムドア侯爵その人に語り掛けるように尋ねた。

「侯爵様。死は全ての者に訪れる必然であり、将は民を守るために命をかけるもの。貴方の死は多くの民に悼まれ、信じた神は貴方を彼の国へと導いたはず……にも関わらず、貴方は聖石に何を望まれたのですか」
「本当に? 本当にあなたはそう思っているのか?」

 今まで余裕すら感じたエルムドアが眉を寄せた。

「確かに何も知らぬ民は今もなお私の死を悼み、我が魂が聖アジョラの祝福を受けることを望んでいることだろう。それは墓石に添えられた花を見れば分かる。だが、貴公は分かっているはずだ……私が何故"殺された"のか」
「……」
「そして貴公は私が死ぬことで喜んだ者がいることを知っている。いや……あなたも私の死を喜んだ一人ではないのか、シド」
「……そういうことか」

 語り口こそ穏やかだったが、人ならざる瞳に明らかな感情が灯る。怒り、悲しみ、失望――ラムザが語っていた聖石に宿る存在を呼び起こす負の感情が、そう語るエルムドアの周囲に渦を巻くようにまとわりついているのをオルランドゥは感じ、目を閉じた。
だが、それを気にすることなくエルムドアの糾弾するような言葉は続けられた。

「私を殺した矢は、明らかに味方の陣営から放たれた。膝をついた私の前に現れたのは、殺意の剣を握る私の配下だった」
「……はい」
「私の戦死の報を聞き、ゴルターナ公は安堵した。自分に並びかねぬ権力を持った者がこの世を去ったことで自分の地位は守られる……そして信頼のおける文官をランベリーに送り、実質ここはゼルテニアの領地となった」
「そうですね……」
「私の葬儀はランベリーで盛大に行われた。仕立ての良い服を着せられ、花を添えられ、神父は信仰の言葉を口にする。参列した者の中には私の死を惜しむ者ももちろんいたが、葬儀の中心にいたのは、私にとどめをさした者だった。ところで貴公もゲルモニーク聖典は読んだのか?」
「……ええ」
「ならば分かるだろう。私を送った信仰の言葉も偽りであると。忠誠も同盟も信仰も、私を支えてきたものはすべて偽りだった……あなたも」

 事実を噛みしめるように相槌を打っていたオルランドゥに、エルムドアの冷たい瞳が刺さる。そしてエルムドアは刀に手をかけ、静かに抜いて前に掲げた。月の光が異国の技術を引き立てる。
 そんな美しい刀身を見ながら、エルムドアは言葉を続けた。

「あなたはゴルターナ公の忠実な騎士ではあるが、私にとってはこの刀の師であった。若く父を亡くした私に、ゴルターナ公の命とは言え将としての心構えを教え、戦場でもよく肩を並べたな……私にとってあなたは尊敬する師であり、そして敬愛する父のような存在だった」

 懐かしむようで、そう語るエルムドアはどこか悲しそうに見えた。そしてそれが気のせいではないことは、オルランドゥも承知していた。そして昔彼にこう教えた――互いに立場もあるのだから、師や父ではなく、貴族として接するべきであると。武人は情ではなく忠義に生きるものだと。
 自分の忠義はゴルターナ公にあり、親としての愛は養子として引き取ったオーランに与えるものと告げ、その後大人になるにつれて彼は"シド"と愛称で呼ぶことだけはやめなかったが、毅然とした"侯爵"として"伯爵"である自分と接するようになっていた。
 だが、本当は今でも彼は自分を師として父のように慕っている――それはこの獅子戦争で迷わず南天騎士団に味方したこと、将としての戦い方はすべて自分が教えた通りであることから分かっていた。だからこそ、エルムドアの言葉は今忠義を失った自分には重く響いた。

「そんなあなたが私の死を喜ぶゴルターナ公に今も膝をついているのか……いや、それどころかあなたも私が死ぬ事を知った上で戦場を見て笑っていたのか。その想いは土の中で私を強く苦しめたよ」
「だから聖石に……?」
「そうかもしれない。だが、今となってはかつて私を苦しめた貴公のこともどこかどうでもいいと思っている……今は悲しみや失望を超え、私は私を救った存在に傾倒している。彼は一度全てを失った私を作りかえたのだ」

 自嘲するように笑ったエルムドアは、再び抜いた刀を鞘におさめた。ここに敵意なく現れ境遇を語る理由は分からないが、事実とともに素直に自らの感情を述べているようにオルランドゥは感じていた。
 だからオルランドゥもベスラ要塞でラムザ達と合流してからここに来るまで思っていたことをエルムドアにぶつけた。
 
「……侯爵様。確かに私は貴方を見殺しにしたのかもしれぬ」

 オルランドゥの返答に、エルムドアの眉がわずかに動く。だが、特に何か言う様子はなく、オルランドゥの次の言葉を待っているようだった。

「ゴルターナ公が貴方のことを疎ましく感じていたのは事実でしょう。戦争によって疑心暗鬼に陥り、長年仕えてきた私ですら信じられなくなってしまわれたのですから。そして仕えていた私も同罪。知らなかったなどと言い訳するつもりはない。それに直接の配下でない貴方を戦場に巻き込んだのは、騎士団長としての責任だ」
「違う……」

 オルランドゥの言葉を遮るように、エルムドアが呟いた。だが、オルランドゥはエルムドアを見据えたまま続けた。

「違いませぬ。それを証拠に、今日まで私はここに来ることもできなかった……貴方の死とその責任から逃れたかったのだ」
「嘘だ。あなたはそのような弱い人間ではない……!」

 今までで最も感情を顕にした否定に、オルランドゥは「やはりな」と呟き、両手を軽く握った。

「……先程自分がエルムドア侯ではないと言われていたが、ただ侯爵を騙る存在にしては、貴方は随分と侯爵の複雑な私情を理解しておられるな」
「……私を愚弄するのか」
「そうではない。今の貴方がどのような存在なのかは分からないが、侯爵……メスドラーマの魂を持っていると言うのであれば剣を交えたくないと思っただけ。少なくとも人の感情をそこまで理解できるのであれば、我々が争う理由などないでしょう」
「……なんだと?」
「ラムザも妹さえ無事で貴方が今後誰も傷つけぬのであれば剣を引く……彼はそういう男だ」

 ラムザのためにも戦わないに越したことはない。社会的には死人となり伯爵でも騎士団長でもなくなった自分が新たな目的のために進んでいるように、たとえ人としての生を捨ててしまったのだとしても、その魂が悪魔そのものではなく人としての情のもと在るのならば――だが、エルムドアの答えは拒絶だった。

「それは出来ない相談だ」
「……何故! 貴方の言うように、恨みや悲しみもなくなるほどの存在が傍にあるのなら、その者と静かに新しい生を過ごせばよろしいでしょう……!」
「オルランドゥ卿。貴公は勘違いをされている」

 エルムドアの瞳が再度妖しく光り、片手を胸に当てて口元に笑みを浮かべ言葉を続けた。

「私はメスドラーマ・エルムドアの魂を乗っ取り、かつて彼を苦しめた貴公を傷つけたくてそのような素振りを見せていただけ。我が目的は、我らが神を目覚めさせ、同じく聖石に宿る仲間を目覚めさせること……その為にラムザにはリオファネスでの借りを返さねばならぬ。その中で剣聖という厄介な戦力を削ぐにはこれが最良だということだ」
「……メスドラーマ様」
「今更その名で呼ぶな……」

 不快そうに、だがどこか情を宿した表情で答えるエルムドアを見て、オルランドゥは強い口調と共にまっすぐエルムドアを見た。

「その呼び名に感情を乱すということは、やはり貴方は私の知る侯爵殿だ。もう互いに守らねばならぬ立場を失った身……迷わず本音を語ってはどうか」
「……ふ、ふふっ」

 オルランドゥの言葉に、エルムドアは静かに笑い、そして自らの感情を隠すように月を見上げた。そして静かな笑みを浮かべたまま、オルランドゥに視線を戻した。

「流石だな、シド。何を言っても惑わされないとは、やはりあなたは強い男だ」
「……メスドラーマ様?」
「せめて死後でも、そう呼んであなたが私の死を悼みに来てくれれば……だがもう過ぎたこと。もうそこに感情を乱す私はここにいない。それは本当のことだ」

 そう言って、エルムドアは自身の持つ聖石――ジェミニを取り出した。聖石を優しく撫でながら慈しむように目を細め、オルランドゥへの話を続けた。

「私はこの聖石に宿る者の寵愛を喜び、彼のために全てを捧げたのだ。彼のためなら私は何でもできる。かつて師と仰いだあなたを手にかけることも……いや、私自身もあなたの高潔な生き血を啜りたいと思う程にこの聖石と同一になろうとしている。ヴォルマルフ殿やウィーグラフがそうであったように」
「貴方のその想い、分かりました……」

 オルランドゥは息を吐き、そして剣を抜いて矛先をエルムドアへとまっすぐに向けた。

「そこまで戻れぬ引かぬと言うなら、明日は全身全霊でこの剣聖の力を貴方にぶつけましょう。伯爵の地位を捨てた今、私には師としてこれしか手向けるものがありませぬ」
「そうか。だが一人の武人として、かつて畏国にその名ありと言われた達人と刃を合わせるのは名誉なこと。喜んでその剣を受け止め、我が刀の前に屈服させてみせよう……今日のことは、この美しい月に化かされたものと思い忘れて欲しい」

 そう言って、エルムドアは踵を返し、オルランドゥに背を向けた。マントと共に靡く銀の髪がこの世を拒絶するように月の光に冷たく輝く。だが最後に、顔だけをこちらに向けて柔らかく微笑んだ。それは裏切り、偽り――それらを知らなかった頃に見せた、本来穏やかで優しかった男そのものの表情だった。

「私もあなたのように、取り巻くすべてのものを失っても自身でいられるほど強くありたかった……」

 さらばだ――という声と共に、エルムドアは音もなく姿を消した。残されたオルランドゥは再び墓石に視線を向ける。月の光が穏やかに、だが冷たくそれを照らしているのを見て、オルランドゥは静かに剣を収め、ラムザ達が待つ宿への帰路についた。
 


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あとがき

 エルムドア侯爵にとってオルランドゥは、刀の師であり父のように慕う存在である……という妄想をずっとしていたので、本編では何も起こらないけど、こういう一幕があればいいなあと思いながら書きました。あと、同じルカヴィとの契約でも、少しずつ契約の内容(どこまで人間性が残っているかなど)が違っててもいいかなと思います。

2019年5月21日 pixiv投稿

 

 

 

 

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