罪人たちの秘めごと

 

 

 私は、今日も聖アジョラ像の前に跪き、祈りを捧げていた。
 神殿騎士団長ヴォルマルフが聖石の徒となりそれに追随する道を選び、目の前にあるのはアジョラと神を侮辱し教皇や一部の司祭にとって都合のいい偽りの信仰を民衆に植え付けるための虚像であることは分かっていたが、物心ついた頃から教会の中での生活しか知らない私にとって、こうしているのは信仰を問わない日課のようなものだった。

(神よ、懺悔します。我が罪を……私もまた貴方への信仰を偽り、信仰をこえて本来友であるべき者を愛してしまったことを……)

 言葉に出し誰かに気付かれてはいけない想いを、そっと神に打ち明ける。神に奉仕すること三十年以上にして、私はついに一人の人間を心より愛するようになった。クレティアン・ドロワ――同じ神殿騎士団の一員で、ヴォルマルフとその奥にいる神に共に跪く信仰者――美しい容姿と声を持ち、それ以上に汚れを知らない信仰と信念を持った魔道士に私はいつの間にか惹かれ、ついに想いを打ち明けて無事に恋人同士と言える関係になってから数か月が経っていた。だがそこで私はクレティアンに言えないような大きな悩みに直面していた。
 人目を忍んでどちらかの部屋か人気のない場所で逢引するまではよかったが、最近になってそれ以上の欲望が自分の中に渦巻くようになったのだ。
 愛の言葉をささやいて口付けを交わすだけでは足りない己の欲望の正体が何であるかは理解しているが、それは本来男女が子孫を残すための尊き手段であり、ただ欲望をぶつけることは神の教えに反するものだ。同性であればなおさら抱いてはいけない感情――まさかそれをクレティアン本人に相談するわけにもいかず、こうして神を通して己に問いかける日々が続いていた。

(それでも私はこの想いを止めることができない……それどころか、クレティアンを想うだけであの清き姿をこの手で穢してしまうことを妄想してしまう。どうすれば……)

 悩み抜いていると、ふと聖石と契約する前のヴォルマルフが、よく奥方に花束を贈っていたことを思い出した。かつて神の前で永遠の愛を誓い合った二人に今の自分を重ねるのは失礼極まりないのは分かっていたが、ヴォルマルフから渡された花束を持って慈しむように微笑む女性の姿を思い出し、肉体だけでない愛の伝え方をすればこの汚らわしい思考も少しは清くなるのではないかと感じた。

「贈り物……か。だが……」

 その考えに至ったものの、何を贈ればいいのか、具体的なものがまるで思い浮かばない。さすがに男のクレティアンに花束を渡すのもどうかと思い、何よりも忍ぶ関係である以上あまり派手なものを渡しては困惑させるだけだ。かと言って年齢的にも十以上離れていて自分は世間の流行にも疎く、育ち自体は裕福な貴族の家庭であるにも関わらずここの清貧な生活に投じたクレティアンが高価な品に興味があるようにも思えず、実用的なものにしても純粋な魔道士であるクレティアンが何を必要としているのか、決定的なものが思い浮かばない。

「……駄目だ」

 最後にアジョラ像を見上げてみたが、それで神が答えを出してくれるはずもなく、私は息をついて礼拝堂から立ち去った。



「……はぁ?」

 そして悩んだ末に、気が付いたら私はバルクに相談を持ち掛けていた。案の定、呆れたような面倒そうな顔で一蹴される。
 バルクの性格を一言で表すなら、"自己中心的"――何故このような優しさの欠片もなさそうな男にクレティアン本人にも持ち掛けられないような悩みを打ち明けたのかと言うと、どういう経緯か自分とクレティアンの関係を察していたのもあるが、自己中心的な性格ゆえに偏見がないからだった。単純にクレティアンの好みを聞くなら年の近いメリアドールにでも聞いた方が的確だろうが、さすがに彼女にこの関係を知られるわけにはいかない。

「あんな箱入り魔道士の好みなんざオレが知るかよ」
「……そう言うだろうと思ってはいたが、それくらいに私は切羽詰まっている」
「ふーん……」

 詳細は伏せたが、バルクは何かを察したように目を細めた。その様子に、私は逆に顔ごと視線を反らす。

「意外とお前って可愛いんだな」
「からかうな」
「はいはい。で、あいつにくれてやるプレゼントの話だったな」

 最初の反応の悪さから諦めていたのだが、どうやらバルクなりに相談に乗ってくれるらしい。私が黙ってバルクに視線を直すと、バルクが言葉を続けた。

「そもそもあいつの性格なら、欲しいものがあったらガマンせずに買うと思うんだが」
「そうだな……」
「そんなことより、愛しい副団長様にたっぷり可愛がってもらうほうが喜ぶんじゃね?」
「ま、待て……我々は決してそのような汚らわしい間柄では」

 バルクの言葉を制止すると、バルクは珍しく驚いた様子で眉をひそめた。

「……え、お前マジか?」
「当然だ。貴様こそ、クレティアンを妄想でも汚すな」
「いや、それは謝るが……あーでも僧侶ってそういうものなのか?」
「何の話だ」

 少しの間一人で考えに耽っていたバルクだったが、「めんどくせえな」と息を吐いて話を続けた。
 
「なあ、ローファル。一応同世代として言ってやるが、その年でそういうの抑え続けると拗らせるぜ」
「拗らせる?」
「いや……お前の耳にも届くだろ。性癖歪んで悪趣味に走るクソ司祭の話とか」
「そうだが……」

 もうすでに拗らせ始めているかもしれないとは言わなかったが、バルクの言葉に自分の暗い欲望が頭をよぎり、被っているフードをさらに下げた。
 そんな私を見て、バルクは楽しそうに口元を歪めて笑った。

「その様子だと、別に性欲ゼロってわけでもなさそうだな」
「昼間から不潔な。やはり貴様に相談した私が間違いだったようだ……」
「オレは別に信仰心なんてないんでね、好き同士がやるなら別に男同士でもいいんじゃねぇのって感じだが」
「……」
「この話はあいつも含めて誰にも言わないでやるよ。ああ、そうだ……贈り物ならお前からってしっかり伝わるようにそのフードと同じ青色の装飾品でもあげれば?」

 雑で的確な提案をしたバルクは、私の肩に手を置いて楽しそうな顔で最後に言った。

「せいぜい頑張るんだな……お堅い副団長様」



 それから数日後が経った。

 バルクに言われた後、船でガリランドへ渡った私は、ショップで品を見て「これだ」と思ったものを選ぶことにした。魔道の心得は全くないということでもなかったが、それでもバルクに言われた通り、実用的なものほどクレティアンなら既に持っているだろうと思うと、やはりどうしようもなく難しかった。
 だが、様々な恩恵がある装飾品を眺めていたら、ひとつの品が目に留まった。青色の装飾品――程よく有用で、かつ優先的ではない効果を持った品。バルクが別れ際に言ってきた言葉が頭をよぎり、私はそれに手を伸ばし、店主に贈り物だと告げて少し綺麗な布に包んでもらった。

 そしてその夜、廊下で会ったクレティアンに話したいことがあると声をかけた。クレティアンの時空魔法によって、人目を忍んでそのまま礼拝堂へと移動する。主に貴族の冠婚葬祭を行うための、少し外れた場所にある小さな礼拝堂――大聖堂ほどでないにしても日中は僧侶や信仰者が多く出入りする場所だが、日も落ちたこの時間は風のそよぐ音すら聞こえるほどに静寂だ。月明かりが天窓から差し込む日はいつもこの場所を選んで、明かりを灯すことなく罪深いひとときの逢瀬に身を堕としていた。

「珍しいな。ローファルから私に声をかけるなど……何かあったのか」

 クレティアンが言うように、私からこうして声をかけてここに来ることはあまり多くなかった。しかも声をかける時は恋人としてというよりも、同じくらいに人目を忍ぶ聖天使の密約についての相談事を持ち掛けることが常で、今日もクレティアンは柔らかい声に、冷たいほどに清い信仰者の瞳で私に視線を向けていた。

「ああ……いや、今日は個人的な用だ」
「……それは本当に珍しい。だがちょうどよかった。私もそろそろお前とこういう意味で過ごしたいと思っていたところだ」

 個人的な用と聞いて少し表情を和らげたクレティアンが、私の胸元に白い手を添えた。心臓が跳ね上がるのと同時に持ってはいけない欲望が内から湧き上がろうとする。それを抑える形で、私はクレティアンから一歩引いて咳払いした。

「年上をからかうな」
「相変わらず堅いな……そういうところも好きだが」
「……これを」

 露骨に誘ってくるクレティアンの言葉から目を逸らしながら、私は小袋をクレティアンに差し出した。

「なんだ?」
「……贈り物を」
「ローファルが私に?」
「そうだ」
「ローファルからの贈り物……開けてもいいか?」
「もちろん……」

 クレティアンが嬉しそうに、しかし丁寧な手つきで渡された袋を開け、中のものを取り出した。

「指輪……?」
「すまない……すでに持っているかもしれないが」

 クレティアンへの贈り物に選んだのは、銀に青い石がはめこまれた、魔法のリングだった。魔道士の言葉と精神を守ると言われている装飾品――畏国では一般的な品ではあるが、クレティアンはありがとう、と柔らかく目を細めて指輪を迷いなく恋人の証と言われる左手の薬指にはめた。

「この石、ローファルのローブと同じ色だな」
「まあ、そうだな……これがたまたま目に留まったのだ」
「……なんだ。てっきり"お前は私のものだ"というメッセージなのかと思ったのに」

 クレティアンが指輪を眺めながら意地悪く微笑んで、私の目の前で指輪にそっと口付けた。愛おしそうに指輪を唇に寄せる様子に、自分の身体がぞくりと震えるのを感じる。

「……っ」
「違うのか?」
「あまり挑発しないでくれないか?」
「何故?」

 クレティアンがまっすぐな、だが少し潤んだ瞳で見上げてくる。誘われているのは明白だが、その美しく清らかな瞳を自分の暗い欲望で汚したくなくて、クレティアンから顔ごと視線を反らした。

「……抑えられなくなる」
「それが私の望みでも、か?」
「ここは礼拝堂。すなわち聖アジョラの御前だ。後でお前が後悔し傷つく姿は見たくない」
「真面目な男だ……」

 そう言ったクレティアンの両手が私の両肩に優しく触れて背筋を伸ばす。そして触れる程度に私の唇に口付けた。

「ん……」
「ローファル。男女がこうやって神の祝福のもと結ばれるように、私は聖アジョラの御前で、お前への永遠の愛を誓う……それが例え教会の戒律に反する関係であったとしても、本来神は人の堕落を否定するだけで愛そのものを否定したりはしない。それともお前は私のことを愛していないのか?」
「……まさか」
「お前が欲しい、ローファル。日頃からの友情も、二人きりの時に見せる愛情も、そして未だ秘めている欲情も」

 クレティアンが左手を伸ばし、再び誘うように指で私の唇をなぞる。視線を落とすと、細い指にはめられた先程贈った指輪が教会の天窓から差す月明りに輝いていた。青い色――私が教会から賜った色が、クレティアンの薬指でまるで婚礼を誓い合ったように光る。私の所有の証。私は唇を弄ぶクレティアンの手を取って、先程クレティアン本人がそうしたように、指輪に優しく口付けた。

「ぁ……」

 切なげな声と共にクレティアンの指がビクリと動く。反射的に、逃すまいともう片方の手をクレティアンの肩に回して抱き寄せ、今度は唇を奪った。そのまま深く求めてしまいたい気持ちを抑えて顔を離した後に視線をあわせると、クレティアンが淡く頬を染めて息を吐き、色の含んだ声で囁いた。

「ローファル……もうそれだけでは足りないぞ」
「……分かっている。私も足りない」
「あ……では半刻後に私の部屋へ」
「承知した」

 私はクレティアンから手を放し、クレティアンが時空魔法を用いて先に礼拝堂から姿を消す。それを見送り、私は再びアジョラ像を見上げた。教会が姿を偽り私欲を満たすための道具になってしまっても、アジョラがかつてヴァルゴを手にした、聖天使に祝福されし神子であったことには変わりない。その前で愛を誓いあい、そしてこれからすることは、例え双方の同意のもとであったとしても本来清貧であるべき身体を汚す、罪深い行為だ。

「我らが聖天使よ……どうか罪深き我らを赦し、我が愛する清き心に祝福を」

 私は姿を偽られたアジョラ像の奥に存在する、クレティアンが心から信じる偽りなき神に対して懺悔し、祈りを捧げた。



「ん……ふっ……」
「はっ……」

 質素な部屋の中に、二人分の息遣いが交わる。
 あれから部屋に戻り身を清めてから魔法を用いてクレティアンの部屋に行くと、同じく身を整えて柔らかい素材でできたローブに身を包んだクレティアンがベッドに腰かけていた。机の上の燭台に灯る火に、クレティアンの魔力がわずかに揺らめく。互いに名を呼んで、私はクレティアンの肩に手を置き身を屈め、これから行う罪深い行為を確認しあうかのように深く口づけあった。クレティアンが誘うように舌を差し出し、応じる形で自分の舌を絡める。深い罪の意識に反して身体が熱くなり、さらに深くクレティアンを求める。
 少しして唇を離し、クレティアンの手が私の服を掴んだ。その指には、先程贈ったばかりの指輪の青が収められている。

「……ローファル、もっと見せてくれ。お前を」

 私も全てを見せるから、とクレティアンは自身のローブの紐を解いて肌を晒した。何度も想像しては申し訳なさに頭を抱えてきた光景が、今目の前にある――そんな興奮を抑えながら、私も着ているものをすべて取り払った。

「指輪は……このままでいいか」
「邪魔なら外しても構わないが」
「邪魔に思うはずがないだろう。それにしても……ローファルの身体、すごく綺麗だ」
「ん……」

 クレティアンの手が伸び、細い指が胸元に触れる。筋肉の形を確かめるような動きにくすぐったさを感じてわずかに身をよじると、クレティアンが頬を染めたまま意地悪く笑った。

「可愛い……」
「お前のほうが……」

 気まずさにクレティアンの目から視線を外したものの、ついそのままその身体に視線がいってしまう。騎士団の男にしては細身だが女性のような柔らかさも持たない身体つきは、本人に言えば笑われそうだが、宗教画で見る天使のように見えた。悪いとは思いつつ視線を落とすと、こうやって人前に晒すことなどないだろう部分が目に留まる。そして目の前にいるのは女性でも天使でもなく、ひとりの男なのだと息を飲んだ。
 それなのに無性に触れたくて、私は片方の手をクレティアンの肩にかけ、もう片方の手で先程クレティアンにされた意趣返しと言わんばかりに胸元をなぞった。

「あっ……」

 指が胸の突起に触れると、身を震わせて色を含んだ声をあげる。その声に自分の性欲が押されるのを感じながら、触れられたことで固く尖ったその場所をなるべく優しく弄ってやった。

「ぁ、んっ……」
「クレティアン……」
「ふっ……まっ……て、ローファル」
「痛かったか?」
「そうではなくて……力が……入らなくて」

 クレティアンにしては珍しく、気恥しそうに目を伏せて言い淀む。だが、元々見下ろす体制だったのもあり、長い睫毛の下にあるその目に深い欲情が浮かんでいるのが分かった。
 そしてクレティアンはそのままベッドに仰向けに倒れた。投げ出された片足をベッドの上に立てることで、今まで見ないようにしていた性的な場所が目の前に晒された。私に見られていることに気付いたのか、そこがビクリと反応する。切なそうに息を吐いて身をよじらせながらクレティアンは挑発的な笑みを浮かべて指輪を見せつけるように手を差し出した。普段の清らかな姿からは想像できないほど淫靡な姿に、身体の内側から熱がこみ上げてくるのを感じる。

「……っ」
「この方が互いに楽だろう? 来い、ローファル……」

 伸ばされた手に誘われるまま自分の手を重ねると、繋がった手からクレティアンの熱い体温が伝わってくる。そのままクレティアンが床に投げ出したままの片足に跨るようにして、片方の膝と空いている手をベッドに乗せた。覆い被さる体勢になったことで、クレティアンの身体に私の影が落ちた。

「触れてもいいか?」
「聞かなくていい……」

 クレティアンの空いた手が頬に触れる。その心地よさに自然に息が漏れ、身体を起こしてクレティアンの下肢に手を伸ばした。立てられた滑らかな太ももを撫でると、弱く声をあげて足が外に開く。それによって性的な部分がより露わになる。逃げるようで誘うような動き――いきなり握りこむのも悪いと思い、指先で先端に触れた。

「はっ……」

 息を飲んで背筋に力が入り、それによってわずかにクレティアンの腰が浮く。私はゆっくり指をペニスの根元へ伝わせ、力を入れず包み込む程度に全体を手のひらで撫でた。

「あぁ……ぅん……」
「……痛くないか?」
「ん、もっと……あ、ああっ……」

 軽く力を入れてやると、嬌声と共に手の中に先走りがにじんだ。淫らな水音が滑りを良くして、行為に入れ込んでいく。痛がらないように撫でる程度に上下に揺さぶって睾丸を指で弱く押すと、普段よりも高く声が漏れた。時折私の名を呼び、その度に濡れた瞳で見上げられ、それがさらに私の欲を刺激した。
 そうやって少しの間優しく嬲っていると、クレティアンが私の手の動きを受け入れながら、繋いだ方の手を弱く解いて、指先で手の平や手首をそっと撫でた。指にある金属の部分が触れ、その冷感に視線を向けると青い宝石部分が目に留まった。まるで竪琴を奏でるように滑る繊細な動きに、私の身体に欲望だけでは言い表せない快感が流れた。

「っ……」
「ローファル……」

 クレティアンの指が私の指に絡みつく。指の間で何度かその感触を楽しむように指を滑らせた後で、私の手の平を包むように指を深く差し込んで握られた。恋人同士でなければ叶わない繋がり方に快感を深くしながら、私も指に力を入れてクレティアンの手を握り返した。
 すると、クレティアンが急に手を握ったまま伸ばしていた手を引いて、私の身体ごとベッドへ引き寄せた。完全に押し倒す体勢になり、それによって私のクレティアン自身に触れたままの手にも力が入って思わずそこを強く握る形になった。

「んんっ……!」
「すまない……大丈夫か?」
「ふふ……この期に及んでも優しいな。そんなお前も可愛いが、その年でそんなに抑えると後に拗らせるぞ」
「……拗らせる」

 どこかで聞いた気がする言葉に困惑していると、クレティアンが繋いだままの手をさらに深く絡め直して、いつもと変わらない綺麗な声で続けた。

「遠慮するな……私とて男、これくらい重さを委ねてくれても潰れたりしない」
「クレティアン……」

 それでも躊躇していると、クレティアンの空いた手が私の腰に伸びて、前に滑り、既に勃ち上がっているものに触れた。直接与えられた刺激にそこが痙攣したのが分かり、不可抗力的に両手に力が入った。それによって私に触れられたままのクレティアン自身も脈打ち固さを増す。

「あっ……ふふっ……分かるかローファル? 身体はとても正直だ……ほら、こんなに熱くて大きい……」
「ん……」

 愛でるように、かつ私が感じる場所を的確に責めるクレティアンの指から私が出した体液が伝う。繋いだ手は指を絡めたまま強く握り、もう片方の手で互いの性に触れて犯していく。部屋の中に淫猥な音が響き、互いの息遣いと声がベッドの上で踊る――背徳的で退廃的な快楽が肉体を支配していき、理性を欲望が壊していくのを感じながら、それでも行為を止めることができずにいた。

「くっ……」
「あっ……はぁ、あぁ……ローファル」
「は、クレティアン……」

 それでもどうしても下から触られているせいかクレティアンからの刺激が足りず、私はクレティアン自身から手を離し、私を犯すクレティアンの手を取った。

「うん……?」

 その手をクレティアンの顔の横まで持ち上げて、ベッドに押し付ける。見つめ合う形になり、私は自分の下半身をクレティアンの下半身に押し付けた。濡れた互いの性器が擦れて、強い快楽に残されたわずかな理性が歪む。

「えっ……あっ……」
「……クレティアン」

 クレティアンの両手に体重をかけて、肘をつく。それによって上半身も重なり、クレティアンの顔の横にあるシーツの上に、額に流れる汗の染みが落ちた。耳元でクレティアンの荒く色欲に濡れた息遣いが響き、それがさらに欲望を加速させる。

「愛してる……」
「あ、ローファル……!」
「……愛してる、愛してる」

 理性が飛んで何度も下半身を擦り合わせ、熱に浮かされたように、荒く息を吐きながらそれだけが言葉になった。クレティアンも私に覆われる形で動きが制限されながらも、足を絡めて腰を浮かせることで、私の行為に応じる。

「ああ、ん……ローファル、ローファルっ」
「っ……クレティアン」

 クレティアンの声にわずかに我にかえり、顔をクレティアンに向ける。見つめ合う形になり、クレティアンがわずかに顎を上げて唇を差し出した。そのまま深く口付けて、手足と同様に互いに貪り合うように舌を絡める。触れ合ったままの性器は敏感に熱を拾い、自分を支配する快楽がどちらのものなのか分からなくなる。

「ふぅ……ん……あっ……あぁ!」
「う……くっ……」

 最後はほとんど同時に果てて、身体の間でふたりぶんの精液が混ざりあった。


 その後身体を拭うなど簡単に後処理だけをして、ふたりで裸のままベッドに横たわっていた。
 最初は帰ろうとしたが、クレティアンに「今日はこのまま」と引き留められて今に至る。熱のおさまった身体を冷やさないように毛布を被り、狭いベッドで身体を寄せ合うと、心地良い体温がクレティアンから伝わってきた。それが妙に幸せで、私は息を吐きクレティアンの肩を抱いてさらに近くに寄せた。

「ローファル」
「ん……」
「最後の、激しくてなかなかよかったぞ」

 クレティアンの言葉に、先程の行為を思い出す。できるだけクレティアンに負荷をかけないように抑えていたのに、最後の方は理性が歪んでかなり強引に腰を押し付けていた――気まずくて、クレティアンを抱き寄せたまま視線だけを逸らした。

「……すまなかった」
「なぜ謝るんだ。私こそ、執拗に煽って悪かったな」
「構わない……」
「ローファル、この指輪……さすがにあまり人前では見せつけられないが」

 クレティアンが指輪をつけた手を互いの顔の間に掲げて柔らかく微笑んだ。

「ヴォルマルフ様が悲願されるように聖天使が蘇った暁には、改めて私をお前のものにしてくれないか?」
「……いいのか? お前は神に全てを捧げるものかと思っていたが」
「それはお前も同じ。神のもとで、罪人たる私達は隣人となり身も心もひとつになる……」

 クレティアンはこんなことになっても変わらない。変わらず神への愛に跪き、その上で私を愛そうとする。そしてそんなクレティアンが心から愛しくて、触れる程度に口付けた。

「ん……ローファル」
「クレティアン……」
「あぁ、それでいい。聖天使が我ら人間を裁き救いに来る……それまではこうしてただお前の体温に幸福を感じ、共に罪を重ねるのも悪くない」

 愛している――そう言ってクレティアンが静かに目を閉じる。肌の感触に心地よく熱が戻るのを感じながら、私もまた愛していると答えて、目を閉じ束の間の幸福に身を堕とした。

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あとがき

 書くたびに(特にローファルの)設定が変わってる気がしますが、ロークレはたとえどんな背景でも互いの正義を尊重しあえる隣人関係でありながら、一度溺れだすと抜けられなくなるくらい熱く愛し合っててほしいと思って書きました。R18にしたらローファルが超受身の童貞になってしまったけど、クレティアンはあくまでローファルに抱かれたいと思ってるのでロークレです。聖天使の復活を前提に結ばれて欲しい……。

20189年4月25日 pixiv投稿

 

 

 

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