最愛の貴方へ、最後の一撃

 

 死都ミュロンドの一番奥――風車のようなマストのついた壊れた船で、私は「そいつ」に会った。


 獅子のような姿をした「バケモノ」――さっきまでは私の父の姿だったけれど、今その面影はない。




 「そいつ」はラムザの妹を生贄に、何かとてつもないものを復活させようとしているらしい。
 そんなことさせるものかと、ラムザが剣を構え、それに皆が続く。しかしそれよりも早く、私は「そいつ」に向かって駆け出した。



「メリアドール! 前に出すぎだ! 下がって!」


 バケモノである「そいつ」に剛剣は通じない。ひたすら斬りかかる私に、ラムザが叫んだ。
 でも私は引かなかった。いや、引くことができなかった。


「こいつだけは! 私が倒すッ!!!」
「ククク……お前に? それが出来るというのか? 我が娘よ……」
「黙れ! お前なんて父じゃないわッ!」


 私が猛然と剣を振るうことで仲間達が攻撃に参加しにくくなっているのは分かっている。
 でも、それでも私は振るう剣を止めることができなかった。
 何度剣を受け止められても、「そいつ」の腕を傷つけても、私の気持ちは治まらなかった。



「貴様の弟イズルードもそう言っていた……全く、親不孝な姉弟だ」
「イズルード……うあッ!?」


 弟の名前を出されたことに対する戸惑いを突かれ、「そいつ」の攻撃をまともに食らってしまった。
 脇腹に激しい痛みが走り、血がにじみ出る。


「メリアドール! 今回復を……!」
「イズルードもそうやって殺したのね……!?」
「ヤツも大人しくしていれば殺すつもりはなかったのだがな? 貴様もそうだ……邪魔立てせず私の「娘」でいれば、騎士としての名声も、女としての幸福も失うこともなかったろうに……」
「それを奪ったのはお前だッ!」


 脇腹の痛みをこらえ、もう一度剣を強く握って「そいつ」に向かった。


「私だけじゃない! イズルードもラムザも、お前さえいなければ、泣くことなんてなかったのよ!」
「ケアルガ!」


 ラムザの放った白魔法に包まれて、私の傷が癒える。
 彼に振り返って礼のひとつでも言うべきなのかもしれないが、それ以上に彼をここまで辛い目に合わせたことへの負い目を私は感じていた。
 なぜ私はもっと早く気づかなかったのだろう。私の父が父でなくなっていたのに。


「何を言う、これは戦争だ……他人の家族のことまで気にしてはいられないことなど貴様でも分かるだろう? 自分の家族のことすら理解できなかった貴様でもな……」
「ッ……」


 ヤツの言葉に、私は言葉を詰まらせた。



 厳格な父。母を亡くした時も私達の前では涙一つ流さなかった父。
 でも、私達が寝静まった後で、母の墓前で「すまない」と何度も贖罪していた、本当は優しい父さん。
 その後も男手ひとつで私達を養ってくれた父さん。
 部下に慕われる騎士。大きな背中。自慢の……憧れの人。


 なのにいつから父さんが父でなくなったのか分からない……「そいつ」になっていたのか分からない。
 何故そうなってしまったのかも分からない。知る術すらない。


 そんな自分が許せない。



 今までずっとこらえていた涙があふれた。




 その隙をつかれるように、「そいつ」が腕を振り上げるが、私の身体を引き裂く前に使い込まれた剣がそれを止めた。


「大丈夫か、メリアドール!」


 ラムザだった。
 彼は強い男だ。ミュロンドで兄を失った時は号泣していたけど、すぐに立ち上がってまた必死で戦っている。
 これまでだってそうだったんだろう。「異端者」と呼ばれても、たくさん裏切られて誤解されても、まっすぐ進もうとしている。


 彼の行動に熱くなりすぎた頭が少し冷えた気がした。
 そうだ、今このバケモノに因縁があるのは私だけじゃない。
 
「メリアドール、君ひとりで戦うことはない! 僕だって、戦う理由がある……」


 アグリアスやオルランドゥ伯達が攻撃を仕掛けている間に、ラムザが私の肩に手を置いてそう語りかけた。


「でも……」
「僕だって、こいつだけは許せないよ……。このままこいつを放っておいたら、もっとたくさんの人が不幸になる」
「不幸……たくさんの人……」


 イズルードだけじゃない。あいつのせいで、何人の人の運命が狂ったんだろう。
 悪魔に魂を売ってしまったかつての仲間達も、ラムザの兄さんも、他にもたくさんの人が幸せとは言えない死を迎えてしまった。


「だからみんなで戦おう? 君が一番こいつを許せないのは分かるよ、でも罪悪感なんて感じる必要はないんだ」
「分かったわ……ありがとう」


 そしてもう一度あいつに視線を向けると、何やら魔法を唱えているようだった。


「いけない! みんな散るんだ!」


 ラムザの叫びに、オルランドゥ伯らが一旦攻撃をやめて距離をとった。
 そのおかげであいつが召喚した隕石――メテオの致命的なダメージを受けずに済んだが、さすがに避けきることはできず、何人かが膝をついた。



「行きましょうラムザ!」
「……ああ!」


 仲間達を助けるため、私とラムザは同時に攻撃を繰り出した。
 魔法を放ったばかりの隙をついたので、その攻撃は「そいつ」に致命傷を与えることに成功した。


「き、貴様ッ……」
「私はもう泣かないわ。泣いたら父さんに怒られる……」
「何ッ……」
「お前の言うとおり私は親不孝者ね」


 ラムザがヤツの身体を斬り、それにあわせるように私はヤツの左胸を突き刺した。


「父さんの本当の苦しみにも気づかないで、お前に好きなようにさせてしまった。……父さんを解放して」
「がッ……は……」


 一度剣を抜き、構えなおす。
 この剣――セイブザクイーンは、私が「ディバインナイト」の称号を得たときに、父が授けてくれたものだった。
 あの時の父はすでに悪魔だったのだろうか……いや違う。


 だってあの時の父さんは、いつもの厳しいものじゃなくて温かい表情をしていたもの。



 私の頭の中に、たくさんの人の姿が走馬灯のように浮かび上がった。



 イズルード――ごめんなさい、一人で戦わせて。


 ローファル、クレティアン――貴方達は本当にそれで幸せだったの?


 ウィーグラフ、バルク――やっぱり貴方達は間違っているわ、だって結局利用されていただけじゃない。
 
 そして……




(父さん、愛しているわ。だから……さようなら)





 私は雄叫びを上げ、「そいつ」に向かってもう一度剣を突き刺した。

 

 

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あとがき

FFT小説をpixivにあげるようになった頃、メリアドールが最愛で萌えスレでもすごく多くの萌えを貰っていたので、それが高じて書いたもの。ここから熱いヴォルマルフ様推しが加速するなんて、書いた当時は思わなかった……と思う。

メリアドールって地味とか言われてるけど、黒幕の娘というポジションにいて、正義のためにかつての同僚や父親と戦わなきゃいけないわ、その流れで異端者一味になるわ、父親が教皇殺すという大悪事をやらかしたせいで悪党の娘として歴史に残るわ、ラムザ並に帰る場所がないのにそれでも自分の正義に従ったいい娘さんだと思う。そしてそこはかとなく女の子っぽいというか育ちの良さが見えてお嬢様騎士な感じが好き。

 

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