俺は貴族の生まれだった。でも、心は貧しかった。
俺の祖父が敵から逃げたと言われてから、貴族も平民も、みんな俺達から離れていった。
なんで生まれた家だけで、何もしてないうちから評価されないといけないのか?
俺はこんなに果敢に戦いたいと思ってるのに、なんで"逃亡者"と言われなきゃいけないのか?
ああ、そうか。だったら俺も評価すればいいんだ。
俺は貴族だ。誇り高き、貴族なんだ。
だから俺はこのまま、誇り高く果敢に戦えばいいんだ。
そうすればきっと、侯爵様が俺を見てくれる。そうすれば俺は、"逃亡者"なんて呼ばれなくなるはずだ。
でも憎い。
雲の上の存在である侯爵様が俺を見てくれないのは仕方がないかもしれないが、俺より下のくせに俺達をバカにする平民が悪い。
俺は貴族なんだ……誇り高き貴族が、あんな貴族に守ってもらう事しか知らない平民にコケにされるなんて、憎い。
そして俺は果敢に戦った。
大きな事件は起きたが俺は生き残り、功績をあげた。
もっと功績が欲しい。もっと認められたい。
そして、さらに果敢に戦った結果――俺は死んだ。
雪の上に倒れたのに、何故か寒さを感じない。ああ、これが死ぬってヤツなんだな。
あのベオルブ家のボンボンと、その親友を名乗る平民野郎が、俺の屍を嘲笑うかのように出世していくと思うと悔しくて仕方がない。
あいつらが輝いていくのに、なんで俺だけ消えなきゃならないんだ。
なんで、俺だけ――
――ならば再び蘇り、君を嘲笑う男に復讐を――
復讐?
そんなんじゃない。
俺は別に、あいつらを殺してやりたいわけじゃない。
ただ、俺が正しいってことを証明して、そしてあいつらよりも輝きたかっただけだ。
なのに、とっくに冷たくなったはずの俺の身体は立ち上がり、剣を持った。
(なんで動くんだ? だって俺は……)
――死んだんじゃないのか?
そう思った途端、俺は今立っているのか座っているのかすら分からなくなった。
ただ、目の前にいるのが誰かということだけは分かった。
(ラムザ?)
ラムザだ。あの時よりも"大人びた"が、間違いなくラムザだった。
ラムザが言った。お前はもう死んだんだ、と。
(……やっぱり俺は死んだんだよな?)
なのに死んだはずの俺はラムザの行く手を阻もうとしている。
偉大な力に選ばれたと、まるで"子供"のように喜んで、ラムザを殺せることにはしゃいでいた。
「このチカラで、オレヲバカニシテキタヤツを……ミナゴロシにシテヤル!」
見たこともないような魔物を率いた俺は、使ったこともないような技をラムザに繰り出した。
俺は勝ち誇ったように、ラムザに"昔のままの"罵声を浴びせた。
「オマエはなにも守れない」
「オマエの妹も、ティータのように殺してやる!」
(……違う、俺がラムザに言いたいのは……そんな言葉じゃない)
ラムザが膝をつく。
そして俺を見上げ、力強い目で「黙れ!」と叫んだ。
(そんな顔で見ないでくれ……)
"昔"の甘ったれた優しい顔ではなく、全てを覚悟したような、そしてどこか、俺を憐れむような顔だ。
そしてラムザは俺に向かって剣を構えた。
ラムザの構えた剣に写った俺自身――
(ああ、なんで……なんで俺だけ……)
目の前のラムザは大人になったのに、なんで俺は子供のままなんだろう。
見てもないはずなのに、俺は分かってしまった。
ディリータも、ラムザも、この世界で輝いている。
あの時ティータって娘を殺した俺、怒るディリータ、嘆くラムザ。
なんで、どこで差がついた?
なんで俺だけ置いて行かれたんだ?
俺は、もう前へ進めない……輝けないんだ。
――ラムザ、なんでお前らだけ"大人"になったんだ。俺だけ"子供"のままなのかよ?
"子供"のままの俺が手を伸ばすと、"大人"になったラムザとディリータが、俺を振り返ることもなくずっと遠くへ行ってしまった。
そして代わりに俺に近づいてきたのは、俺の母親だった。
俺に出世してくれ、誇り高く生きてくれと、どんなに周りに罵られても俺に貴族の誇りを叩きこんだ、母親。
「か、かあ……さん。た……たすけ……て……」
しかし俺の最後の祈りが通じ、母さんの手が俺に届く前に、俺の身体――魂は、悪魔の巣食う地獄へと引き込まれてしまった。
あとがき
ラムザとディリータがそれぞれ大人になって自分の道を進み続ける未来で、今更当時のままのアルガスを転生させるなんて、アルガスにとってむごすぎる話だと思いながら書いた。侯爵と獅子戦争スタッフは鬼畜だ。アルガスにだけ未来が用意されてなくて、地縛霊みたいになってるのが悲しすぎる。そこから歩む人生によっては、自分の心の貧しさに気付いて出世する未来があったかもしれないのに。
最初プレイした当時はアルガスと同じくらいの年齢だったからアルガスのこと憎くて仕方なかったけど、大人になってからアルガスのことを考えると、世の中がアルガスをこの性格にしたんだろうなと、同情したくなった。アルガスはアルガスなりに、自分のプライドと、家族を守るために必死だったんだと思う。