もう一度友達になってよ

 

 魔女とガーデンの激しい戦いが終わったある日、風神は雷神と共にバラムの駅舎で暇を潰していた。

「なあ風神よぅ」
「……」
「聞いてるもんよ!」
「……何」
「オレ達これからどうするよ?」

 雷神の問いかけに、風神は視線をあわせないままため息だけをついた。


[chapter:もう一度友達になってよ]


(どうする……そんなの聞かれても困る)

 まず、ガーデンには戻れない。自分達の意思でやったことだ。魔女に洗脳されたわけでもなく、やったことの責任も理解している。
 もしかしたらスコール達は受け入れてくれるのかもしれないが、ガーデンに居場所があるはずもなく、何よりもそれは自分のプライドが許さなかった。

(サイファー、元気かな……)

 脳裏に浮かんだのは、別れを告げたっきりの親友の姿だった。
 プライドが高いことを自覚している自分よりもさらにプライドが高くて、壮大な夢を持っていて、そこに向かって一生懸命で、それでもどこか危なっかしくて、だからこそ一緒にいて楽しくて。
 端から見れば友達と言うよりも自分達は子分や取り巻きの部類に見えただろうが、それでも自分にとっては憧れであるのと同時に、親友だった。

「……サイファーに会いたい」
「うお!?」

 雷神がオーバーにのけぞったのを見て、自分が"普通の口調"で考えていたことを漏らしたことに気付いた。
 この口調は自分にとってはマイブームのようなものでしゃべりやすいからそうしているのもあるが、考えてしゃべることで冷静さを保つためのものでもあった。
 雷神は見た通りの馬鹿で、サイファーも決めたら一直線なところがあるから、自分だけでも感情をおさえて冷静でいようと思っていた。

「いきなり普通にしゃべるとか、びっくりするもんよ!」
「煩」

 分かりやすく驚くリアクションに腹が立って雷神を蹴り飛ばすと、分かりやすいリアクションで「いてっ!」と雷神がよろめいた。

「相変わらず容赦ないもんよ、風神」
「再度蹴?」
「あいたっ! 蹴りながら言うのは反則だもんよ!」

 いつも通りの反応に、自分の頬が緩んだのが分かった。何も考えていない馬鹿をそのまんま形にしたような雷神だが、たからこそ助かっている部分もあった。
 雷神が素直だからこそ、敵になってもスコール達は自分達にも軽い気持ちで接してくれたし、ルナティックパンドラではずっとため込んでいた本音をサイファーにぶつけることができた気がする。自分ひとりだけだったら、黙ってサイファーが間違っていくのを止められずにいただろう。
 そして今、自分が一人ぼっちにならずに済んでいるのも、雷神が隣にいるおかげだった。

(そうだ、あたしには雷神がいる。でもサイファーは一人。一人ぼっちだ)

 一人で夢に向かって進める強さを持っているようで、サイファーは割と構ってもらいたがる男だった。
 だからスコールに執着し続けていたし、自分達のように慕う人間に対しては優しかった。
 別れを告げた時に「今までありがとう」と言ってくれた姿を思い出す。あの時のサイファーは今までと変わらない笑顔だったが、だからこそ自分達はサイファーと別れる覚悟ができた。サイファーのことを好きなまま別れることができた。
 それでも別れ際に見たサイファーの後ろ姿は、すごく孤独で小さく見えた。

「我々、行」
「おっ!」

 短い言葉でも雷神は自分の意図を理解してくれたようだ。あからさまに嬉しそうな顔をして続けた。

「サイファーに会いに行くもんよ! サイファー絶対寂しがってるもんよ!」
「……何処」
「うーん……それが問題だもんよ」

 雷神が腕組みをして頭を捻る。
 ルナティックパンドラで別れた後のサイファーの消息は掴めなかった。魔女がいなくなってサイファーが負けたということは理解していた。
 それでもサイファーは絶対に生きている。あいつが死ぬはずがない――それだけは疑いすら持たなかった。雷神もそうなのだろう、消息不明なのに"生きている"という前提でずっと話をしているのだから。

「ガーデンなら知ってるかもしれないけど……オレ達きっと出禁だもんよ」
「……」
「っていうかオレ達がガーデンに戻ったらサイファーにますます会いにくくなるもんよ?」
「同意」

 サイファーのことだ。ガーデンに戻れたとしても、戻るなんて言うはずがない。自分達がガーデンに入れる、即ち許されたと知れば、サイファーは自分達を巻き込まないためにも、より近づこうとしなくなるに違いない。

「あー! 風神と雷神、はっけーん!」

 何度目かになるため息に被る形で、突然少し離れたところから聞き覚えのある元気な声が聞こえてきた。声のした方に視線を向けると、そこにいたのはスコールと共に戦っていた、通称"伝令の女"ことセルフィだった。

「久しぶりだもんよ!」
「元気にしてたー?」

 何度も敵対していたにも関わらず、「久しぶりにクラスメイトに会いました」と言わんばかりのテンションで再会を喜んでいる雷神とセルフィだったが、自分としてはやはり気まずく、二人の能天気な会話を見守ることにした。

「なにしてるのー?」
「ただ駄弁ってただけだもんよ。そっちこそ何してるもんよ」
「アーヴァインと世界スプラッタ絵画展見に行ってて、その帰りだよ!」
「アーヴァイン?」

 首をかしげる雷神を腕でつつき、少し離れたところに立っている帽子の男を指した。

「帽子男、狙撃手」
「ああ!」

 離れた場所にいたままこちらを見ているアーヴァインと視線が合い、雷神がポンと手を叩いて反応した。

「もーいくら違うガーデンの生徒だったからって、失礼すぎー」
「わ、悪かったもんよ……」
「ってことでカタキうちしていい?」
「なんでだもんよ!?」

 笑顔でヌンチャクに手をかけたセルフィだったが、雷神のツッコミに満足したのか、すぐに手を離した。

「ウソウソ! 実はねぇ、そんな可哀想なアーヴァインからふたりに伝令でーす!」
「伝令? 何だもんよ?」
「アーヴァインがさっきサイファーに会ったんだってー」
「サイファーに!? どこだもんよ!!!」

 サイファーの名を聞いて雷神が大きな両手でセルフィの肩を掴んだ。自分も同じように雷神の後ろに立ったままセルフィに視線を向ける。

「あっちの埠頭で海に向かって石投げてたらしいよー。大きな不良がそんなことしてたら怖いよね? だからなんとかして欲しいなー」
「風神!!!」

 目を輝かせて振り向いた雷神に、大きく頷いた。
 そして雷神とほぼ同時に、埠頭の方へ向かって駆け出した。

「セルフィ! ありがともんよ!」
「お礼ならアーヴァインに言ってよー」
「アーヴァイン! ちょっとだけ忘れてて悪かったもんよ!」
「情報、感謝」

 すれ違いざまに声をかけた自分達に、アーヴァインは気障ったらしく帽子を上げて片目を閉じた。
 セルフィの「またねー」という能天気な声に見送られ、駅舎を後にする。埠頭に向かって走る道は、日が傾こうとしており夕日で赤く染まっていた。
 そして――

「サイファー!」

 見覚えのある白いコートを羽織った長身の男の背中が見えて、出せる限りの大声で名前を呼んでやると、その男――サイファーは驚いた様子で振り返った。

「お前ら!」
「サイファー! 元気だったもんよ!?」
「あ、ああ……」

 仲違いしたことすらなかったかのようにサイファーに飛びかかった雷神に、さすがのサイファーも目を丸くさせている。

「会いたかったもんよ! 元気そうで嬉しいもんよ! サイファー、サイファー!」
「……いきなり暑苦しいんだよ!」

 小躍りしながらサイファーに抱き着いていた雷神だったが、我に返ったサイファーが力づくで雷神を引きはがした。それを追う形で蹴りを入れてやると、いつも通り「いてっ!」と雷神が声を上げた。

「風神だってさっき嬉しそうに甲高い声でサイファーの名前呼ん……あいてっ!」
「……相変わらずだなお前ら!」

 喉を鳴らして苦笑したサイファーだったが、少しして気まずそうな表情に変わり、珍しく言いよどんだ声で続けた。

「あのさ……あの時はその……悪かった。あと、ありがとな」
「大丈夫だよ、サイファー」
「……風神」

 雷神はいつも通りとして、いつも素直になれないサイファーが言葉を絞り出して謝罪と感謝を伝えようとしているのを見て、素直に自分の想いが言葉として出た。

「気にしてないよ。仲間だから」
「……オレのこと、まだ仲間だって言ってくれるのか?」
「当たり前だもんよ。サイファーはずっと仲間で友達だもんよ」
「サイファー。もう一回友達になろうよ」
「お前ら……そうだな。また一緒につるもうぜ」

 サイファーが笑顔で答えたのを見て、雷神が「当たり前だもんよ!」と再度抱き着こうとしてサイファーに引きはがされる。

「だから暑苦しいっての! だがつるもうって言った手前悪いんだが、オレはまだ行き先も決まってないぜ。それでもいいか?」
「勿論」
「サイファーの行くところがオレ達の行く場所だもんよ!」
「ははは、そうかそうか。じゃあ目標はでっかく、打倒SeeD! 打倒スコールだ! そのために何かいい案はあるか?」
「……便利屋?」
「通りすがりの正義のガンブレード使いになるもんよ!」
「名案だ! それにしよう!」

 自分も雷神もなんとなく答えたような言葉に、サイファーは嬉しそうに夕日を指さした。

「あの夕日の向こうで、オレ達を待ってるヤツがいる! ……と信じて走るぞ、風紀委員よ!」

 冗談めいた言い方だったが、それを言うサイファーの目は昔のように輝いていて、その心は本気なのだと感じ、雷神と顔を見合わせた。
 そして夕日に向かって走りはじめたサイファーを追う形でバラムの街の外へと向かっていく。完全な思いつきのノープランで走り始めているのが分かっているのに、サイファーや雷神の背中を見ていると何故か心が躍り、夕日の向こうで明るい未来が待っているような気がした。


 

戻る


あとがき

FF8小説書いたら風神と雷神の話が書きたくなって、ED後仲直りしている三人組について書きました。サイファーって何も考えてなさそうなのに、なんかついていきたいような、放っておけないような、不思議なカリスマがあるんだと思います。

2018年8月31日 pixiv投稿

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system