私は……今までこの力で、たくさんの人を殺してきた。
自分の出生を知ってからも、ずっとずっと私自身の力が怖かったのかもしれない。
だから、「私の魔導の力」よりも「私自身」が必要とされるここにいることで、私は戦う力を失っていったのだろう。
でも、私にとってそれは心地のいいことだった。
だって、魔導の力がなくても、ここの子供達は私のことを必要としてくれるもの……。
それにもう、人を殺さずに済むんだから。
「……ごめんなさい、やっぱり私には戦う力がない……」
「分かった。でも私は行く。仲間を連れてまた来るわ」
私みたいに生まれつきではないけれど、帝国によって魔法を使えるようになった彼女は、戦う道を選んだ。
そんな彼女の声が聞こえなかったわけじゃない。彼女の声に応えるべきだとも思った。
でも、ごめんなさい。
私には戦う力がないの。きっと力を持つことを、私は心のどこかで拒んでいる。
力を持つことで、私は戦いの道具としてたくさんの人を殺して、不幸にしてばかりいたから。
彼女だって、私がいなければ、こんなにも険しい道を歩くことはなかったはず。
私がいなければ、私のこの力がなければ、幻獣が次々に利用されて、果てには世界が滅びてしまうこともなかった。
でも、この日私は初めて、自ら自分の力を求めた。
「久しぶりね」
「セリス……」
「元気そうで何よりだよ、レディ」
「ティナ殿……モブリズの子供達には先ほど会って来たでござる」
カタリーナがディーンとの子供を身篭ったのを知ったとき、セリスは約束通り戻ってきた。
エドガーとカイエンが、変わらない様子で挨拶する。マッシュとリルムは、子供達と戯れているらしい。
「みんな生きていたのね。良かった」
「セッツァーが昔のお友達の飛空挺を出してくれたの……。もちろんどうするかはあなたが決めること。でも、私達はあなたの力が必要なのよ」
「私の……力」
分かっている。彼女が私の力を利用するつもりじゃなくて、本当に必要としてくれていることは。
でも……やっぱり私には……
「ママー! 大変だよ!」
「どうした!?」
「この前やって来たフンババが、またこの村に近づいてるよ!」
「何ですって!?」
この前セリス達が訪ねてきたときに襲ってきた、古の怪物フンババ。
あの時私は自分に戦う力がないことを痛感し、そしてセリス達が何とか追い払ってくれたけど……。
「あの、セリス……」
「分かっている! あなたはここにいて!」
「ありがとう……ごめんなさい」
私の言葉にセリスは優しく微笑み、エドガーとカイエンもまた、外に駆け出していった。
「お願いセリス。私には……戦う力がない」
とうとうフンババが完全に上陸したようで、たまに地響きがするたびに、セリス達のことが頭をよぎる。
この前と違って、どうやらフンババも本気で攻めてきたようだ。
さっきセリスは、リルムも一緒だと言っていた。ここの子供達と同じくらいの年齢である彼女までもが、私の代わりに戦っている。
なのに私がこんなところにいて……いいのだろうか。
「どうしたんだティナ」
「……子供達も気になる。私ちょっと行ってくる!」
「危険だわ!」
「大丈夫。ディーンはカタリーナとカタリーナのお腹の子供を守るのよ!」
剣の一本も持っていなかったが、私は外へ飛び出していった。
「兄貴! セリス、カイエン!?」
「ちょっとキンニク男! こっち来るよ!」
外に出て、最初に見たのは、背を向けているフンババと、その向こうにいるマッシュとリルムの姿だった。
セリス達はフンババの攻撃で、遠くに飛ばされてしまったらしい。セリスのものらしき剣が、フンババの後ろに置いてあった。
「くっそー……リルム! お前はさがってろ!」
「一人で何する気よ。リルムだって戦えるんだからっ! ……きゃああっ!」
フンババの放った魔法がリルムに直撃し、そのまま彼女はひざをついた。
「おい大丈夫か!」
「だ、大丈夫……セリス達が戻ってくるまではリルム達が頑張んなきゃいけないもん、ね」
「無茶すんなって! 俺が必殺技で食い止めてやるから、その間に回復するんだ!」
フンババどころかマッシュたちも私の存在にはまだ気付いていないようだが、かなり危険な状況であることは確かだった。
いくらマッシュが互角に渡り合えるほどの力を持っていても、リルムや村を守りながら戦うとなれば話は別だ。
それなのに、何もできず見ているしかできない自分が、もどかしく感じた。
(……私は……見ていることしかできないの?)
子供達、そして新しく生まれてくる命を守りたいのに……私は何もできていない。
(力が欲しい……)
私には、力があったはずだ。子供達を守れるだけの力が。
今まではその力で、人を不幸にしてきたけど。今度は力がないばかりに、仲間を子供達を、不幸にしてしまおうとしている。
(お父さん、お母さん。私は……)
幻獣と人間のハーフ。私だけが持つ力を……今欲しい。
(力を……私に力を!)
私が強く願ったとき、私の身体は自然と幻獣の力が目覚め、輝きだした。
「……ファイラ!」
私が手をかざして放った魔法によって、フンババが私の存在に気付き、私の方を向いた。
「ティナ!?」
私は落ちていた剣を手に取り、フンババを見上げた。
「私はもう迷わない! 私は……戦える!」
フンババの攻撃をかわし、そしてその腕を斬り付けた。
そして空に上がり、今度は回復魔法をマッシュとリルムにかけ、フンババを通り越して彼らの横に降りた。
「だ、大丈夫なのかティナ?」
「ええ。今ある命を……新しく生まれてくる命を。奪わせたりはしない!」
私の言葉に、マッシュとリルムは笑顔で頷き、そして再び戦闘態勢を立て直した。
「ティナ……俺がひきつけるから、その間にリルムと一撃を叩き込んでくれ!」
「分かったわ。リルム……」
「私はもう大丈夫。一緒にあいつをやっつけようよ!」
「……うん」
「よーし! 行くぜ化け物!」
マッシュが勢い良く飛び出し、一撃を叩き込む。すぐにフンババは反撃に入ったが、私達はその間に魔力を出来る限り高めていた。
そして……
「マッシュよけて! ファイラ!!」
「くっらえー バイオ!!」
「とどめだ! 爆裂拳!!!」
炎と毒が同時にフンババに直撃し、苦しんでいる間にマッシュの拳が追い討ちをかけ、そして断末魔の叫びと同時に、フンババの身体は塵のように拡散していった。
「やっと戻れたわ。って……フンババは?」
「セリス達おっそーい! もう倒しちゃったもんね!」
「そうだぜ兄貴。どこまで飛ばされてたんだよ?」
「しばらく気を失っててね。ところでティナ、その姿は……」
エドガーの言葉に、セリスやカイエンも私の存在に気付き、視線を移した。
「今まで私、自分の力が怖かったの。私の力が、たくさんの人を傷つけた……。だから、それがなくても私を必要としてくれる子供達と会ったことで、彼らを傷つけないために、自分の力を封印してしまったのかもしれない」
「ティナ……」
「でも私、何となくだけど分かったの。あの子達を思う気持ち……これが"愛する"って気持ちなのね」
愛していたから、傷つけたくなくて力をなくしていったのかもしれないけど……。
今は分かる。愛しているから、自分の力をその人達のために使うことが出来る。
私はずっと想ってくれていた仲間達が頷いてくれるのを見て、笑顔を返した。
あの後、子供達が来て、最初は私のいつもとは違う姿に、「化け物だ!」とおびえていた。
でも、少しして一人の女の子が「私」であることに気付いてくれて……そして彼らは私を受け入れてくれた。
「ディーン。私はあなた達を守るために、行きます。だから……その間はあなたが守るのよ? カトリーヌも、お腹の赤ちゃんも」
「分かったよ」
「ティナ、必ず帰ってきてね。きっとお腹の子も……ティナが帰ってくるのを待っているわ」
「ママ! 僕絶対にいい子にしてるからね! キライなニンジンも、ちゃんと食べるよ!」
「お洗濯はあたしがやるから、安心してねママ!」
彼らは、私が飛空挺に乗っていくときまで笑顔で見送ってくれた。
みんな私がここに戻ってくるのを望んでいる。
ずっと持っていなかった「帰る場所」が、私にはある。
「必ず戻ってくるわ! だからそれまで……元気でいてね!」
私は飛空挺が飛び立ってモブリズの村が見えなくなるその時まで、ずっと笑顔で彼らに手を振った。
必ずここに、戻ってくるために。
あとがき
FF6はやっぱりティナがヒロインだと思う。子供たちを愛した心から力を封じ込めてしまったけど、その力で守れるものがあると気づくティナが書きたかった。