オレたち愉快な爆裂団!

 

 

イヴァリース某日、ゲルミナス山岳の麓にて――

「ここはおまえらのようなチャラけた道具に頼る軟弱野郎の来る所じゃねぇンだよ!」
「は? こーんな原始的にモノ投げてるだけの野蛮人が、山を独占してるとか老害かよ!」

 二人の男が、激しく火花を散らす。それぞれの背後にいる男どもも、ふたりに合わせるようにメンチを切りあっていた。

 片方は、アイテム士の服装に、銃を下げた男。彼はもとは貿易都市ザーキドスで銃の露天商をしていたが、最近の商売が上がりすぎて、売ろうとしていたレア銃を武器に、近辺で略奪行為を行っていた。
 彼の持つ銃はナウでイカすと評判になり、今は立ち上げた銃集団、"ぶっぱなし団"の頭領を名乗っている。

 もう片方は、このゲルミナス山岳を長く拠点にしてきた山賊だった。
 成人前からゲルミナス山岳に憧れて当時の山賊に弟子入りしてウン十年、ようやくこの山のキングオブ山屋、ベヒーモスも泣いて逃げる男を自称できるようになり、立ち上げたのが今の"爆裂団"だ。

「っていうか爆裂団とかなんだよ、センスねーな! こんなんだからトレンドから取り残されるんだよ、おっさん!」
「だれがおっさんだ、先人を敬いなさい! っていうか、そっちこそぶっぱなし団とかストレートすぎるだろ!」
「先人ねぇ……だったらそれならそっちのやり方で勝負してやろうじゃあないか」

 今からひと月、このゲルミナス山岳で多く稼いだ方が勝ちだ。
 略奪、密猟、発掘、募金――手段は一切選ばない。

「上等だ! この山でオレに楯突いたことを後悔させてやるぜ!」


 ということで、爆裂団はゲルミナス山岳の山頂で、ぶっぱなし団に睨みをきかせつつ、まずは冒険者相手に略奪してやろうと陣取っていた。

「おかしら! いい感じのカモが登ってきてますぜ!」
「女子供ばっかの爆裂なカモです!」
「よおし! 山の厳しさ、オレたちがみっちり叩き込ンでやろうじゃあないか!おまえら、爆裂でいくぜ!」

 頭領の言葉に、団員たちは「爆裂ー!」と雄叫びを上げた。

 そして――

「ここを通りたいンなら、有り金を全部置いていきな。おっと、剣から手を離すンだ。でないと命まで失うことになるぞ!」

 さすがに女子供を殺すことはしたくない、と脅しをかけた爆裂団頭領だったが、団員のひとりが「あっ!」と声を上げた。
 なんと彼らは、教会が多額の賞金をかけた、異端者だった。
 別に信仰なんてものは持ち合わせていなかったが、この異端者のリーダーにかけられた賞金さえあれば、ぶっぱなし団に大きい顔ができるどころか、一生を山で遊んで暮らせるだろう――頭領は思わず唾を飲んだ。

「オレたちが賞金稼ぎみてぇなマネをするのも気がひけるが、ギルのためだ、やっちまえッ……と言いたいが、その前に言いたいことがある!」

 頭領は、持ち前のjump力で山頂の最も目立つ場所に移動し、そしてラムザたちを強く指さして叫んだ。

「おまえら、こンな装備で山に登ってきたのか! ふざけンじゃねえ!」
「……えっ?」

 頭領の言葉に、ラムザたちは絶句した。


[chapter:オレたち愉快な爆裂団!]


「まず、そこのおじょうちゃンと横のオマケ野郎!」

 賞金目当ての連中と一戦まじえるつもりだったのをいきなり崩されて、どうすればいいか困っているラムザたちに構わず、頭領は最初に、ラファを指差した。

「わ、私?」
「誰がラファのオマケだよ!」
「年頃のおじょうちゃんが、肌を晒して登山なンかやっちゃあいけないぜ!」
「そうなの?」
「なあ、お前ら?」

 頭領の言葉に、他の団員が「そうだそうだ」と声を上げた。

「狭い道で葉っぱが当たったら肌が切れちゃうだろ!」
「つまづいたらきれいな生足にすり傷がついちゃうだろ!」
「女に飢えた男どもに襲われちゃうだろ!」
「ラファをそんな目で見るな!」

 最後の発言をした団員にマラークが抗議したが、団員たちの視線はあくまでラファに視線を向けたまま続けた。

「山や森を歩く時は長袖が基本だぜ!」
「ズボンも長い方がいいンだぜ!」
「でもかわいいから許しちゃうンだぜ!」
「だから最後の!」

 だが、マラークのツッコミを無視するように、山頂に立つ頭領が道具袋から素早く何かを取り出し、ラファめがけて投げた。

「なんか投げてくるぞ、逃げろ、ラファ……ぐはっ!」
「マラーク兄さん!」
「これはオレらからの忠告だぜ!」

 ラファをかばって投げたものの直撃を受けて伸びたマラークを心配しつつ、ラファは投げられたものを手に取った。

「革のマント?」

 丸まっていたが、広げてみるとよく使い込まれた革でできたマントだった。

「その服装にこだわりがあるなら、せめてこれを羽織ってから登るンだな!」
「え?」
「マントは背後からの攻撃を避けることもある!」
「それ違う人のセリフだったような……」
「いいから着なさい!」
「あ、ありがとう……」

 ラファが革のマントを装備するのを見て、爆裂団の頭領は、うんうんと満足そうにうなずき、そしてアグリアスの方を見た。

「な、なんだ?」
「そこの美人の騎士さンよぉ」
「……」
「女性がこンな重装備して登山してンだ、もっと男どもに荷物くらい持たせていいンだぜ?」
「……は?」
「なあ、お前ら!」

 ラファとはまるで違う指摘に、さすがのアグリアスも呆れ気味に抜けた声が出たが、先程と同じく、他の団員達が次々と畳みかけてきた。

「ほら、そこの伸びてる地味野郎とかさぁ」
「……」
「横にいる荷物持ちっぽい野郎とかさぁ」
「誰が荷物持ちだ! オレは機工士だよ!」
「貴公子? お前がぁ?」
「技術者のほうの機工士! 知らないのかよ!」
「落ち着け、ムスタディオ」

 ムキになるムスタディオをなだめながら、アグリアスは頭領に強い視線で答えた。

「貴公は私を心配してくれているのかもしれないが、それは不要だ。確かに私は女ではあるが、誇り高き騎士。他人に自分の荷物を持たせるなど」
「それじゃあオレたち男のプライドが保たれねえンだよッ!」
「えぇ……」
「そうだろう!」

 頭領の同意を求める視線が、ムスタディオのほうに向いた。

「な、なんだよ」
「たとえ荷物持ちでも! 貴公子名乗るなら美人の前くらい、かっこよくしたいだろ!」
「そ、それもそうかも……」
「いや、ムスタディオ。私は別に」
「持たせてあげなさい!」
「えっと……アグリアスさん」
「……あ、ああ」

 有無を言わせない勢いの爆裂団頭領に、アグリアスは背負っていた自分の荷物をムスタディオに手渡した。

「まったく、最近の都会もンは山登りのことをよく分かってなくて困るぜ。ってことで……」

 頭領が、ラムザをビシッと指差した。

「な、なに!?」
「そこのアホ毛! おまえはそれでもリーダーか! 仲間のことをまるで分かってねえじゃねえか!」
「え……?」
「オレらが今まで指摘してやったことはなぁ! ぜんぶリーダーが登山前にやるべきことなンだよ!」
「……はぁ」
「はぁ、じゃねえぞ、異端者野郎! オレは山をよく分からずにやってくるニワカが一番嫌いなンだ!」

 高いところでイキり倒す爆裂団頭領に、他の団員達が下から持ち上げるようにヤジを飛ばした。

「よ! さすがは自称、イヴァリースいちの山男!」
「そこにしびれる、あこがれるぅ!」
「爆裂ぅ!」
「……そんなこと言われても。僕はただ、ランベリーに行くためにここを通りたいだけで、別にきみたちのような、山登りのプロになりたいわけじゃ」
「おい、ラムザ」

 大真面目に受け答えするラムザの腕を、ムスタディオが小声で引いた。

「相手にするだけ無駄だよ。さっさとやっつけて行こうぜ」
「でも悪い人じゃなさそうよ。事情を話せば大丈夫じゃない?」
「オレは戦闘不能にさせられたけどな……」

 ひそひそと輪になるラムザ達に、アグリアスが横目で爆裂団を見ながら低い声でつぶやいた。

「ああ見えて、わざと時間を伸ばしているのかもしれない。日が暮れれば、土地勘のある向こうが有利だからな……」
「あ、なるほど」
「……そんなに頭のいいヤツらには見えないけどなぁ」
「兎に角だ。我々はラムザの妹のためにランベリーへ急がねばならない……何を言われても無視して、向こうが攻撃するなら相応の手段を取ればいい」

 アグリアスの言葉に、ラムザたちは無言でうなずいた。

「どうした? ここを通りたいンなら、全員ゲルミナスブーツは最低限の装備だぜ!」
「マントじゃないの?」
「……ラファ」
「あ、ごめんなさい。つい……」
「やった、山頂だ! やっほー!」

 イキり倒すことをやめない爆裂団頭領と堂々めぐりをしているラムザたちの間に、空気を読まない少年の声が割って入った。
 振り向くと、そこには別動隊で少し遅れて登っていたルッソの姿があった。

「ルッソ!」
「あれ? ラムザ、まだこんなところにいたんだ」
「いや……ちょっとね……」
「……ん?」

 ようやくルッソが爆裂団の姿に気付き、「ああ」と呑気な声を出して首を傾げた。

「おじさんたち、ここの人?」
「おじさんじゃねえ! オレたちは!」
「クアールも泣いて逃げる、爆裂団!!」
「爆裂団……? 変わった名前だね」
「ンだとこのガキぃ!」
「うわっと、あぶないなぁ!」
「やめるんだ!」

 投げられた手裏剣を間一髪で避けたルッソに、ラムザは剣を抜いた。

「相手は僕の方だろう!」
「うるせえ!オレたちの爆裂なセンスをバカにするとか、ガキでもゆるせねぇぞ!保護者呼べ!」
「では私に任せてもらおうか」

 ルッソの走って来た方から、落ちついた声がした。どうやら山頂近くになってルッソがひとりで走って先行したようで、ルッソと行動を共にしていたオルランドゥが、エクスカリバーを片手に姿を見せた。後ろには共に別動隊にいたラッドたちの姿もある。

「オルランドゥ伯!」
「シドさんおそいよー」
「オルランドゥ……シド……だと?」
「やばいッスよ、おかしら」
「待て待て。雷神シドがこんなところにいるはずが……」
「でもあれどう見てもエクスカリバー……」
「事情は良く分からぬが、ここを拠点にしている山賊だな。悪いが我々は急ぎの身……そこを通してくれないかね」
「どうします、おかしら」

 完全にホンモノだと信じて青ざめている団員に、頭領は自分自身も動揺しつつ、頭を回転させた。

(このまま逃げるか? いや、それではこの爆裂団のおかしらとして爆裂カッコ悪いぜ……そうだ、そもそも雷神シドといえば、先日ベスラ要塞でゴルターナ公と心中したって噂が流れてたじゃねえか。生きていたとして、異端者なンかに与するはずがない!)

(そうだ、オレはジュラエイビスも泣いて逃げる爆裂団の頭領……! 逃げ出せば、あのクソ銃マニア、"ぶっぱなし団"にナワバリを取られちまう!)

 ぶっぱなし団頭領の、石化銃を自慢する嫌味ったらしい顔が浮かび、爆裂団頭領は近くにいたルッソを羽交い絞めにした。

「わっ!」
「ルッソ!」
「このガキの命が惜しけりゃあ、通行料がわりに有り金全部置いていくか、そのアホ毛の異端者野郎の首をよこすンだな!」
「子供を人質に取るなんて卑怯だぞ!」
「異端者が言うな!」
「やむを得ん……神に背きし剣の極意、その目で見るがいい」
「……は?」
「闇の剣!」
「ウワァー!!!!!!」

 有無を言わさない一撃に、頭領は断末魔をあげてその場に伏した。その隙にルッソがすばしっこく崖をおりてオルランドゥに合流する。

「おかしらああああああ!」
「ありがとう、シドさん!」
「うむ。さて、次も私のターンのようだが」
「なんでだ!」
「ふざけンな!」
「チートかよ!」
「我がエクスカリバーはヘイストの効果があってだな……まあ、ルッソを救い出した以上、次は固まっている君たちに聖剣技を撃ち込もうと思うのだが」

 剣を構えなおして不敵に笑ったオルランドゥに、他の爆裂団団員たちの顔が青ざめた。

「あああああ、わかりましたわかりました! どうか命ばかりはッ!」
「見逃してください!」
「どうぞお通り下さい!」
「……よし。さて、ラムザ……相談なのだが、彼にフェニックスの尾を与えてもいいかね?」
「え、ええ……もちろん」

 オルランドゥは倒れたままの爆裂団頭領に、フェニックスの尾を差し出した。

「なぜ……?」
「登山は助け合いと笑顔が基本と、私は教わったぞ」
「……!」
「さあ、行こうラムザ」
「……わかりました」
「ばいばい、爆裂なおじさんたち!」

 オルランドゥの一言に、ラムザとルッソたちがついていくように下山道へと向かっていった。


 そして残された爆裂団たちは――

「雷神シド……思えばなンて爆裂なネーミングなんだ。おかげで爆裂な一日だったぜ……」

 ラムザ一行の背を見ながら、爆裂団たちはどこか清々しい顔をしていた。

「ところで……ぶっぱなし団はどうするンすか、おかしら」
「山は助け合いが基本。オレは驕り高ぶって大事なもンを忘れちまっていた……あいつらもきっと生きるために必死なンだろう」

 性格はまるであいそうにないが、先人として、少しくらい歩み寄ってみよう。
 そう思いながら、頭領は団員たちに対して白い歯を見せた。

「さあ、とりあえず今日の野宿メシはベヒーモステーキだ!行くぜ、おまえら!!」

 頭領の言葉に、「爆裂ー!」という声が山頂で響いた。

 

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あとがき

Twitterで募集したお題箱リクエストで、爆裂団のワイワイ劇場!と頂戴して、書かせていただいただきました。
ぶっぱなし団は、スペシャルバトルに出てくる銃軍団って設定です。 書いてて楽しかったです! 投函ありがとうございます!

2019年11月10日 pixiv投稿

 

 

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