百点満点のプレゼントが欲しい

 

「誕生日おめでと~」

 廊下で元気な声が後ろからしたので振り向くと、セルフィの小さい身体がちょこんとすぐ近くに立っていて。
 僕と目が合って「おめでと!」と手を後ろに組んで、顔を少し傾けていつもの笑顔を見せた。

「ありがとう、セルフィ。覚えていてくれてたんだ」
「あたりまえだよー。だって昨日、アーヴァインにプレゼントなにあげようって、ショッピングモールに一日中いたんだもん」

 なにそれ嬉しいんだけど――と言いかけたけど自重した。
 でも、つまり昨日セルフィは一日ずっと僕のこと考えてくれれたんだと思うと、うっかり頬が緩んでしまう。
 セルフィを見ると、手を後ろに組んだままニコニコして僕を見ている。きっとその手に考え抜いたプレゼントを用意してくれているんだと期待しながら、僕もニコニコしてセルフィを見る。

 ニコニコ、ニコニコ。

「……セルフィ?」
「なーに?」
「いや……」

 自分からプレゼントくれないの? と言うのはさすがに欲深い男みたいで嫌だけど、セルフィは一向に後ろに組んだ手を前に出そうとしない。
 そして――

「ごめんアービン!」
「え?」
「プレゼント、買えなかったの!」

 昔懐かしい呼び名と一緒に後ろで組んだ手をパン!と音を立てて前で合わせて、セルフィは再び「ごめん!」と言った。

 おおよその話を聞くと、こんな感じだった。
 僕にびっくりするプレゼントを買おうと思ってショッピングモールに出かけたセルフィ。
 王道はアクセサリかな~と思いながら髪飾りを探してみたものの、たくさんありすぎて何が似合うのか分からなくなり、今度は武器屋へ。銃弾でいっかと思ったけど、僕にはきっとこだわりがあるだろうと思うと手が伸びず、次は雑貨屋へ。これも違う、あれも違う――最終的に"手作りのお菓子にしよう!"と閃き、材料を買って、夕方になってからショッピングモールを出たらしい。

「でも……ウチ、料理ぜんぜんできへんの、忘れてたんや……」
「……そ、そう」
「クッキー焦げちゃった」
「僕はそれでも」
「ウソ。完全に消し炭。ジエンド味やで……」
「……」

 昨日のその惨劇を思い出したのか、凹むあまりにトラビア弁が出ている。
 微妙に面白い表現をしたことをつっこむべきか迷っている間にセルフィは両手で顔を覆って、泣いてはいないかもしれないけど今にも泣きそうだ。

(ああ、嫌だな。誕生日にそんなセルフィ見たくない。だって君には)

「だからごめん……今年のプレゼント、何もあげられないよ」
「ねえセルフィ。今日は暇?」
「?」

 セルフィが顔を上げる。僕はニコっと百点満点の笑顔を意識して、セルフィに言った。

「僕とデートしてよ。欲しいものがあるんだ~」
「ホント! 何が欲しいの~?」
「それは行ってからのお楽しみ~」

 僕は少し大げさ目にセルフィの腕を取って、ウインクした。



「ゲーセン?」
「そ、ゲーセン」

 ショッピングモール。僕がセルフィを連れて行ったのは、ショッピングモールの一角にある、ゲームセンターだった。よくオフの時間に、ゼルやセルフィが遊びに来ているらしい。特にゼルが今スノーボードのゲームにはまってて、この前初めてランク入りしたんだって話していた。
 僕はたまに二人に連れられて音ゲーなんかに付き合わされる程度で、僕がセルフィを誘ったのは今日がはじめてだった。

「ここにアーヴァインの欲しいものがあるの?」
「得意でしょ、セルフィ」

 僕はそう言ってぬいぐるみがたくさん詰まった箱を指さした。UFOキャッチャー。ゲームセンターの王道で、セルフィが一番得意なもの。
 僕たちは箱の前まで移動して、中身を見る。チョコボ、サボテンダー、モルボル、バラムフィッシュ、コヨコヨ――

(コヨコヨのアンテナ?って、ちょっとセルフィの髪の毛に似てるよね~)

 うん、これにしよう。取りやすそうだし――僕はセルフィに、コヨコヨのぬいぐるみをリクエストした。

「まっかせて~! 一発でかっこよく決めるところ、見せちゃうもんね!」
「やったー」

 少しの間中身を観察してから、セルフィがコインを入れる。クレーンが動いて止まる。
 そして、降りたクレーンがコヨコヨの胴体を掴んで浮き上がる。

『あっ!』

 声が被って、同時にポトンとぬいぐるみが落ちて、アームだけが空しく景品口の筒の上で開いた。

「しっぱ~い!」

 これくらいはまったく想定内なのだろう、セルフィはめげる気配もなく再びコインを入れた。
 しかし――

「ぬぬっ!」
「おしい!」
「とれないよー」
「なんでやねん!」

 失敗、失敗、また失敗。セルフィなら三回もあれば狙った獲物は取れるのに。今日に限って、コヨコヨのぬいぐるみはまるで逃げるようにセルフィのアームに掴まれてくれない。
 どんどんセルフィの言葉が荒れてくるのを感じて、そんなつもりじゃなかったなと思いながら、もう何度目になるか分からないくらいのコインの音と同時に僕はセルフィに話しかけた。

「ねえ、別に僕、そっちの取りやすそうなチョコボでも……」
「ダメ! だってアービン、このコヨコヨが欲しいって言ったもん! ……あ!」
「あ、ごめん」
「もー途中で話しかけないで……お?」

 僕が話しかけたせいでセルフィが止めたかったところと少しずれてしまったようで、意地になってるセルフィが僕に抗議しようと声をあげようとしたが、アームはいい感じにコヨコヨの頭をつかみー―

「……」
「……」

 アームがゆっくりと景品口に向かってコヨコヨを運んでいくのを、僕とセルフィは無言で追っていた。そしてアームが筒の上でひらき、コヨコヨがストンと筒の中に吸い込まれた。

「……とれちゃった。え、ホンマに?」

 セルフィが取り出し口を開けると、ずっと狙い続けたコヨコヨのぬいぐるみがあった。

「とれた……とれた~!」
「やったねセルフィ。おめでとう!」

 わーいとれたー! とセルフィがコヨコヨのぬいぐるみを上に掲げて、よほどうれしかったのかその場でクルクルとまわりはじめた。

「コヨコヨゲットだぜ~! かわいーい!」

 ついには取ったコヨコヨを抱きしめて、満面の笑顔だ。
 そんなセルフィを見て、僕は自然に顔をほころばせた。

(そうそう、僕が見たかったのはこれだよ。だって君には、百点満点の笑顔が似合うもん)

「……あ、ごめん! はいこれ!」
「あ、ありがと……うれしいよ」
「アーヴァイン、顔赤くない? だいじょうぶ?」
「え!? 気のせいだよ~」

 僕は笑顔のセルフィからコヨコヨを受け取り、それを両腕で抱きしめた。

「うん、とっても嬉しい!」

 セルフィが僕のために頑張ってくれて、百点満点の笑顔で渡してくれたプレゼント。アクセサリや銃弾は自分で買えるけど、僕がどんなにお金を出しても買うことができない、最高のプレゼントだ。

「アーヴァインって意外とかわいいもの好きなんだね~似合ってるけど」
「そう? 僕は昔から可愛いものが好きなんだよ」
「そうなん?」
「そうやで~」

 セルフィのマネでトラビア語で答えると、セルフィはいじられたと思ったのか少し顔を赤くして頬を膨らませた。これはこれで可愛い。

「も~トラビア訛りをからかわないでよ~」
「あはは、ごめんごめん」
「お詫びに昼ごはんおごれ~!」
「はーい、わかったよお姫様!」

 僕にとってはそんなお姫様が楽しそうなことが最高のプレゼント。
 どうやらまだセルフィからの百点満点の誕生日プレゼントは続くらしい――僕はセルフィに腕を引かれて、もう片方の手でコヨコヨのぬいぐるみを抱きながらゲームセンターを後にした。

 

 

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あとがき

アーヴァインの誕生日記念に何か書きたい気持ちになったので、FF8で一番好きなセルフィに祝ってもらう話を書きました。アーヴァインはセルフィのことが好きだけど、セルフィは「まあそれなりに」って感じで、まだ恋愛になってないくらいのふたりが理想です。アーヴァインはセルフィのなにもかもを認めて受け入れそうなので、恋人になったらセルフィのほうが攻めそう。

2018年11月24日 pixiv投稿

 

 

 

 

 

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