エクスカリバー争奪戦!

 

 

「えーっと……このゲームでは小数点以下を切り捨てているため、実際は小数点以下の確率で盗め……じゃなくてこっちのページだったわ。エクスカリバーは"mlapan"、セイブザクイーンは"terminate"で……」
「クエ!」
「え、何の話かって? ふふ、あなたには関係のないことよ」

 ミュロンド寺院での戦いを終え、いよいよラムザの妹アルマを助けるべくオーボンヌ修道院へ向かうことになった道中の宿で、ラファはボコにもたれかかって黒い表紙の本とにらめっこしていた。

「最下層の"end"にはカオスブレイド……うーん、これは見なかったことにした方がいいかも」
「クエ???」

 ラファの言葉に、ボコは首を傾けた。
 ところでなぜ彼女が熱心にこの本を熟読しているかというと、時は少し遡る――





 事の発端は、剣聖と名高い畏国随一の騎士、雷神シドことオルランドゥの一言から始まった。

――わしももう引退時。もちろんこの戦いに命をかけて身を投じるつもりだが、我が剣、エクスカリバーは未来を担う若者に使って欲しい。

 わしはこれで十分だ、とルーンブレイドを手に取って、共に戦場を生き抜いた騎士剣、エクスカリバーをラムザ達の前に置いた。

 そして――

「エクスカリバーと言えば聖剣と呼ばれ、ホーリーナイトの中では憧れの一品……ラムザ、差し支えなければこの剣を私に使わせてくれないか」

 最初に名乗りを上げたのは、ラムザと長く戦ってきたアグリアスだった。
 だが、ラムザなら二つ返事で答えてくれるだろうと期待しながら剣に手をかけたアグリアスに対して、ラムザはどこか困惑気味だ。

「……どうした、ラムザ」
「えっと……」
「まってくれ」

 ラムザが答える前に、エクスカリバーに手をかけたアグリアスに、魔法剣の使い手であるベイオウーフの手が重なった。

「エクスカリバーと言えば永久ヘイストのかかる逸品だ。いくら聖剣技使いとは言え、ここはもっと慎重に話し合うべきだ」
「そうだわ。戦術的には敵の装備品を砕いて無力化する、私の方が有用よ」

 ベイオウーフの手の上にさらに手を重ねたのは、剛剣使いのメリアドールだった。

「それに今から戦う神殿騎士ヴォルマルフは私の父……私にはあの人とそれに従う元仲間を止める動機がある。お願いよラムザ、この剣を私に譲って」
「えぇ……」
「いやいや。モンスターでは無力となるディバインナイトよりも、どんな敵でも魔法以上の期待値で様々な足止めをできるオレこそ、この剣を手にして行動を増やすべきだ」
「あら。移植版ではモンスターにもダメージは与えられてよ」
「ま、まて! それなら確実に範囲攻撃で多くの敵を倒せる私が最も有用だ!」

 次々と名乗りを上げられる中、最初に手を出したアグリアスが反論した。
 それに対して、ベイオウーフは優しく微笑んだ。

「単純な攻撃力ならオレが一番だ。年頃のレディに剣は似合わないよ」
「それを言ってはドラグナーでレベルを上げきってからナイトにチェンジしたレーゼのものになってしまうぞ」
「……レーゼ恐るべし! でも可愛いからオレは許すッ!」

 ベイオウーフは空いている手を隣にいるレーゼに伸ばして肩を抱き寄せた。対するレーゼは困惑気味だが、ベイオウーフの主張を擁護するように発言した。

「ベイオウーフはライオネル随一と言われた剣士です。それは彼の親友であるアーレスも保証してくださいました……確かに魔法剣は絡め手と言える戦術ですが、そんなベイオウーフに機動力と攻撃力のある剣を持たせれば、きっと戦術の幅も広がりますわ」
「よく言った! レーゼ! 愛しいレーゼッ!」
「ちょっと! それなら剛剣だって戦術的よ! 装備品の減少ぶんまでHPにダイレクトアタックできるのよ?」
「攻撃こそ最大の防御! 無双稲妻突きの威力は、ウィーグラフやディリータも証明している!」
「魔法剣こそロマンだ! それに年頃のお嬢さんが最前列で剣を持つのは紳士的じゃない!」
「女だからと侮るな!」
「そうよ! 私だって戦える!」
「待ってくれ、オレも剣士として……」

ひょっこりとチョコボ頭を出したクラウドだったが、エクスカリバーに触れようとしたところで、はっと目を見開いた。

「装備できない……」

現実を直視したクラウドが、周囲に分かるほど眉を下げて肩を落とした。

「オレは……剣士として未熟なのか。ソルジャーにはなれないのか。教えてくれ……ックス」
「ああ! クラウドが負のスパイラルに入ろうとしている!」
「お前のその剣、攻撃力はとにかく見た目はとてもかっこいいぞ!」
「そうそう。リミット技、これじゃないと出せないんでしょう? あなたのリミット技もとても素敵よ」
「同情なんてやめてくれ! オレはソルジャーなんだーッ!」
「ああああああ、うるっさあああああい!」

 騎士三人が火花を散らした挙句にクラウドをなだめることになった中、ずっと困惑していたラムザが急に声を張り上げた。いつもは大人しいリーダーの声に、エクスカリバーを主張し続けていた三人も黙ってラムザに注視し、クラウドはその場で三角座りして自分の世界に入り始めた。

「さっきから聞いてみれば、みんな自分の都合ばかり! 戦術を考えるのは僕だッ!」
「す、すまないラムザ……名剣を前に、つい」
「そうだったな。リーダーである君を差し置いて、大人げないことをした」
「じゃあ、ラムザ。答えてくれる?」

 議論の熱がすっとおさまるのと共に、メリアドールが話を戻した。


「永久ヘイストの効果があり、攻撃力も最大級。各ジョブのメリットは今まで私達がプレゼンした通りよ。この伝説の聖剣、あなたなら誰に託すの?」
「うむ。お前の意見なら従おう……」
「オレもそれでいい」
「それは……僕に決まってるだろう」
『……は?』

 真顔でエクスカリバーに手を伸ばしたラムザに、三人は同時に間の抜けた声を出した。

「考えてみるんだ。主人公は僕。仲間がいかに強くなろうと、僕が死んだらゲームオーバーなんだ。強化されるべきは僕に決まってる」
「……ラムザ、その心意気は尊重するが。悪いがお前はナイトにジョブチェンジしなければ騎士剣は」
「四章に入って装備できるようになったんだ。そう、これは装備しなさいというお告げなんです」
「それでもきみは見習い戦士のままじゃないか」
「それは暴言でございましょう!」

 遮られたアグリアスに続いてベイオウーフがもっともな指摘したが、それによってラムザの中で何かがキレたのか、突然声を荒げた。

「僕は究極の見習いだ! そこらへんのバンダナ達と一緒にしないで欲しいッ!」
「す、すまない……」
「確かにあなたが主人公なのは認めるけれど……強くなった私達があなたを守ったほうが」
「その理論でこの二十二年の歴史の中、何人の僕がウィーグラフに殺されたと思っているんだ! いざと言う時に僕は一人でも戦わなければならないのに、コントローラー投げられてアルマに会えないまま僕の旅が終了するんだぞッ! その時の僕の気持ちが分かるか!」
「え、なんの話……」
「それに!」

 メリアドールのツッコミを遮るように、ラムザが両手で机を叩いて訴えを続けた。
 
「みんなさっきから僕のことを侮っているようだけど、叫んで叫んで叫びまくった僕は、Braveマックスでリアクションアビリティ無双! ウィーグラフやエルムドアのようなバケモノを凌駕する高AT、MA、スピードでずっと僕のターン! エクスカリバーがあれば開幕に叫び倒して絶対にゲームオーバーにならない僕になることができるッ! うおおおおおお、アルマアアアアアア!」
「お、落ち着けラムザ!」
「こんなの落ち着いていられないですよ! 大体みんな聖剣技だの剛剣技だの魔法剣だの、便利な特技をひっさげて仲間になるなんて! 僕には剣の才能がないかもしれないけど、だからこそこれくらいくれたっていいじゃないかッ!」
「ま、まあまあ……とりあえずミルクでも飲んで落ち着きたまえ」
「そ、そうよ。まだ教わっていないだけで、あなただって何らかの剣技を身に着けることくらいできるわ」
「僕がガフガリオンから暗黒剣を教われなかった間に、しれっとホーリーナイトになってたディリータの話はやめてくれッ!」
「イズルードみたいな発展途上の子だっているから……ね?」
「ほら、ミルク持ってきたぞ……ほら、クラウドも飲めって」

 ベイオウーフがミルクを並々と入れたジョッキを差し出し、ラムザはそれを受け取って一気に飲み干した。

「ぷはぁ~……やっぱりミルクの一気飲みは気持ちいいなぁ」
「……落ち着いたかい?」
「なんかすみませんでした」

 少ししおらしい表情で苦笑したラムザに、ベイオウーフだけでなく、アグリアスやメリアドールもほっと胸をなでおろした。

「クラウドも大丈夫?」
「大丈夫だ。オレはソルジャーだからな。オレはこの剣で戦うからエクスカリバーは不要だ」
「そ、そう……それは良かった」

 先程まで落ち込んでいたにも関わらず、いつもの気取った態度のクラウドを見て若干安心したラムザは、再びエクスカリバーに視線を落とした。

「あれ~? みんななにしてるの?」

 さてどうしようか、と最初の状態に戻ったところで声をかけてきたのは、ルッソだった。近くにアリシアとラヴィアンの姿もある。

「なんだか楽しそうにワイワイしていましたね」
「揉めていたようにも聞こえたけど……」
「うむ、実はな」

 代表してアグリアスが事情をざっくりと説明した。

「へえ。聖剣争奪戦かぁ、楽しそう」
「いや、楽しくはなかったのだが……」
「僕も参戦していい?」
「は?」

 いつもの能天気な表情のまま、ルッソがエクスカリバーを手に取って掲げた。

「かっこいいなぁ。これで僕のモブハントもはかどるよ……じゃ!」
「待て待て待て待て!」

 そのまま立ち去ろうとしたルッソを、ラムザが強引に引き留めた。

「なに?」
「なに、じゃない! なんできみがこれを装備するって話になった!」
「だって、これがあるとみんなが争いになるんでしょ? だったら最初からない方がいいよ」
「なんでそうなるッ!」
「それに、僕がこの剣を使って密猟でガンガン稼げば、騎士剣はディフェンダーしか無理だけど、みんなで騎士剣を持てるよ」
「そうだけど! ただでさえ戦闘では微妙に影の薄い僕の立場を、上位互換のきみがさらに奪うのは我慢がならない!」
「えへへ、強くてごめんね☆」
「アルマアアアアアア!」

 にこやかに、かつ譲る気のないルッソに、ラムザが敗北の叫びをしながら膝をついた。だが、ルッソの両脇にアリシアとラヴィアンが立ち、エクスカリバーに視線を向けた。

「ルッソ君、それなら私達だって」
「そうそう。元から強い人が持つのも戦術的だけど、底上げだってひとつの戦法だわ」
「ええ~……僕に譲ってよお」
「……ついにアリシアとラヴィアンまで。ラムザよ、お前の気持ちもよく分かる……だが私はお前の剣になると決めたのだ。お前を守るため、どうかこの剣を譲ってはくれないか」
「いいえ。ラムザ、あなたがこんなにも辛い戦いをしているのは私の父のせいよ。せめてもの償いに、私に父を止めさせて欲しい……」
「オレもきみにはとても世話になった。この剣を持って恩を返したいんだ……なあ、レーゼ」
「まず素手で動きを止めて……そしてホーリーブレスでシメたうりぼう。焼いてたっぷりハーブを乗せて……チーズも捨てがたいなぁ……」
「レーゼ?」
「あ、ごめんなさい。もう話は終わったの?」

 様々な方法でエクスカリバーを主張する騎士達についていけず現実逃避していたレーゼが微笑んだ。
 その様子に一同息を吐き、そしてラムザがここぞとばかりにルッソからエクスカリバーを取り上げた。

「あっ」
「とりあえずエクスカリバーは常に出撃しなきゃいけない僕で……!」
「いや。それには及ばん」

 低く貫禄のある声が近づき、全員がその声の主に注目した。オルランドゥ――このエクスカリバーのそもそもの持ち主だ。

「いやはや、よくも考えてみれば未来ある若者にこの剣で最前線に立てなど、わしはなんと酷いことを言ったのか……戦場で矢面に立つのは老い先短く、社会的に死んだわしだけで良い」
「え……?」
「ということで、このエクスカリバーは返してくれ。この剣で盾となり、皆を出来る限り守ると約束しよう」
「ええ?」

 困惑するラムザとその周囲に目もくれず、オルランドゥはラムザの手からエクスカリバーを取った。

「引退するのは全てを終わらせてから……それまではこの雷神シドの力、存分に利用したまえ! はっはっは!」

 豪快に笑いながら、オルランドゥはエクスカリバーを持って立ち去った。誰よりも剣を持つ姿が似合っているのを「さすが元持ち主」と見守りながらも今までの争いが無となり固まる一同に、オルランドゥは気づくことはなかった。

「……じゃあ、改めてディフェンダーとセイブザクイーンの争奪戦を」
「それ、どっちも元々私のものよ……」
「ごめん……」
「もうみんなでディープダンジョン合宿したらいいんじゃないかな。あそこなら時間経たないし、それならラムザの妹も無事でしょ」
「……そうだね」

 ルッソの意見に、ラムザをはじめとした全員が再度ため息をついた。



「終わったみたい」
「なんとか熱はおさまったようだな……」

 醜くなりかけた激しい騎士剣の争奪戦を遠目で見える別の場所で、ラファとマラークがほっと胸をなでおろした。そんな二人を横目に、愛用するブレイズガンを整備しながらムスタディオが苦笑した。

「剣を使う人は争奪戦大変だなぁ。よかった、銃で」
「おい、ムスタディオ」

 そんなムスタディオのもとに、バルフレアがいつもの飄々とした表情で近づいた。

「今度はゴブリンの多い森を通るらしい。その間お前の持ってるブレイズガン、ちょっと貸してくれよ」
「いやいや! アンタさっきまでのあっちの争い聞いてなかったのか!」
「はぁ?」
「自重しろよ! ラムザに対するルッソ以上にオレの上位互換、さらにフィギュア化の機会も勝ち取ったアンタにブレイズガンまで奪われてたまるか! せめてラス・アルゲティと交換してくれよ!」
「おいおい、これは物語の主人公であるオレのものに決まってるだろ」
「いや、待つんだ! ここは話術士を極め銃装備可能になったこのラッド様の出番だ!」
「うわ! なんでここにきてラッドが参戦するんだよ!」

 突然中に入ってきたラッドに、ムスタディオがツッコミを入れた。

「とにかく! ブレイズガンはオレのだ!」
「いや、ムスタディオ……それ元はベッド砂漠にいた神殿騎士の……」
「機工士のものはオレのもの!」

 マラークの正論にもめげずブレイズガンを抱えて主張するムスタディオに、バルフレアがやれやれと肩をすくめ、一方ラッドは諦めたように肩を落とした。

「ここにいるとほんと退屈しなくていいぜ」
「頼むよムスタディオ! たまには無双してモブキャラ並から脱却したいんだよ……!」
「だめだめ! オレだってラッドに譲ってやれるほど余裕がない!」
「……え、オレの出番これだけなのか!? 棒争奪戦とかないのか、ラファ!」

(私、もう少しBrave下げていい武器をたくさん発掘しなきゃ)

 ついに兄マラークまで空気に飲まれる中、ラファはひとりそう誓い、黒い本に手を伸ばしたのだった。

 

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あとがき

FFT22周年で書きました。ギャグになるとラムザがキレキャラになってしまう……。
書いた当時は忘れてたんですが、バルフレア(空賊)が騎士剣装備できるの、アップしてから思い出しました。さすがはご先祖様、自重がない…!

2019年6月20日 pixiv掲載

 

 

 

 

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