人の悲鳴、剣の音、そして人ではない何かの断末魔――さっきまでのそんな混沌とした状態がウソのように、今建物の中は静かになっていた。
僕は、ただ仲間の帰りを、じっと待っていた。
僕は、ある騎士団の中で生まれた。騎士を補助することが僕達の任務だ。
僕の先輩達が次々と功績を立てていくのを聞いて、早く誰かの役に立ちたいと思いながら、僕は大人になった。
僕のところにある日とても偉い騎士様が来て、その人が、一人の人を僕に紹介してくれた。
その人はすぐに僕のことを気に入ってくれて、僕は晴れて一人前になった。
その騎士様はとっても強かった。
戦場に立てば一騎当千、たくさんの人が騎士様に従っていた。
僕はそれがとても誇らしかった。
そして、戦争は終わった。
なのに僕の騎士様は、騎士団から追われることになってしまった。どうして? 僕には分からない。
でも僕は騎士様のことが好きだったから、一緒に騎士団から出て行った。
そして僕達の戦いは、再び始まった。
それからしばらく経ったある日、僕達は雷雨の中、湿った台地を走っていた。
濡れた髪、血のにおい――そう、騎士様は負けてしまった。
負けてから、捕まるものかと逃げる日が続いて、騎士様に今まで従ってきた人は、次々と離れていく、倒れていく。
気がついたら、あんなに大きかったはずの騎士様が束ねるグループは、僕と騎士様のふたりだけになっていた。
僕も限界だった。足が動かない。身体が冷たい……。
(騎士様は大丈夫かな……?)
ちょっと不安になって見上げてみると、騎士様は泣いているように見えた。
激しい雨は、僕の涙も、騎士様の涙も、べっとりついていた仲間の血も、洗い流してくれる。それは優しいようで、とっても残酷だと思った。
(……僕はここで死ぬのかな?)
初めて感じる、死の恐怖――いや、怖くなかった。だって騎士様と一緒だもん。最後まで傍で戦って死ねるなら、悔いはなかった。
でも騎士様はきっと無念なんだろうなと思ったけど、僕はかけてあげられる言葉を知らなかった。
――ここでお別れだ。今まで有難う……。
でも騎士様は僕から離れて、そう言った。きっと僕が限界だって気づいたんだろう。
僕は「嫌だ」と訴えた。
――大丈夫、お前は一人でも生きられる。私と共に死ぬ必要などない。
騎士様は最後に僕の顔をなでて、そして背を向けた。そして騎士様は雨の中へと消えていった……。
それからまた時間が経って、僕はあの時の怪我はすっかり治り、新しい仲間ができた。
魔物に囲まれてピンチだった僕を助けてくれたその仲間のリーダーは、僕に「一緒に行こう」と手を差し伸べてくれた。
彼らとの楽しい時間は、僕の悲しい思い出を忘れさせてくれた。
騎士様だってきっと生きている。僕と同じく、新しい場所で新しい仲間と、きっと楽しく生きていると思った。
でも現実はそんないいことだけじゃなかった。
僕と騎士様は、最悪の形で再会してしまったのだ。
なんとか修道院というところで仲間達を待っていると、中から這うように出てきたのは、赤い服を身にまとった、僕の騎士様だった。
ああやっぱり生きていたんだ良かった――という想いも束の間で、騎士様のまとっている服はただ赤いだけじゃなくて、騎士様の血でぐちゃぐちゃになっていたのに気づいた。
――私は、死ぬのか……いやだ死にたくない……このままでは、あまりに……
騎士様が僕に向かって手を伸ばす。僕に気づいてくれている様子じゃない。
そして中から、今の僕の仲間達が出てきた。仲間のリーダーが、騎士様を悲しげに見つめている。
騎士様をこんな姿にしたのは彼らなんだ――でも僕はどちらにつくべきなんだろう?
(何を考えているんだ! 僕の役目は人を助けることじゃないか! 騎士様はこのままじゃ死んじゃうんだぞ!)
僕の中で、昔の僕が叫んだ。
そうだ、あの時は僕の方が限界だったからできなかったけど、今なら騎士様の傍に寄り添って、回復くらいできるじゃないか。
僕は騎士様を救うべく、一歩前に出た。
でも遅かった。
いや、遅かったというより、予想なんてできるわけがない、とても不思議でとても怖いことが起こった。
騎士様の懐にあった石が光って何か言って、そして騎士様を見たことのないようなバケモノに変えて、そのバケモノは騎士様ごとどこかへ行ってしまったのだ。
そしてここ、リオファネス城……って仲間達が言っていた場所。
僕は城の中に入ることができないから、今日もここで一人で仲間達を待つ。
長い長い夜。恐ろしい夜。でも、朝日はそれでも昇ってくる。
少しして、仲間達は無事に姿を現した。とても疲れている様子だったけど、みんな生きて戻ってきてくれた。
仲間達は何か難しい話をしていたけど、僕には何の話かさっぱり分からなかった。
でも、その中に騎士様の名前があった。彼らは騎士様のことを、「僕達が倒した」――と言っていた。
朝日はすっかり昇りきって、あたりの草原を明るく照らしていた。
でも、騎士様はこの朝日を見ていない――騎士様は、死んだんだ。
僕は朝日に向かって叫んだ。
「クェエエエエエエエ―――ッ!!!!!!!」
「わっ! 突然どうしたんだよボコ!?」
新しい仲間達も大切な人だから、彼らを恨むなんてできないし、したくない。
でも、僕は騎士様――ウィーグラフ様のことが大好きでした。
そして、これからも忘れることはありません。
僕は太陽の中、大切な人を乗せて今日も走る。
あとがき
なんでボコをこっそりと、元ウィーラグフの仲間チョコボで、後にラムザに助けられるっていう設定にしたんだろうか。別に仲間にしたあとは何もないし、他のチョコボと同様に数日ごとに卵を産んでパーティー枠圧迫してくるし。でもラムザに命を救われて仲間になったあと、ウィーグラフと敵として再会して、その後すぐにウィーグラフが瀕死になったり人間やめたり、ボコとしてはショックな出来事だろうなと思う。
短くあっさりめに書いてるけど、ボコとウィーグラフの隠れエピソードは色々妄想しがいもあるし、そういう設定も好き。
2011年10月4日 pixiv投稿